【原因】
月経困難症のうち、その基礎をなす病的原因が見られないものを機能性月経困難症と呼びます。
生理痛の多くは機能性月経困難症であり、ほとんどのケースで思春期に始まります。思春期には無排卵であったために感じられなかった痛みが、排卵が順調になるにつれてひどくなることもあります。年齢を経るにしたがって、また出産を経験することによって、症状が軽減することもあります。
機能性月経困難症の痛みには、プロスタグランジンという物質が関係しています。プロスタグランジンは出産の時に子宮を収縮させる物質です。生理は小さなお産と同じなのです。プロスタグランジンが分泌されると子宮は収縮して経血を排出しようとします。プロスタグランジンが強く作用しすぎると、子宮が強く収縮して子宮の内層(子宮内膜)への血液供給が減少するために痛みが生じると考えられています。
痛みの強弱に関係するものに、子宮頸管の広狭があります。頸管の疾患の治療の後のように子宮頸管が狭いときには特に痛みがひどいことが知られています。月経の間に排出された子宮内膜の組織が子宮頸部を通過するときにも悪化します。痛みを悪化させる可能性のある他の因子には、子宮が前方ではなく後方に傾斜したもの(後傾子宮)、運動不足、そして心理的あるいは社会的ストレスが含まれます。
出産により生理痛が軽減することがあるのは、子宮頸管の広狭と関係しています。子宮頸管が狭いと経血が押し出されにくいので、子宮を収縮させる大きな力がかかります。そのため、痛みがひどくなるのです。
プロスタグランジンは子宮を収縮させるだけでなく、血管を収縮させます。生理の時の頭痛は、血管の収縮によって起きると考えられています。
【治療】
生理痛については、鎮痛剤から漢方薬に至るまで様々な治療法が取られています。その中で、鎮痛剤はポピュラーで効果もある方法です。市販の生理痛の薬にも、プロスタグランジンを減らす成分が含まれています。生理痛がプロスタグランジンによって引き起こされていることからすれば、正攻法の治療法といえるでしょう。
プロスタグランジンが痛みの原因ならば、その分泌そのものを抑えればよいのではないかということになります。ピルはまさにそのように作用するのです。無排卵月経では痛みがなかったり軽かったりすることがあります。排卵がなければ、プロスタグランジンの分泌は抑えられます。ピルを服用すれば排卵は起こりません。休薬期間に起きる生理(消退出血)は、黄体ホルモンの減少によって人工的に起こされる出血です。生理(月経)とは異なり、プロスタグランジンは多くなりません。休薬期間中の消退出血ではプロスタグランジンが効きすぎることがなくなるので、生理痛が軽くなるというわけです。
ピルの服用によって、子宮頸管の広狭は変わりませんが、経血量の減少や経血の粘着性が低くなる(サラサラとした経血になる)ことは、生理痛の軽減にプラスに作用します。
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【原因】
何らかの病的原因が潜んでいる場合、器質性月経困難症と呼びます。病的原因としては、子宮内膜症・子宮筋腫・子宮腺筋症(子宮の内層による子宮の筋肉壁への非癌性浸潤)・卵管の炎症・異常な線維性の器官間の連結(癒着)などがあります。原因により痛みの部位・痛みの種類・痛みの時期が異なります。しかし、いずれの痛みも生理期間中に悪化する傾向があります。器質性月経困難症については、悪性腫瘍などが潜んでいることもあるので、婦人科で原因を明確にする必要があります。
【子宮筋腫】
器質性月経困難症の中でも多いものが、子宮筋腫と子宮内膜症です。子宮筋腫は女性の1/3ほどが経験するポピュラーな疾病です。子宮筋腫の治療に海外では、低用量ピルが当然のことのように使われています。ところが、なんと日本では子宮筋腫はピルの絶対禁忌に指定されてしまいました。おそらく、世界中で子宮筋腫がピルの禁忌に指定されている国は日本だけでしょう。エストロゲンは筋腫を増大させる危険があるというのがその理由です。もし、本気でそのように考えているなら中用量ピルを禁忌に指定すべきでしょう。中用量ピルは相対禁忌(慎重に使う)なのに、低用量ピルは絶対禁忌(使用禁止)なのは不合理です。このような不合理は、低用量ピルを「半解禁」状態にする政治的意図から生じました。詳しくはこちら。
「ピルとのつきあい方」では、この問題をいち早く取り上げてきました。現在、子宮筋腫の禁忌指定見直しを求める運動が行われています。
【子宮内膜症】
器質性月経困難症の原因で大きな比重を占めているのが子宮内膜症です。生理痛が年々ひどくなる場合は、子宮内膜症がもっとも疑われます。子宮内膜症は近年増加傾向にあると言われています。子宮内膜症は、本来子宮内膜にしかみられないはずの組織が、他の部位に発生するものです。
低用量ピルは、海外では子宮内膜症のポピュラーな治療法です。日本では長年低用量ピルが認可されなかったために、世界標準の治療法とは異なる治療法が取られてきました。中用量ピルが使われることもありますが、低用量ピルが使われることは極めて稀です。海外で低用量ピルが使われてきたのは副作用が少ないというだけでなく、エストロゲンの少ないピルが子宮内膜症に適していると考えられているからです。日本の医師がこのことを知っていても、低用量ピルは治療薬として認められていないために使いにくいという事情があります。結果として、子宮内膜症の治療薬としてピルが使われる場合、依然として中用量ピルが使用され続けています(正式に子宮内膜症の治療薬として認可を受けている中用量ピルは1種類だけ)。
ピルは内膜症が広がるのをくい止め、症状を緩和する作用があります。内膜症の初期から使えば、手術が必要になるほど悪化しないことも多いといわれています。低用量ピルがもっと早く解禁されていたら、ピルについての情報がもっと普及していたら、と思うと残念でたまりません。
多くの女性の苦しみを救うことが出来るのに、なぜ?なぜ?なぜ?と思わずにはいられません。
ほんとうに悲しくなります。
「ピルとのつきあい方」は、子宮内膜症の治療に低用量ピルが有効な一手段と考えています。低用量ピルが子宮内膜症の初期段階で使われるようになれば、女性の健康に大いに寄与すると思います。実に多くの女性が子宮内膜症で苦しみ、副作用の強い治療を受け、さらには手術に追い込まれている現状は異常です。ピルの認可・普及に反対してきた方々は、多くの女性を非常な苦しみに追い込んできたことをじっくり考えてみてほしいと思います。
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