らくらくISO9001講座
【ISOの使い方の研究 その3】
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株式会社
ひまわりの会
ISO9001の範囲を越えて経営に活用する
「ISOは"これ使わな損や"という感じで使います」
奈良県で介護事業を展開する「株式会社 ひまわりの会」は、6年前の2003年にISO9001の認証を取得しました。
今回は、奈良市の郊外にある本部(ぽれぽれ登美ヶ丘)をお訪ねし、代表の酒井澄子さんと、管理責任者の酒井 由理さんに、お話をうかがいました。
ひまわりの会は、現在は、奈良市を中心に5箇所の拠点を持ち、そこで、次の7種類の介護関連事業を行っていま
す。
1) 居宅介護支援 (ケアマネージャー)
2) 訪問介護 (ホームヘルパー)
3) 通所介護 (デイサービス)
4) グループホーム
5) 訪問看護
6) 介護保険外サービス (家事代行、ナイトサービス)
7) ホームヘルパー養成講座
従業員は33名の正社員と、100数十名のパートですが、拠点と業種の数から見ると多いとは言えず、スタッフはか
なり忙しそうです。
この会社は、酒井代表が、平成9年に設立し、平成12年から介護保険制度がスタート、平成16年(設立7年目)に
現在の本部を建設し、その完成直前にISO9001を取得しました。
私(宇野)は、平成15年1月から8月まで、毎月2回訪問して、ISO9001取得のためのコンサルティングを行いまし
た。
ただし、その時の本部は、民家の離れの仮事務所でした。また、当時の事業拠点は3箇所で、ISO対象の事業も居
宅介護支援(ケアマネージャー)、訪問介護(ホームヘルパー)、ホームヘルパー養成講座の3種類でした。現在は、 当時に比べれば、事業が大きく発展しています。
酒井由理さん(以下、由理): あの時は、正社員がみんな集まって、ISOの研修をやりましたが、今では
ISO9001の現在の運用状況についてお尋ねしたところ、提示いただいたのが、「ひまわりの会チェックシステム」で
す。そこには、次の11のチェックシステムが揚げられていました。
【社内チェック】
1) 社内監査 (内部監査、法令が求める業務管理体制のチェック、法定の自己点検)
2) 部門別会議 (業務の実施情況、年間活動目標の進捗度)
3) 顧客満足度調査 (利用者アンケート)
4) 職員満足度調査 (外部の調査会社を使用)
5) 職業能力個人チェック表 (自己診断による)
6) 個人面接
7) 苦情の情報 (ヒヤリハットレベルのものまで報告される)
【社外チェック】
1) 奈良県の実施指導及び書面監査
2) 情報公開 (これにより外部から評価してもらう)
3) 福祉サービス第三者評価制度
4) ISO審査
ここで挙げられたチェックシステムを見ると、ISOが直接求める活動(内部監査、年間活動目標、顧客満足度、クレ
ーム情報、ISO審査)に加えて、様々なチェックが行われています。6年前に、手探りで内部監査や年間活動目標(品 質目標)を始めた時と比べると、はるかに充実した、監視・測定の体制ができています。
ひまわりの会が、チェックシステムを重視しているのは、介護という業種の特性が関係します。
「ひまわりの会の理念」(品質方針)には、その第1として「質の高いサービスの提供」が揚げられています。しかし、
サービス業の品質は、職員の行動と、顧客の受け止め方で決まり、明確な検査基準などはありません。そこで、 様々なシステムを使って、サービスの実施情況を監視し、改善につなげているのです。
また、介護は、人の安全やプライバシーに関わり、介護保険という公的なお金を使うことから、厳しいコンプライアン
スが求められます。しかも、介護保険法は、刻々と変わり、これに対応して、法律を守るのは大変です。そのために、 社内チェックが必要なのです。
酒井澄子代表(以下、代表): いろいろな社会問題が発生して、行政のチェックが厳しくなっています。
では、その活動は、どのように実施されているのでしょうか。内部監査の例についてうかがいました。
代表: 内部監査は、厳しさを保ちながらも、みんなゲーム感覚でやってくれてます。身体に染み付いている
由理: 最初は、品質マニュアルに沿ってやっていたんですが、最近は労務管理とか、法律で決まっている
内部監査が、社内チェックとして、重要な機能を果たしていることがうかがえます。
酒井代表が、ISO9001の活用のもう一つの重要な要素として挙げられたのが、教育・訓練です。
現在、ひまわりの会では、以下の研修や会議が、各毎月1回づつ行われます。
1) 業務改善会議 (全体)
2) 事業所会議 (事業所ごと)
3) 部門別研究会 (分野ごと)
4) キャリアアップ研修 (職員全員)
5) フォロー研修 (事業所ごと)
