くれっしぇんど 陸奥睦月&Gravity Free 綺阿がリレー小説でお届けするアスキラパラレル学園シリーズ『学園天国 〜Closer to Heaven〜』。
担当は、キラ→陸奥睦月、アスラン→綺阿で、表紙はwind mill+の朝霧紫月さまが素敵イラストを描いてくださいます。
CEもMSも関係ない、ごく普通の高校生のアスランとキラ(非幼馴染設定)の一年間を歳時記風味にお届けします。
4月からスタートし、春(4〜6月)、夏(7〜9月)、秋(10〜11月)、冬(12〜3月)の4冊発行予定・・・だったんですが、冬に3月のお話ってどうよ!?というわけで・・・、冬(12〜1月)、ふたたび春号(2〜4月)の5冊構成とさせていただくことになりました★
1冊増えちゃいましたが、最後までおつきあいいただけると嬉しいです。
キラレボ発行の春号、夏コミ発行の夏号、SPARK発行の秋号に続く4冊目、冬号が12/29のコミックマーケットに登場!!
12月、1月の2ヶ月をお届けいたします!
こちらの表紙も朝霧紫月さんが素敵イラストを描きおろししてくださいますv
そして・・・・今回はスペシャルですよ!
表紙だけではなく、アスキラ漫画を6ページ描き下ろしてくださいました。
紫月さん、お忙しい中、ありがとうございました〜!
いつも、 ふたりで楽しみにしておりますv
冬だけど、熱いふたりがたのしみ。
第4巻 〜Winter Holy Nightl〜
(12/29 冬コミ新刊)
A5/FC/P140/\1200
※虎の穴さんにも書店委託予定。
すれ違ったり、喧嘩したり。
ちょっとした嵐を乗り越えて、ふたりがむかえるクリスマスは、甘く、熱く・・・?
◇ふたたび春編はHARUコミあたりにお届け予定。
イベント販売は、くれっしぇんど、Gravity Free両方のスペースにて行なう予定です。
虎の穴さまの書店委託&両サイトの自家通販を予定しています。
販売方法によって、若干価格が異なります。ご了承ください。
販売スペースなどについては、両方のサイトにて告知いたしますので、チェックしてくださいね!
>>陸奥睦月 (くれっしぇんど)
URL http://homepage2.nifty.com/placollo/
Mail placollo★yahoo.co.jp
>>綺 阿 (Gravity Free)
URL http://www.est.hi-ho.ne.jp/shiny-g/G-S/
Mail shiny-g★est.hi-ho.ne.jp
※メールアドレスは、★を@に変えてください。
「え?オレん家?」
「うん。クリスマスの日って、やっぱチキン?」
そう問うと、ラスティはうーん、と考えた後に…ぽつりと言った。相変わらずのジャージ姿だが、夏の時とは違う。寒いからと言って、彼はシャツを着て、セーターを着た上からジャージを着ているのだ。
「去年はおでんだったな。その前は…何だっけ」
「え?おでん!?クリスマスだよ?なのにおでん?」
びっくりしたように瞳を見開くキラに、あっさりとラスティは言った。
「うちは仏教だし、別に別の宗教の教祖の誕生日を祝う必然性がどこにある?クリスマスにおでんを食べて悪いという道理はねーだろ?」
「うん、確かにまぁ、そうなんだけど…じゃあ、ケーキはないの?」
「いや。それはあるな」
ラスティは頷く。
「確か…去年は、わざわざどっかのケーキ屋の限定ケーキとやらを、ねーちゃんが予約してきたんだよ。それを食べたような気がする」
「…おでん食べた後にケーキ…?」
ぷっとキラは吹き出す。ありえない組み合わせだ。
「悪いか?どっちもうまかったぞ」
憮然とした顔でラスティは言った。
「そういえば、トールの家もシチューだった、って言ってたよ。へぇ、家によっていろいろで面白いなぁ」
くすくすとキラは笑う。昨夜、自宅で今年のクリスマスのメインを何にするか、という話になり…興味を持ったキラは、友人たちに去年のクリスマス・ディナーのメニューを聞いてまわっていたのだった。
「そういうヤマト家はどーなのよ?」
