■ピルの分類法
【用語について】
ピルはもともと錠剤という意味ですが、the
pill(あの薬)で経口避妊薬を指します。
経口避妊薬の英語を略してOCともいいます。OCは低用量ピルを意味し、中高用量ピルをOCということは通常ありません。
このページでは、ピルという言葉を用いることにします。ひとつには、ピルの方がなじみ深いと思うからです。もう一つの理由は、低用量ピルを避妊目的に限定したいとする意図をOCに感じることがあるからです。
【混合ホルモン剤とミニピル】
排卵後の女性の体の中では黄体ホルモン(プロゲステロン)が作られます。黄体ホルモン(プロゲステロン)は、排卵後や妊娠中に多くなるホルモンです。性周期の初期からピルとして黄体ホルモン剤を摂取すると、妊娠しているのと同じようなホルモン状態が作り出され、排卵が起きません。これがピルの基本原理です。
この基本原理からすれば、黄体ホルモン剤を摂取すれば避妊効果があるということになります。実際、そのようなピルもあるのです。黄体ホルモン単体のピルを「ミニピル」といいます。海外では、経口避妊薬としてミニピルが販売されています。日本でも、黄体ホルモン剤は使われていますが、もっぱら治療用に限られています。
ミニピルには、授乳中も使えるなどのメリットがありますが、少ない用量では十分な効き目がありません。
ミニピルに対して、一般にピルといわれている薬には、黄体ホルモン剤と卵胞ホルモン剤の両方が含まれています。2つのホルモン剤が含まれているので、混合ホルモン剤といわれます。混合ホルモン剤として使用するわけは、同じ用量でも単体で使うより効き目が強くなるからです。
【低用量ピルと中・高用量ピル】
ピルの副作用の多くは、卵胞ホルモンに関係しています。ピルの開発史はいかにして卵胞ホルモンを少なくするかという歴史でした。卵胞ホルモン剤を50μgまで減らすことに、それほど大きな問題はありませんでした。そこで卵胞ホルモン剤の用量が50μgのピルが普及しました。これが中用量ピルです。これ以上の卵胞ホルモンが必要な場合に、まれに高用量ピルも使われました。
卵胞ホルモンの用量を50μg未満にしたものが、低用量ピルです。低用量ピルの卵胞ホルモン剤の用量は、20μgから40μg程度になっています。日本で認可されているピルについていえば、30μgから40μgとなっています。卵胞ホルモン剤30μg未満のピルについては特に超低用量ピルといわれることがあります。
【黄体ホルモンの世代】
ピルに使われている黄体ホルモン剤は、開発の古い順に第1、第2、第3に区分されます。使われている黄体ホルモン剤の種類で第1世代ピル・第2世代ピル・第3世代ピルに分類されるわけです。
低用量ピルの分類では、最も本質的な分類になります。詳しくは後述します。
【1相性ピル・2相性ピル・3相性ピル】
ピルには21錠の錠剤がみな同じ種類の製品があります。このようなピルを1相性ピルといいます。
2種類に分かれているピルを2相性ピル、3種類に分かれているピルを3相性ピルといいます。詳しくは後述します。
【21錠タイプと28錠タイプ】
ピルの製品には、1シートの錠剤が21錠の製品と28錠の製品があります。それぞれ、21錠タイプと28錠タイプといいます。詳しくは後述します。
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■黄体ホルモンと卵胞ホルモンの相互作用
排卵抑制作用を持つのは黄体ホルモン剤(プロゲストーゲン)です。
しかし、ピルには通常、卵黄体ホルモン剤(プロゲストーゲン)だけでなく卵胞ホルモン剤(エストロゲン)も含まれています。なぜでしょう。
それは黄体ホルモン剤は単体で使うよりも、卵胞ホルモン剤と一緒に使う方が効果が高まるからです。卵胞ホルモン剤の量が多ければ多いほど黄体ホルモン剤の効き目は強くなります。
効き目が強くなると書きましたが、排卵を抑制するだけならばそれほど多くの卵胞ホルモンの助けは必要ではありません。黄体ホルモンは排卵を抑えるとともに、子宮内膜が剥脱しないように維持する作用を持っています。子宮内膜を維持するのには卵胞ホルモンの助けが必要になります。
低用量ピルは、中用量ピルの用量を単純にカットすればできるというものではありません。たとえば、中用量ピルの黄体ホルモンと卵胞ホルモンをそれぞれ30パーセントをカットすると、低用量ピルになるというものではないのです。卵胞ホルモンの用量をカットすると、黄体ホルモンを減らさなくても黄体ホルモンの効き目が悪くなります。低用量ピルの中には、中用量ピル以上の黄体ホルモン剤が含まれているピルがありますが、弱くなった黄体ホルモンの効き目をカバーするためにそうなっているのです。
