らくらくISO9001講座    【ISOの使い方の研究 その2】

トップへ
戻る

株式会社 ウーマンライフ新聞社


顧客に信頼してもらえる仕事の仕組
「ISOが一番必要なのは営業部門です」


 「ウーマンライフ」は、新聞の折込みとして配布されるタブロイド版の広告誌です。奈良では週2回、その他の関西
地方で月1〜2回発行されます。その名の通り、女性にターゲットをしぼって、美容、健康、グルメ、結婚、カルチャー
などに関する記事や広告が掲載されます。
 「ウーマンライフ」ホームページへのリンク



 発行部数 毎月516万部

 この「ウーマンライフ」を発行する株式会社ウーマンライフ新聞社は、奈良市の平城宮址の近くにあります。印刷
や配布はアウトソーシングしているため、会社で行っているのは、掲載する広告や記事の制作、編集、それと掲載広
告を集める営業活動です。全社で約70名の社員がいます。

 「ウーマンライフ」には、奈良版、大阪市内キタ版、大阪北東版など、エリアごとに27種類があり、これを1ヶ月の間
に発行しますから、ほとんど日刊紙を出しているようなものです。これを10数人の編集・制作部隊でこなしていますの
で、たいへんな忙しさです。発行部数は、月の合計で516万部とのことです。
 今回は、その忙しい仕事の合間をぬって、管理責任者の桝田泰典副社長と、事務局の河本敏江編集長からお
話しを聞かせていただくことができました。


 ISO9001への取組み開始

 ウーマンライフ新聞社は、1997年から新聞発行を開始しました。7年目の2004年にISO9001認証を取得し、最近6
年目の更新審査を受けました。

桝田副社長: きっかけは、私と社長がISOの講演会に行ったことです。それは、
「ISO9001によって、経営のトップマネジメントのスピードを上げる」
「経営の効率が上って、収益をアップしてゆく」
といった話しでした。講演を聞いた社長が「これはええ」と言って、即、決めてスタートしました。

 7年前、ISO9001取得のコンサルタントの開始に当たって、私(宇野)が西川雅子社長に対して「ISOによって一番
改善したい点は何ですか」とうかがったところ、すかさず「営業です」と答えられました。当時のウーマンライフでは、
広告の受注の際の"契約内容の確認"が十分に行えておらず、掲載記事のミスや、顧客との行き違いがたびたび発
生していました。そこで、この契約プロセスの改善が最優先課題だったのです。


 ISOで改善したいのは営業

桝田: 創業当時は、10人程度の社員でやっていましたので、お互いに信頼関係もあって、営業も、言葉は
悪いのですが、変なことはしませんでした。しかし、人数が20人30人と増えてくると、色々なことが起
こります。

例えば、ある営業担当者が、成績を上げるために無理をした結果、お客さんの最終的な合意がない
まま、広告を掲載する事件がありました。顧客に請求書を送ると、「勝手に載せて費用を請求するの
か」「チェック機能はないのか」とたいへん怒られました。

この業界は、広告代理店も含めて、昔から口約束で仕事を取ってきて、契約書とか申込書とか、書
面を交わしていることは少なく、個人のやり方に合わせてやっていました。一方で、当時は、どんどん
発行エリアを増やしていって、フランチャイズを始めるなど、事業が拡大しており、システムをちゃんと
作らないと、お客さんに満足いただける管理運営ができなくなっていました。

 これと似た話しを、事業が伸びている中小企業でよく聞きます。組織は、社員が10人程度までであれば、経営者が
直接管理できます。しかし、20名を越えると、経営者から見えない部分が出てきます。
 そこで、必要になるのが、マネジメントです。組織を決め、責任と権限を決め、明確なルールや監視体制をつくる必
要があります。ウーマンライフ新聞社は、そのためにISO9001の導入が良いと考えられた訳です。


 契約トラブルを防止するために

 日刊紙並みに新聞を発行するウーマンライフ新聞社は、業務の処理量が多く、そのスピードが速いことが特徴で
す。そのため、営業は早く自分の担当クライアントの広告記事を制作して欲しい。一方、制作部門も早く作業
にかかりたい。ISO取得以前は、そのような両者の思惑が一致して、顧客が正式申込みをする前から、営業と制作
の間で、作業が見切り発車されていました。その結果、顧客との詰めが疎かになり、掲載の後に「条件が合意され
ていない」「約束と違う」という話しが発生していたのです。