「え?去年は…確か、フライドチキンに、マカロニグラタンと、コロッケと、サラダと、コーンスープと…後は何だっけな。カガリに聞いたら覚えてるかもしんない」
「…なんで、カガリ?」
眉を顰めたラスティに、あっさりとキラは言った。
「あぁ…毎年、クリスマスはカガリんところのおうちと合同パーティーなんだ」
それを聞いた瞬間、ラスティは実に微妙そうな顔をした。
その表情を見たキラは、今、何か自分はおかしなことを言っただろうか?と考える。
「…ラスティ?」
「おまえ…それって、今年もなのか?」
「うん、そうだけど…何で?」
キラの母、カリダとカガリの母、ヴィアはとっても仲のいい姉妹だ。何せ、自分とカガリが生まれる前から、一緒にクリスマスを祝っていたというのだから…今年にかぎってそれがなくなるとは思えない。
「…おまえ、それ、アスランに言ったのか?」
はぁあ、と溜息をつきながらそう言ったラスティに、ますます訳が分からない、とキラは眉を顰める。
「…言ったけど…?それがどうかした?」
きょとんとした顔のキラに、ラスティはちょっとだけ眉を顰めた。
「あいつんところ、両親どっちも忙しい人だろ?多分…クリスマスとかって…ずっとひとりだったんじゃないかと思うんだよな」
「…あ…!」
ラスティの言うとおりだ。
アスランは、今も広い家にひとりで棲んでいる。父親は海外在住で、母親もこの街からは遠く離れたところに勤めているらしい。
世間では、クリスマスは休日であっても、ただでさえ忙しそうな彼らにとって、年末の一番忙しい時期かもしれないのだ。
両親の居ない家でひとりきりで過ごすクリスマスもあっただろう。そして…ひょっとすると、今年もそうなるのかもしれない。
なのに、自分は毎年家族やカガリと一緒に祝っていたなどと楽しそうに話すのは軽率だった。その話を聞いていたアスランの瞳が、少しだけ寂しそうだったのをキラは覚えている。
「どうしよう…僕…考えなしだったよね」
くだんのアスランは、生徒会の仕事で教室には居ない。
しゅんと項垂れるキラの頭をラスティはよしよしと撫でる。
「あんま気にすんなー。あいつだって…いつまでも根に持つタイプじゃないしな」
「…うん…」
こういう時、アスランもラスティも大人だとキラは思う。そんなことを言われても、アスランは嫌味ひとつ口にしなかったし、ラスティだって落ち込んだキラを慰めてくれる。
ふたりと比較して、足りないと思うのは身長ではなく、器の大きさかもしれない。そんなことを思いながら、キラは部室へと向った。
* * *
「ごめん。ちょっと遅くなっちゃった」
慌てて道場の扉をあけると、ひとつ年下のルナマリアが笑って出迎えてくれる。
「遅いですよー。キラ先輩!」
既に胴衣に着替えているが、彼女の手に弓はない。あれ?と思ってその隣のシンにも目をやるが…・同じだ。
「あれ?練習は?」
そう問うと、彼女はぺろりと舌を出す。
「ごめんなさい。今日はアスラン先輩も遅れてくるって聞いたから…ちょっとだけサボってました」
あっさりと彼女は懺悔する。ルナマリアは、女子の中でもかなり筋がいいことから、キラたち二年生の中からも受けがいい。しかし、彼女が好かれる理由はそれだけではないような気がする。竹を割ったようにさばさばとした性格の彼女は、同級生だけではなく、顧問のバルトフェルドや他の教師からも好かれていた。
「しょうがないね、じゃあ、僕の遅刻をアスランに黙ってくれていたら、僕も黙ってるよ」
くすりと笑うと、ルナマリアはそれ、賛成!と手を上げた。
「で…何を相談してたのかな?」
机の上には、なにやら描き散らかされた紙がある。日付を書いたところに部員たちの名前といくつものバッテンが入っている。
「みんなで忘年会できないかな、って言ってたんですよ。部活も年末年始はおやすみでしょ?どこかで打ち上げできないかなーって」
一ヶ月半近くあった夏休みとは違い、冬休みは二週間と短いため合宿はない。しかも、年末年始の間は学校自体が完全に閉められてしまうことから、部活もすべての部が休みとなっていたのだ。
「そうか…忘年会かぁ」
ふむ、とキラは考える。今年は皆、頑張ったし、その打ち上げをかねて忘年会というのもいい。
