天井がぐるぐる回ってる。
私が椅子回してるから。
この椅子に座ってるだけでドキドキする。
彼の温もりがまだ残ってる気がする。
机の上の教科書、ノート、下敷き、筆箱、鉛筆、消しゴム……
全て全て愛しい。頬ずりしたい。
彼が触った可能性がある物全部、ビニール袋の中に入れて密封したい。
子供用のCDしか聞かないこのコンポ、マイクを接続してこの部屋の音録れるようにしようかな。
そしたらMDに彼の声を録音出来る。
この部屋にこっそりビデオカメラ仕掛けておこうかな。
そしたら彼の姿をいつでも見れる。
セロハンテープを机の上に貼ってみた。
この辺なら君が触ってるかも。
そっと剥がした。
色んな指紋が付いてる。君の指紋はどれかなぁ。
今度君が来る前にこの子供部屋をもっともっと綺麗にしとこ。
机の上を念入りに拭いておこう。
息子の指紋が付かないように手袋させようかな。
指怪我したって言って包帯巻いておこうかな。
彼の髪の毛落ちてないかな。
息子、坊主にさせよっかな。
そしたらここに落ちてる髪の毛は全部君のだ。
髪の毛が手に入ったらどうする?
DNA取り出してクローンな君を作ってみる?
髪の毛一杯集めて、君そっくりの人形作ってみる?
どっかに彼の跡形残ってないかな。
「ママー、ご飯まだー?」
現実の世界に帰らせたのは息子の声だった。
「うん、今用意するね」
心の中で舌打ちしながらの笑顔。
「きょうねー、せんせいにねー、ほめられて、あたまなでなで、してもらったんだよー」
見ーつけた。彼の跡形。
私は息子の頭に頬ずりする。
「ママー、いたいよー」
「ねぇ、今日頭洗うの止めよっか?」
私は心からの笑顔で跡形にそう言った。