†貧乏カメラ館†

OLYMPUS OM-1 ★★★★☆発売年月 1972.07/標準価格 ¥3.9800
廉価一眼レフ最強の小型メカニカル機!


小型フルメカニカル機。OMシリーズの初号機ながら完成度は高く基本性能に不満はない。当時としては驚異的な小型軽量化を実現しながら、ホールディング、ファインダー、各部の操作性などは非常に良好。シャッターも「カシャン」と小気味良く切れる。ミラーショックも小さめ。測光系に弱点があるが、ネガならばほとんど問題ないだろう。現在、低価格で入手可能なMF一眼レフとしてはベスト機種と断言する。
(2006.12.23 upd)

OM-1はOMシリーズの原点であるが、同時に極めて特異な存在でもある。OMシリーズは、2以降測光機能の高度化に突き進む。「小型で丈夫で扱いやすい」「露出はおおらか」というコンセプトで作られたOMは1が最初で最後なのだ。同じフルメカニカル機の3(Ti)でさえも、目玉機能は測光系に集中している。1と2〜4では別系統の製品だと思った方がよいだろう。3や4のような光の支配者の元祖が1だと思うと、ガッカリしてしまうかも知れない。だが、電子系に弱点を持つ他のOMと比べて、牧歌的な1の与えてくれる安心感は絶大だ。電池が切れようが、雨に濡れようが、OM-1なら何とかなる。我々アマチュアには、このことの意味は大きい。

●基本スペックと「三悪」

OMシリーズはオリンパスの天才技術者・米谷美久氏によって開発された革命的なカメラだった。その開発経緯については、さまざまなところで語り尽くされている感があるので、ここでは割愛させていただく。

OM-1は一眼レフの「三悪追放運動」を掲げて開発されたが、これがOM-1の性格を決定付けるものになった。「三悪」が何を指すのか正確なところは知らないが、概ね「大きい」「重い」「騒い(ショックが大きい)」ということのようだ。

OM-1はベース部分がバルナック・ライカ(Vf)やM型ライカとほぼ同じ大きさで、重さは510g。現在では、さらに二回り以上小さく、重さも300g台の一眼レフが存在するので、OM-1を「小型軽量」と言われてもピンとこないかも知れない。しかし、1970年台前半と言えば、Nikon F2やCanon F-1の時代であり、それらの機種と比べるとOM-1は圧倒的に小さくて軽い。NikomatやFTbと比べてもしかり。事実、OM-1(M-1)の最大のセールスポイントは可搬性に優れて、同じ重量で多くのレンズや予備ボディが運べることだった。しかも、いたずらに小型しただけでなく、操作性を犠牲にしないように各部のパーツを大きくしている点が評価される。

もう一つ重要なのが静音性。これも、現在ではさらに静かな金属羽根シャッターが存在するが、当時の一眼レフは金属、布を問わず「バシャン!」という凄い音がした。しかし、OM-1の採用した横走り布幕シャッターは「カシャン」という静かな音で、しかも最速1/1000"をキープした。また、ミラーショックも小さくミラーの動作音も静か。ただし、OMシリーズは静音性重視のあまり横走り布幕シャッターにこだわったため、シャッター速度競争では他社の後塵を拝することになった。

なお、露出計は当時標準となっていたTTL開放測光を採用した。中央重点測光で指針式という扱いやすいスペックだったが、CdSの位置が悪かったためか、逆入射光の影響が大きく、露出精度では大きな課題を残した。

●問題はファインダー内表示

OM-1の最大の弱点はファインダー内表示の貧弱さ。ファインダー内に表示されるのは露出計のメーター(針式)だけで、速度も絞りもまったく判らない。OLYMPUSのカメラはマウント部に速度ダイヤルがあるので、ファインダーを覗いたまま絞りと速度を自由に変えられるのが特長なのだが、これではその有難みが半減する。

ファインダー自体にも多少問題がある。基本的に大きくて明るくて合焦しやすいファインダーだが、大きすぎて目玉をぐるぐる回さないと視野が全部確認できない、と言う文句はよく聞く。個人的にはそれほどでもないと思うが、眼鏡を掛けると周辺部が見難いのは事実。基本的に、倍率が高いのは良いことなのだが…。

視度補正レンズを使うと問題はさらに深刻になる。OM用の視度補正レンズはアイカップ付きなので、視度補正レンズ+眼鏡という使い方をすると四隅が完全にケラレちゃう。普通は視度補正レンズを使えば眼鏡は外すはずだから実害はないのだろうが、私のように-5の視度補正でも足りない人間には少なからず不便だ。ただし、PentaxのMシリーズ用の視度補正レンズを使えばよい(互換性あり)。