「ねぇ、それ、ラスティも呼んでいい?」
インターハイ終了後、助っ人だったラスティは元々の所属であるテニス部へと帰ってしまった。そのため、現在は弓道部員ではなかったのだ。
「あ、いいですよ〜。もちろん!みんなでわいわいパーティーみたいに出来たらいいですよね!」
そう言ってルナマリアは笑った。
ルナマリアの笑顔につられるように、キラも薄く笑う。やっぱり可愛い女の子が笑うと可愛いなと思いながら、ルナマリアたちが書き散らかした紙を見た。その紙に書き散らされていた文字列を追って、キラははっと思いついたように瞳を上げた。
「ねえ、これって何時やるつもりでいるの?」
「えーと…最大人数が来られる日とか思っているんですけれど…?」
結構日にちが限定されちゃうんですよね〜。はあ、と小さな溜息を吐いたルナマリアに、キラはきらりと瞳を輝かせた。
「ねえ、この日は?」
「え…?二十四日……?」
日程を確認していたらしきカレンダーにキラがとんと指を置いた。そのキラの指差した日にルナマリアの目が丸くなる。
「クリスマス・イヴじゃん。キラ、おまえいっつもカガリとか呼んで家で祝ってなかったか?」
キラの指差した日にちを見て、シンが少し眉を顰めながら言う。キラはよく知ってるね〜と隣の住人でもあるシンに関心しながら応えてしまった。
「あのなー。俺だって昔は呼ばれてたぞ。お前の家に」
「え?そうだっけ…?」
シンの言葉にそうだっけなー?と首をかしげたキラだが、そういえばまだ自分が小さい頃は、近所の子供たちも全部呼んで、母のカリダが特製ケーキとか作ってくれたような気もする。
でもクリスマスの思い出といえば、どうしても夜家族だけで過ごす時間がメインとなるから、どうにも記憶にとどまっていないようだ。
はて?と首を傾げたキラに向かって、シンが薄情なやつだなあとか何とかぶつくさ言っているところを見ると、キラが覚えていなかったことが結構ショックだったらしい。いつも口ではキラのことを馬鹿にするくせに、いざキラからこういった仕打ちを受けると文句を言うのだからたまらない。
「シン、いくらお隣の幼馴染だからって、キラ先輩に対する口の聞き方がなってないわよ!」
「っ痛!!ルナ、足、足を踏むなよ!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出したシンとルナマリアに、キラはくすくすと笑ってしまう。本当に仲がいいな〜と二人の様子を見つめていたら、ルナマリアがキラの視線に気がついて、ぱっとシンから離れていった。
「ルナ?どうしたの?」
「え、いえ!!なんでもないです。それより、キラ先輩、ほんとーに、二十四日に企画していいんですか?」
シンから離れたと思ったら、今度はずいとキラに顔を近づけてきたルナマリアに、そんな風に問われてキラは首を傾げた。だが直にいいよと頷く。
「皆で楽しめればいいと思うんだけど…?あ、それともその日は皆ダメなの?」
「えーと…まあ私は…大丈夫ですけど…」
「シンは?」
「俺?まあ、俺も…大丈夫だけど…」
何となく歯切れの悪い二人に、キラは本気で首を傾げてしまった。なんでそんなに歯切れが悪いんだろう?と。
「あ、もしかして、クリスマス会他にやる予定があったとか?家族とか?」
そうか、そうだよね!とキラはぽんと手を叩いた。だがそんなキラに対して、ルナマリアは小さな溜息を吐いて、可哀想に…とかなんとか呟いている。シンも何事か考えているようだが、こちらもまたどこか少し眉を顰めていた。
「……何か問題でもあるの?だったら…他の日にする?」
「え?いや。そのキラ先輩がいいなら。ちなみにアスラン先輩は、その日空いてるんですか?」
おそるおそる、と言った感じで問いかけてくるルナマリアに、キラは首をかしげながらも多分、と返事を返した。
「アスラン、いつもその日は一人だって言ってたし…。ご両親は忙しいから家に帰ってこないって。だから多分空いていると思う」
「そう、ですか……」
ハア、とキラの返事を聞いてまたもやルナマリアが大きな溜息を吐いている。そのわけが分からなくてキラは、さらに首を傾げるがやっぱり、ルナマリアがそこまで心配する理由が分からない。
