わん家族

 

我が家に残したニーナの子供達はランとムーと名づけられてすくすくと育ちました。

わんこも4匹となると、わんこだけでもひとつの社会が生まれるような感じがします。

とりわけ我が家は日中は人が全員留守になる環境だったので

よけいにそうなっていったのかもしれません。

もちろん普通に1匹で飼われているわんこと変わりはないのですが

そこにもうひとつわんこ社会も共存すると言った感じでしょうか。

ただそういう環境だったせいかランとムーは少しだけ違った感じに育ちました。

私や妹には普通と全く変わらない甘えん坊のわんこなのですが

両親に対してあまりなつかなかったというか

常に一歩引いたようなところがありました。

両親が一歩踏み込むと一歩引いてしまうような、そんな感じ。

両親は「ランとムーはかわいくない。近寄ると逃げる。何もせぇへんのに。」

と言ったりしていました。

そんな風に言われるとなんだかとても不憫になって余計にかわいがるようになり

そうしたらますます私にべったりするようになったりという事もありました。

ボスだとはわかっているけれど、家族だとわかっているけれど

心底べったり出来ない? そんな感じです。

ランは甘えん坊の食いしん坊。

ムーはおっとり控えめなマイペースな子。

小さい頃はよく2匹でおすもうと取っていました。

多頭飼いするのならば、兄弟でもらってきたらいいのでは?

と思うのはチコとニーナもランとムーもそうやってわんことのつきあいを

自然に覚えたような気がするからです。

ランは小さい頃チコにおすもうをしかけよく叱られていました。

「ガゥ、ワンワン」「キャァン、キャン」

おなかを見せて降参するけれどすぐにまた手を出して叱られる。

当時のチコは結構厳しくランをしつけていたような気がします。

食いしん坊なので、自分をお皿のご飯をものすごいスピードでたいらげて

横のお皿のご飯を横取りしようとします。

チコは猛然と怒ります。

そんな風にチコに叱られていじけた時ランをかばっていたのは母親のニーナでした。

ランがニーナのお皿に寄ってきたら、まだ半分ほどしか食べていなくても

残りをランに譲ってそっと去ります。

そんな姿を見て、いくつになっても、どれだけ時間がたっても

ニーナはランの母親なんだな、と思ったものです。

ムーはまったくやっかいをかけることなくいつもマイペース。

いつもいつも4匹の1番後ろで大人しくしていました。

若い頃のムーは人に甘えるということがあまりなかったような気がします。

ムーが実はすごく甘えん坊だったのだ、と知ったのは

だいぶ後になってからのことでした。

控えめなムーなので、じっと我慢していたのでしょうね。

当時はこのあたりのお山にはイノシシなんていなかったし、

人もそんなにお山に入り込んだりしなかったので、

たまに4匹を連れてお山に行き、そこでリードを放してやったりもしました。

もちろん4匹は大喜びです。

チコとニーナが先頭を争うように山の斜面を登ったり降りたり。

その後をランとムーが追っていきます。

そのときの4匹の輝かしい姿と言ったら!

