†ろしかめ研究室†

KMZ Zenit-C ★★★★☆ 発売年月 1955?/標準価格 ¥---
バルナック・ベースの愛らしい一眼レフ


ソ連KMZ社製の最も初期の一眼レフ。バルナックライカ・コピーのZorki-1をベースにして、ミラーボックスとペンタプリズムを割り込ませたもの。レンジファインダー機から一眼レフへの過渡的な機種で、マウントもL39と形状が良く似たM39マウントを採用している。無論、露出計もないし、底蓋式だし、ピント合わせも難しい。実用性云々を言うのはナンセンスだが、独特の愛らしい存在感には根強いファンも多い。
(2006.07.19 upd)

「ゼニット・エス」と読む(キリル文字のCはエス)。一種のキワモノカメラだが、キワモノの割には破綻のないデザインで、質感もなかなか秀逸。一眼レフにしては信じられないほど小さくて愛らしいし、丸みを持ったペンタ部も嫌味がなくて好感が持てる。デッドコピー機種を除けば、ロシカメの中では最も優れたデザインではないかと思っている。最近気が付いたのだが、愛玩カメラとして偏愛しているユーザーがかなりいるようだ(著名なプロカメラマンの中にもいたりする…)。

●系譜

初代Zenitは、レンジファインダー機であるZORKI-1のボディに無理矢理ミラーボックスを割り込ませてペンタプリズムを乗っけたキメラなようなカメラだった。つまり、バルナック・ライカとビゾフレックスを一体化してしまったトンでもないシロモノなのである−−もっとも、トンでもなさ度ではビゾフレックス自体の方が上かもしれないが(^_^;

シリーズ二代目がこのこのZenit-Cで、初代Zenitにシンクロターミナルを追加したもの。それ以外は、デザインも含めてほとんど変更されていない(ノブの滑り止めのパターンが少し違ったりするようだが…)。

初期のZenitシリーズは、ZORKIのパーツや技術を最大限に利用していたようで、マウントもLマウントと直径が同じM39マウント(Zenitマウント)を採用した。デザインの系譜としてもバルナック・ライカの血を引いていることになり、旧ソ連カメラとしてはかなり洒落ている。だが、同時にZORKIの欠点もそのまま引き継いでしまっていて、ノブ巻き上げ、底蓋式というのは(好みは別れるものの)実用的とは言いがたい。

そこで、初代、Cに続いて、裏蓋や巻き上げが改良されたZenit-3や3Mが開発された。3/3Mは便利になった反面、ボディサイズが大きくなり、デザイン的な魅力もなくなった。商業的には3Mがメジャーモデルとなったようだが、初期Zenitは、不便な初代やCにこそ神髄があるように思う。

●基本スペック

横走り布幕シャッターのフルメカニカル機で最速1/500"。スローシャッターは省略されているようで、最低速度は後期のZORKI-1と同じ1/25"。やはりスロー側が物足りない。これは、この後のM42-Zenitシリーズでも大差なく、Zenitシリーズ共通の欠点と言ってよいだろう。ただし、Zorki-1とは異なり、巻き上げ前でも速度が変更できる点は評価できる。

ミラーはまだクイックリターン方式になっていない。レリーズと同時にアップするが、シャッターチャージしないと下に降りてこない。つまり、シャッターを切ったら、あとはファインダーが真っ暗になる。けっこう勇気を必要とするカメラだ。

ボディサイズは非常に小さい。何しろ、ベースサイズがバルナック・ライカだから、その気になればコートのポケットにも入る。各種のつまみやシャッターの感触はロシカメなりのものだが、そんなに酷いレベルではない。底蓋式でフィルム装填が面倒なことを除けば、まずまずの操作性と言ってよいと思う。ZORKI-1にはなかったアイレットも標準装備されている。

●ファインダー

ファインダーはほぼ等倍で見やすい。そんなに明るくはないが、F3.5のレンズでもピント合わせができる。全面マットだが意外に合わせやすい。とは言うものの、実写結果を見るとピンぼけがかなり多く、やはりシビアなピントは厳しいかなと感じた。Jupiter-9のポートレートはそこそこだったが、標準系/広角系に問題があった。なお、ミラーが小さいので視野率はかなり低いらしい。

なお、当然のことながら絞りは実絞り。流石に絞るとファインダーは見難くなり、F11以上ではピン合わせはかなり困難。幸い、M39レンズはほとんどがプリセット絞りを採用しているので、開放でピント合わせをして、ファインダーを覗いたまま絞り込むことができる。が、Zenit-C標準のIndustar-50だけは例外で、絞り込むときにはファインダーから目を離す必要がある。

●視度補正レンズ

視度補正レンズが欲しい。でも、Zenit用の視度補正レンズなんて入手できるの? Zenit 412DXの接眼部には、視度補正レンズ用の四角い枠が付いているので、多分どこかのメーカーの物が流用できるだろう。しかし、Zenit-Cは円形の接眼部のみ。ドイツ系のカメラのいずれかと互換性があるのではないかと思うのだが、そちらの方は全然知識がないし、ちょいとライカのプライスリスト見て、視度補正レンズがあまりにバカ高いのに驚いた。サードパーティー製もあるけど、それにしたって割高。

