カフェ・オ・レもミックスジュースも大嫌い@
まひろのいない夜は退屈。とぉーっても退屈。TVを付ける。チャンネルをガチャガチャ変える。
面白くない。つまんない。おっかしーなー、あんなにTV大好きだったのに。どうしちゃったんだろ、全然頭の中に入らない。画面見ててもまひろの事ばかり考えちゃう。淋しくなるから考えちゃ駄目だぁっ。でも。駄目って思えば思う程考えちゃう。あたしって、やっぱ、まひろの事が好きなんだ。実感。
環境ビデオ状態になってるTVの画面をぼぉんやりと見つめる。毛布にくるまりながら。
だって寒いんだもん。
それは、いつまひろが帰って来てもいいように例のナイトウェアを着ているから。
あ〜あ、これを買ってからもう一週間になるのにぃ。ぜぇんぜん駄目、効果無し、進展無し。もう、まひろったら本当は男に興味があるんじゃない? って疑っちゃいたくなる位。
なぁ〜んてね。やっぱ、あたしの魅力が足りないせいかなぁ。こうなったらもっとセクスィーなの買うしかないか。
あたしは、このナイトウェアを買った店の奥にあったベビードールを思い出した。赤いスケスケの奴・・・・・・。
うーん。でも勇気無いよぉ。露出狂だと思われたらやだしなぁ。あれって下着着けないのかなぁ。・・・ひぃええぇ、思いっきり透けちゃうじゃん。ああ、駄目だ。あたしには無理だ。・・・でも。まひろと大人の関係になったら買っちゃおうかなぁ。きゃー、あたしのえっちぃー。・・・・・・ふう。アホらし。
また時計を見る。さっきからもう何百回も見てる。
あ、もう10時だ。まひろ、まだ帰って来てくれないのかな。
モカ色の皮張りのソファーに、勢いよくゴロンっと寝っ転がった。モカ色にほっぺをあてる。ぴとっって吸い付く感触。少しだけ落ち着く。
まひろに会う前を思い出しちゃうな。いつもこんなだった。いつも一人で、いつも誰かを待ってた。「誰か」だったのかな。「何か」だったのかな。
でも、何も来なかった。あたしはいつも空っぽだった。まるで乾いたスポンジ。いつもいつもカラカラに乾いてた。
隙間を埋めたくていろんな事した。髪の毛をバッサリ切ってみたり、雑誌に載ってた雑貨屋で衝動買いをしてみたり、夜の町を散歩してみたり、テレビのバラエティ見て馬鹿笑いしてみたり、コンビニのはしごしたり、友達とくだらない話で長電話してみたり・・・・・・。そうするとスカスカだったあたしの中が、ちょっとだけ一杯になったような気がしたから。
でも、それはほんの少しの間だけ。またすぐにこぼれ落ちて、カラカラのあたしだけが残る。
まひろ、早く帰って来て。あたしを退屈な夜から救って。
その時、ケイタイの着メロが鳴った。
は、助かった。あたしの中の暗闇からもう帰って来れなくなるかと思った。
ローテーブルの上に置いてあったケイタイに飛びつく。
「はい。・・・・・・まひろぉっ。」
ガヤガヤと騒がしい中から聞こえてきたのは、まひろの声だった。
やだ、まひろ、今どこにいるの。なんか騒がしいんですけど。ちょっと嫌な予感。まさか隣に女の人がいて「今日は帰りません」とか言わないよねぇ。
「満? 満ですか。」
「うん、そうだよ。」
はぁ。九時間半振りに聞くまひろの声は落ち着くなぁ。
「これから帰りますから。」
「ホントぉっ。」
ああ、空に昇っちゃいそな気分。
「それで・・・」
何? それでって。
「これから友達を連れて行ってもいいですか。」
な、なにぃっ。
「え? え? どしたの。」
「こいつが、どうしても満に会いたいって言うので。」
こいつ? 友達の事?