躍動感にあふれた四肢!おめめはきらきら輝いています。

とりわけチコの毛は金色に輝いて風になびき、本当に綺麗でした。

そんな姿を見ていると、こちらまで元気になって幸せな気分になります。

姿が見えなくなっても呼ぶと先を争うように戻ってきます。

「チコ〜!ニーナ!ラン!ムー!」

ザザザァーと斜面が流れ、その土と共に4匹が山の中から現れて

駆け下って来るのです。

「呼んだぁ?」

ハァハァと赤い舌を出して、尻尾をブンブン振り回して。

お山の中に入るまではリード付き。

4匹連れての山道が大変でめったに連れて行ってあげられませんでした。

もっともっと連れていってあげればよかったな。

お散歩は4匹一緒に行きます。

けれど実はその頃は毎日お散歩に行ってはいませんでした。

「庭で自由にさせてるからお散歩に毎日行くことはない」

そう父が言い、そんなもんかな、と思っていた私は週末だけしかお散歩に連れて行きませんでした。

4匹一緒のお散歩は結構大変です。

Gパンのベルトにビニールの袋をくくりつけてう○ちはそこに入れていきます。

みんな一度にう○ちをしてくれたらいいのになぁ、とよく思ったものです。

それぞれがバラバラにう○ちをするので、お散歩は中断が多くなります。

お散歩の時は片手に2本ずつリードを持って、引っ張られないように必死です。

どの子も先頭を行きたがるので、必死で引っ張ってブレーキをかけますが、どんどんペースが速くなります。

おまけにうちの家のあたりは坂道です。

上りはいいけれど、下りは大変。

歩調がだんだん速くなり、ダダダダダーという感じでお散歩は終了になります。

4匹も連れているとご近所のお散歩わんこに出会っても遊ばせてあげるなんてとんでもない!

