Canon FTb ★★★☆ 発売年月 1971.03/標準価格 \3.5000
ゴツくて頑丈なF-1のサブボディ

F-1のサブ機とも言うべきTTL開放測光のフルメカニカル機。このFTbとF-1からFDレンズ時代が幕を開けた。基本デザインは旧来のFシリーズを踏襲し、造りは頑丈でシンプル。各部の操作性は悪くないが、750gのボディ重量は現在では苦痛。1/1000秒横走り布幕シャッターは当時としては標準的。正面左側の多機能レバーが特徴だが、取扱説明書なしでの操作は難しいかも。高級感には乏しいが頼りになる一台。

Fシリーズの測光方式の変遷
1964 FX 内蔵露出計(非TTL)
1966 FT TTL絞込測光
1971 FTb
F-1
TTL開放測光
F-1とほぼ同時期に発売された、F-1の普及モデル。系統的に言えばFTの後継機種で、FLレンズからFDレンズに移行した点が特長。これはそのまま絞り込み測光から開放測光への移行を意味する。この違いはとても大きい。したがって、FTのマイナーチェンジ機というイメージは正しくない。キャノンも別の名前にすりゃいいのに。なお、FLレンズとの互換性も考慮されていて、絞り込み測光も可能。普及機とは言え、現在の物価水準ならば14〜5万に相当し、ミドルクラスのユーザーに支持されたようだ。

基本的に良くできたカメラだが、こいつがウリとしたTTL開放測光は現在では余りに当たり前の機能で、特に有難みは感じない。現在から見て魅力的なのは、むしろそのゴツイ風格と頑丈さ。人を殴るのに便利:-P FDレンズユーザーなら保険に一台持っておくべきだろう。F-1を除けば、FDレンズが使用できる唯一のフルメカニカル機という存在意義は大きい。Aシリーズは電子系が不安だし。

■FTb-N

FTbには前期型と後期型(FTb-N)があり、ファインダー内の速度表示有無、巻きあげレバーのプラカバーの有無、セルフタイマーレバーのデザインが異なる。実用面では大きな差はないと思う。タイマーレバーのデザインは前期型の方が好き。FTb-Nは1973年発売で3万9000円(4000円アップ)。

■ファインダーが問題だ

まず、最初に断っておくと、正常な視力を持ったユーザーが良好なコンディションの機体を使う限りにおいて、このFTbのファインダーは決して悪くない。それどころか、当時の水準から言えばかなり明るくて良い部類に入るだろう。しかし、発売から40年経った現在、良好なコンディションの機体を入手するのは決して楽ではなくなっている。結果的に、非常に暗くて汚いファインダーという印象を持ってしまうことも多いだろう。

ファインダー系の問題点は、@接眼レンズの裏側の汚れ、Aプリズム自体の汚れ、Bスクリーンの汚れ、の3点。

このうち、@の接眼レンズの汚れは後年のAシリーズでもしばしば見られるもの。他社製品でも同様な汚れは見られるが、Canon製品は特に顕著のように感じられる。ただし、トップカバーを開けてプリズムを外せば、この部分は奇麗に掃除できる。

また、Aのプリズムの汚れもかなり多い。当時の製造工程に問題でもあったのか、黒い点状のサビ?が発生している例が非常に多い。これはプリズムの分解掃除でかなり改善されるが、腐蝕してしまった場合は再蒸着するしかない。OMシリーズほど酷くはないが、視野にまんべんなく黒点が発生するので、むしろタチはFTbの方が悪いかもしれない。

そして一番深刻なのがBのスクリーンの汚れ。まず、ミラークッションのモルトがボロボロになってスクリーンを汚す可能性が非常に高い。スクリーンのミゾが外側に刻んであるため、うっかりこのモルトカスをこすったりすると、掃除は困難を極める。しかも、このピント板は公式的にも実質的にも交換不可能。少なくとも極めて困難。というのは、露出計のCdS受光部と一体化したユニットになっているので、たとえ分解してもピント板単体を取り出すことはほとんど不可能。もちろん、ユニットを分解するという選択肢もないことはないが、ちょっと見た感じではかなり難しそうだ。

