らくらくISO9001講座
【ISOの使い方の研究 その4】
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大輪産業株式会社
次期社長の体制作りに、ISOは役に立ったのか?
「ISOの審査は、本当に必要なんですか」
大輪産業株式会社は、大阪府富田林市で、ネジの製造を行っている会社です。従業員は約25人。この組織は、
5年前の2005年にISO9001の認証を取得しました。今回は、現在社長に代わって実質的に会社を引っ張っており、 管理責任者でもある、太田豊治常務(37才)にお話をうかがいました。
5年ぶりに訪問した大輪産業は、社内の管理体制が、見違えるように変わっていました。太田常務も、当時は現場
で作業者に混じって陣頭指揮を取っていましたが、現在では、スタッフを育て、組織的なマネジメントをされていまし た。ISO認証取得後の、5年間の変貌振りをご紹介しましょう。
まず、ISO9001取得の際の、メインターゲットであるクレームの削減について、その成果をうかがいました。5年前に
は、営業部長・品質保証部長を兼任している常務が、クレーム対応で飛び回っていた印象がありましたが、今はどう でしょうか。
常務: ISOをとってから、ユーザークレームが減ってきました。毎年50%削減の目標で進めています。更新
数字以上に、クレームの内容が改善しているようです。製造ミスや管理ミスによる物は少なくなり、少数の傷など、
避けにくく後工程への影響が少ないものが中心になっています。
このようにクレームを削減できたのは、品質マネジメントシステムの構築に合わせて、組織を改め、役割分担や責
任権限が明確にし、工程管理や検査体制を強化してきたことが大きいようです。
常務: 今は、お客さんに対しては品質保証部員を1人置き、社内にも工程検査係として2人のスタッフを置
5年前の当時、クレームと並んで、会社の業務に負担をかけていたのは、顧客希望の納期に十分に応じられず、い
つも納期に追われていることでした。
常務: あの時は、受注の6%7%ぐらいが、希望納期に応じられませんでした。納期の調整をしている上か
ISOを取得した時点では、まだ納期遅れの解消に向けてようやくアクションを始めた段階でした。しかし、認証取得
後も、着々と改善を進め、問題が解決できたとのことです。具体的には、何が変わったのでしょうか。
常務: 現在は、毎月20日に棚卸しして、在庫を正確に把握しています。来月の内示を受けて生産計画を
できてしまえば、当たり前ですが、長年の商習慣を変えるのは、かなり大変だったと思われます。顧客から、正確
な発注予定をもらうには、納期に関して信頼してもらう必要があり、その信頼を得るには時間がかかったはずです。
大輪産業は、このように着々と体制整備を進めてきたわけですが、実際の業績にはつながっているのでしょうか。
常務: 今のままじゃイカンという意識が絶えずあります。効率上げなあかんし、機械が必要やったら入れな
大輪産業は、自動車用途の比率が高いために、さすがにリーマンショック(2008年秋)以降は苦労しているようで
す。ISO認証以後、業績好調で、新工場の準備も進んでいたのですが、今は様子を見ているとの事です。
現在の大輪産業は、常務が孤軍奮闘していた以前の様子と比べると、はるかに組織的な運営が行われていま
す。どのような取組みに効果があったのでしょう。
常務: 肝心なものは、マネジメントレビューですね。当社は、毎月1回、月初めに運営会議としてやっていま
大輪産業はこの5年間で、組織改革に取組み、成果を上げてきました。もちろん、これらがすべて、ISO9001の効果
だという訳ではないでしょう。
この5年間は、ちょうど社長から後継者である常務に権限委譲が進められた時期でした。これを受けて、常務が経
営計画に基づく運営、業務改善、組織の見直しなどを、様々な手法を利用して、新しい体制作りを進めてきました。 ISO9001を導入したから改革できたというよりも、改革の一環として、あるいはその第1歩としてISO9001を導入し、そ の手法を活用したという方が正確でしょう。
このようにISO9001を会社の改革に活用してきた大輪産業ですので、さぞ充実した品質マネジメントシステムを実
施しているかというと、それほどでもないようです。
常務: 審査のときは、毎回、正直駆け込みです。帳票の漏れとか、ハンコの抜けとか。チェックシートのハン
審査については、次のように言われています。
常務: 果たして審査は必要なんでしょうか。定例会議についても、目標に関しても定着しており、今の状態
ISO9001自体には、それほどこだわりがないようです。私から見ると、ISO9001のエッセンスを良く吸収し、応用され
ているよう見えますが、そのような意識もないようです。5年間できることは全てやってこられた結果が、会社の体 制、体質の改善に結びついているのだろうと思われます。そこには、ISOだ何だという、理屈は不要ということなので しょう。
大輪産業は、ISO9001を100%活用しているとは言えませんが、現実にはISO9001を利用して社内改革に成功しま
した。 審査員やコンサルタントの方は、この事例を見て、どう思われるでしょうか。「まじめにQMSをすれば、もっと効 果が出るのにもったいない」と思われるでしょうか。「それも一つのQMSの使い方だ」と考えられるでしょうか。
大輪産業の事例を肯定的に見れば、次のようなことが分かります。
1) ISO9001に書いてあることを、全て完璧にしなくても、社内改革はできた
2) ISO9001の要求をどこまでするかは、企業の選択の余地がある。
3) 第3者認証を受けるかどうかも、企業の選択に任されている
審査サイドにいると、ISO規格の全項目にきちんと取組むのが正しいやり方で、それができるのが優れた企業という
認識になります。しかし、それは審査サイドの想いであって、企業にとってはそうではないかもしれません。
もちろん、規格の意図を理解せず、余分な仕事をやっているのであれば、企業にとって、間違いなくマイナスであ
り、改めるべきです。審査員が改善を働きかけるのも良いでしょう。
しかし、企業が判断で、ISO9001の要求の一部について意図的に軽く流しているとすれば、それは1つの選択肢か
もしれません。これをしっかり運用させようと審査員が働きかければ、企業にとっては大きなお世話です。
今後、大輪産業の品質マネジメントシステムはどうなってゆくでしょうか。
私は、ここまでの話しにもかかわらず、もう1度、大輪産業が品質マネジメントシステムを強化し、活用する局
面があるのではないかと思っています。
現在、大輪産業は、実質的に経営を任されている常務が、品質マネジメントシステムの管理責任者をかねていま
す。すなわち、経営者=管理責任者です。
以前に比べれば、組織化は進んだとは言うものの、今のところ、経営者が個々のプロセスを直接掌握している状態
です。今後、管理責任者を別の人に任せ、マネージャー層への権限委譲がさらに進めば、それを管理するために、品 質マネジメントシステムの必要性が高くなるかもしれません。もしそうなれば、またあたらしい体制作りに取組まれる でしょう。
今後、大輪産業がどのように発展して行くか、楽しみです。もう5年経ったら、もう1度訪問してみることにします。
インタビュー 2010年3月11日
月刊アイソス 2010年7月号掲載
「5年後の品質マネジメントシステム 第4回」より
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