(2004.04.01/2004.10.04upd)

ZENITの系譜と種類

Zenit(ゼニット)にはさまざまな種類があるが、やはりメインはM39とM42フルメカ機のようだ。Kマウントや独自マウントの機種、あるいはモードラ搭載機やAE機も存在するが、いずれも単発的でシリーズ化されているものは少ない。

●M39 Zenit

初期のZenitは「マウント径はライカL39マウントと同じで、フランジバックがM42とほぼ同じ」と言う特殊なマウントを採用していた。一般に「M39マウント」または「ゼニットマウント」と呼ばれている。M39マウントのZenitには以下のような種類がある(発売年順)。なお、一般的ではないが、Zenit E/Bの一部にもM39モデルがあるそうだ。

機 種発売年特 徴
Zenit(初代) 1952底蓋式、ノブ巻き上げ、シンクロターミナルなし、小型
Zenit-C 1955Zenitにシンクロターミナルを付けたもの。
Zenit 3 1960レバー巻き上げ、裏蓋取り外し式に変更、ボディ巨大化
Kristall1961レバー巻き上げ、裏蓋開閉式に変更。3Mがメジャーモデルになったが、Kristallの方が外装が凝っている。中身は基本的に同じ物。
Zenit 3M1962

共通スペックは、手動絞り、露出計なし、非クイックリターンミラー。また、ミラーが小さく、プリズムの透明度が低いため、ファインダーは視野率が低く暗い。その割にはピント合わせは困難ではないが、実用性には乏しいと言わざるをえない。

しかし、初代/Cは小型でデザインが秀逸であるため、独特の存在感を持っている。構造的にはZorki-1とビゾフレックスを一体化させてしまったもの。ベース部分がZorki-1なので、一眼レフとは思えないほど小さい。パンケーキ・レンズであるIndustar-50を付ければ、コートのポケットにも入りそうだ。

これに対して、3/3Mはかなり大型で、一般的な一眼レフとほぼ同じサイズになっている。デザイン的には、3は没個性的、3Mは多少アクがある、Kristalは外装がハンマートーン仕上げで凝った感じだが優れているとは思わない。やはり、M39ゼニットの華はZenit-Cだろう。

●M39マウントレンズ

M39ゼニットの一番の問題点はレンズの入手。特殊なマウントなので、種類が非常に少ない。現在確認できているのは十数種類で、当然のごとくすべて単焦点レンズ。入手が楽なレンズでは37mm〜135mm、レアなレンズを含めても28mm〜200mmしかカバーしていない。Industar-50は完全マニュアル絞り、他は基本的にプリセット式。Industar-50は標準レンズのくせにやけに暗いが、超小型なのでそれはそれで便利。

一般的なレンズ
Mir-1 37mm/F2.8 一般的に入手可能な唯一の広角レンズ
Industar-50 50mm/F3.5 パンケーキ、初期Zenitシリーズの標準レンズ
Helios-44 58mm/F2 3M付属
Jupiter-9 85mm/F2 ポートレート名玉
Jupiter-11 135mm/F4 通常入手できるレンズの中では一番の長さ

以上5本は実際に入手済みなので、間違いなく存在する。以下のレンズはインターネットでチェックしただけなので、実在するのかどうか確信が持てないものもある。

比較的レア/高価なレンズ
Orion-15 28mm/F6 パンケーキ、Topogonコピー
Jupiter-3 50mm/F1.5 一番明るい標準レンズ
Indastar-22 50mm/F3.5 初代Zenit付属?
VEGA-1 50mm/F2.8 未見
Indastar-10 50mm/F3.5
Indastar-26M 50mm/F2.8
Industar-61 52mm/F2.8
Helios-40 85mm/F1.5 むやみに明るいが描写は?
Industar-24M 105mm/F3.5 未見
Tair-11 133mm/F2.8
Jupiter-6 180mm/F2.8
Telemar-22 200mm/F5.6 価格はそれほどではないがF5.6はキツイ

●レンズの互換性

既に述べたように、M39マウントレンズはマウント径がL39と同じなので、Zrokiやバルナックライカにも装着することができるが、フランジバックが大きく異なるため、まともには使えない。逆もまた真で、L39マウントのレンズをZenitに装着することもできるが、マクロ専用にしかならない。L39マウントのIndustar-22をZenit-Cに付けて見たが、ピントリングをどこに合わせても、30〜40cm先にしか合わなかった。もっとも、Industar-22は沈胴式なので、レンズを沈めると遠距離にもピントが合うようになる。もちろん、そのままシャッターを切るとミラーが後玉にぶつかるが。

なお、M39マウントとL39マウントのフランジバックの差は約16mm。したがって、16mmの中間リングを使えば、L39ボディでM39レンズを使うことも不可能ではない(実際、LマウントのIndustar-50はモロにそういう造りになっている)。距離計連動は無理だが、絞って目測で使うなら使えないことはないかも知れない。