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■黄体ホルモンの種類による分類
ピルは、含まれる黄体ホルモン成分の種類で第1〜第3世代ピルに分類されます。
1960年代にはノルエチステロンが開発され、ピルが経口避妊薬として使用されるようになりました。これが第1世代ピルです。第一世代ピルの黄体ホルモン剤は作用が弱いので多くのエストローゲンの助けを借りていました。エストロゲンが多いと、血栓症、乳がん、子宮頸がんのリスクが高まるという報告や、肝障害などの副作用が報告され、WHOは卵胞ホルモン量を50μg未満にするように勧告しました。
そこで、卵胞ホルモン剤を50μg未満に抑えた低用量ピルが開発されました。卵胞ホルモン剤を50μg未満に抑えた低用量ピルを作る方法は2つありました。ひとつは単純な方法です。卵胞ホルモン剤を50μg以下に抑え、代わりに黄体ホルモン量を増やす方法です。こうして出来たものが第一世代低用量ピルです。
もう一つの方法は新しい黄体ホルモン剤の開発です。卵胞ホルモン剤を50μg未満に抑え、なおかつ黄体ホルモン量を増やさないためには新しい製剤を開発するしかありません。そこで開発されたのが、レボノルゲストレルという第2世代の黄体ホルモン剤です。第2世代低用量ピルが開発されたのは1960年代末のことです。第2世代ピルは低用量のエストロゲンでも、しっかり効き目がある画期的な製品でした。ところが、第2世代の黄体ホルモン剤には思わぬ弱点が潜んでいました。男性化症状(アンドロゲン作用)の問題です。この問題を克服するための1つの方法は、2相性ピルや3相性ピルにして黄体ホルモン量を段階的に変化させることでした。
次の課題は、第2世代並の効き目がありアンドロゲン作用を少なくする事でした。1980年代には、男性化症状(アンドロゲン作用)を抑えるデソゲストレルやゲストデンという新しいタイプの黄体ホルモン剤が開発されました。第3世代ピルは第2世代ピルが代謝されていく過程に注目し、アンドロゲン作用が生じるのを防ぐことに成功しました。これを用いたピルが第3世代低用量ピルです。
第一世代ピルではどうしても、黄体ホルモン量が多めになる傾向があります。しかし、アンドロゲン作用が少ないことから、マイルドなピルとして根強い人気があります。ピル発祥の国アメリカでは、第一世代ピルが主流となっています。
第二世代ピルは、本格的な低用量ピル時代をつくったピルです。黄体ホルモンの効き目が強いことを生かして、黄体ホルモンの総量が低く抑えられています。非常によく工夫された3相性の形を取ることが多く、欠点を抑え長所を生かすことに成功しています。しかし、メリハリがかえって負担になる方やアンドロゲン作用に敏感な方もいます。
第3世代ピルは、第一世代ピル第二世代ピルの弱点を克服していて、またたく間に世界中の女性の支持を得ました。しかし、20年弱の使用実績期間に不安を感じる方もいます。
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■第3世代ピルの副作用問題
第3世代ピルは、最も副作用の少ないピルとして普及していきました。ところが、第3世代ピルには、血栓症を引き起こす危険性が第2世代ピルと較べて高いという報告がなされました。イギリス・ドイツ・ノルウェーの3カ国では規制措置が取られました。これをきっかけに規制措置の取られなかった国でもピル離れが起き、中絶が増加したともいわれてています。1995年のことです。
ところが、きっかけとなった調査の問題点が次々と指摘され、第2世代ピルと第3世代ピルでは血栓症を引き起こす危険性の差はないと考えられるようになりました。(世界の研究状況のレビュー 英文)ドイツでは1997年に、イギリスでは1999年に、第3世代ピルに対する規制が解除されました(このことについての日本語の詳しい情報)。
第3世代ピル問題の決着がついた後の平成11年6月2日に、日本では低用量経口避妊薬(ピル)の承認を「可」とする中央薬事審議会答申が出されました。その際、「第三世代のピル「マーベロン」(日本オルガノン(株)申請)については、第二世代のピルに比較し血栓症のリスクが2倍とのWHOの疫学調査報告を否定し得ないことや諸外国における対応状況を踏まえ、処方にあたってはその他のピルが適切でないと考えられる場合に投与を考慮する(第一選択薬とはしない)旨を添付文書に盛り込むこと。」とされました。
この処置に対し、オルガノン社は世界の研究動向や諸外国における対応状況を踏まえていない不当な結論だと反発したと伝えられています。また、オルガノン社は日本企業と提携せずに単独申請だったことが影響したのではないかともささやかれました。認可経緯