どうしたの?ともう一度尋ねるが、ルナマリアは気にしないでくださいと首を振るだけだ。
「いいけど…元気出してね?」
「……はい」
「あ、それとね!」
まだ渋い顔をしているルナマリアに、キラは強い口調でお願いするように言う。
「アスラン、いつも一人でクリスマス過ごしてるみたいだから、楽しい会にしたいんだ…。できれば協力してくれると嬉しいんだけど……?」
もともとルナマリア達が考えた企画だが、キラはそれに乗っかるようにお願い、と手を重ね合わせて拝むようにルナマリアとシンを見る。
キラの視線にルナマリアがうっと固まり、シンもどこか顔を赤く染めて目を逸らすようにしていた。そんな二人の態度にキラはもしかして聞き入れられないお願いなのかな、とちょっとだけ瞳を落としてしまう。
「あ、あの!大丈夫です。やるからには徹底的に楽しくやりますから!ね、そうでしょ?シン」
「え?俺?俺は騒げれば…でもさ、キラお前さ…そのアスラン先輩と…っ、だから足、踏むなよ!!」
何かを言いかけたシンの足を、ルナマリアが再び踏んでいる。ルナマリアの行動に意を唱えるシンだが、ルナマリアには全くもって効いて無いらしい。お前、本当に馬鹿力だよなあ、とシンが恨みがましく言うのを効いたルナマリアが、またシンに噛み付くように声を上げて…。
「お前達、何騒いでる」
「わ、アスラン先輩」
ぎゃあぎゃあと再び騒ぎ始めたルナマリアとシンを見ていたキラの後ろから、低いテノールが響き渡った。その声にぴんと背筋を伸ばして応えたのはルナマリアで、そのルナマリアと騒いでいたシンは、慌てて床に散らばっているメモ用紙を拾っている。
道場の床に何を散らかしていたんだ、とアスランのちょっと不機嫌な声に、キラが二人を庇うようにその前に立ちはだかった。
「ごめん、アスラン。僕がちょっと散らかしちゃって…それでね二人で手伝ってもらってたの」
「キラ、お前な」
「だからごめんって!」
弓道に情熱を傾けているアスランにしたら、神聖な道場で何をやってるんだというところなのだろうけれど。
(でもなあ…アスランここで…僕に…って、また何考えてるの…僕……)
道場(というか部室)であらぬことをされたことを思い出したキラは、思わず顔を真っ赤に染めてしまった。
思い出さないようにと思っても時折こうして思考を掠めていく、あのときの光景に、どうしたって恥ずかしさだけが湧き上がってくる。
考えないようにと思っても、アスランとのあの濃厚な時間はキラにとって嫌ではなく、学校、しかも部室という場所での行為はどうしても興奮を誘ってしまって…。
(だから、違うってば)
ふるふると慌てて妖しい思考を振り払ったキラは、ふと自分を凝視している視線に気がついて動きを止めた。
「なに…?皆どうしたの?」
気がつけば、なぜかアスランを初めとしてルナマリアもシンも、キラのことをじっと見つめている。
なに?と首を傾げたところで、まずシンがあはははは!と堰を切ったように笑い出した。
「ちょっと、なんなのさ!」
いきなり人を見て笑うなんて、失礼じゃないの?幼馴染でもあるシンの容赦ない笑い方にキラは眉をひそめてしまった。
だがよくよく見れば、ルナマリアも口の端をゆがめて何かに耐えるようにしているし、(内緒の)恋人であるアスランも、口元に手を当てている。どうやらルナマリアもアスランも笑いを必死にこらえているように思えた。
「何?皆して」
むうう、と膨れて見れば、シンがまた大きな声で笑い出す。ちょっとシン!?思わずまた大きな声を上げたら、笑っているシンに対して、アスランがぱしりと頭を叩いていた。
「アスラン先輩、何するんスか!?」
「いや、煩いから…とにかくお前達は練習しろ。まだ弓も調整してないだろう?何サボっていたんだ。試験が終わったからと言ってだらけてるんじゃない。ルナマリアもだ。部長がそんな態度でどうする。ほら練習!!」
「へーい」
「す、すみません!!ちょっと、シン、あんたアスラン先輩に対してその口の聞き方…んもう!!」
「煩いな、ルナは。女はもっとおしとやかのほうが」