一方、M42とM39はマウント径が異なるだけなので、簡単な変換リングを使えばM39マウントのレンズをM42ボディで使用することができる。ただし、絞りピンはないから手動絞りにしかならないし、そもそもM42マウントは安価で玉数が豊富なので、あえてM39のレンズに細工をして使わなくてならない必然性がない。逆が可能ならば物凄く有り難いのだが……

マウントマウント径 フランジバック
M39 φ39mm 45.??mm
L39 φ39mm 28.80mm
M42 φ42mm 45.46mm

M39の正確なフランジバックは不明だがM42よりも少し短い。そのため、M39レンズをM42ボディで使うと、厳密には無限遠が出ない。なお、M42マウントもメーカーや機種、個体によって微妙に値が異なる。

●M42 Zenit

まず、時系列順にM42 Zenitの変遷を追いかけて行くと…

機 種発売年特 徴
Zenit E 1965手動絞り、セレンメーター付き(Bはメーターレス)
Zenit EM 1972自動絞りに改良(BMはメーターレス:ごく少量生産)
Zenit TTL 1977セレンメーターから指針式のTTL露出計(絞込測光)に変更
Zenit ET 1981手動絞り、自動絞り、メーターレスなどバリエーション多数
Zenit 11 1981EMとほぼ同スペック、最後のセレンメーター機
Zenit 12 1983TTLとほぼ同スペック
Zenit 12XP 1983TTL露出計を2点LED式に変更
Zenit 122
〜 412LS
1989TTL露出計を3点LED式に変更、外装を樹脂カバーに変更
(注)500番台、600番台はチープなコンパクト

改良のポイントは「絞り制御」と「露出計」の二点で、次のような進化をしている。

 絞り制御:@手動絞り → A自動絞り
 露出計 :@セレンメーター → A指針式TTL露出計 → BLED式TTL露出計

ただし、M39 Zenitとは異なり、完全に時系列順に進化しているわけでもなさそうで、系統樹的に見るとちょっとややこしくなる。何故、TTLのあとに11を出したのかとか、ETの位置付けとか、ちょっとすっきりしない。

これをタイプ別に分類すると、次の4つのタイプに大別できる。個人的には、Aのタイプが最も実用的だと思っている。流石に手動絞りの@は実用的でないし、露出計がLED表示のCは恐ろしく使い難い。また、TTL露出計は絞り込み測光だからBの指針式でも使い勝手が良いとは思えない。さらに言うと、ZenitのTTL露出計は目茶苦茶な値を示すことがあり、信頼性の点でもセレンメーターの方がマシという事情がある。

絞り/露出計 セレンメーター 指針式TTL露出計 LED式TTL露出計
手動絞り @E, ET -- --
自動絞り AEM, ET, 11 BTTL, 12 C12XP, 122〜412SL

なお、M42フルメカニカルのZenitは初代のEであろうと、最新の412LSであろうと、基本的に同じ物である。自動絞りの追加やメーターのTTL化、外装の変更などはあるが、基本ユニットは1965年以来ほとんど変化していない。1/30〜1/500"のシャッター、視野率の低い小さなミラー、手動で戻さなければならいないカウンタ、判りにくい巻き戻しボタンなどは、40年間ほとんどそのまま受け継がれている。

  その一方で、AE機やモードラ機も出しているのだから、改良する能力がないわけではないだろう。むしろ、40年間不変であるということは、その時点で完成された道具だということではないだろうか? 確かに、ウデさえ確かなら、Zenit EとJupiter-9で素晴らしいポートレートを撮影することも可能だ。ソ連では、カメラが人に媚びることを拒否し、人もそれを是とした−−せざるを得なかった。そうした条件の下で良い結果を得るには、己の能力を磨くしかない。高性能のAFカメラが安価で買える日本人が、あえてロシカメを使う理由は、そこにあるような気がする。

◆Zenit ETの位置付け
Zenit ETはかなり不思議な機種で、手動絞りタイプと自動絞りタイプの両方がある。さらにメーターレス・タイプまで存在する。つまり、Zenit B/E/EMに相当するスペックの機種が、枝番なしの「ET」に一括りになっている。また、このETも本家はKMZらしいが、BelOMOでの生産の方がメインだったようだ。私が持っているETもBelOMO製で、TTLなどと比べると造りはかなり雑な感じがする。

以上の点から推測すると、ETはZenitの本流の機種と言うよりも、廉価機、ライセンス生産機のような位置付けだったのではないだろうか。たとえば、私の持っている自動絞りタイプのETは、おそらく11の廉価コピーという位置付けで、独自の存在意義はなかったように思う。

  http://www.rus-camera.com/camera.php?page=zenit&camera=zenitet(←消えたみたい(;_;))に数種類のETの判別方法が掲載されているが、ここにリストアップされていないモデルもあるようで、外観から判別するのは非常に困難。一番簡単な判別方法はレンズの型番で、HELIOS-44は手動絞り、HELIOS-44Mは自動絞り。