4匹のうち1匹でも吠えたら連鎖反応を起こすかのように4匹が吠え始め

飛び掛ろうとするので、リードがだんご状態になり

気をつけていないとそのリードに引っかかって私がころびそうになります。

遊びに誘おうと飛び跳ねてもリードはぐちゃぐちゃになってしまいます。

なので、かわいそうでしたが、お散歩わんこを見たら迂回するというようなことがよくありました。

きちんとしつけができていなかったと言えばそうです。

お散歩に毎日連れていってあげなかったので、たまのお散歩ではじけてしまう

というのも当たっているように思います。

今は夕方のお散歩タイムにはびっくりするほどたくさんのわんこが歩いていますが

当時はそんなにたくさんのわんこと出会うことはありませんでした。

わんこ人口もここ数年で急激に増えたような気がします。

お庭ではいつも4匹自由にさせていたので

若い頃はよくかけっこをしたりおすもうをとったりして遊んでいました。

暑い時には涼しい場所を、寒い時には日の当たる暖かい場所を、

それぞれが自分で選んで寝そべっていました。

犬小屋を数箇所作ってあって、寒い冬の夜はめいめい好きな場所を選んで寝ていました。

夏はお庭のあちこちで大の字になって。

人が外出から帰ると4匹がいっせいに

「ワンワン」「ウォーン」

とても賑やかでした。

そんな時1番先に離れていくのはチコです。

あいさつを済ますとすたすたと戻って行きます。

ランとムーはいつまでも私の周りをぐるぐると回り、

尻尾をフリフリ、お耳を下げて「ウォーン、クォーン」と大合唱です。

「あの犬のたくさんいる家」というのが近所で我が家を言う時の説明になっていました。

シャンプーがまた大変です。

わんこのシャンプーにお風呂場を使わせてもらえるようになったのは10年ほど前のこと。

だからチコの生涯でいうと前半の半分はいつも庭で洗っていました。

家中のバケツやたらいを集めてきてそこにお水(お湯)をいっぱいに入れておきます。

1匹ずつシャンプーをするのですが、シャンプー後綺麗に拭いてあげることも

もちろんドライヤーをかけてあげることもしんどくて出来ません。

だからと言ってそのまま庭に放すと、わんこはすぐに土の上に寝っころこんしてしまって

せっかくのシャンプーなのにあっという間に砂だらけになってしまいます。

なので、洗った子はざっと拭いてあとは順番に屋上で天日干し。

どの子もシャンプーは嫌いです。

1匹目はいいけれど、2匹目からはつかまえるのが大変なのです。

庭中をわんこを追って走り回る結果になります。

やっと4匹のシャンプーを終えた頃には私の腰は伸びなくて

よっこらしょ、どっこいしょ。

へとへとになっていました。

獣医さんに行くのも一仕事です。

近所に獣医さんが出来るまでは徒歩45分の獣医さんに通っていました。

毎年のフィラリアの検査の日には母と妹と「今日は絶対に早く帰ってくること」と約束して

3人で4匹を連れて行きます。

チコの車酔いがひどかったせいで、わんこは車が苦手だと思っていたので

車で行くことなど、ましてや4匹も乗せていくなんて考えもしなかったので

いつも歩いて行っていました。

湿度の高い季節に45分歩くのですから、着いた頃には汗だくになっています。

獣医さんでそんな汗だくの飼い主さんなんて見かけませんでした。

少し恥ずかしかったかな。

待合室で待つこともありませんでした。いつもお外で順番を待っていました。

名前を呼ばれると4匹を連れて診察室へ。

「さぁだれから検査してもらう?」

医療費も結構大変でした。

最低限度のことしかしてやれていないのに。

「わんこ基金を、寄付を」とよく両親に両手を広げて頼んでいました。

検査を終えてまた45分歩いて家に帰ります。

とっぷりと夜、おなかはぺこぺこ、これまたへとへとの1日になります。

普段はお庭で自由にしている4匹ですが、

来客のあるときなんかはそうはしていられません。

「ハウス!」という声でいっせいに駆け出して

庭にある<わんこの庭付き一戸建て住宅>に入ります。

おすわりとお手しかできないわんこたちでしたが、こういう日常的なことは

特に教えたわけでもないのに、自然出来ていました。

1匹でもその意味が理解できるとあとの3匹はそれについて覚えるのだと思います。

こういう物覚えはニーナが1番先でした。

ニーナはとても賢い智恵の働くわんこでした。

チコ、ニーナ、ランが人を呼ぶときは「ワンワン」と呼びます。

ムーは「クーン」と聞こえるか聞こえないかのような小さな声で呼びます。

ニーナとムーは雷が怖くて、人がまだ雷に気づかない頃からブルブルハァハァと大変でした。

「おうちに入れて〜!」とガリガリとよく戸を引っ掻いていました。

チコとランは全く平気。「何が怖いの?」てな感じで

おうちに入れてもらったニーナとムーの後をちゃっかりとついてきて

尻尾をフリフリ愛想を振り撒いていました。

わんこの楽しみと言えばお食事。

当時は1日1回でした。

昨今、ドッグフードの品質があれこれと言われ、その子その子の体質に合ったものを

と考えますが、当時の我が家ではそんなことは一切なしでした。

お米屋さんが持ってきてくれるドライフードはどの子も食べませんでした。

スーパーに行って一番大袋で安いものをせっせと捜すのです。

そのドライフードに人間ご飯の残り物が普段のメニュー。

たま〜にお給料日には一番安いお肉を買ってきてそれを茹でて

ドライフードにぶっかけご飯。

ごくごくたまにこれまた一番安いジャーキーを買ってきておやつの時間。

おやつをあげる時にはその個性がよくわかります。

チコとニーナは並んで<私が先で当然>とばかりに私の前にお座りします。

ランはそんな中に割って入ろうとします。

あげようと手を伸ばすとこの3匹はとびついてきたりすることがあります。

ムーはそんな3匹の後ろで尻尾をふりながらじっと自分の番を待っています。

いつも一番後ろで自分の番を待って微笑んでいる、それがムーでした。

わんこの中に順位はあったと思います。

順位はあってももめるような事はなく、きちんと最後まで変わることがなく、

(多少のいざこざはランやムーが大人になる頃にあったようですが)

仲良く暮らしていました。

多頭飼い、うまくいけば飼い主はラクな面があります。

わんこはわんこ同士で遊んでくれますから。

わんこ同士で遊んでいる姿は見ていてとても楽しいものです。

家族全員が働いていて、深夜までの残業も当たり前、

おまけに私は自分のお給料を手にすることで初めて余裕が出てきて

自分が遊ぶことに夢中だった当時

そんなわんこ同士のつきあいに甘えて、あまりかまってあげることがありませんでした。

いてくれて当たり前の存在だったのです。

わんこたちも寂しそうにしていなかったと思いますが

もしかしたら私が気づかなかっただけなのかもしれません。

今のマリンとの接し方を思うと、自分が大人になり、年を取ったということなのだろうな、と思います。

もっとかまってやれば良かった。

不満ではなかったでしょうが、かまってもらえればもらえるほど喜んだだろうな

と思います。

もしかしたら多頭飼いではなくて1匹で飼われていたら、もっと幸せだったかもしれない、

と昔を思い出して思うこともあります。

どの子を見送るときにも私はあやまってばかり。

けれど何を思ってもチコもランもムーもおそらくニーナも今ではお空の住人です。

きっと4匹で幸せに元気いっぱいに走り回っていることだろうと思います。

いつかまた会える・・・

チコ、ニーナ、ラン、ムー

可愛い4匹の天使たち