†貧乏カメラ館†

Pentax SV ★★★☆ 発売年月 1962.07/標準価格 ¥3.4900(55/1.8付)
シンプルで扱いやすいM42マウント小型機


スクリューマウントのフルメカニカル機。自動絞りには対応しているが露出計は内蔵していない。シンプルな小型軽量機だが、一応1/1000秒まで出る。横走り布幕シャッターで動作音も軽快、操作感も悪くない。廉価機だが十分満足できる造り。何よりレトロなデザインが痺れる。巻き戻しレバーの根元に付いているセルフタイマーが泣かせる。初期Sシリーズの完成形と言ってよいだろう。
(2001.05.22/2007.05.30)

ということで、この時代(40年前!)のカメラと割り切ればかなり素敵だ。確かにいろいろ欠点もあるのだが、レトロな感覚が欠点を帳消しにしてくれる。巻き上げレバーは指を離すとパッチンパッチンという感じで、ブリキの玩具みたい。それが悪い方に感じられないから不思議だ。ほんと、ブリキでできてるって感じなんだよねえ。

なお、廉価機とは言うものの、当時の大卒初任給の倍以上のシロモノであった。Canon FLEXやNIKON Fはさらにその倍近かったんだから、カメラって本当に高級品だったんだねえ…

●Sシリーズの変遷

系譜から見ると、PentaxのSシリーズは次のような変遷をしている。

S2:半自動絞りを採用(開放に戻す際は手動)、S3同等仕様モデルもあり?
S3:完全自動絞りを採用、脱着式メーター採用
SV:S3にセルフタイマーを追加
SP:デザインを変更し、絞込測光のTTL露出計を採用
ES:TTL開放測光に対応

もちろん、新しくなるほど機能は改良されているので、実用性を考えればSPやESの方が優れているだろう。しかし、この時代のカメラに実用性云々というのも野暮な話。むしろ、SP以降はエプロン部のデザインが曲線的になってしまっていてレトロな雰囲気に欠けるのが欠点。SVが機能的にも雰囲気的にも丁度良い煮詰まり方をしている。

ちなみに、このSVには少なくとも二種類のバージョンが存在し、裏蓋のロック部分の構造が異なっている。

●小型一眼レフ

このSVはOLYMPUSのOM-1が出るまでは小型SLRの代表機種だった。当時(1960年代)の同クラス機と言えば、NikonのNikomat FTとかCanonのFTあたりで、共にボディ重量は700g台半ば、標準レンズ込みで1kgくらいだった。これに対してSVはボディ重量600g弱、標準レンズ込みで800g強という軽さ。他機種のほぼ8割の重さしかなかった。その代わり露出計は内蔵していなかったけれど。流石に現在では「軽い」とは言いかねるが、それでも旅行に持っていけるサイズ。

ちなみに、写真で見るより実物の方が小さく感じる。M42マウントはマウント径が小さいから、レンズも他機種のものより小さいのだ。

●ファインダー

一番機を覗いたときの印象は「けっこう深刻な暗さ」。でも、これは主にミラーの腐蝕と傷が激しいせいで、二番機を覗いたときには「OM-1より明るいじゃない」って感じ(いや、これはいくら何でも大袈裟だろう…(^_^;)。OM-1だって決して明るかないけどね。明るさよりも「見えがいい」というか「キレがいい」という感じ。スクリーンはクロスプリズムでスプリットではないので、F3.5で視度補正なしだと小生にはちとツラい。視度補正があってもピン合わせにはけっこう苦労する。特に暗い場所ではかなりシンドイ。正直、フツーの一眼レフと比べると、2段くらい暗いと思った方がいいと思う。

ちなみに、視度補正レンズはキャノンのEOS600系のものを使うとよいようだ。PentaxのMシリーズやKシリーズの視度補正レンズだと、ゆるくてすぐになくなってしまう。

●脱着式露出計ペンタックス・メーター

このSVにはTTL露出計はおろか、セレンメーターも内蔵されていない。ただし、ペンタ部とシャッターダイヤルの上に被せるタイプの専用露出計(ペンタックス・メーター)が用意されている。この専用露出計を接続すると物凄い風格。一部の資料には、露出計が標準で付属していたような記述があったが、本当にそうなのか、別売りなのかはよくわからない。

ペンタックス・メーターには1型と2型があり、1型は丸型、2型は角型らしい(未確認:私は逆だと信じていた)。左の写真は2型(のはず)。どちらも水銀電池を使うCdSメーターで、測光の感度分布はかなり狭いので、多少は慣れが必要だろう。なお、この露出計は現在では故障したものが多く見られるが、単純なネジの締め直しなどで直る可能性が高い(「カメラ・クラッシャー」参照)。

ネガを使うのなら露出計なしでもF16法で何とかなる。実際、何度か撮影してみたが概ねラチチュードに収まった。ちなみに、アクセサリーシューは取り外し可能だがホットシューではない。ストロボはシンクロターミナル経由で。

