初めての獣医さん

 

ロンが我が家にやって来て、まず1番にしないといけないことが獣医さん捜しでした。

ペスの時にはどこに獣医さんがあるのかさえも知らなくて、おろおろしてしまったのですが、

今回は時間に余裕もあることだし、<歩いていけるところ> にないかと捜しました。

当時の我が家で車の免許を持っているのは父だけ。

父は今でこそスーパーへのお買い物だって獣医さんだっていやな顔ひとつせずに

行ってくれますが当時は考えられないことだったので、私や妹が連れていける、

歩いていける場所に獣医さんがないならば、また往診しか方法がないわけです。

あった! ありました。歩いて45分くらい。駅のまだずっと向こうですが、歩いていけない

距離ではありません。 よし!オーケー。

ペスの二の舞はさせない。ロンには絶対に長生きしてもらいたい。

まずは予防接種です。あの頃は何だったかな。2種だったかな。

それとも単にジステンバーの予防だけだったかな。

歩いて45分というと結構くたびれます。

妹と相談した結果、自転車1台にふたりが交代で乗り、残るひとりがロンのリードを

持って歩き、途中で自転車の係とロンと歩く係を交代しようということになりました。

それなら、ひとり20分ちょっと歩くだけだから、しんどくないよね。

ところがあと15分くらいで獣医さんに着くというところあたりで

ロンが歩かなくなってしまいました。

『 ロン? ロン? どうしたん? 』

ロンは図体がでかかったので、あまり子供だと言う気がしなくて、歩けるもの、と

思いこんでいました。 けれどやっぱり子犬だったのです。所詮生後3ヶ月は3ヶ月。

そんなにたくさんの距離を歩いたこともなかったし、くたびれてしまったのでしょう。

仕方ありません。

ごめんね、ロン、そんなたくさん歩けないよね。

私が自転車をこぎ、妹が大きな図体をしたロンを抱きかかえ後ろに座ります。

ふらふら、フラフラ、よたよた、自転車はちょっと危なっかしい動きで進みます。

さて、その獣医さん。

私も妹もそのときが獣医さんへの通院は初めての体験でした。

ドキドキ・・・ドキドキ・・・ 何言われるのかな。ロンは大丈夫かな。

まずは検便。

『これは・・・野菜便やなぁ。』 

『犬は肉食ですから、野菜はいらないです。自分の体内でビタミンCも作れるんです。』

『この子は秋田犬のオスですから、どんどんお肉をあげてください。大きくなります。』

野菜便・・・その言葉だけで思いっきり傷ついてしまいあとのことはあまり覚えていません。 

注射してもらっただけだったかな。 

私はロンの健康のために、と、自分達の健康を気遣うのと同じ考えで、

野菜も食べないとダメだよ、と、ロンのごはんにいつも小さく刻んだ野菜を入れていたのです。

ところがそれが採取された便の中に未消化で残っていたのです。

なんだか貧しい食生活を指摘されたようで、とにかくはずかしくて、

早く家に逃げ帰りたくて仕方がなかったことを覚えています。

ところで今の獣医学でいえば、犬は肉食とは言いませんよね。

猫は肉食だけれど、犬は雑食っていいますよね。

それに野菜だって必要だと言われていますよね。

フードにだって野菜は混ざっていますよね。

でもそのときは先生がそうおっしゃったのです。

だから私は随分長い間、そう信じていました。

わんこは肉食、野菜はいらない、って。

時代の流れと共にどんどん進む獣医学。

まめに頭の中を更新させないと間違いをそのまま信じて失敗してしまうこともありそうですね。

『ロンはとても大きくなるらしいから、たくさんお肉を食べさせないとアカンねんて。』

『そんなに大きくなられたら大変やんか。あんまりご飯を食べ過ぎないようにさせないと。』

ん?ごはん控えめ? 

ロンはみるみるどんどん大きくなりました。やっぱり秋田犬の男の子。

りっぱな体格になりその力はとても強かったです。

お散歩はひとりで連れて行くときもありましたが、妹とふたりで行くこともありました。

そういう時はリードを2本ロンにつけるのです。それでそのリードを1本ずつ持つのです。

これだと引っ張られてころんだりはしませんでした。

ただ細い道で並んで歩けない場合はちょっと歩きにくかったな。

ロンにはペスを同じ思いは絶対にさせない。

フィラリアには絶対にかからないようにしないといけない。

フィラリア、フィラリア、フィラリア。

当時の予防薬は夏の間1日1回、毎日欠かさず、でした。

他の部分で手を抜いてもそれだけはしっかりしっかりしていました。

これさえ予防すれば・・・という思いがありました。

電気で光に集まってきた虫をパチパチと落とす装置も取り付けました。

ロン、ロンはペスの分も長生きするんやよ。

それが私の願いでした。 自分の無知のために死なせるのはもう絶対にいやだったから。

そしてロンは元気でした。

おっとりのんびりおおらかなロン。

ほんとに、元気だったのに・・・・・