私が知る限り、現在新品で入手可能な円形の視度補正レンズはNIKON FE等用のものだけ。こいつは、直径がZenit用とほぼ等しいのだが、微妙に異なるのか、ネジピッチが違うのか、うまくはまらない。しかし、その差は僅か。そこで、適当な紙(コピー用紙)を8mm×20cmのテープ状に切って、NIKON用レンズとZenit-Cの接眼部をくっつけて巻き付けてみた。これが意外に上手く行く。ぎゅっと締めて巻き付けて、緩いようならテープの円筒の内側にセロテープなどを貼り付けてサイズ調整する。

無論、耐久性は問題。お散歩用にはちと恐い。近々、改良版を考えている。一つは紙テープではなく、適当なゴムチューブでくっつける方法。もう一つは、枠の付いていない視度補正レンズ単品を入手する(探す、あるいはNikon用から削り出す)方法。これについてはいずれ研究成果を発表する予定。

●レンズ

M39レンズについては別項参照。注意すべきは、物理形状はLマウントと互換性があるが、フランジバックが大きく異なるため、流用は不可能だということ。M39マウントのレンズはあまり一般的ではないので、入手はそんなに楽ではない。定番レンズは次の三本。特に、Jupiter-9は絶対のお薦め。

Mir-1  37mm/F2.8  実質的に広角レンズはこれだけ
Industar-50 50mm/F3.5  超コンパクトなパンケーキレンズ
Jupiter-9  85mm/F2  ポートレート銘玉

もう少し望遠が欲しければ、Jupiter-11 135mm/F4も入手しやすい。このうち、Industar-50はコンパクト性重視のため、完全な手動絞りになっているが、他のレンズはたいていがプリセット絞り。尤も、Jupiter-9に関しては開放で使うのが大前提なので、絞りはあまり関係ないかもしれないが。

●大人の玩具

どう考えても、趣味性が極端に高いカメラなので、実用的な用途にはまったく向いていない。ともかく、シャッターを切るまでに必要な儀式が多すぎるし、このカメラで正確な露出、正確なピントを出すには相当な熟練が必要になると思われる。しかし、こいつの偉大な所は、あえてその苦労を楽しもうという気分にさせてくれることだ。気持ちに余裕がないと決して使えない大人の愛玩カメラなのである。

主要諸元
シャッター 機械制御 横走布幕 B・1/25〜1/500" X接点1/25"?
測光方式 なし
露出モード  −−
露出補正  −−
ファインダー 視野率?%、倍率?倍
外観 132mm×87mm×49mm/530g(実測)
その他 非クイックリターンミラー
独断評価
操作感 B 欠点はあるが、極端に悪くはない
堅牢性 B 不明だが多分、比較的丈夫だろう
機能 D 何をか言わんや
携帯性 A 一眼レフとしては極めて小型
用途 ×仕事 ◎趣味 △スナップ ×軽旅行 ×海外旅行

Long-run report

2003.08.18/6500円で落札、コミコミで7300円くらい。程度があんまり良くないが、まあ、Industar-50付きで、スプロールも欠品ではないから、けっこう良い買い物。というか、たいへんに気に入ったので、多少高くても程度の良いものを買おうと思っている。今回入手した機体は@ファインダーにゴミが多い、Aスローシャッターが切れない、Bミラーに擦り傷が多い、というシロモノだった。

2003.08.21/Industar-22を付けて遊んでみる。なるほど、マクロ専用にしかならん。

2003.08.28/Jupiter-11(135mm/F4)を入手。4100円、コミコミでも4500円だったんだが、程度はけっこういい。かなり良い買い物だったなあ。そ〜か〜、プリセット絞りってこうなってんだ…実に勉強になる。しかし、でかくて重いなあ(^_^; ちょっとアンバランス。

2003.12.04/king-2でM39 ZenitマウントのJupiter-9 (85mm/F2)が出たので発作的に購入してしまう。玉数が少ないので高いの安いの言っていられない……と思ったら、その直後にオークションで発見、私の購入価格の6割くらいで落札された。縁とはそんなものだ。これを後悔してはいけない。

2003.12.11/トップカバーを開けてファインダー掃除。意外に簡単に奇麗になった。

2003.12.18/視度補正レンズについていろいろ工夫する。それなりに成果はあった。

2004.02.22/【湯島天神梅祭りで試写】露出が難しい…ISO 400だから、1/250"-F16を基準として(ちょいとオーバー目のF16法)−−陽射しが弱いので一段、1/500"にするのでもう一段、合計2段落してF8かあ…そこをF4やF5.6で撮っていたから、かなりのオーバー目になるだろうなあ…(結果的には全然オーバーではなかったけど;考えてみれば、中望遠でF16法というのは無茶だよね)。

2004.02.24/巻き戻しに失敗してフィルムをちぎる(^_^;

2004.04.18/ようやくDPE上がる。やっぱ、フィルムを千切ると大変だ、高く付いた(u_u;) 結果は、まず心配していた露出オーバーはほとんどなかった。ほとんどネガのラチチュードに収まった。逆にF16法でアンダー目に出たものがあったくらい。これはちょっと考え直さないといけないねえ…。次に気が付いたのはピンぼけが多かったこと。やっぱり、暗い全面マットで合わせるのは思った以上に難しい。特に標準/広角系で顕著。しかし、Jupiter 9で撮った嫁さんとかはきちんとピントが来ていた。Jupiter-9の描写は噂に違わず流石。


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