 そこで、ISO取得に際して、次のような流れが提案されました。契約書(掲載申込書)を作成して顧客のサインをもら
い、これを経理担当に送って確認し、承認されたものをだけを制作に回すのです。当時の経理担当は、不確かな契
約の後始末に振り回されていましたので、快く引き受けてくれました。
 一方、営業は「処理が間に合わない」」と主張しましたが、経営陣の強い意志があり、どうしても間に合わない場合
の、特別処置を認めた上でスタートしました。また、「当社のクライアントは書面を嫌うのでサインはもらえない」という
意見もありましたが、実際に始めてみると、ほぼ全てのクライアントに受け入れてもらえました。

桝田: 現在、当社は月に500〜600件の広告の契約件数がありますが、1つも間違いなく、正確に処理して
ゆかなければなりません。
経理は、6年前に比べると人員が充足され、万全なチェックをやっています。3名で申込みの内容、価
格面とか、契約の内容までチェックができています。顧客管理、請求書のチェックもやっているのでも
れ落ちがありません。
営業が決められた日時で、掲載申込書を経理に提出することから、作業がスタートします。まず契約
があって、経理を通して、編集制作に流れてゆく仕組みができています。


 校正ミスを減らすために

 ウーマンライフのISO9001のもう一つのテーマは、記事の間違い(校正もれ)をなくすことでした。これは、複数の目
によるチェックを強化するしかありません。制作の業務の流れは、ISOによって大きく変えることはありませんでした。
慣習的に実施されていたものをルール化し、校正については、デザインの検証・妥当性確認を明確に定めました。

桝田: どうしても、校正に関しては人的な要素が大きいです。固有名詞であったりとか、クライアントの電話
番号であったり、契約しているのに掲載を忘れるとか(笑)、そういう重大な欠陥は出さないように、
営業が見る、制作が見る、編集が見るという入念なチェックをしています。だんだん細かいところまで
見られるようになり、チェックのレベルが上ってきています。

河本編集長: それも、仕組みがベースにあってだと思います。最終稿で、お客さんに確認してもらう仕組み
が徹底されるようになりました。制作の1人1人の現場のレベルでも、きっちり分かっていて、サイン
はもらうことが当たり前の物として仕事の中に入っています。


 定着した仕組み

 現在の状況を聞いていると、ISO取得時に議論を重ねて導入した仕組みが、定着しているようです。従業員の受け
止め方は、どうしょうか。

河本: 申込書ひとつでも、以前は無かったですから、営業からすると一つ作業が増え、最初は、面倒くさ
い、邪魔くさいという感じでした。いろんな部署で「こんなんできひん、あんなんできひん」(注:関西弁
です)と不満が出ましたが、今は全然そのようなものはありません。むしろ、どのようにして精度を高
めてゆくかを考えています。当たり前のことを当たり前に進めてゆくことが一番です。ISO云々じゃなく
て、当然の仕事のルールとして定着しています。

桝田: 間違った物を世の中に出さないということに関しては、意識は変わったし、やり方も変わりました。
当社の仕事は、外に出てしまうとパブリックなものなので、誤りがあるとたくさんの人に迷惑をかけて
しまいます。ISOで導入した仕組みに従うことで、完全にゼロとまではいえませんが、間違いが防げ
るようになりました。

河本: トラブルは、はっきり減りました。また、発生した時には、全部が社内的に上っており、営業の中で
うやむやにしてしまうことはなくなりました。こういうミスがあったと、周知徹底しています。是正処置
の仕組みに乗っ取って処理することで、ここでこれが出来ていなかったからミスにつながったというこ
とが分かります。

 ISO9001取得後も、着々と体制整備を進めてこられた様子がうかがえます。「ISO云々じゃなくて、当然の仕事のル
ールとして定着」という河本編集長の言葉が、その成果を物語っています。


 ベンチャー企業にとってのISO9001

 ウーマンライフが実施した業務改善は、契約にしても校正(検査)にしても、当たり前のことを確実にやっただけとも
言えます。特に、歴史がある製造業の方から見れば、「なぜ、それまでできていなかったのか」と疑問をもたれるかも
しれません。
 しかし、製造業が受注や検査をシステマティックに実施できているのは、企業の歴史の中で、先人が体制
をつくってきたからであり、決して自然にできた仕組みではありません。

 中小企業、サービス業、ベンチャー企業には、まだシステムが整備できていない会社が多くあります。特にベンチャ
ー企業では、最初は管理部門のエキスパートがいないことが多いので、品質保証や従業員の管理などは、後回しな
っています。しかし、事業が軌道に乗り、従業員が増えてくると、勘と経験による管理だけでは、隅々までコントロー
ルできなくなります。
 ISO9001は、こうした企業にマネジメントや品質保証の仕組みを導入するための、強力なツールです。


