プロローグ
「すき。」つって、首根っこにしがみついた。あたしの声、必死だ。かっこ悪い。
あたしの心臓、どきどきしてる。まひろにも聞こえてるかな。
顔を上げるとすぐ近くにまひろの唇。触れちゃいそう。こんな近くにまひろがいる。手を伸ばさなくても届く距離。二人の温度が伝わる距離。
心臓がどきどきしてる。壊れそう。だれか助けて。
「あたし、あたしね。」
言葉が続かない。言いたい事がたっくさんあったはずなのに。
その時、まひろの手があたしを抱いた。包み込むように優しく。まひろの白いカッターシャツの襟が、あたしの頬をくすぐる。
あたしの心を落ち着かせるように、まひろがあたしの髪の毛をそっと撫ぜる。そんな事されたら、髪の毛から溶けてっちゃうよ。
あ、まひろの心臓の音。とくとくって言ってる。まひろ、あたし今、あなたの心臓の音、聞いてるの。そう伝えたくて顔を上げる。
あ。また、まひろの唇。きゅって両端が吊り上ってる整った唇。いやだ、どきどきする。うつむきたくなるのを我慢する。視線をもっと上に。
まひろの目。オニキスみたいな瞳。夜の闇みたいに黒くて深くて綺麗な色。優しい眼差し。あたしを、あたしだけを見てるの? なんだか吸い込まれちゃいそうだよ。気が遠くなりそうだよ。
ゆっくりとまひろが近づいてくる。まひろの唇が、あたしの唇に、触れ、た。
あ。あれれ、キス、しちゃった。