「なんですってー!!」
またしても喧嘩というかじゃれあいに近いものをはじめたシンとルナマリアに、アスランがちょっと冷たい視線を送った。うわー、アスラン怖いな〜とアスランの冷たい視線を横から見たキラとしては、ちょっと今のアスランには近づきたくないかもとまで思ってしまう。
そんなアスランの冷たい視線にさすがの騒がしい二人も、ぺこりと頭を下げて道場の中ほどへ歩いていった。その二人の背中を見送って、キラは小さく溜息を吐く。だがそんなキラの頭をこつんと叩く手があった。
「痛いなあ…何?アスラン」
叩いたのはもちろんキラの隣に立っていたアスランだった。何するの?と視線を押し上げたキラだが、アスランのちょっとキツイ視線にうっと押し黙ってしまう。
「キラ、お前も何でまだ着替えてない?今日は週番でも何でもないだろう?ほら、とっとと着替えて来い。今日もしごいてやるから」
「え?わ、ごめん。すぐ着替えるけど…でもしごきはいらないからね!!」
アスランの言葉に、キラは慌ててきびすを返して部室へと向かっていく。顔だけでも出そうと思って、着替えるより先に道場に顔を出したので、キラはまだ着替えていなかったのだ。
これじゃあアスランに怒られる訳だ、とキラもひとしきり反省しながら、ちらりと背中を向けているアスランを見る。すでにきっちりと胴着を着こなしたアスランは、後姿でも格好いい。だがやはり胴着を着ているアスランを見ると、どうしてもあらぬ思考が頭を掠めてしまい、キラは違う違うと頭を振る。
(かんがえない、考えない!!)
今は練習のこと考えようとキラはアスランから視線を逸らして、今度こそ部室に向かって歩き出した。だがそんなキラにアスランが声をかけてくる。
「キラ」
「え?何…?アスラン、先に練習してて。今日時間余りないでしょ?」
わざわざ追いかけてきて、キラに声をかけてきたアスランをキラは見上げた。相変わらず綺麗だなあ、なんて恋人の顔を見上げていたが、そのアスランの顔が僅かにこわばっているようにも見える。
「アスラン?どうしたの?何か…用?」
「あ、いや…その」
いつも歯切れのいいアスランにしては歯に物を詰まらせたような言い方をしている。どうしたんだろう?とキラはじっと見つめていたが、そんなアスランを部員が呼んでいる声に、キラはほら、呼んでるよ!とアスランの肩を押した。
「急ぎじゃなかったら、帰りに聞くからさ!ほら、部長さんは早く行かないと」
「……」
キラがぐいと肩を押すが、アスランはどこか不満そうな…いや不安そうな瞳をしている。
本当にどうしたのだろう?と思うけれど、アスラン先輩!という大きな部員の声に、アスランもとうとうキラに言うべきことを諦めたらしい。あとで、とそんな視線だけを残して再び道場へと戻っていった。
「どうしたんだろ?アスランにしては珍しいよね…?」
いつも完璧な生徒会長。そして誰もが見とれてしまう弓道部のホープ。そんなアスランの見せた表情にキラは少しだけ心配になるけれど、ああ見えてアスランは結構表情豊かだし、自分に対してだけはいろいろな一面を見せてくれる。今回も何か多分思うところがあったのだろう。
まあ、帰りに聞けるかな〜とのほほんと考えたキラは、胴着に着替えるべく部室へと急いだ。早く行かないと、またアスランに怒られそうな気がする。
「アスラン、結構そういうところうるさいもんね」
ハア、と恋人の性格を思って溜息を吐いたキラだが、そうしていても仕方が無い。よし、と気合を入れながら部室の扉を開いていた。
* * *
キラの背中を見つめながら、アスランは小さな溜息を吐いていた。
(結局…聞けなかったな)
「アスラン先輩、ちょっとフォーム見てくれませんか?」
「……あぁ」
後輩の一人にせがまれて、アスランは仕方なしにキラの背中から視線をはがした。
(まあ、でもまだ時間もあるし…大丈夫か)
後輩に指導をしながら、アスランは道場に来る前の、生徒会室での一幕を思い出していた。
「…パーティー?」
「ええ、そうです。クリスマス・パーティー。どうですか?」
ニコルの提案に、一も二もなく賛成!と手を上げるのは副会長のカガリ・ユラ・アスハだ。楽しいことが大好きな彼女が、こんな楽しいイベントを見逃す筈がない。