 営業部門におけるISOの成果

 また、ウーマンライフでは、営業部門を改善の第1ターゲットとしてISOに取組みました。
 一方、多くの会社では、営業部門は一応QMSの範囲には入っていますが、なんとなく"おまけ"扱いです。営業自
身も、ISO9001に深く関ろうとはしませんから、当然、改善の効果も期待できません。
 しかし、桝田副社長は、次のように言われています。

桝田: ISOが一番必要なのは営業です。営業の書類が、導入前より、はるかに整理整頓されました。以前
は、書類の置き場が決まっておらず、誰かが自分の引き出しに直し込んで(しまい込んで)、休んで
いたら誰もわからないこととかありましたが、今は、本人がいなくてもどの書類はどこにあるかわかり
ます。契約内容にしても、契約金額にしても、経理でも編集や制作でも把握できる。それが、お客さ
んに迷惑をかけないことにつながります。

制作とか編集は、ISOでなくても、キャリアを積んでゆけば、ある程度の仕組みはできると思います。
しかし、営業は、仕組みを決めて管理してないと、みんなバラバラの方向へ走ります。


 ISO9001はあらゆる産業に使える

 ウーマンライフ新聞社は、サービス業であり、ベンチャー企業であり、営業部門に課題を持っていました。一般的に
は、サービス、ベンチャー、営業のいずれもが、ISO9001に馴染みにくいイメージがあります。しかし、ウーマンライフ
新聞社は、紹介してきたようにISO9001を活用して、会社の体質改善に成功しました。
 その取組みのポイントとして挙げられるのは、次の点です。

 1) ISOを導入する上で、改善すべきターゲットが明確になっていた点。これは、ここで紹介している他の
    事例とも共通しています。
 2) 審査対応としてISO9001に合わせるという意識はなく、自分たちに必要な仕組みを作った点。

 ISOは、形を決めるものではなく、改善の推進力として使われました、その結果が、「当然の仕事のルールとして定
着」となったわけです。
 このように、ISO9001は、これに縛られるのではなく、使いこなせば、あらゆる組織の体制作りのための力となりま
す。


 広告の顧客満足とは

 ところで、桝田副社長から、顧客満足に関して大切な話をうかがいました。ので、最後に紹介します。

桝田: 広告の反響事例集を作っています。月に1人1例ずつ、何人ぐらい集客があったか、広告で良かった
点などを報告させ、全社員にフィードバックしています。
私たちは媒体を発行するだけではなく、クライアントのところに人が集まり、商品が売れるように、販
売促進するのが目的です。スペースを売るだけではなく、一言で言えば提案営業が必要です。

営業の気持ちのピークは契約する段階であります。何回も通って、やっとお客さんから契約が取れた
ら、営業の気持ちは終わってしまいます。逆にクライアントは、契約から原稿を作ってゆく過程、そし
て発行してからどんな反響があったかが重要なところです。しかし、営業はどうしても、ここを忘れて
しまうんですよね。 

 この話しは、そのままISOのコンサルタントや審査員にも置き換えられます。

 「ISOの認証が取れたら、コンサルタントの気持ちは終わってしまいます。しかし、クライアントは、認証を取って以後
に、どのような事業の拡大につながるかが重要なところです。しかし、コンサルはどうしてもここを忘れてしまうんです
よね」

 「審査が終了したら、審査員の気持ちは終わってしまいます。しかし、クライアントは、審査での指摘やアドバイス
が、運用の中でどんなメリットにつながるかが重要なところです。しかし、審査員はどうしてもここを忘れてしまうんで
すよね」

 ISOに取組む企業の目的は、収益を上げることであり、企業はそのためにQMSを導入します。審査も認証
書も、組織の事業を発展させるための手段に過ぎません。ISO9001という制度は、企業がこれを利用して利益を上げ
ることで成り立っています。このあたりは、広告代理業と同じです。

桝田: 紙面に広告が載るのはあくまで結果であって、その前の段階で、「おたくの店ならこういう風な販促
をしたらもっと売れる」とか「こんなサービス提供したら今の時勢に合う」ということを提案してゆくのが
営業の仕事です。そのクライアント企業の、広告部長になったつもりで、販促提案をしなさいと、営業
を教育しています。
この辺をきっちりとやる者は、1回契約を取ったらきっちりフォローして継続し、その上に積み重ねて
ゆきます。逆にできない者は、一生懸命やっていても、一回契約を取ってもそれ切りで、新規の契約
をずっと追っかけています。

自分たちの本来の役割を、しっかり認識することが大切だと言うことですね。


 「ウーマンライフ」ホームページへのリンク

インタビュー 2010年2月15日
月刊アイソス 2010年6月号掲載
「5年後の品質マネジメントシステム 第3回」より

前頁へ目次へ次頁へ
トップへ
戻る