サイコロ・ゲーム・トリック

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サイコロゲーム大会
1000人がサイコロゲームをすることにしました。
6の目が出ると、大当たりで1億円もらえます。
さあ、張り切っていきましよう。

【ルール】

@最大13回まで挑戦することができます。
A一度大当たりがあると、それから後のゲームには参加できません。
B70人の人については、当たり目のないサイコロが使われます。
本人には、もちろん知らせていません。いかさまですね。

【結果表】

確率通りの結果が出ました。
1億円当たった843人の皆さん、おめでとうございます。

 
10
11
12
13
参加者
1000
845
716
608
518
443
381
329
286
250
220
195
174
有権利者
930
775
646
538
448
373
311
259
216
180
150
125
104
当選者
155
129
108
90
75
62
52
43
36
30
25
21
17
当選率%
15.5
15.3
15.1
14.8
14.5
14.0
13.6
13.1
12.6
12.0
11.4
10.8
9.8
当選者累計
155
284
392
482
557
619
671
714
750
780
805
826
843
参加者=サイコロを振った人の数。有権利者=参加者−70。当選者=有権利者/6。当選率=当選者/参加者×100。

「1回目で当たる確率は25%!?」後見記者の記事

 このゲームの取材に来ていた後見記者は、第6回のゲームが終了した時点で大当たりになった619人にインタビューしました。その結果、619人中155人は1回目のゲームで当選していたことがわかりました。そこで、「1回目で当たる確率は25%!」という記事を書きました。さて、後見記者の記事は当たっているのでしょうか?
 後見記者は当選者だけを調査対象にしています。このような調査を後ろ向き調査といいます(過去の結果について調べるという意味)。後ろ向き調査では、全体が対象にされていないので、高い比率が出ます。マスコミは、このような調査を好んで取り上げる傾向があります。

<知っていて言わないこともある?>
 このゲーム、実は妊娠確率を調べたものです。ゲームの1回は1月経周期、13回で1年を意味します。1年間の妊娠確率は85%です。不妊要因のないペアでは、1周期で約1/6が妊娠します(この数字は概数にしています)。1回だけの性交渉であれば、その半分強の8パーセントが妊娠します。1回の性交渉が排卵後の確率も半分はありますからね。
 えっ、1回の性交渉で妊娠する確率は30%と聞いている、って。まあ、それくらい用心した方がいいんだけど、どうですかね?残念ながら、ハネムーンベビーが3割になるということはないんですよ。

「ゲーム前半は当たる確率が高い!?」辺見記者の記事
 このゲーム結果を分析した辺見記者は、「ゲーム開始直後ほど当たる確率が高い!」ことに気づきました。1回目のゲームでは、15.5%が当たっています。回が進むにつれて確率は下がり、13回目では9.8%になっています。辺見記者は、「当たりたいなら前半のゲームに、当たりたくないなら後半のゲームに参加するとよい」とアドバイスしました。
 サイコロは何度も振っているうちに、疲れて当たり目が出にくくなるのでしょうか?そんなことはありません。当たった人はゲームに参加しなくなるので、当たり目のないサイコロを振る70人の割合がだんだん大きくなった結果です。このゲームをずっと続けていけば、70人だけが残ります。そしてこの70人はいくらサイコロを振っても、当たり目は出ないということになります。

<知っていて言わないこともある?>
 辺見記者と同じ間違いがなされたことがあります。1995年に出たレポートは、ピルは世代が新しくなるほど血栓症になる比率が高いと指摘しました。このレポートをわかりやすく言えば、第1世代ピルではサイコロの6が出る確率は1/12なのに、第3世代ピルでは1/3というようなものでした。後ろ向き調査では、新しいものほど結果が誇張されます。ピルの世代間の比較をするのであれば、同じ条件で比較しなくてはなりません。レポートが出た直後から、調査結果の見直しが行われ世代間の差がないことが明らかになりました。
 辺見記者は少しお勉強が足らなかったようです。しかし、悪意のデマ宣伝をしたい人にとって、後ろ向き調査は好都合なデータになります。これから、データを駆使して世論操作をしたい方のために、その方法を教えます。くれぐれも悪用しないようにお願いします。
@一定期間を設定し、その間に血栓症で死亡した人をリストアップします。一定期間中にピルを飲んでいた人としないことがポイントです。こうすることで、かつてピルを飲んでいた人も幅広くピックアップできます。
Aできるだけ新製品が出た直後に近い適当な期間を設定します。そうすることで、新製品の影響をクローズアップすることができます。
B調査期間が長くなりすぎないように注意します。設定期間が長くなりすぎると歪みが補正されてしまいます。目標数のサンプルが得られる最少の期間を設定します。