もっとも、以上のような問題は修理業者にOHに出せばかなりの程度改善される。私も素人仕事ながら、ちょっと分解掃除をしてみたが、ものすごく奇麗になった。それでようやく、当時の評価記事にある「ファインダーが明るい」という記述に納得できた。しかし、FTbのファインダーには合焦のしにくさ(ピントの山の掴みにくさ)というもう一つの問題点がある。

実はこれも前述の通り、正常な視力を持った人間にはほどんど問題にならない。ただ、矯正視力でも0.5ないくらいの私にはかなり深刻な問題だった。目が悪けりゃアタリマエじゃないか、と思われるかもしれないが、そんなことはない。実際、同時期のCanonのカメラでも、FXならば私の視力で十分楽に合焦できる。FXの方がファインダーは暗いのにもかかわらず、だ。理由は、FXが大きなスプリット・プリズムを採用しているのに対して、FTbはマイクロプリズムしかないため。正確に言えば、中央の円形部がマイクロプリズム、その周囲のドーナツ部が単純マット、その他がフレネルマットだが、スプリットプリズムはない。

ミドルクラス・ユーザーをターゲットにしたFTbがスプリットプリズムを採用しなかったのは理解できる。しかし、ビギナーや強度近視のユーザーにはとてもピンが合わせにくくなってしまった。こうなると、ピント板固定式というのは非常に痛い。F-1との差別化を意識したのかも知れないが、結果的にはこの機種の価値を大きく下げている。倍率0.85、視野率94%はかなり立派で、プレビューの操作性もとても良いのだが。

さて、そうなると、視度補正を入れればいいじゃないか、ということになる。しかし、今日びFTbの視度補正レンズが入手できるのか……と思ったら、なんと初期EOSの視度補正レンズがそのまま使えることが判明。へ〜。過去の資産を一顧だにしない酷薄無情なCanaoにしては随分立派なことであるよ。ということで、現在手許にあるFTbのファインダーは、入手当時よりも格段に見やすくなっている。

■部分測光の露出計

追針式の露出計は扱いやすいが、針を○の中に入れるのは、ちょっと異和感がある。敏感すぎると言うか、絞りのステップに対して針の動きが大きすぎるのか、うまく針と○が重なってくれないことも。測光範囲は中央部12%に限定されるスポット測光もどき。これをどう評価するかは少々難しい。少なくとも、被写体を一度ファインダーの真ん中に入れないと測光できないというのは長所ではない。また、同一被写体でも、ほんの少し測光位置をずらすだけで適正露出が変化してしまう。慣れと工夫が必要。

■QLはペケ

フィルムのローディングはQL(Quick Loading)方式を採用。でも、これ全然便利じゃないよね。巻き上げ軸のスリットに差し込む方式の方が確実で速い。フィルムが丸まって、上手く所定の位置に乗ってくれないしね。これも技術の空回りだと思うぞ。ま、一枚巻いてから蓋を閉めればよいのだが。欝陶しい感じの技術で、Aシリーズでは採用されなくなった。

■お、重い…

重さは貧弱な坊やには苦痛なレベル。これを片手で支えて、片手でピンを合わせるのは、けっこうたいへん。ホールディングや巻き上げのしやすさは、この重さも手伝って今ひとつ。こいつを暫くいじったあとでOM-1を触ると、当時の人達の感動を追体験できる(^_^; 確かに、画期的な小型軽量化だ。このクソ重さとファインダーがFTbの二大欠点だろう。

ただ、物理重量だけが問題とは言えないかも。合焦しやすくホールディングしやすければ、この程度の重さは大したことないような気もする。ほぼ同じ重さのFXは物凄く軽快に感じるもんなあ。逆に、OM-1でも暗くてマイクロプリズムだけのピント板だと、すごく重く感じる。合焦しやすければ構えている時間は短くて済む。手に掛かる負担も少ないのだ。

ふむふむ。そうすると、FTbを分解して適当なスプリットプリズムのピント板に載せかえれば、軽く感じるということかな? あるいは、正常な視力を持っているユーザーには、そもそも重く感じられないのかもしれない。

■レンズが付かない!

