ニーナの出産
我が家では庭でわんこを放し飼いにしています。
それはチコとニーナを迎えてから今日まで変ることなく続いています。
庭で放し飼いにするために脱走しないようにとブロック塀の上にフェンスを積み上げました。
けれど1箇所だけ気になりながらも当初そのままになっていた箇所がありました。
2軒あるお隣さんのうちの1軒の囲いが生垣だったのです。
我が家のあたりは山の裾野で隣の敷地とかなり高さに違いがあります。
我が家はそのお隣からすると1M以上も下になり、
その1M余りの部分は石垣でその上は生垣になっていました。
まさかお隣にちゃんとした囲いをしてください、というわけにもいきません。
石垣の上にこちらからなにかするという方法も考えつかず、
まさか1Mの石垣を登って脱走することはないだろう、と結局そのままにしていました。
ところが、その箇所がニーナから新しい命の誕生を見ることになりました。
チコとニーナが1歳を過ぎた頃
母が「 今日帰ってきたら庭に知らない犬がいた 」 と言うことが数回ありました。
「ふ〜ん。どこから入ったんやろ?」
不思議に思いながらも、私は深く気にしていませんでした。
どうやらわんちゃんは隣のお家の庭を通りぬけて生垣から飛び降りたようでした。
今から思えばうかつですが、それまで犬は男の子しか飼ったことがなかった私は
妊娠への注意などまったくしていなかった、考えついていなかったのだと思います。
しばらくして 「 ねぇねぇ、ニーナ最近ちょっと太ってきたね 」
という話題が時々家族の間に起こるようになりました。
チコはそののんびりゆったりした性格のせいかコロコロしていましたが、
ニーナはしっかり者でちょっと神経質でそのためかとてもスマートだったのです。
そしてまたしばらくして 「ねぇ、もしかしたらニーナおなかに赤ちゃんがいるんじゃない?」
「なんかおなかがぽっこりしてない?」 ということになったのです。
望まれない命は誕生させないように、という風潮の今からすれば問題ですが、
当時の私はとてもうれしくてわくわくしていたと思います。
だって、赤ちゃんです。それもたぶん1匹じゃない。ころころかわいい子犬が我が家に誕生するのです。
たくさんわんこの健康に書かれた本を用意して、熱心に妊娠・出産のページを読みました。
「 わんこは安産だと言われるが小型犬だとひとりでは産めない場合がある 」
・・・よしよし、大丈夫。私が手伝ってあげるよ ・・・
「 落ち着いて出産できる産室を用意しないといけない 」
・・・ チコもいるしなぁ。庭のわんこ部屋じゃ無理やな。 物置に作ろう ・・・
物置の一角の床をあげて、そこにダンボール箱を置いて新聞紙を敷いて、
古着や古毛布をたくさん用意しました。
そして同時にやがて生まれてくるであろう子犬たちをもらってくださる人を捜さないといけません。
どんな赤ちゃんが生まれてくるかな。でも生まれてからじゃ遅いかもしれないしな。
私は父親がどんなわんこなのか知りません。
母は2匹庭に侵入したわんこを見たようですが、
どのわんこが赤ちゃんたちのお父さんなのか検討がつかない様子。
ニーナに似たかわいいふさふさの子犬だといいな、そうに違いない。
そう自分の希望を託して、ニーナの子犬時代と今の写真を持って
「 これがお母さん犬なんだけど、
たぶん3月の終わりくらいに生まれるから、ゴールデンウィークくらいには 」
と説明をして里親さん探しをはじめました。
両親や妹も同時に里親探しをはじめ、子犬の誕生前に4人の里親さんを確保しました。
4人の里親さんを確保したあたりで
「 いったい何匹生まれるんやろ? 」
ということになり、とりあえずここで中断ということになったのです。
さて、その日は本に書かれた通りにやってきました。
ニーナの様子と出産について書かれてある本とまったく一緒の様子です。
「 今日やよ。絶対に今日生まれるから。」
そう両親や妹に宣言し、私もそわそわとニーナの産室を出たり入ったり。
土曜日か日曜日でした。
あいにくその日私は学生時代の先輩で長く海外に暮らしていらっしゃった方が
一時帰国されてきており、その集まりがありました。
どうしよう。。。ニーナについていてあげたいし、けど、ドタキャンしたら迷惑がかかるし。。。
結局私は断りの連絡を入れることができず、ぎりぎりまでそばにいて
妹に 「 様子を見ててね 」 と頼んで外出しました。
楽しい集まりでしたが、ニーナのことが気になって仕方ありません。
途中で何回電話を入れたことか!