ともあれ、いじけた?オルガノン社は日本での販売を見送ることを決めてしまいました。日本では、第3世代ピルが手に入らなくなりました。ピルは解禁されましたが、欧米と較べて十数年間の遅れは依然として残ったと見ることもできます。
→疫学調査についてわかりやすい解説はこちら。
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■黄体ホルモン量の変化による分類
ピルは1周期中のホルモン量の変化により、1相性ピル、2相性ピル、3相性ピルに分かれます。
1相性ピルは、21錠の成分が皆同じものです。日本で認可されている低用量ピルの中では、マーベロンとオーソMが1相性ピルにあたります。中高用量ピルはすべて1相性です。また、近年海外で発売されている超低用量ピルも1相性です。1相性ピルは生理日の調整に便利なことから、ベテランユーザーの間で人気が高いようです。また、避妊効果がより高いと考える人もいます。欧米では60%が1相性ピルです。
2相性ピルは、ホルモン成分が2段階に変化します。日本で認可されている低用量ピルの中では、
エリオットが2相性ピルに当たります。エリオットでは、後半の黄体ホルモン量が前半の2倍になります。自然のホルモン変化に最も近い形と言えば、エリオットが一番です。
3相性ピルは、ホルモン成分が3段階に変化します。変化のさせ方は製品によって異なります。
オーソ777は、卵胞ホルモン量は一定ですが、黄体ホルモン量が徐々に増加していきます。エリオットの前半と後半の間に第2相を入れることにより、ホルモン環境をなめらかに変化させようとしたものです。
トライディオール・トリキュラー・リビアン・アンジュの4製品は、巧妙な組み合わせの3相性ピルです。第2相ではエストロゲンの量を増やし、第3相では黄体ホルモン剤の量を増やして、不正出血圧力に対抗させています。
徐々にホルモン量を増やしていくというのが3相性ピルの基本的な考え方です。ところが、ノリニール・シンフェーズは、逆に第3相のホルモン量を第2相よりも少なくしています。つまりホルモン量を凸字型に変化させているわけです。これは休薬期間の早い時期に生理を起こさせる目的からです。注文どおりに行くこともありますが、生理が早く来すぎてしまうこともあるようです。
3相性ピルについては、自然のホルモンサイクルに近いという宣伝がなされています(自然のホルモンサイクルだと避妊効果はありません)。
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■21錠タイプと28錠タイプ
販売されている低用量ピルには、21錠タイプと28錠タイプがあります。
28錠タイプには、7錠の偽薬が付いています。偽薬はプラセボ、ダミーピル、シュガーピルなどとも呼ばれます。偽薬は毎日服用する習慣を維持するために考えられたものです。休薬期間空けの飲み忘れを防止する効果もあるといわれています。
一方、何の効果もない薬を飲むのはどうもという方もいます。シートが大きくなって嫌だという方もいます。
好みの問題ですが、21錠タイプと28錠タイプで飲み忘れ率の差はないとか、かえって28錠タイプの方が飲み忘れ率が高いという調査もあるようです。
21錠タイプにせよ28錠タイプにせよ、実薬が21錠であることにかわりはありません。28錠タイプでは、偽薬服用中が休薬期間になります。なお、28錠タイプの7錠の偽薬は飲み忘れても、効果に影響はありません。
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■日本で認可されている低用量ピル一覧
製品名 |
メーカー |
世代 |
用量変化 |
偽薬の有無 |
色 |
備考 |
マーベロン |
日本オルガノン |
第3世代 |
1相性ピル |
21錠タイプ |
白色21 |
上記のいきさつで発売されていない |
オーソM-21 |
ヤンセン協和・持田製薬 |
第1世代 |
1相性ピル |
21錠タイプ |
橙21 |
|
エリオット21 |
明治製薬 |
第1世代 |
2相性ピル |
21錠タイプ |
白色10、橙色11 |
2001年発売中止 |
オーソ777-28 |
ヤンセン協和・持田製薬 |
第1世代 |
3相性ピル |
28錠タイプ |
白色7、淡橙色7、橙色7、黄色7 |
|
ノリニールT28 |
科研製薬 |
第1世代 |
3相性ピル |
28錠タイプ |
淡青色7、白色9、淡青色5、だいだい色7 |
サンデースタート |
シンフェーズT28 |
日本モンサント・ツムラ |
第1世代 |
3相性ピル |
28錠タイプ |
淡青色7、白色9、淡青色5、だいだい色7 |