「いいんじゃないか?楽しそうで!私はいつもキラんところと一緒に祝ってたんだ。やっぱり、こういうイベントごとは大勢でないとな!」
その言葉に、アスランの胸がちくりと痛む。
おそらく、カガリに悪気はないのだろう。そして…同じことを言ったキラにも。
どうやら、従兄弟同士である彼らは、毎年クリスマスを一緒に過ごしていたらしい。自分が知らないキラの時間を知っているカガリには、いつもつまらないことで嫉妬心を抱いてしまう。了見が狭いと思うが、どうしようもない。
「レイはどうです?」
ニコルが視線をおくると、プラチナブロンドの髪を肩に垂らした美少年がふと顔を上げる。瞳は美しい切れ長のアイスブルー。会計を務めるレイ・ザ・バレルだった。
「するというのであれば、つきあいますが…」
そう言って、ちらりと彼は隣を見る。そこには、盛大に眉を顰めた生徒会長、アスラン・ザラの姿があった。
一年生の学年首席であるレイが、唯一敵わないと、白旗をあげた相手。それが、この二年生の学年首席、アスランだった。
「…アスラン?」
「あ、いや…。しかし、みんな、その日は用事があるんじゃないのか?」
今年のクリスマス・イヴ、十二月二十四日は振替休日で学校がない。こんなチャンス、滅多にないからみんなで集まりませんか?というのがニコルのパーティー発案の元らしい。
しかし…それならそれで、既に予定を入れているのでは。アスランはそう思ったのだ。
「残念ながら…これが、空いてるんですよねぇ」
苦笑気味にニコルが言う。おそらく、すぐに同意したということは、レイも同じなのだろう。
「あ、ひょっとして…アスラン、予定あります?」
ニコルの言葉に、アスランはぎくりと固まる。
実のところ…クリスマス・イヴは、念願かなってようやく恋人になったキラと甘い一日を…と思っていたのだ。しかし、その計画はあえなくキラ本人の『クリスマス・イヴは毎年カガリの家族と一緒に祝うんだ』という言葉で崩れ去った。家族の年中行事ならば、他人である自分の割り込む余地はない。いくら、恋人だからといっても…だ。
「……」
しかし、アスランの脳裏に、ひとつの打算が働く。もし、カガリがこちらのパーティーへ来ることになれば…キラも呼ぶことは出来ないだろうか。
何といっても、キラはこの生徒会室にフリーパスで入ることが出来る、準メンバーと呼んでもさしつかえのない存在だ。ニコルもレイも反対はしないだろう。
ふたりきりのクリスマスはムリでも…キラと一緒に過ごすことが出来るのであれば、その方がいい。
「…分かった。俺も参加するよ。ところで…もうひとり…誘いたい人が居るんだが…」
「キラか?」
「キラさんですか?」
「…キラさんですね?」
三人三様にほぼ時間差で襲ってきた答えに、アスランは絶句した。
(というか、なんで皆して…?)
自分とキラの関係は知らせていないはずだ。というか言えるはずもないが。でもそのうち…このメンバーには伝えてもいいかとも思っていた。
けれどどうして?とアスランは絶句したまま三人の顔を見つめてしまった。
「どうしたんですか?アスラン」
「めっずらしいなー。おい、こいつの髪の毛引っ張っていいか?」
「止めたほうがいいと思います」
ニコル、カガリ、レイの反応に今度はアスランの肩ががくりと下がった。いつもはまとまりがなさそうなメンバーだが、どうしてこういう時だけチームワークを発するのだろうと思ってしまう。
「お前達」
「あ、すみません。僕ちょっと今日用事があるので、これで失礼しますね!じゃあこの計画進めておきますから!」
「あ、私も部のほうにも顔を出さないといけないんだ。じゃ、またな!!」
「……すみません。俺も失礼します」
反論をしようとしたアスランに対して、これまた図ったようなタイミングでそれぞれが生徒会室を出て行ってしまう。
一人残されたアスランは、ニコルの残していった「計画書」なるものを見て、大きく溜息を吐いてしまった。
>>学園春号 >>学園夏号>>学園秋号
© - くれっしぇんど& Gravity Free - 2007