と思ったら、レンズの絞りがAモードになっていないかチェック。フルメカニカル機のFTbでは当然AEは使えないが、AEモードに設定されたレンズの装着すら不能になるので注意。

■やっかいな多機能レバー

正面左側に付いている多機能レバーは操作性はよいのだが、操作方法がとても判りにくい。タイマー、ミラーアップ、プレビュー、測光方式切替の4つの機能を一個所に集約してしまっているため、取扱説明書なしではほとんど判らないだろう。この設定によっては露出計が動かないこともある。おまけに、FD/NewFDレンズを装着しないと追針の方が動かない。そうなると故障と誤認する可能性も非常に高い。

上レバー:正面時計周りで絞り込み(プレビュー)、反時計周りでセルフタイマー。
下レバー:「・」で開放測光、「L」で絞り込み測光、「M」でミラーアップ。

「・」は開放測光モード。このモードで使うには、上レバーは垂直に立っていなくてはならない。もし、上レバーがレンズ側に倒れていたら、下レバーが正しく「・」にセットされていない証拠。下レバーを反時計周りに回して正しく「・」に合わせる。これで上レバーがリセットされる。

ミラーアップをするときは、上レバーをレンズ側に倒した状態で下レバーを「M」に合わせる。上レバーを倒さないと下レバーを「M」にできないので注意。

「L」は絞り込み測光モード。FLレンズなどはこのモードで使う。上レバーを立てた状態(開放)でピン合わせをして、上レバーをレンズ側に倒した状態(絞り込み)で測光を行う。ファインダーが暗くなるのが気になるし速写性も落ちる。その点、FXはFLレンズでも開放状態のまま操作できるが、これはそもそもFXがTTL測光ではないから。その点ではFXの方が便利だとも言える。FTはTTL絞り込み測光だけど、操作性はどうなんだろう?

主要諸元
シャッター 機械制御 横走布幕 B、1〜1/1000秒 X接点1/60秒
測光方式 中央部分測光(12%)
露出制御 マニュアルのみ
ファインダー倍率0.85倍、視野率94%
外 観144×93×43mm、750g
その他フィルム給送にQLシステム採用
独断評価
操作感 B 操作性自体は悪くないが重過ぎる
耐久性 A メカニカル機の中でも特に頑丈そう
ファインダー B 交換不能、マイクロプリズム、メンテが重要
測光系 B 平均的という意味ではなく功罪あい半ば
携帯性 D 750g
用 途 △仕事 ○趣味 ○スナップ ×軽旅行 ×海外旅行


■試用レポート

2001.?.?/後期型を6000円で落札。機能的には完動品だが、程度はあまり良くない。ファインダーの汚れ、巻きあげレバーのゴキュゴキュ感が気になる。モルトの劣化も目立つ。本気で使うならOHが必要。しかし、6000円ならば文句は言うまい。

2001.10.15/前期型を5000円で落札。露出計不動とのことだったが、間違えて落札してしまった。しかし、チェックして見ると完動品。外観や程度は1台目よりも遥かによい。純正ボディキャップ付き。これで5000円ならば大ラッキーというところ。怪我の功名。

2001.10.16/前期型を3800円で落札。コミコミで4800円くらい。外観は良くないが機能は完動。メッキ剥がれあり。巻き上げはスムーズだが、ファインダーの汚れが目立つ。この値段なら納得。メンテすれば充分実用機。あ、あれ?…QLのロゴが逆さまだ(@_@)

で、まあこれで3台になったのだが、これからどうする?最低1台は手許に置きたい。できれば前期型・後期型1台ずつ欲しいな。まず、売るとしたら3台目だろうなあ。でも、分解掃除しないと、ちょっとねえ、使ってもらえないよ。

おっと、4台目(前期型)を落札しちゃったぜ。今度は本当に露出計不動らしいジャンク品だが、50mmと28mm付きで4400円。28mmはコムラーだけどね。この値段なら納得。28mmレンズ狙い。4台目は分解の練習用に使って、汚い2台のOHをしよう。

2001.10.20/4台目到着。やはりと言うべきか、露出計正常の完動品(^_^; う〜む、どうしてみんな露出計不動と間違うのか…ま、あのレバーでは仕方ないか。うっかりモードいじると確かに動かないように錯覚するし、電池も入手不能だし、レンズを付けないと追針が動かないし。全体的には並品。これなら安い。