サンデースタート |
トライディオール21 |
日本ワイスレダリー |
第2世代 |
3相性ピル |
21錠タイプ |
赤褐色 6、白色 5、黄色10 |
|
トライディオール28 |
日本ワイスレダリー |
第2世代 |
3相性ピル |
28錠タイプ |
赤褐色 6、白色 5、黄色10、白色7 |
|
トリキュラー21 |
日本シエーリング |
第2世代 |
3相性ピル |
21錠タイプ |
赤褐色 6、白色 5、淡黄褐色10 |
|
トリキュラー28 |
日本シエーリング |
第2世代 |
3相性ピル |
28錠タイプ |
赤褐色 6、白色 5、淡黄褐色10、白色(大)7 |
|
リビアン28 |
山之内製薬 |
第2世代 |
3相性ピル |
28錠タイプ |
赤褐色 6、白色 5、淡黄褐色10、白色7 |
|
アンジュ28 |
帝国臓器 |
第2世代 |
3相性ピル |
28錠タイプ |
赤褐色 6、白色 5、黄色10、赤色7 |
|
製品名の同色は同一成分であることを示す。現在販売されている低用量ピルは実質4種類。
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■エストロゲン(卵胞ホルモン)の製品別含有量
エストロゲンは、血栓症・乳がん・子宮頸がん・肝障害などのリスクを高めることが知られています。また、ピルを服用し始めた際にしばしば見られる、吐き気・頭痛・下痢・むくみ・おりものの増加・経血量の増加・血圧上昇なども、エストロゲンの作用によるものです。このような副作用はエストロゲンの量に比例して強くなるため、エストロゲンを低用量化する必要がありました。低用量ピルとは、エストロゲンの副作用を避けるためにエストロゲン量を50μg未満に抑えたピルをいいます。
日本で認可されたピルはエストロゲンに関しては、いずれもエチニルエストラジオールというホルモン剤を使用しています。しかし、その含有量は製品によって異なっています。下の表は、エストロゲン含有量を示したものです。
第1世代ピルで最もエストロゲンの含有用が最も多く、第3世代ピルで最も少なくなっています。さらに第1世代ピルに使用されている黄体ホルモン剤では、第2・第3ピルでは見られない、エストロゲン活性が作用します。
下の表からも、吐き気や頭痛などの副作用が、第1世代ピルで最も強く、第3世代ピルで最も軽いと言われる理由が理解できるように思います。
エストロゲンの感受性には、かなり大きな個体差があります。
100μgでも平気な方もいれば、30μgでも吐き気に悩まされる方もいます。
日本で認可されている低用量ピルのエストロゲン用量は35μg±5μgの範囲にあります。
感受性の強い方にとって5μgの違いでも大きな違いとなります。
海外では20μgの超低用量が出回り始めています。
エストロゲンを20μgに抑えると不正出血の頻度は高まりますが、エストロゲンに非常に敏感な方には重宝なようです。20μgの超低用量ピルには、意外な用途もあるようです。超低用量ピルを朝夕服用すれば40μgになります。20μg・30μg・35μg・40μg・50μgと個体差に応じた選択が出来るようになっているというのです。
日本で販売されている低用量ピルの多くは、35μgです。第2世代ピルの4製品だけが最も低い30μgの錠剤を含んでいますが、同時に最も高い40μgの錠剤も含んでいます。選択肢が非常に狭い現状は、ピル解禁と言い難い状況だと思います。
表 エストロゲン(卵胞ホルモン)の製品別含有量
製品名 |
錠剤毎の含有量(r) |
1周期中の総量(r) |
marvelonを100とした指数 |
マーベロン(marvelon) |
0.030
|
0.63
|
100.0
|
オーソM |
0.035+
|
0.735+
|
116.7+
|
エリオット |
0.035+
0.035+
|
0.735+
|
116.7+
|
オーソ777
|
0.035+
0.035+
0.035+
|
0.735+
|
116.7+
|
ノリニール
シンフェーズ
|
0.035+
0.035+
0.035+
|
0.735+
|
116.7+
|
トライディオール
トリキュラー
リビアン
アンジュ |
0.030
0.040
0.030
|
0.680
|
107.9
|
(注)+は、ノルエチステロン(NET)製剤のエストロゲン活性を示す。※生物的ホルモン活性についてはDickey,R.P.(1994)をもとに、rurikoが算出。
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■プロゲストーゲン(黄体ホルモン)の製品別含有量
プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)は、すべてのピルに含まれています。プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の作用で排卵が抑制されるので、ピルの主成分といってもよいでしょう。
プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の含有量は製品によって、大きく異なっています。一番少ないものと一番多いものでは10倍程度の大きな差があります。このような大きな差があっても、避妊薬としての効き目に差はありませんし、副作用にも大きな差はありません。
プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)は、倦怠感・抑うつ感・乳房の張り・PMS的症状・性欲低下・経血量減少などの副作用をもたらすといわれています。エストロゲンの副作用に較べると、耐え難い副作用でないといえるかもしれません。経血量の減少などは、むしろプラスの作用であるとも言えます。
プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の含有量にこれほど大きな差があるのは、2つの理由によります。
ひとつは、使われているプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の種類により効き目が違うため、一定の効果を得ようとすると用量に差がでます。
日本で認可されたピルはプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)からみると、3種類に分かれます。
第1世代ピルでは、ノルエチステロン製剤が使用されています。ノルエチステロン製剤はプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)活性が弱いため、含有量は桁違いに多くなっています。
レボノルゲストレル製剤が使用されている第2世代ピルやデソゲストレル製剤が使用されている第3世代ピルでは、含有量が少なくなっています。
プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の効き目のことをプロゲストーゲン活性といいます。第1世代のプロゲストーゲン活性を1とすると、第2世代のそれは5.3、第3世代のそれは9.0です。これはエストロゲンの量を同じにすると、第2世代は第1世代の5.3分の1、第3世代は第1世代の9.0分の1の量で同じ効き目が得られると言うことを意味しています。ところが、実際には、第2世代ピルより第3世代ピルのプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の方が多いなどプロゲストーゲン活性だけでは説明できない用量となっています。これは後述するアンドロゲン作用と関係しています。アンドロゲン作用はプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の用量を決めるもうひとつの要素になっています。
表 プロゲストーゲン(黄体ホルモン)の製品別含有量
製品名 |
錠剤毎の含有量(r) |
1周期中の総量(r) |
プロゲストーゲン効果指数(含有量×活性)
marvelonを100 |
マーベロン(marvelon) |
0.15
|
3.15
|
100.0
|
オーソM |
1.00
|
21.0
|
74.1
|
エリオット |
0.50
1.00
|
16.0
|
37.0
74.1
|
オーソ777
|
0.50
0.75
1.00
|
15.75
|
37.0
55.6
74.1
|
ノリニール
シンフェーズ
|
0.50
1.00
0.50
|
15.0
|
37.0
74.1
37.0
|
トライディオール
トリキュラー
リビアン
アンジュ |
0.050
0.075
0.125
|
1.93
|
19.6
29.4
49.1
|
※生物的ホルモン活性についてはDickey,R.P.(1994)をもとに、rurikoが算出。
▲ページ先頭
■製品別にみたアンドロゲン(男性ホルモン)作用
ビルの泣き所は、プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)に内在するアンドロゲン(男性ホルモン)作用です。アンドロゲン作用のためにニキビや多毛症・肥満・性欲亢進・男性化症状などの副作用が引き起こされます。