この組織には、5つの事業所と、7つの業種がありますから、事業所別研修を縦軸とし、同時に業務分野別の研修
を横軸にして実施しているとのことです。
これを支えるのが、総務部(品質管理責任者)です。研修出席率100%を年間活動目標に掲げ、綿密な計画を作っ
て、毎月20件近くある研修や会議の出席の調整を行っています。
このように、研修に力を入れてきた成果が、職員の満足度調査の中に現れました。
昨年、外部に委託してこの調査を行なったのですが、もっとも職員の評価が高かった項目が「苦情対応」でした。
ほとんどの職員が、「会社は、利用者の苦情に耳を傾けている」、「ミスを報告せずに済ませたことはない」、「会社
に問題を隠そうとする風潮はない」と答えたのです。このように、会社の姿勢が職員に浸透しているのは、まさに教育 の成果です。
また、研修制度は、職員の定着率の良さにも影響しています。人の移動の激しい介護業界ですが、ひまわりの会
では、6年前にシステム作りをしたスタッフが、ほとんど現在も組織の中核として活躍しています。
代表: 正社員は、ほとんど辞めることがありません。給料が良いとは言えないと思うんですよ。しかし、それ
「ひまわりの会の理念」の中にある「学びあう組織」が、しっかり実践されています。
このように、ひまわりの会のQMSは、教科書的なISO対応の範囲を越えて展開されています。もちろん、その中に
は内部監査や品質目標が含まれているのですが、それは一部に過ぎません。様々な要素が加わった幅広い活動 を、ISO9001だと認識されています。
ISOを始めたばかりの企業や、形式的なISOをやっている企業が見れば、「これのどこがISO9001なのか」と思うでし
ょう。しかし、進化した本当のマネジメントシステムとは、こういうものなのです。
ISO9001は、具体的な活動の中身を決めるものではありません。ISO9001に書かれているのは、次のことです。
・仕組み(計画)を決めたら、文書化して管理すること
・責任権限を決めること
・内部監査で監視すること
・うまく行かなければ是正処置を行うこと、
・マネジメントレビューで経営がコントロールすること
すなわち、ISO9001が決めるのは、仕事の仕組みそのものではなく、会社が決めたプロセスを、確実に実行し管理
するための仕組みです。しかも、その具体的な実施方法は、組織の判断に任されています。
ですから、ISO9001を使いこなしている経営者は、自分が必要だと考えた活動があれば、全てQMSに乗せてルー
ルを明確化し、監視し、改善をさせます。「審査で何か言われるのはイヤだから、なるべく品質マニュアルに書かない ようにしよう」などという発想とは、根本的に違うのです。
その結果、様々な活動がQMSに取り込まれ、QMSはどんどん幅広い活動になってゆきます。そして、その組織の
全くオリジナルの、QMSができ上がります。ですから、一見ISOには見えなくても、経営者にとっては、ISO9001に基 づく活動なのです。
これからISO9001に取組む企業や、ISO9001がうまく活用できていない企業に対して、酒井代表から、アドバイスを
いただきました。
代表: 何のためにISOを取ろうかという意識が重要ですね。ISOという仕組みの中には一般論が書いてある
また、ISO9001を導入することの意義について次のように語られています。
代表: 私は、仕組みを作らなければいけないと思っています。私の創始者としてのカリスマ性だけでは長続
介護の世界は、制度改正や社会情勢の変化が速く、同じことを続けているだけでは、組織は維持できません。酒
井代表は、現場の運営はスタッフにできるだけ権限委譲し、自らは新たな事業展開に向けての準備に注力されてい ます。
ひまわりの会のQMSは、予想を超えて、充実したものになっていました。
このような効果的にシステムを作り上げたのは、ほとんどは経営者と組織の力なのですが、次のような点では、6
年前のコンサルティングで、多少は貢献できたかなと思います(自画自賛ですが)。
1) システム構築中も、本来の目的を常に口に出して確認し続けたこと。
2) 当時の業務内容に沿って、自分たちの言葉で、仕組みづくりをしたこと。ひまわりの会の品質マニュア
ルには、ISO用語はほとんど出てきません。
3) 明るい雰囲気で、自然体で、システム構築ができたこと。過剰に審査を意識することなく、自然の姿で
審査に望めました(登録審査の際に、机の真ん中に、おやつのバスケットが置かれていたことを覚え
ています)。
今、ISO9001の真価が問われているだけに、このようにしっかりとQMSを展開している企業に会うと、元気付けられ
ます。
インタビュー 2010年1月12日
月刊アイソス 2010年5月号掲載
「5年後の品質マネジメントシステム 第2回」より
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