「 ニーナどう?まだ生まれない? 」
「 今ね2匹生まれてるよ 」
「 ニーナ、大丈夫? 」
「 うん 」
やったぁ! わんこってすごいです。
だれにも手伝ってもらわず、教えてもらうこともなしに、ちゃんと出産するのです。
まだ1歳半のニーナがちゃんとお母さんになったのです。
夜私が戻った時には4匹のお母さんに、朝起きてみたら6匹のお母さんに。
なんだかねずみみたいです。
生まれたての子犬はまだ犬らしいお顔をしておらず、ちょっとへんてこりん。
そしてお母さんになったニーナはさすがに疲れた様子ですっかりやつれていましたが
満足げで、誇らしげ。
「 ニーナ、赤ちゃん見せて〜 」 というと、ちゃんと見せてくれます。
「 なんか毛が短いね。生まれたばっかりやからかな。 」
「 もうちょと大きくなったらニーナみたいになるかな。 」
大きくなったら・・・お父さんがわかりました。
あの柴犬君。近所の長屋に暮らす柴犬君です。
残念ながら毛並みはお父さんに似たようで、ニーナのようなふさふさにはなりませんでした。
顔つきはお父さん似もいればお母さん似もいます。
どんなお顔をした子犬でもかわいくってしかたない。
さて、やがて目が開き、よちよちと産室を出るようになり、兄弟でおすもうを取るようになり、
日に日にかわいさは倍増していきます。
「 6匹やからあとふたり里親さんを見つけないといけないよ 」
「 そうやね・・・ 」
だんだん手放すのがいやになってきていました。と同時にやはり里親探しは大変な作業でした。
2匹も4匹もかわらないんじゃない? 残った2匹はここにおいておいてもいいんじゃない?
結局だれも里親さんを捜そうとはせず、ついに子犬たちの旅立ちの時期がやってきました。
「 きゃぁかわいい! どの子にする? 」
賑やかな騒動の末、1匹、また1匹と新しい家族の元へ旅立っていきます。
ニーナを抱きしめて涙をこらえてじっと見守ります。
ニーナは特に大騒ぎをすることもなく黙って見送っていました。
そうして残ったのがランとムーです。
ランは後に 「 この子を見たらお父さんがすぐにわかるね。瓜二つやね。」
「 これではお父さんは知らんとは言われへんね。」
と近所の人から言われるくらいにお父さんそっくりのわんこに成長しました。
ニーナの子供達は今どうしているのでしょうか。
生きていれば16歳です。
我が家に残ったランとムーはすでに虹の橋で暮らしています。
2002年現在、今も元気で暮らしていることがはっきりしているのは、叔母の家にもらわれていった
唯一の男の子のコロだけです。
マリと名づけられ、友人宅にもらわれていった女の子も虹の橋で暮らしています。
残る2匹は、今の様子がわかりません。 ランディちゃんともう1匹。
元気で幸せにしていてくれたらいいんだけどな。
虹の橋に旅立ったのなら、最後まで幸せにいっぱい愛されての旅立ちだったらいいな。
もう2度と私はかわいい子犬たちに囲まれて過ごすことはないと思います。
あの当時は何も考えていませんでしたが
生涯でたった1度でもかわいい子犬たちに囲まれた時間を過ごす機会に恵まれてよかったな
と今私はニーナにそしてその子供達に、また当時の環境にとても感謝しています。