†貧乏カメラ館†

被写界深度

(2003.08.14/2004.10.03upd)

被写界深度とは、ピントがあっていると見なされる許容範囲のこと。厳密に言えば、ピントは一点にしか合わないわけだが、ピントからのズレが僅かならば、プリントを鑑賞するときにはピンボケだとはわからない。このように、ピンボケを誤魔化せる範囲のことを被写界深度と呼ぶ。

被写界深度の計算方法は以下の通り。注意すべき点は、被写界深度はピント位置からの相対距離で表わされる点。カメラから被写体までの距離ではない。

被写界深度= d・F・a2

f2±d・F・a

ピントの合う範囲=(a−前方深度)〜(a+後方深度)

ここで、
fレンズの焦点距離(mm)
Fレンズの絞り値(F値)
aピント位置(mm)
d最小散乱円(許容散乱円)の直径
前方深度(mm)
後方深度(mm)

●最小散乱円について

最小散乱円は(たぶん)フィルム上で許容されるズレの大きさのことで、一眼レフならば0.03mmが、コンパクトならば0.05mmが使用されることが多い。この数値の違いは、最終的なプリントの大きさの違いによる。別に決まりはないのだが、一眼レフならば六つ切り程度に引き伸ばすの普通であるし、コンパクトならばL判止まりが相場である。大きく引き伸ばす写真ほど、ズレに対してシビアになる。ちなみに、最小散乱円の面積とプリントサイズの面積はほぼ比例する。

●最短撮影距離からピント位置を逆算する

固定焦点カメラのスペック表を見ると、最短撮影距離は明記されているが、ピント位置が明記されていることは希である。しかし、被写界深度の式を変形すれば、最短撮影距離からピント位置を算出することも可能だ。Lを最短撮影距離とすると、次のような式になる。

 a = f2L/(f2-dFL)

一般には最小散乱円dは0.05mmを使用すればよい。ただし、必ずしもメーカーが厳密に最短撮影距離を算出しているとは限らない。けっこういい加減に目安を書いているだけのメーカーもある。その場合はピント位置がとんでない値になることがあるので注意。また、最短撮影距離は有効数字がせいぜい二桁で、機種によっては一桁の場合もある。そうなると、算出されたピント位置もかなりの誤差を含む可能性がある。

●無限遠からの逆算

無限遠が被写界に収まるということは、被写界深度の式の分母が0になって、後方深度が発散することを意味する。したがって、以下のようになればよい。

 f2=dFa

ここで、dはコンパクトの標準値と思われる0.05mm、またfもコンパクトの典型値である35mmを入れると、次のような式が成り立つ。

 ∴a = 24500/F

これが、無限遠を被写界に入れるために必要なF値とピント位置の関係である。なお、念のため言っておくと、固定焦点カメラのスペック表では、撮影範囲を「○○m〜∞」というように表記し、あたかも無限遠が被写界に収まっているように書いているが、これは全然アテにならない。むしろ、最近の固定焦点カメラは、ほとんどの機種が無限遠は被写界から外れている。

●例題

【Example 1】焦点距離28mm、F6.7、ピント3m、最小散乱円の直径0.03mmの場合の被写界深度を求めよ。

分子:dFa2 = 0.03×6.7×30002 = 1.809×106
分母:f2±dFa = 282±0.03×6.7×3000 = 784±603
(*)分母第1項と第2項のオーダーが等しい点に注意

前側:1.8×106/(784+603) = 1.8×106/1.4×103 = 1.3×103 = 1.3(m)
後側:1.8×106/(784−603) = 1.8×106/1.8×102 = 1.0×104 = 10(m)

∴被写界深度 1.7m〜13m

【Example 2】前記例題のピントを1.2mに変更して被写界深度を求めよ。

分子:dFa2 = 0.03×6.7×12002 = 2.9×105
分母:f2±dFa = 282±0.03×6.7×1200 = 784±241

前側:2.9×105/(784+241) = 2.9×105/1.0×103 = 2.9×102 = 0.29(m)
後側:2.9×105/(784−241) = 2.9×105/5.4×102 = 5.3×102 = 0.53(m)

∴被写界深度 0.9m〜1.7m

サンプル・プログラム

カタログに明記されている最短撮影距離とレンズスペックからピント位置と被写界深度を確認するプログラムを作ってみた。OS/2のREXX用だけど、他言語への移植も簡単だろう。
/*-----------------------------------*/
/* 被写界深度の算出 2003.08.13 N.Ten */
/*-----------------------------------*/

f=35	/* レンズの焦点距離(mm)			*/
F1=8	/* 基準となる絞り値(ISO 100時)	*/
F2=13	/* 絞り値(高感度時/開放時)		*/
min=1.2	/* 最短撮影距離(m)			*/
r=0.05	/* 最小散乱円(mm;一眼レフなら0.03mm)	*/

min=min*1000

pint = f*f*min/(f*f-r*F1*min)
max  = pint+(r*F1*pint*pint)/(f*f-r*F1*pint)
max2 = pint+(r*F2*pint*pint)/(f*f-r*F2*pint)
min2 = pint-(r*F2*pint*pint)/(f*f+r*F2*pint)

pint = pint / 1000
min  = min  / 1000
max  = max  / 1000
min2 = min2 / 1000
max2 = max2 / 1000

IF max1<0 then max1='∞'
IF max2<0 then max2='∞'

say
say 'φ=0.05mm'
say 'PINT  :' pint 'm'
say 'F= ' F1 ': 'min '〜' max 'm'
say 'F='  F2 ': 'min2 '〜' max2 'm'

/* 一眼レフ時(最小散乱円0.03mm/後方被写界深度の目安に) */

r=0.03
pint=pint*1000

max  = pint+(r*F1*pint*pint)/(f*f-r*F1*pint)
min  = pint-(r*F1*pint*pint)/(f*f+r*F1*pint)
max2 = pint+(r*F2*pint*pint)/(f*f-r*F2*pint)
min2 = pint-(r*F2*pint*pint)/(f*f+r*F2*pint)

pint = pint / 1000
min  = min  / 1000
max  = max  / 1000
min2 = min2 / 1000
max2 = max2 / 1000

IF max1<0 then max1='∞'
IF max2<0 then max2='∞'

say
say 'φ=0.03mm'
say 'PINT  :' pint 'm'
say 'F= ' F1 ': 'min '〜' max 'm'
say 'F='  F2 ': 'min2 '〜' max2 'm'


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