第5話 蜂はキケン!


夏になるとあたちのおうちのお庭にはいろんな虫さんがやってきます。
あたちはそんな虫さんを捕まえるのが得意です。
カエルさんだって、トカゲさんだって、ヘビさんだって、セミさんだって
とっても上手に捕まえられます。



もうずぅっと前の夏の日の夕方
あたちはお庭でじぃちゃんのお仕事のお手伝いをちていまちた。
おかあさんが「ご飯だよ。」とじぃちゃんを呼びに来て
おうちに入ろうとちたときのこと。
ブゥーンブゥーン
あたちの頭の上でなにやらうるさい虫が飛んでいまちた。
あたちは「うるさいわよぉ!捕まえちゃうから!」
とピョーンとジャンプちてパクッとお口で捕まえたのです。
その時その虫さんが最初で最後の攻撃をしかけてきたのです。
チクッ!
あたちのお口の中を刺したのです。
「いてっ!」
そう思いまちたが
「ぜぇんぜんへっちゃら。大したことないわねぇ。ご飯!ご飯!」
おかあさんたちがご飯を食べ終えたらあたちのご飯の時間です。
あたちは勝手口のところで大人しく待っていまちた。
なんだかお目目の下が腫れぼったいような気がちたけれど大丈夫だよ。
そう思っていまちた。
ご飯を食べ終えたおかあさんが「マリン、お待たせ。ご飯にしよか。」とやってきて
「あれ〜?マリン、目の下が腫れてるよ。」
「どうしたのかな、虫に刺されたのかな。」
おかあさんはあたちの顔をじぃっと覗き込んでいまちたが
「わからないなぁ・・・」
「おかあさん、そんなことより、ご飯!おなかすいたよぉ!」
ところがご飯を食べ終えてしばらくするとお顔の半分がぷくっと腫れてきたのです。
どんどんどんどん腫れてきて、ついに顔がまんまるぷくぷく。
お目目は半分くらいふさがってちまって、唇はたらりと垂れ下がってちまって
とにかくとっても気持ち悪かったです。
「おかあさぁん、お顔がへんなの。気持ち悪いの。」
あたちはおかあさんの身体にお顔をこすりつけて
「助けて〜!なんとかちてぇ!」
夜中になるとなんだか気分も悪くなってきまちた。
おかあさんはあたちがその頃いつも寝ていた離れの廊下でずっとそばにいてくれまちた。
「マリン、貧血起こしてるの?お口を開けて。」
あたちの舌はいつもより白く見えたのだそうです。
おかあさんは大慌てで「夜間救急病院」に電話をして、診察の予約をいれまちた。
じぃちゃんが起きてきてぶぅぶを運転ちてくれて
真夜中に知らない町の病院へ行きまちた。
あたちはなんだかとっても怖くなってちまって
おかあさんが受付をちている間に待合室でいっぱいおしっこをちてちまったの。
受付が終わると看護婦さんがたくさん診察室から出てきて
「きゃーホント!すっごく腫れてるぅ!」
あたちは緊急だからとすぐに診てもらったけれど
どう考えてもあのときの看護婦さんたちはあたちの顔をみて笑ったと思うの。
おかあさんは「今はブルドッグみたいな顔だけれど、本当はべっぴんさんなんです。」
って点滴の間に看護婦さんに言いまちた。
(ブルドッグさんごめんなさい)
看護婦さんは「今も美人さんですよー。」って言ってくれたけど
笑ったくせにぃ! ぜったいにへんなお顔だったんだと思います。
血液検査や点滴や注射をしてもらって、やっとおうちに帰って
少し寝たら朝になりまちた。
注射が効いたのか、腫れはだいぶマシになっていまちた。
「マリン、大丈夫ね。」
おかあさんはほとんど寝ていなかったと思うけれどお仕事に行ったよ。
その日の夕方にはもう普通のお顔になっていたけれど
念のためとナオおばちゃんがあたちをかかりつけの獣医さんに連れて行ってくれまちた。

<蜂に刺されても大丈夫な子もいるけれど
 ショック症状を起こす子もいるので要注意です。
 マリンちゃん、もう蜂をぱくってしたらダメですよ。>
そうお医者さんに言われまちた。
お母さんからは「もう自家用救急車の出動はいやだよ。」って。
なのでしばらくは蜂パクはちなかったけど
最近また時々パクってちてちまうあたちでちた。
でもあたちにつかまる蜂さんって、どんくさいわよね。
最近はなかなか捕まえられないわ。

おかあさんは
「写真に撮っておけばよかったなぁ。大笑いできるような情けない顔だったのにね。」
って言うの。
しつれいねぇ。あんなお顔の写真が残っていたらあたち恥ずかしいわよ!

(2003年4月20日)