『私の彼女、可愛いんですよ。今一緒に住んでるんです。』
『えぇっ、何だよお前だけ。俺にもその可愛い彼女見せろよ。見せる位ならいいだろ? 減るもんじゃないし。』
『ええ・・・、まぁ・・・、そうですね。』
あたしの頭の中で、二人のやり取りが勝手に再現。
まひろ、無理矢理いいって言わされたんだろうな。可哀相。よし、ここはまひろのために一肌脱ごう。
「いいよ。」
はっ。でも、どうやって「おもてなし」したらいいんだろう。
「な、何か用意するものある? 食べ物とか。」
慌てて聞く。
「いいですよ、気を使わなくても。今、食べたところですから。」
ほっ。
「それより、今から帰るので、寝るのが遅くなってしまいますね。」
「いいの、いいの。そんな事気にしないで。」
「突然で申し訳ありません。それじゃ、今から帰りますので。」
本当に突然だよ、と、友達を恨んで電話を切った。
さぁて、どうしようかな。まひろはああ言ったけど、お茶位は出さなきゃね。ま、あたしはバイトで鍛えた上手いコーヒーを煎れるテクがあるし、御茶請けは常備してるお菓子があるから、それでいいとして・・・。問題はこの服だな。
毛布を投げ捨て、寒そうな二の腕と太股を見つめる。
こんなカッコしてたら、まひろをその気にさせる前に友達がクラクラしちゃうよ。
あたしは寝室へ駆け込んだ。あーでもない、こーでもない。使わせてもらってるクローゼットを引っ掻き回す。
感じが良くって、可愛く見えて、友達をその気にさせない服。よそいきは変だし、だからって、あんまり小汚いのは・・・・・・。
「ええい、もう適当だぁ。」
悩みに悩んで、あたしは手近にあった服を手に取った。紺のパーカー、青と黄のギンガムチェックのバミューダパンツ。ボサボサの髪の毛を手櫛で整えて、そばかすにコンシーラーを塗り、唇に色付きのリップをつける。鏡に向かってニーッ。
「ま、こんなもんでしょ。」
あたしは残りの時間で、寝室(特にクローゼット周り)を必死で片付けた。
「今晩は。ミ・・・チル、ちゃん、だっけ。」
そいつは玄関に入って来ると、手を差し出してこう言った。
「あ。小原満です。ども。」
あたしは一応握手に応えた。
や、何か馴れ馴れしい奴だなぁ。うわ、あたしの事ジロジロ見てるよ。感じ悪ぅい。
あたしも負けずに見返す。
金色の短髪。フレームの小さいサングラスを掛けてて、なんだか遊び人ぽぉい。洋服は全身黒尽くめ。しかも体にフィットしてて、なんだかナルシストっぽぉい。
でも、顔は良いみたい。目がサングラスに隠れててよく分からないけど。身長もまひろと同じ位あるし。・・・もっちろん、まひろには全然っ負けてるけどっ。
「ま、中に入りますか。」
まひろが言った。
おっと、しまった。まひろのお友達だというのに、ガンを飛ばしてしまったぜい。
「あ、すみません。ちょっとぼぉっとしちゃって。さ、中へどうぞ。」
半オクターブ高い声でリビングへ案内する。
まひろの彼女として、いいとこ見せないとね。
「大丈夫ですか、満。もう眠いんじゃないですか。」
「ぼぉっとしちゃって」に反応したまひろが小声で聞いてきた。
もぉ、変なとこで優しいんだから。もっと心配して欲しい時にしてよ。
「こいつが岡谷健次郎。昼間も話しましたけど、高校の時の同級生です。」
まひろが紹介してくれた。
「はぁ、岡谷さん、ですね。」
あたしがそう言うと、そいつは何故か急に怒り出した。
「その呼び方止めてくれるっ? OKAKENって言ってちょーだい。」
・・・・・・・・・・・・。
「は、はぁ。オカ・ケンですか。」
「そう、OKAKEN。よろしく。」
オカケンは腕を組みながら偉そうに言った。
オカケン・・・・・・ヤマを入れたら岡山県。
ぶぶっ。あたしは心の中で吹き出した。
「ちょっと待って!」
あたしがコーヒーを煎れようとすると、オカケンが偉そうに止めた。
「もう夜遅いから、カフェ・オ・レにしておく。」
「しておく」って・・・、あたしが煎れるのにぃ。「して下さい」とか、せめて「してね」位言えよおーっ。うーっ。
でも、我慢、我慢。まひろのお友達なんだから。お友達の悪口なんて言ったらまひろに嫌われちゃう。
あたしは黙って大きなカフェ・オ・レボウルにコーヒーとミルクを注いだ。
「なんだ、本格的じゃない。」
オカケンががっかりしたように言った。
何よ、その言い方。何で残念そうに言うの? 本格的じゃいけないの?
「・・・味も・・・・・・まあまあね。」
偉っそうだなぁ、何様だ? まあまあだとぉ? 素直に上手いって言え。本業だよ?・・・バイトだけど。
「満は駅前の喫茶店で働いてるんですよ。美味しいでしょう。」
まひろの言葉にニンマリ。
そうでしょう? そうでしょう?
「知ってるよ。駅前の『サンクチュアリ』でしょ。」
ん?
