ペスとかくれんぼ

 

 

 

私と妹とペス、とてもお気に入りの遊び、それがかくれんぼです。

鬼はいつもペス。 春休み、夏休み、お留守番ばかりでタイクツな私たちは

庭にペスを放し、ペスとよく遊んでいました。

鎖を解いてやるとペスは大喜びで庭を走り回ります。

その間に私と妹はどこかに隠れるのです。で、大声で 『ペス〜!』 と呼びます。

ペスは大急ぎで戻ってきて声を頼りに私たちを捜し回るのです。

『みぃつけたっと!』 ひとり見つけてしっぽをふりふりワンワン喜んでいたら、

もう一人が呼びます。 『ペス〜!』 ペスは別のひとりを捜すためにまた庭を

走り回るのです。その間にまた隠れる。これの繰り返しです。

ペスはあきることも、怒ることもなく、何回でも付き合ってくれました。

たまたま偶然見つけた遊びだったのですが、面白くてよく妹と 『かくれんぼしよか?』

とペスを巻き込んでやっていました。

とても楽しかった思い出なので、新しいわんこを迎えるたびに

『かくれんぼ、してみよう』 と思い、試してみますが、ペスのように一生懸命捜して

くれるわんこはいません。たいていは呼べば来るけれど、それをかくれんぼとして

遊びとして受け取っているようではなく、『なぁに? 何か用事?』みたいな感じで

かくれんぼの楽しさがないのです。ペスの後に来たロンに至っては呼んでも全然

来てくれませんでした。 ペスにとって、私たちは妹だったのでしょうね。

お兄ちゃんが妹達の遊びにつきあってやっている、子供の相手をしている、

という感じだったのではないかな、と思います。

当時我が家の付近はのどかな田園風景の広がる小さな村でした。(住所表示は町でしたよ)

表の道路に面して左右1件づつ家が建ち、その家の裏口を抜けるとずーっと田んぼが隣町

 

 

 

 

まで広がっているという環境です。 隣町、田んぼ、家、道路、家、田んぼ、隣町 という感じ。

我が家も裏木戸を出ると、すぐに田んぼです。秋になり、稲の刈り取りが終わったあとの

田んぼでよくペスを放してやりました。たいていは日曜日の夜、父と一緒にペスを連れて

田んぼと田んぼの間の道を行き、途中でペスを放してあげるのです。

ペスはとぶように闇の中に消えていきます。

私と妹は刈り取ったわらを積み上げたその影に隠れて、またしてもかくれんぼを

始めます。 『ペス〜!』 ペスは必ず戻ってきて、私たちを捜してくれました。

月明かりと星の輝きの下で、ころげまわるような鬼ごっこやかくれんぼ。

走りころげる子供たちとわんこ。 今でもしっかりその様子は覚えています。

今では稲刈り後の田んぼであっても、もう自由に入ることなど出来ません。

そんなことをしたら叱られてしまいますよね。当時はそんなことを気にすることも

ありませんでした。稲刈り後の田んぼは子供達の遊び場所でしたから。

学校からの帰り道だって、近道だからと田んぼを横切って帰ったりしていました。

のんびり、ゆっくり、ほんわかとした時代でしたね。