「一億円長者はサイコロゲーム大会の参加者!?」増田記者の記事
 サイコロゲーム大会の取材に行けなかった増田記者は、1億円当たった人についての記事を書くことにしました。しかし、誰がサイコロゲーム大会で1億円当たった人かわかりません。そこで、1億円以上の貯金を持っている人をピックアップしました。一億円以上のお金持ちに、「サイコロゲーム大会に参加したことがありますか?」とたずねてみました。するとどうでしょう!サイコロゲーム大会に参加したことがある方が、たくさんいることに気づきました。そこでサイコロゲーム大会に参加したことのある1億円長者のリストを作って記事にしました。サイコロゲーム大会に参加して1億円長者になった人って結構いるんだなと話題になりました。

<知っていて言わないこともある?>
 1億円長者にはサイコロゲーム大会で1億円当たった人もいますが、土地を売って1億円持っている人もいました。でも、そんなことを書いたのではサイコロゲーム大会の記事になりません。サイコロゲーム大会に参加すれば、1億円長者になれる印象を与えるように記事を書いたのです。

イギリスでの血栓症死亡者
 「エコロジーと女性」ネットワ−クの吉田由布子さんは、イギリスでの主として血栓症死亡者について調べ「ピルに関連した死亡例(1994.1 - 1997.12)の死因と服用していたピルの成分」をまとめました(参照)。
それによると、4年間で50人の死者が出ているということです。しかも、そのホルモン世代別の内訳は以下のようになっています。
 
第1世代ピル 
5人(10%)
第2世代ピル
16人(32%)
第3世代ピル
29人(58%)

 イギリスのピルユーザーは約150万人です(当時)。したがって、3万人に1人の死者が出ていることになります。第3世代ピルだけ取れば、1万数千人に1人の死者が出ていることになります。これは、これまで行われてきた膨大な疫学調査結果を覆す「大発見」です。(疫学調査については、たとえばこちらを参照)。ぜひともこの研究を続けて、ノーベル医学生理学賞を目指してほしいと思います。
 ノーベル賞とは縁遠い私たちは、サイコロを用意して、6の目が出る確率が1/6以上や1/6以下になることがあるか、試してみましょう。私は右手で振っても左手で振っても、1/6になるような気がします。皆さんはいかがですか?

 日本の血栓症死者数の数字は、見つけることができませんでした。血栓が関係していたかもしれない疾患について平成10年の統計を見てみましょう(参照)。これは死因を分類項目に割り振った統計であって、必ずしも血栓が関係していたというワケではありません。血栓症が関係しているのは、下表の数字の一部です。また、この中には妊婦や中用量ピル服用者が含まれていますが、区別した統計ではありません。血栓症による死者というのは統計に取るのが難しいほど少ないのであって、ピルの服用によってリスクが高くなっても恐れるほどのものではないように思います。

表 平成10年 年齢階級別にみた選択死因分類・性別 ; 単位(人)
年齢階級
女性人口(万人)
慢性閉塞性肺疾患
脳梗塞
心筋梗塞
3疾患合計
100万人当たり
(参考) 交通事故
20 〜 24
445.7
1
3
4
1.8
242
25 〜 29
469.2
1
7
8
16 
3.4
126
30 〜 34
409.5
1
9
21
31
7.6
75
35 〜 39
382.5
0
18
33
51
13.4
65
40 〜 44
391.8
1
21
66
88
22.6
101
45 〜 49
504.6
1
65
176
242
48.0
163
2603.3
7
123
308
436
16.8
772



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