†貧乏カメラ館†
(2003.04.08/2005.03.09upd)
もちろん、固定焦点カメラは廉価な簡易カメラだが、80年代には中級クラスの固定焦点機も存在した。最近ではAFカメラの低価格化が著しく、固定焦点は千円〜数千円クラスの超廉価カメラでしか採用していない。なお、レンズ付きフィルムも固定焦点機の一種。
AF一眼レフでも「ピントが合っている」というのは「被写界深度内に入っている」という意味で、正確にピント位置に合っているわけでない。ただし、一眼レフの被写界深度の基準は固定焦点カメラの基準よりも遥かにシビアになっている。
固定焦点機の典型値 | |
焦点距離 | 35mm |
絞り値 | F8 |
速度 | 1/125" |
ピント位置 | 3m |
被写界 | 1.5m〜∞ |
まず、この典型値の意味を考えてみよう。ポイントはF8という絞り値。35mm/F8で無限遠が被写界深度に収まるようにピント位置を決定すると3mになる。そして、35mm/F8でピント位置が3mであれば、手前側の限界は1.5mになる。恐らく、こういう脈絡で決まったスペックであろうと想像される。
もう少し詳しく見てみると、固定焦点には広角ほど有利だが、あまり広角だとパースがきつくて素人には使いにくい。35mmが選ばれたのは、広角だが画角がナチュラルで扱いやすいからだろう。また、1/125"は素人でも手ぶれしない速度。さらに1/125"でF8ならば、ISO 100のネガカラーフィルムのラチチュードで快晴から本曇りまでをカバーできる。すなわち、この設定は、日中の屋外ならば一切の変更なしで確実に撮影できる絶妙なスペックなのだ。
一方、カメラの用途という側面から考えると、圧倒的に多いのは風景と人物の撮影。風景は無限遠、人物は1〜1.5mくらいの距離で撮影することが多い。35mmであれば、1mでバストアップ、1.5mで上半身くらいが写る。一方、ピント位置の3mというのは、ほぼ全身像で、集合写真くらいにしか使わない撮影距離だ。ここに問題がある。
つまり、使用頻度の高い1.5mや無限遠は被写界ギリギリであるため描写が劣り、最も描写が優れている3mというピント位置にはあまり用途がない。そこで、最近の固定焦点機は風景を犠牲にして、人物がより奇麗に写るように、ピント位置をかなり手前に設定するようになった。それ自体は一つの選択肢だと思うが、これに「コストダウン」が重なるとかなり悲惨なことになる。
K-miniのスペック | |
焦点距離 | 28mm |
絞り値 | F6.7固定 |
速度 | 可変(EE) |
最短撮影距離 | 0.9m |
ピント位置 | 1.5m(推定) |
では、スペックを具体的に見ていこう。メーカーが公表しているスペックは右表の通り。ピント位置は公表されていないようなので、レンズスペックと最短撮影距離から逆算したところ「1.5m」となった。典型値の3m(実際には2.8mくらい)と比べると、随分手前に設定されていることがわかる。
もちろん、最短撮影距離からピント位置を逆算するのには限界がある。メーカーが何を基準にして最短撮影距離を示したのかもわからないし、0.9mと言えば有効数字が1桁しかない。ここでは一応、最小散乱円を0.05mmとして計算した(具体的な算出方法は別項参照)。そして、1.5mというピント位置は、実写の印象とかなり良く一致する。
では、ピント位置1.5m、28mm/F6.7で被写界深度はどうなるだろう? 許容範囲をコンパクトカメラの典型的な値(最小散乱円=0.05mm)として計算したところ、被写界は「0.9〜3.9m」となった。つまり、4m以上離れた被写体にはピントが合わないのである。メーカーは図々しくも撮影範囲を「0.9m〜∞」などと書いているが、実際は風景が奇麗に写るわけがない設定をしているのだ。
ただし、ピント位置を手前に持ってくれば風景の描写が落ちるのは初めから判りきったこと。むしろ問題は、絞りが固定されている点にある。絞りを絞れば被写界深度は深くなる。だから、IOS 400のときにF13(F6.7+2EV)に絞るように設計していれば、ピント位置が1.5mでも風景の描写は確実に向上したはずだ。少なくとも、計算上の被写界は0.7m〜∞になる。
ところが、K-miniはそれをしなかった。なんと、フィルム感度分はシャッター速度で調節してしまった。絞り調光システムを作るよりも、速度で露出を加減する方がコストが安く収まるからだろう。私はメーカーのこのやり方にかなり強烈にブチ切れている。
焦点距離 | フィルム感度 | 絞り | ピント位置 | 被写界(φ0.05mm) | 被写界(φ0.03mm) |
35mm | ISO 100 | F8 | 1.7m(推定) | 1.1m〜3.9m | 1.3m〜2.6m |
ISO 400 | F16 | 0.8m〜∞ | 1.0m〜5.2m |
もはや、コンパクトの常用フィルムはISO 400からIOS 800に移ろうという時代なので、IOS 100で無限遠が深度内に収まらないことは問題ではない。ただし、F16まで絞っても無限遠は被写界ギリギリであり、描写が優れているとは言いがたい。K-miniよりは遥かにマシだが、物足りない感じは残る。一方、人物の描写はなかなか優れている。一眼レフ基準(最小散乱円0.03mm)で見ても、F16ならば1〜5mが深度内になる。逆に、無限遠は一眼レフ基準の深度内には収まらない。
焦点距離 | フィルム感度 | 絞り | ピント位置 | 被写界(φ0.05mm) | 被写界(φ0.03mm) |
35mm | ISO 100 | F8 | 2.8m | 1.5m〜31m | 1.8m〜6.2m |
