「れお君」
「そんな呼び方すんなよ。俺、先生だよ?」
「ただの教育実習生じゃない」
「そりゃそーだけど……。一応今はお前の先生なんだからサー。仮でも」
「だって昔から『れお君』って呼んでんだもん。今頃『れお先生』なんてこっ恥ずかしくて言えないよ」
「言えよ」
「だって先生っぽくないんだもん。私の中では『ハナタレれお君』か『泣き虫れお君』しかないんだもん」
「もうちょっとあんだろーよー。『水泳部キャプテンれお君』とか『応援団団長れお君』とかさー」
「うわー、自分で君付けしてるぅ」
「うっちゃい」
「悔しかったら先生の威厳醸し出してみてよー」
「醸し出てるだろ? ほらこの肩の辺り感じるだろぉ? くいくいっ。背中とか大人の男の渋みまで出てるだろー。ほらほら」
「…………」
「……なんだよ。何とか言えよ。……後ずさりすんなよ」
「……で、出てないよ。渋みなんて……全然……」
「もうちょいちゃんとツッコめよ。歯切れ悪いよ。……ん? かおり、熱あんじゃないか? 顔赤いけど」
「わー、何するーっ」
「何って、熱測ろうと思って……」
「そ、そんなのどーでもいいのっ。……熱じゃないんだから……」
「は? もっと大きな声で言えよ」
「うっちゃい。……んじゃ」
「……何だよ、逃げんなよ。はは〜ん、さては俺の背中から出てる大人オーラに怖気づいて逃げたな。……ん? 何か落ちてる。…………あ。お〜い、かおりぃ〜、写真落としたぞぉー」
「ええっ?!」
「うわぁ〜ぁ〜。何猛スピードで突進してくんだよぉ〜っ」
「ハァ、ハァ、ハァ……返してっ」
「え?」
「写真。返して」
「ちと待った。もうちょいちゃんと見せろよ」
「…………」
「彼氏の写真かと思ったら違うのな」
「返してっ。返してっ」
「そんなピョンピョン飛んでも無駄だっちゅーの。俺の方が背ぇ高いんだから届かないだろ?」
「……むぅ」
「これ、水泳部の集合写真じゃん。お前、冷めてるかと思ってたけど、ちゃんと水泳部愛してたんだなー。うんうん」
「痛っ。痛いっ。背中バンバン叩かないでよ」
「……にしてもこの写真。皆の顔ちっちぇーな。俺どこにいんだ?」
「……ここ」
「そー言われれば髪型がそーなよーなー。……イーっ。目ぇいてぇっ。どーせなら他の写真持ってろよ。ほれ、返す」
「これしかないの。……いいの、これで。私、目ぇいいんだもん」
「れおセーンセ〜、さよぉーなら〜」
「お〜っ、また明日なー。……俺も人気者だな。ほら、他の学生はちゃんと『先生』って言ってんぞ」
「しーらないっ。んじゃ行くから」
「あ〜あ、行っちゃった。相変わらず可愛げねーなー。……おっ、そうだ。 ……なぁー、かおりぃー。明日ぁ、カメラ持って来いよぉーっ」
「……えー?」
「俺のカッチョ良い写真〜、何枚でも撮らせてやっからさぁ〜」
「………………い〜ィだっ。……先生のくせにぃ『かおり』なんて気安く呼ぶなぁー。ちゃんと苗字で呼べぇー」
「……しょうがないよ……」
「……えー? 何ぃー? 聞こえないよぉー?」 「俺には『大きくなったられお君のお嫁さんになる』って言ってたちっちゃい頃のかおりのイメージしかねぇんだもん……」 「……何ぃー? 何て言ってるのぉー? 」
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