「なんだ、知ってたんですか。」
まひろも驚く。
「僕もあの駅よく利用するから。あそこ、窓ガラスが凄く大きいから、中丸見えなんだよ。・・・・・・気を付けた方がいいよ。」
えっ、あたし気を付けなきゃいけないような事、何かしてる?
自分の行動を振り返ってみる。
手に付いた生クリーム舐める事かな。それともお腹が空いた時にパンの耳かじってる事・・・。それとも暇な時立ったまま寝てる事かな。あとは、えっと・・・・・・。
「じゃ、初対面って訳でも無いですね。」
ニコニコ顔のまひろ。
あのぉ、そんな事位で、すぐには仲良くなれないんですけど。・・・それに自分の知らない所で人に見られてたなんて、何だか気持ち悪ーい。こいつは一体何者? もしかして、まひろの彼女があたしだって知ってて来たか? いやん。目当てはあ・た・し?
その時、トコトコトコとちび猫がオカケンの足元にやって来た。
よそ者だって分かったのかな? ・・・よし、その調子だ。おしっこでも引っ掛けちゃえ。
ところが、いざという時に役に立たない(飼い主に似たのかなぁ)そのブー猫は、オカケンの足にスリスリとまとわりついた。
「やぁん、可愛いっ、この猫。飼ってるの?」
本当に可愛いと思ってるのぉ? 動物好きをわざとアピールしてない? なんか、わざとらしいよ。
オカケンは、まひろがよくするように猫を顔にこすり付けた。
どーぞ、どーぞ、ご自由に。まひろが同じ事したらヤキモチ焼くけど、あんたがやっても何とも思わないや。何ならその猫持って帰っちゃっても構わないよ。おお、それはいいアイディアだ。持って帰って。是非是非。
「ねぇねぇ、この猫なんて名前。」
あたしとまひろは顔を見合わせた。
「名前、ねぇ。」
「名前、ですか。」
「ねこ。・・・ねこかな。」
「そうですね。『ねこ』ですね。」
まひろもあたしも、ちゃんとした名前で呼んでなかった。今気付いたよ。
「何、あんた達、名前も付けてやってないの。可哀相ぉにぃ。」
オカケン、猫をなでなで。
「何て呼んでたのよ、今まで。餌上げる時とか。」
「ねこぉ、とか。」
嘘。あたし、こいつの事呼んだ事無いもん。
「おーい、とかって呼んでます。」
まひろがそう言うと、オカケンは呆れ顔。
「本当に無いのぉ? 自分の中で呼んでる名前とか無いのぉ?」
オカケンがあたしの方を向いて言った。
まひろの前で「くそ猫」とか「ブー猫」とか言う訳にはいかないよなぁ、やっぱ。
「・・・ちび猫とか。」
あたしは無難に答えた。
「変わんないじゃん、『ねこ』と。マヒロは?」
オカケンが今度はまひろを見た。まひろが小さな声で言う。
「・・・Tレックス。」
オカケン&あたし一瞬絶句。次の瞬間、ガハハハとオカケン大爆笑。
「マヒロの恐竜馬鹿には参るね。こんなチビに『Tレックス』だってぇ。キャハハハ。」
まひろは恥ずかしそうに小さくなってる。かぁわいい。
それにしても、Tレックスって何? 恐竜の種類? あたし、恐竜の名前って全然知らないんだよねぇ。知ってるのはティラノザウルス位。
「じゃあ、他に何かいい名前あるんですか。」
オカケンにたてついた。
まひろの事笑うなんて、なんて奴だ。許せん。
「そーねー、ジゼルとか、ソナタとか、オペレッタとか、・・・・・・アリアなんて言うのもいいと思わない?」
やだ、そんな名前。覚えられないし、舌噛みそ。まひろも賛成したくないって顔してる。
でも、オカケンはそんな事お構いなし。ケラケラと笑いながらずっと名前を考えてた。
「嗚呼、楽し。」
いつになっても帰らないオカケンが、やっと残りのカフェ・オ・レをずずずっと飲み干した。
ほっ。やっと帰ってくれる。早くまひろと2人っきりになりたいな。うずうず。
「決めた。僕、ここに住むよ。」
ぬ、ぬぁにぃ。
「いいでしょ? 今の家、ウォークインクローゼットが狭くってさぁ、引越しを考えてたんだ。今日も昼間、不動産屋回ったんだけど、いい物件無くてねぇ。それにほら、僕、夜の仕事だから、なかなか不動産屋行けないじゃん? それに僕、人見知り激しいから知らない土地に引っ越すの不安なんだよねぇ。マヒロんとこだったら気心も知れてるし。部屋も空いてるんでしょ? 衣装部屋に貸してよ。いいでしょ?」
オカケンが猫なで声を出してまひろに甘えだした。
な、何をこいつは言ってるんだ。突然押しかけてきたと思ったら、今度は住まわせてくれだとぉ。空いてる部屋を衣装部屋に貸せだとぉ。図々し過ぎ!
