ながやま的 まぐろ釣りのはなし

(4)

 遠い昔、魚屋さんでアルバイトをしていた事がありまして、そこに伊藤さんという
大層きびしい指導をする社員の方がおりました。 魚の扱いはもちろんの事、包丁の使い方
床の洗い方まで ずいぶんとしごかれたものです。 
ある日パートのおばちゃんが、そんな伊藤さんについて・・
「イトウって漢字でどう書くかわかる?」と皆に聞くのでした。 「イトウ」とは幻の魚と呼ばれる
サケ科のさかなの事。
「さかなへんに ゛鬼゛って書くのよ」と。その場所に伊藤さんが居たせいでしょう そこに一切笑いは
発生せず、ただひとときの静寂が広がるのみでした。 そして仕事は再開。
仕事に関しては誰よりも真剣で、魚に関しても情熱的であった伊藤さん。
サカナの鬼=イトウ というあまりにもその通りの話しに、納得のあまり何も言えなかった事を
今でも伊藤さんのカオと共に、はっきりと思い出します。
 ということで・・今回は 魚の漢字にまつわる話しをしてみようかと思います。

魚には旬があります。到来とともに季節を感じるものです。漢字を見ても、旬が盛り込まれていたりします。
さかなへんに゛春゛とかいて鰆(さわら) 
゛秋゛とかいて鰍(かじか) ゛冬゛とかけば「コノシロ」となるのですが、この画面に書くには時間がかかるので
紙に書いてみて下さい。 
調べたところ゛夏゛のつくおさかなは見あたりませんでしたが、それぞれ旬とほぼ一致しています。
また、その年の五穀豊穣などを占う事から゛占゛をつけて鮎(あゆ)と書くなんていう話しも聞いたことがあります。

そんな事を考えながら、ふと辞典を開きました。
さかなの名前を見ているうちに、ひとつひとつ合点のゆく意味を感じまして・・
確かに 鰈(カレイ)は葉っぱみたいな形しているし、鯖(さば)は 青い。鱈(タラ)の季節には雪が降るし
鰹(カツオ)の皮は堅い・・あれ?すると、鰤(ぶり) は魚の師匠か? 鰯(いわし) は弱いのか?とか
鰕(えび) は暇なのか?などと 全くもって詮のない事を考えてしまいました。

わたしが特別おさかなに傾倒しているせいでしょうか、ひとつひとつの字に何ともいえない趣を感じます。
お寿司屋さんに、さかな文字が書き詰めてある湯飲み茶碗がありますが、わたしは今それが欲しい。そして
それら全ての字を覚えて、周りの人にきみ悪がられてみたいのです。そういう魚ファンでありたいのです。

そんな熱い思いを吐露しながら、さかなの鬼と書いて「イトウ」がいるように、さかなの明日と書いて
「ナガヤマ」なんて魚がいればいいな・・などとつれづれ想う夏の日なのでした。

暑中お見舞い申し上げます 暑い日が続きますがご自愛してくださいませ。 

 

(つづく)

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