ファインダースクリーンは1-xしか使えない。2シリーズに比べて暗めな上、標準の1-1はマイクロプリズムのため、強度近視の私にはとてもピンが合わせにくい。2-13(スプリットマイクロ)にすると抜群に見易くなる。ただし、露出計の補正は必要になるし、物理的にもそのままでは装着できない。1シリーズと2シリーズではタブの位置がずれているので、カッターなどで削ってやる必要がある。それから、OM用のファインダースクリーンは特に柔かな材質を使っているようなので、取り扱いには注意が必要。汚れやすいし、爪で引っ掻いてもキズになる。

●操作性

操作性は総じて良好。ボディは小型だがダイヤルやレバーを大きめに作っているおかげで、小さいわりに無理なく使える。巻き上げ感も悪くない。よく、OMの巻き上げは耐寒性を高めるために乾燥潤滑を採用しているので、ゴリゴリ感が強いと言われるが、OM-1に関してはそれほど感じない。カリカリと気持ち良く巻き上がる。ただし、古い機種だけあって個体差が激しい。ゴリゴリ機体もオーバーホールすればかなり良くなるはず。なお、OM-1は巻き上げ系のメカニズムがヤワな感じなので、調子が悪くなりやすい。

ホールディングも悪くないのだが、長時間使用には多少問題がある感じ。この間、Tamron 80-210(約600g)を付けて4時間使っていたら、右手がかなり痛くなった(おそらく手がむくんで過敏になるため)。掌に当たる金属パーツが痛いんだよね。で、そのあとWinder 2を付けてみたら、これが手にソフトであった。ま、このカメラでワインダーを使う気にはならないが、ステディグリップ代わりならいいかなあ…。あ、ちなみに私の常用機にワインダーを付けると、ボディの巻き上げ系がトラブルを起こす(^_^; ま、修理のために内部を随分いじっちゃったから、仕方ないか。長時間連続使用のときには、OM40やOM-2S/Pの使用も考慮した方がよいだろう。

●電池の問題

露出計用の電池はH-Dという水銀電池で、すでに製造中止。水銀による環境汚染を防ぐためだから仕方ないが、これがOM-1を使い続ける際のネックになる。電池の電圧は電極の素材によって決まってしまうため、水銀が使用できない以上、同一電圧(1.3v)の代替電池は作れない。しかし、適当な抵抗を噛ませた電池アダプタ(2000円くらい)を使えば対応できる。

また、ドイツのVARTA社製のH-D同形ボタン電池は1.5vだが、実用的には問題がないようだ。ただし、厳密には露出計が多少オーバー目に出るはず(したがってアンダー目な絵になる)。LR-44などでも代用できないわけではない。水銀電池を使うカメラはOM-1以外にもたくさんあり、機種によってはメーカーや業者が1.5v電池対応に改造してくれることもあったらしいが、最近ではあまり聞かない。

●露出計の問題

OMの露出計が逆入射光に弱いというのは有名な話。したがって、ポジを使う場合は単体露出計が必要になる。もちろん、ネガならば充分許容範囲内に収まるが。OM-2がダイレクト測光を採用したのも、じつはこの辺りに原因があるのではないかと勘繰ったりしている。もう一つ、OLYMPUSはNikonに比べてややオーバー目の露出を適正と見なしているようだ。逆に言えば、Nikonがアンダー目の絵作りを好んでいるということで、レギュレーションの違いなのだから仕方ない。ただ、OMの露出計の更正のときには、Nikonのカメラを基準にするのは避けた方がよい。

●故障と修理

基本的にフルメカニカル機なので故障しにくく、修理も半永久的に可能。代表的な不具合はプリズム腐蝕、巻き上げロック、巻き上げの空回り。詳しくは「カメラ・クラッシャー」のコーナーで紹介する予定だが、この三つの不具合は原則的に修理可能。

プリズム腐蝕は個人で修理するのは困難。トップカバーを開けて腐蝕部分を拭き取っても跡は残る。アルミテープで補修するなどの方法もあるが、新品同様にはならない。しかし、修理業者に頼んでプリズムを再蒸着してもらえば直る。OM10のプリズムと乗せかえるという方法もあるが、果たして、OM10を1台潰して修理するのが賢明かどうか…。

巻き上げロックは底蓋を開けて自分で調整することで修理できる。これについては別項で詳しく述べるが、基本的には素人修理も可能。

巻き上げの空回りはトップカバーを開けて、巻き上げ部のギアの噛み合わせを調整することで直る。実は、具体的なメカニズムは理解していないのだが、ドライバでコチョコチョっとギアを押さえて巻き上げてみたら簡単に直ってしまった経験がある。

主要諸元
シャッター 機械制御 横走布幕 B,1〜1/1000" X接点1/60"
露出 マニュアル(露出計内蔵)
ファインダー 倍率0.92倍、視野率97%
外観 136×83×50mm/510g
電池 H-D(水銀電池)×1
独断評価
操作感 A+ 軽快かつ落ち着きがある/高級感もある
堅牢性 A 電池不要(露出計以外)
機能 A- 弱点はファインダー内表示だけ
携帯性 A 510g/システム全体が小型
用途 ○仕事 ◎趣味 △スナップ ○軽旅行 ◎海外旅行


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