夜の商売って何やってんだ? ホスト? ・・・って、そんな事はどーでもいいーっ! 何で、何で、何で、あたしとまひろの愛の巣に、こぉんなお邪魔虫が紛れ込んで来なきゃいけないのよぉよぉよぉ。猫ならいいよ、猫ならぁ。こいつ、人間じゃんっ。
「いいですよ。」
まひろがあっさりと返事をする。
何でぇぇえええ? 何で「いいですよ」なんだよぉ。まひろ、ちょっとおかしいよ。あたしの立場はどうなるの。あたし達の愛の巣は? 愛の園は? 愛のワンダーランドは? あたし達の、あたし達の・・・・・・ああぁあん。
「サンキュ。じゃ、早速明日から荷物運ぶから。・・・ちょっと部屋見してよ。」
オカケンがまひろを連れて居間から出て行こうとする。
荷物運ぶ暇があったら不動産屋行けばいいじゃんよぉ。
「という訳で、今日からよろしく。ミチル。」
振り返ってオカケンが言った、ウィンク付きで。
ぎぃえーっ、気色悪ぅ〜。いつの間にか呼び捨てになってるしぃ。
それにしても何でまひろはOKするんだろ。優しいから? 優しいにしても程があるよ。あたしがあの男に襲われでもしたらどうするんだ。あたしがまひろよりあいつを好きになったら、とか不安に思ったりしないの? ・・・もちろん、そんな事無いけど。
あ、そーか、まひろはあたしを信用してるんだ。誰かが邪魔をしても、あたし達の愛は壊れないっていう自信があるんだ。そーか、そーか。それをあたしとした事が、まひろを悪く思ったりして・・・。そうよね、愛とは戦う物。あたし、負けない。壁も乗り越えてみせるわ。
・・・・・・でも。やっぱり嫌っ。
「まひろ、何で住まわせる事にしたの。」
オカケンがお風呂に入ってる間に、思い切ってまひろに言ってみた。
「ええっ。嫌だったんですか。この間、猫を拾って来た時、満が『虎でもライオンでも』って言ってたんで、それよりは全然大人しいからいいかと・・・。ああ見えても結構いい奴なんですよ。」
がくぅうん。まひろって変なとこで素直。虎とかライオンとかって、そんなの勢いで言ったに決まってんじゃん。いや、虎とかライオンの方がまだ良かったよ、檻に入れとけばいいんだもん。あいつは・・・そんな訳にはいかないでしょ。
「そうですか、嫌だったんですか。でも、もう健次郎には良いって言ってしまったし・・・。」
ああん、そんな悲しげな顔しないで。
「いや、別に嫌って言ってる訳じゃ・・・・・・。」
「あ、そうですか? 良かった、良かった。」
まひろの顔が明るくなる。あたし何も言えなくなる。
ったく、本当に女の子の気持ちが分からないんだから。でも、憎めないんだよな、そーゆーとこ。
でもぉ、どーしよ。しばらくは我慢するか。夜の仕事って言ってたから、あんまり会わないかもしれないし、部屋も別々だしね。出ていってもらうように徐々に説得してみようっと。
本当に自分でも感心する位、前向きなあたし。この性格って、もしかして損してないか?
オカケンと入れ替わりでまひろがバスルームへ入って行った。オカケンはまひろから借りたバスローブを着ている。
ずるい! まひろのローブ着てるっ! あたしも着たいのにぃ。・・・へ? お、おや? ちょ、ちょっと待てぇい。どこ行こうとしてるのぉ?