アンドロゲン作用は第2世代ピルで最も強く、第1世代ピルの8.3倍になります。そのため、第2世代ピルではプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の含有用が低く抑えられています。第1世代ピルはアンドロゲン作用の軽いプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)が使用されていますが、上に見たようにプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の含有量は多くなっています。
第3世代ピルのマーベロン(marvelon)を基準にして、各製品のアンドロゲン(男性ホルモン)作用の強さを調べたものが、下の表です。アンドロゲン作用指数が申し合わせたように200前後になっているのがわかるでしょう。アンドロゲン作用を一定レベル以下に抑えようとしたためにプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の用量が規定されているのです。アンドロゲン作用指数200前後の錠剤を含まないのは、マーベロンだけです。第3世代ピルが、太らないピル・美しくなるピルといわれる理由はこのへんにあるのでしょう。
表 製品別にみたアンドロゲン(男性ホルモン)作用
製品名 |
錠剤毎の含有量(r) |
1周期中の総量(r) |
アンドロゲン作用指数(含有量×活性)
marvelonを100 |
マーベロン(marvelon) |
0.15
|
3.15
|
100
|
オーソM |
1.00
|
21.0
|
196.1
|
エリオット |
0.50
1.00
|
16.0
|
98.0
196.1
|
オーソ777 |
0.50
0.75
1.00
|
15.75
|
98.0
147.1
196.1
|
ノリニール
シンフェーズ |
0.50
1.00
0.50
|
15.0
|
98.0
196.1
98.0
|
トライディオール
トリキュラー
リビアン
アンジュ |
0.05
0.075
0.125
|
1.93
|
81.5
122.2
203.3
|
※生物的ホルモン活性についてはDickey,R.P.(1994)をもとに、rurikoが算出。
▲ページ先頭
■製品別にみたA/P比
こちらを見てください。
■製品別にみた子宮内膜活性作用
上に書いた2つの要因で、低用量ピルのプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)用量は規定されています。プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)用量が異なっても、排卵抑制作用に差はありません。しかし、服用中の子宮内膜維持作用には違いがでてきます。エストロゲンの用量が同じ条件のもとで、プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)が子宮内膜に及ぼす効果を子宮内膜活性といいます。子宮内膜活性作用は、第1世代ピルを1とすると、第2世代ピルで5.1、第3世代ピルで8.7となります。プロゲストーゲン(黄体ホルモン)の含有量と子宮内膜活性作用の強さの積で、それぞれの製品の不正出血を防ぐことのできる度合いを比較することができます。各錠剤に含まれているプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)の量をもとに子宮内膜活性指数を計算すると以下のようになります。
第3世代ピルのマーベロン(marvelon)は、小粒でも不正出血を防ぐ力が最も強いといえるように思います。
表 製品別にみた子宮内膜活性作用
製品名 |
錠剤毎の含有量(r) |
子宮活性作用
marvelonを100 |
子宮内膜活性指数(含有量×活性)
marvelonを100 |
マーベロン(marvelon) |
0.15
|
100.0
|
100.0
|
オーソM |
1.00
|
11.5
|
76.6
|
エリオット |
0.50
1.00
|
11.5
|
38.3
76.6
|
オーソ777
|
0.50
0.75
1.00
|
11.5
|
38.3
57.5
76.6
|
ノリニール
シンフェーズ
|
0.50
1.00
0.05
|
11.5
|
38.3
76.6
38.3
|
トライディオール
トリキュラー
リビアン
アンジュ |
0.05
0.075
0.125
|
58.6
|
19.5
29.3
48.9
|
※生物的ホルモン活性についてはDickey,R.P.(1994)をもとに、rurikoが算出。エストロゲンの用量差は考慮していない。 |