ISO 400 | F16 | 1.0m〜∞ | 1.3m〜∞ |
また、特筆すべきは、F16まで絞れば無限遠が一眼レフ基準(φ0.03mm)の深度内にも収まることだ。これは風景写真にはかなり大きなアドバンテージとなるだろう。反面、人物描写にはその分のしわ寄せが来る。一眼レフ基準の最短撮影距離が1mか1.3mかはけっこう大きな違いだ。もうちょっと平たく言うと、ManbowおよびTomatoで「きれいに」写る範囲は次のようになる。
機種 | ピント位置 | 一眼レフ基準の被写界(F16) | 用途 |
Manbow | 1.7m (推定) | 1.0m〜5.2m (推定) | 人物アップ〜集合写真 |
Tomato | 2.8m | 1.3m〜∞ | 人物上半身〜風景 |
なお、これはスペック上の比較にすぎない。Tomatoはまだ実写テストを行っていないので、風景の描写がどの程度なのかは判らない。
非常に皮肉なことに、このレベルの固定焦点カメラよりも、実はレンズ付きフィルムの方が画質が優れていることがある。つまり、カメラはISO 100のフィルムを無視できないので、どうしても絞りをF8前後に設定せざるをえない。一方、ISO 400のフィルムは当然ISO 400でしか使わないから、絞りもF16固定で構わない。このため、ISO 400のレンズ付きフィルムは、廉価の固定焦点カメラよりも遥かに広い被写界深度を持つようになる。
もちろん、深度だけで描写が決まるわけではない。もう一つ、レンズの格段の進歩を忘れてはいけない。写るんですエース以降、レンズ付きフィルのレンズ性能は急速に進歩した。冗談抜きで異様にシャープに写る。特に、ピント位置での描写は一瞬RF機で撮ったのかと思うほどだ。
@ピント位置を遠くする。
A広角レンズを使う。
B絞りを絞る。
まず、@は論外。もともと人物が奇麗に写る方法を模索した結果、現在のような状況になったのだ。ピント位置を遠くして、被写体のない場所がシャープに写るようにしても仕方ない。
Aは功罪合い半ば。確かに、広角レンズを使えば被写界深度は深くなる。たとえば、ピント位置1.7mの場合、35mm/F8と28mm/F8の被写界を比較すると次のようになる。
焦点距離 | 絞り値 | ピント位置 | 被写界 |
35mm | F8 | 1.7m | 1.1m〜3.8m |
28mm | 0.9m〜13m |
むしろ注目したいのは後ろ側の被写界。3.8mから一気に13mまで広がっている。4m以下では風景写真はボケボケだが、10mを超えればかなり見れる描写になる。しかも、風景は広角を好む人の方が多いし、素人にもそれほど難しくない。
実際、FujiのSmartShot Plusは26mm/F8に設定にすることで、ピント位置を2m(推定)と近めに置きながら、無限遠を深度内に収めることに成功している。最短撮影距離も0.9mとかなり寄れる。超広角の扱いにくさを除けば、これはかなり良い選択肢と言えるだろう。
Bは実は不思議に思っている。なぜメーカーは頑固なまでにF8前後に固執するのだろう? 露出は速度と絞りで決まる。1/125"-F8と1/60"-F11は同じ13EVである。焦点距離が35mm以下なら、1/60"でもそれほど顕著な手ぶれは出ないだろう。とすれば、1/60"-F11にする方が被写界深度が稼げて良いのではないないだろうか? 私の知る限り、F9.5まで絞った機種は複数存在するが、シャッター速度を下げた機種はCanon Sketchbook (1/70"固定)のみである。
ところが今のネガフィルムは露出オーバーに異様に強い。1/125"-F8固定でISO 400が使えるということは、4段オーバーがラチチュードに収まってしまうということだ。こうしたフィルムの進歩なしには、現在の絞り固定カメラの出現はありえなかっただろう。そう考えると、フィルムの進歩が風景の描写を悪くしたと言う、非常に皮肉なことになる。
ユニバーサル・フォーカスはGOKOが開発したもので、特許も持っているそうだ。GOKOのUFシリーズの「UF」も「Universal Focus」の頭文字だろう。UFシリーズの第一弾であるUF-1(手動巻上)とUF-2(電動巻上)は、ともに1985年に発売された(GOKOのHPには1982年に開発とある)。
ピント位置を変更する方法には、前玉を動かす方法とリアコンを入れる(抜く)方法の二種類がある。前玉移動式は(おそらく)Pentax Pino J、Canon CB35Mなどで採用されているが、それぞれGOKOのUF-10とUF-20のOEM製品でないかと思われる。また、Pnetax Pino 35Mはリアコン方式だが、これもGOKO UF-2のOEM製品の可能性がある。このほか、GOKOはかなりの数のコンパクトカメラをOEM供給していた、隠れた大メーカーだったらしい。
ただ、このユニバーサル・フォーカスのカメラは現在では全く見ない。UFを使うぐらいならAFにする方がスペック栄えするからだろう。無くしてしまうには惜しい技術だと思うのだが。
【補遺】ユニバーサル・フォーカス
「ユニバーサル・フォーカス」というのはパンフォーカスの改良技術で、撮影状況によってピント位置が変わる固定焦点のこと(形容矛盾だが(^_^;)。たとえば、通常撮影時のピント位置は2.8m、ストロボ撮影時は1.8mというように変化する。ストロボ撮影時は近くしか写せないのだから、ハナから無限遠を被写界に入れる必要がないのである。したがって、ピント位置をずらして撮影可能範囲がより奇麗に写るようにする方が賢い。非常に合理的なシステムだ。
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