オカケンがあたしとまひろの寝室へ入ろうとしてる。
「ち、ちょっとっ。」
急いで立ち上がる。走る。寝室の扉とオカケンの間に滑り込む。ドアノブをつかむ。
「ちょっとぉ、何してんのよぉ、どいてよ。」
頭をバスタオルで拭き拭きしながら、オカケンがあたしをどけようとする。水しぶきが顔に当たる。
や、冷てぇじゃんかよぉ。
「こっから先は寝室なんですけど。」
「知ってるよ。」
むーっ。こいつ、あたしの言ってる意味が分からないの? それとも寝室の意味が分からないのか。
「あの、あたし達が、寝てる所なんですけど。」
「知ってるよ。」
オカケンが扉を開けようとする。
「あの、だから、ここは、あたしとまひろが寝るんですけど。」
必死でガード。ったく、鈍い奴だなぁ。分かってよ。
「僕にソファーか何かで寝ろとでも言いたいの。」
オカケンが腰に手を当てあたしを睨む。強い口調にちょっと後ずさり・・・。
頑張れ、あたし。
「・・・そうは言ってないですけど、ここは、あたしとまひろが寝ているので・・・。」
オカケンが黙って扉を開けて中を覗く。
「三人でも十分寝られるじゃない。」
な、何っ。
「あの、そういう事ではなくて。・・・ほら、あたしも女の子ですし。」
オカケン、やっと納得した様子。
ほっ。
「僕と一緒が嫌なら、あんた、ソファーで寝ればいいじゃない。」
な、何ぃ。
「え、えっとぉ。あなたが嫌とか、ソファーがどうのこうのという問題じゃなくてぇ・・・。」
「何なのっ? 早く言ってよ。早く休みたいんだから。」
うっ。負けるな、あたし。
「あたしは、まひろと二人で寝たいんですっ。」
キャー、言っちゃったぁー、言っちゃったぁー。
「僕だって、マヒロと二人で寝たいよ。」
はぁ? 何言ってんの、この人ぉ。
「あのぉ、積もる話もおありでしょうがぁ、・・・何というか、そのぉ・・・、ほらぁ、あたしとまひろはそういう関係なのでぇ。」
イライラし始めたオカケンが言う。
「煮え切らない娘ねぇ。言いたい事があるなら、さっさと言いなさいよ。」
「ううう・・・。」
頑張れ、満っ。言ったれっ。
「あなたはただのイソーローなんだから少しは遠慮して下さいっ。」
よくやった、よくやった。えらいぞ、あたし。
「何よ、偉そうに。・・・あんたは? 居候じゃないの?」
オカケンの逆襲。
「そ、それは・・・・・・。」
ええいっ。
「あたしとまひろは恋人同士なんですっ。」
あ、言っちゃった。自信が無いのに言っちゃった。
オカケン、不気味な笑み・・・。
「安アパートの家賃がたった五千円ぽっち上がっただけで、ヒーヒー言って、マヒロに泣き付いて居着いてるのはどこの誰?」
そ、そこーっ! 今、何て言ったーっ。何で知ってんのーっ。
「な、泣きついてなんか・・・。あたしはただ、まひろに相談しただけです。そしたらまひろが『家に来ますか』って言ってくれて・・・。」
まひろの方から声掛けてくれたんだからぁ。
「それはマヒロが優しいからでしょ。言っとくけど、たかが一回キスした位でエバらないでくれる? 彼女面しちゃって・・・。そんなんでいいんだったら、僕たちの方がもっと深い関係だよ。」
何でキスした事も知ってんの? 一回って、回数まで・・・。それに・・・。
「あ、あのー。深い関係って?」
「肉体関係。」
あたし、凍り付く。
何、肉体関係って。あたしが考えている「肉体関係」の他に何か違う意味の言葉があるの? 憎耐関係? 二九鯛関係?
「あの、あなたの言ってるニクタイカンケイってどういう意味の・・・。」
「大人の関係って事、お嬢ちゃん。」
オカケンが顔を近づけて、意味深に言った。
「・・・嘘だぁ。うそうそうそだぁ。何でそんな嘘つくんですかぁ。そんな事言って、あたしが驚くと思ってるんですかぁ。はははのは。ひひひのひ。ああ、おかしい。オカケンさんて面白い方なんですねぇ。」
「何言ってるの。ホ・ン・ト・ウだよ。」
オカケン、ニカリと笑う。あたし、石になりかける。駄目だぁっ、頑張れぇっ。
「またぁ、そんな事言ってぇ。」
「嘘だと思うんなら、マヒロに聞いてみれば?」
あたしはコクッとうなずいた。
まひろの言葉が聞けたのはそれから十分後。
「そうですよ。それが何か?」
サラリ。
とうとう石化するあたし。
「この娘がねぇ。マヒロと肉体関係がある人じゃなきゃ、このベッドに寝れないって言うのよぉ。」
・・・そんな事、言ってないじゃんよぉ。それじゃ、あたしは寝れないじゃんよぉ。
「あはは、なぁんだ。そうなんですか。」
あははって・・・・・・。
それからの事はよく覚えてない。あたしは石状態のまま、ベッドに潜った。端っこの方で小さくなって・・・・・・。