パーコレーターと花火B

 朝起きると頭がガンガンしてた。お酒そんなに飲んでないのに。目をこすりながら時計を見た。12時半だった。夜? 昼? 分かるまで少し時間がかかった。寝ぼけてるからか、それとも頭がおかしくなっちゃったのか・・・。カーテンの隙間から光が入ってきてる。昼なんだな。
 オカケンはまだ帰ってないみたい。良かった。顔合わせる自信ない。何話せばいいのかも分かんない。
 そーか、オカケンは女の人も好きだったんだ。てっきり男にしか興味が無いのかと思ってた。あたしってば、また思い込みで突っ走ってたのね。あはははは、お馬鹿なあ・た・し。あはははは・・・・・・ん? むむむぅ? あたし、オカケンがオカマだと思ってたから安心して一緒にいたんだよねぇ。どうせオカマだから、一緒に住むのも、二人っきりでいるのも、別にいいやって思ってたんだよねぇ。・・・・・・・・・・・・。って事は何かい。あたしは好きでもない男の人と同じ屋根の下暮らしてたっていうのかい。同じベッドで寝てたっていうのかい。オカケンに襲われてても、おかしくなかったと言うのかい。ひょ、ひょえ〜っ。な、何だ、それは。まひろは? まひろはオカケンが女の人もOKって事知ってたのぉっ?
 あたしはダッシュでケイタイを取りに行った。まひろの電話の横に置いてあるメモを取る。掛けたかったけど、掛けずにいた電話番号。発掘に集中出来るように一度も掛けなかった電話番号。何度も押して、でも最後の一桁を押すのを我慢した電話番号---。でも、今日は掛けるっ。緊急事態。
 「知ってた?」
 今、知ってたって言ったの?
 「知ってたけど、オカケンを同居させたの?」
 「はい。だってフェアじゃないですよね? 健次郎がもしゲイだったら。満と私、健次郎と私、しか付き合えなくなるじゃないですか。でも、健次郎はバイセクシャルですから、満とも仲良くなれる可能性を秘めてますよね。」
 それって、どういう事? 馬鹿なあたしでも、まひろの言ってる意味は分かるよ。 それって、あたしとオカケンが付き合う事になってもいいって聞こえるんだけど。こういう時って怒るべきかな。それとも教えた方がいいのかな、それって変だよって。それとも泣く場面なのかな。
 結局、何にも言えずに電話を切った。行き場の無い気持ちが漂って、壁にぶつかる。ゴツン。ゴツン。ゴツン。こんな時って、泣く事も出来ないんだ。壁にぶつかり続けてるあたしの気持ち。痛そ。抱えて外に連れ出そう、どこか広い場所へ。あの公園以外の場所。まひろとの思い出がない場所へ。

 その数日後、まひろは帰って来た。あたしはおかえりと声を掛けた。まひろはただいまと言った。
 まひろが最初にした事は、ティーレを抱き上げる事だった。抱き上げて、ティーレにただいまと言った。とても愛しそうに。
 あたしはそんなまひろをただ見つめていた。とても冷静だった。喜ぶ訳でもなく、怒る訳でもなく、笑う訳でもなく、泣く訳でもなく。自分自身をとても冷静に見ていた。まるで自分の体から抜け出して、浮かびながらあたしを見ているように。 そこにいるのはあたしであって、あたしでないようだった。
 まひろもそんなあたしに気付いたのか、あまり喋らなかった。
 こんなはずじゃなかった。もっと明るくまひろを迎えるはずだった。今からでも遅くない、そう思っても体が動かなかった。あたしの中には、まひろに対する不安と不信と不満で一杯だった。
 こんな時に限ってオカケンはいない。まひろと二人っきりの不確かな夜が始まる。


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