それよりもコムラーの28mm/2.5はちょっとショック。大した明るさでもない単焦点のくせに500g近くある。しかも、分解可能と言えば聞こえが良いが、な〜んか、ガタが気になる。常用の超広角にするつもりだったが、これはちょっと…。おまけに、いきなり壊れて分解修理するハメになったし。やっぱ、分解可能=壊れやすい、という感じ。FDマウントの超広角が欲しいんだけどねえ……まあ、アダプトール2を買えば安上がりだが。

2001.10.31/3台目(一番程度が悪いやつ)試写。Windows XPのインストール画面撮りに使用。やはりファインダーが暗いのがかなり気になる。ピン合わせも厳しい。巻き尺で測って設定。フィルムのローディングもダメ。QLなんて言うが、従来式の巻き上げ軸のスリットにフィルムを差し込む方がずっと速くて確実。巻き上げも、枚数が増えてくるととても重く感じる。ま、この辺はグリスアップすれば直るとは思うが…。あと、今回はNewFD 35-70を使ったが、これがひどく軽いレンズなもんで、ボディとのアンバランスが何とも言えない。少なくとも、今回は幸福ではなかったなあ…

でも、仕上がりはと言うと、これがけっこういいわ。シャープだし平行もちゃんと出てる。ま、昼間撮ったから写り込みはどうしてもあるけど、夜なら文句なしだな。もっとも、スペースとレンズの関係で70mmでしか撮れなかったから、周辺はかなりピンが甘くなるが…。基本的に写りはレンズの問題だが、充分使えるボディであることが確認できた。

2001.12.20/【ギアの噛み込みの修理】当初はBのミラークッションのモルトの張り替えとピント板の掃除だけのつもりだった。しかし、動きが固いので空シャッターを切っていたら突然動作不能に。原因はグリス切れによるギアの噛み込み。底ブタを外して注油と修復。そのままではよく判らなかったから、正常動作する別のFTbの底ブタを外して、動作を比較して弄り回していたら何とかなった。

しかし、困った事にまたもや部品を紛失。直径2mm、高さ1.5mm程度の金属円柱と、それについていた小さなバネ。どうやら、巻き上げ後にレバーを元に戻すときに使うもののようだが、ギアのカバーを開けて回したら飛んで行ってしまった。まさかこんなに簡単に外れるものだとは思っていなかった。結局、かなり長い時間を使って発見したが時間の浪費も甚だしい。

 教訓1:ギアの噛み込みは底ブタを開ければ直る(こともある)。
 教訓2:同一機種を複数持っていると修理のときに便利である。
 教訓3:外れない保証のない部品は飛んで行くと思え。

結果的に巻き上げがスムーズになり、修理は成功…と言いたいところだが、実はときどきミラーが上がりっぱなしになるようになってしまった。起きる頻度は高くないし、巻き上げれば元に戻るから実害はあまりないが、ちょっと気になっている。

2001.12.21/【ミラーの戻りの修理】底ブタを開けると、左手側にミラーを制御するテコがある。ここを回転ハンマーが叩いてミラーを戻している様子。で、ときどき、このハンマーがテコを十分に叩かないために、ミラーが戻らないように見える。とりあえず、テコの端をハンマー側に少しだけ曲げてみた。今のところ上手くいっているようだし、特にタイミングに狂いも出ていないようだが…

2003.04.20/【義父のFTbの修理】露出計不動とのこと。案の定、電池室の発錆と電池の不適合だった。水銀電池が入手不能なのでアダプタを利用していたのだが、なぜかSR-44ではななくSR-43が入れてあった。接点が密着していなかったんだな、きっと。

2003.04.28/【ファインダー系の掃除】懸案だった三番機の掃除。トップカバーを開いてプリズムを外し、接眼レンズとプリズムを掃除。これは概ね成功。しかし、ピント板の取り出しは不可能と判明。限定的な清掃にとどまる。詳しくは「カメラ修理記」参照。ついでなので視度補正レンズも入手。EOS用がそのまま流用できる。清掃+視度補正で見違えるほど見やすいファインダーになった。

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