◆最も実用的なのはZenit 11?
前述のように、TTL露出計タイプのZenitは大変に使いにくい。LED式でも指針式でも操作性に問題がある上に、トラブルがけっこう発生する。どんなに暗くても露出オーバーに表示されることがある。少なくとも、私の412DXでは実際に体験したし、オークションで同一の症状が出ているZenit(型番は忘れた)を見掛けたし、私のTTLの前オーナーも同一の症状を経験している。おそらく固有欠陥でしょう。

となると、やはり実用性が高いのはセレンメーター・タイプのEM/ET/11だが、ETは11の廉価コピーなので、選ぶとすればEMか11。しかし、EMはまだシャッターダイヤルが回転式で不等間隔のはず。したがって、11が最も良い選択肢ということになる。

●M39/M42 Zenitの進化の足跡

前述の通り、M39/M42のZenitは初代から最新機種まで、あまり大きな進歩をしていない。しかし、各機種ごとに確実に改良はされている。そこで、M39/M42 Zenitの完成形をZenit 11として、初代Zenitからの進化の足跡を追って見よう。なお、Zenit BおよびZenit ETは特殊な位置付けの機種なので、この系譜からは外す。

  Zenit 11以降のモデルは進化ではなく単なるバリエーションと考えている。TTL露出計を進化と見るか、バリエーションと見るかは議論の別れるところだが、ZenitのTTL露出計は精度、信頼性、操作性のすべてに問題がある。実用性を考えると、決してセレンメーターよりも進化しているとは言いがたい。Zenit TTLはZenit 11よりも前に出ているが、その意味で“バリエーション”と見做す。

初代Zenitで問題になり、以後改良されたのは@ノブ巻き上げ、A底蓋式フィルム装填、B非クイックリターンミラー、C露出計なし、D手動絞り、E一軸回転式シャッター、の6点。

改良点初代ZenitZenit 11
◎マウント M39 M42
@巻き上げ ノブ巻き上げ レバー巻き上げ
Aフィルム装填 底蓋式 蝶番式
Bミラー 非クイックリターン式 クイックリターン式
C露出計 なし セレン・メーター
D絞り制御手動絞り 自動絞り
Eシャッターダイヤル一軸回転式 一軸不回転式

これらの改良の課程を機種ごとに見て行くと…

マウント機種改良点
M39時代初代Zenit・Zenit C(Cでシンクロターミナル装備)
Zenit 3 @レバー巻き上げ
Zenit 3M/Kristall A裏蓋蝶番式
M42時代Zenit E Bクイックリターン・ミラー Cセレンメーター内蔵
Zenit EMD自動絞り
Zenit 11E一軸不回転式シャッターダイヤル

なお、一部細かな改良は除いた。たとえば、Zenit 3でもフィルム装填は裏蓋式になっているが、蝶番式ではないので改良箇所としては挙げなかった。

●手動絞りと自動絞り

現在のマウントはほとんどが自動絞り。最早、自動か手動かが問題になるのはM42マウントだけと言ってもよいだろう。あまりに当たり前の機能なのでピンとこないかもしれないが、半世紀前には革命的な大発明だった。

「自動絞り」とは、レリーズの直前に絞り羽根が絞り込まれるシステム。ファインダー像を見ている間は常に開放状態になっているため、明るくてピント合わせや構図の決定が楽。構造的には、レンズのマウント面に絞りピンがあり、ボディのマウント下部のパネルが絞りピンを押すことで、所定の値まで絞り込むようになっている。「AUTO Takumar」や「AUTO CHINON」の「AUTO」はこの「自動絞り」のことを指す。「自動露出(AE)」とは全く関係がない。

なお、M42 Zenitの「自動絞り」は本物の自動絞りではない。シャッター半押しで絞り込みピンが押される仕組みなので、レリーズ直前にファインダーが暗くなる。強制的にプレビューされるようなもの。また、初期のPentaxのように、絞り込みは自動的に行われるが、開放に戻す時は手作業が必要なものもある。これらの不完全な自動絞りを「半自動絞り」と呼ぶ事もある。

一方、「手動絞り(実絞り)」は、絞り値を設定した時点で絞り羽根が絞られるシステム。このため、開放以外に設定するとファイダー像が暗くなり、構図決定やピント合わせが困難になる。そこで、通常は開放状態でピント合わせや構図の決定をしたあと、いったん構えを崩して絞りを設定し、再度構え直してレリーズする。使い勝手は悪いが、ボディ側に絞りを制御するシステムは不要。

「手動絞り」は単純で互換性が高いが、実際の使用にはあまりに不便であった。そこで、あらかじめ設定しておいた絞り値で絞りリングが止まる「プリセット絞り」という方式が開発された。これならば構えたまま所定の絞り値まで絞ることができるし、手動絞りのボディがそのまま使える。ロシカメのレンズを見る限り、プリセット方式はかなり普及しているようだ。

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