●操作感

操作感は総じて悪くない。確かに高級感は感じないがシンプルで扱いやすい。そもそもがいじれる箇所が少ない機種なのだが。なお、カメラケース(底ケース)を使うとホールディング感がずっと良くなる。また、ストラップは純正のビニール・ストラップではなく、適切な他社製品を使うこと。純正品は巻上時に非常に邪魔になる。私の場合は、マイネッティのワンタッチ・ストラップにしたら良好になった。

●レンズが問題だ

と言うことで、ボディ自体には大きな問題はない。しかし、レンズには多少問題がある。

Auto TakumarもSuper Takumarも古いレンズなので、当然のことならが今風の描写はしてくれない。現存するTakumarレンズには、黄変が酷いものやカビが大量に発生しているものが多い。元々の描写がどうなのか知らないが、少なくとも手許にあるTakumarは全体的にもっこりした味のある描写をする。それはそれでレトロな絵になって気に入っている。ただ、蛍光灯下で撮影すると黄色被りが強烈で、まともに色が出ない。セピアカラーのモノクロ写真みたいに写る。

もちろん、M42マウントのレンズは豊富なので、Takumarの描写が気に入らなければ、いくらでも別の選択肢がある。ドイツ系は高くて手が出ないけど、ロシア系は安価で面白いものが多い。特にポートレート用の名玉Jupiter-9は狙い目。アダプトマチックやアダプトール2もあるので、Tamronレンズも気軽に使える。

尤も、そう毎度Tamronというのも些か芸がない。M42は使い手もストイックになるべきマウントだと思う。個人的にはズーム禁止。しかも、スクリューマウントはレンズ交換が非常に面倒なので、現場でのレンズ交換も原則禁止。つまり、単焦点一本勝負!

●修理とメンテナンス

意外な盲点がここ。SVはシンプルで頑丈そうに見えるのだが、これが意外にトラブルが多い。まあ、40年前の廉価機だから、良い状態で現在まで保存されている機体が少ないせいもあるのだが、正直なところ造りがヤワな感じがする。

最大の問題はシャッター幕のリボン切れ。Sシリーズは構造的にリボンが非常に痛みやすくなっていて、リボン切れは経年変化によってほとんど不可避的に起きる。と言っても、繰り返すように40年前の廉価機だから、そのこと自体を責めるのは酷。布が40年間の酷使に耐られる方がおかしい。

で、リボンが切れると、もちろんシャッターが走らなくなるので写真は撮れなくなる。と同時に、ミラー/巻上系もおかしくなり、自動絞りのピンを押すベロが前に出た状態で動かなくなってしまう。もし、レンズを付けた状態でこの症状が出ると、レンズの自動絞りピンがベロに引っ掛かってレンズが外れなくなってしまう。この状態になったら、次のいずれかの方法で対処する。

なお、症状が軽ければ、根気良く左右に回しているだけで外れることもある。

次に多いのがミラーの腐蝕とスリ傷。これは故障と言うより保存の問題なのだが、やはり古い機種だけあって、ミラーの傷みが激しい機体が多い。しかも、コンパウンド系で磨いてもほとんど改善は見込めない。実際には、よほど酷い腐蝕でない限り、ファインダー像に極端な影響が出ることはないようだが、やっぱり気にはなる。

実は、SVのミラーは金属板にはめ込まれているだけなので、取り外すのはさして難しくない。が、問題は代替のミラーの入手が難しいこと。互換性のあるミラーをどこかで探してくるしかないでしょうな。あとは、万華鏡を扱っているようなお店で表面鏡を入手すること。厚さを合わすのがけっこう難しいような気もするが…

また、古い機種だけにファインダー系の汚れ(埃や虫の死骸など)もよく見掛ける。トップカバー外しとプリズム降ろしは面倒だけど難しくはないので(逆ネジ1箇所注意!)、その気があれば素人でもファインダー清掃は可能。プリズム腐蝕はあまり起きない機種なので、その点はありがたい。

なお、スローが出ないこともしばしばあるようだが、これは対処法方が確立しているので、修理は比較的簡単(私が発見した方法ではないので、ここでは具体的には書かないけど)。

主要諸元
シャッター 機械制御 横走布幕 B・T・1〜1/1000 X接点1/45?
測光方式 脱着式専用露出計(ペンタックス・メーター)
露出モード  ――
露出補正  ――
ファインダー 倍率0.89倍、視野率93%、スクリーン固定式
外観 143×91×47mm/550g(実測)
その他 専用露出計あり
独断評価
操作感 B 良好とは言いがたいが特段の欠点はない
堅牢性 B 古いせいもあるが意外に故障に遭遇
機能 C 流石に不便
携帯性 B+ 比較的小型で携帯に苦にならない
用途 ×仕事 ◎趣味 ○スナップ ○軽旅行 ×海外旅行


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