第8話 ニーナがいなくなった



あたちたちが9歳の時のこと。
ニーナは若い頃はよくおうちを抜け出してひとりで遊んでいたけれど
この頃にはめったにおうちを抜け出すことはありませんでちた。
大人になってしてはいけないことだってわかったのかもちれません。

あの日、ニーナが何を思って、何を考えていたのか
あたちにもさっぱりわからない。
あたちはすぐに思ったことをおしゃべりちてちまうけれど
ニーナはじっと自分の心に思いを秘めている子だったから。



おうちを抜け出すのはいつも昼間と決まっていたのに
あの日は夜になっておでかけちていくニーナを見たの。
「こんなに遅くにどこに行くのかちら。」
ちょっと気になったけれど、しっかり者のニーナのことだし
すぐに帰ってくると思ったの。
だから何も言わないで見送ったよ。
けれどニーナは帰ってこなかった。
夜遅くになっても、朝になっても、ニーナは帰ってこなかった。
人間家族は大騒ぎになっていたわ。
そりゃそうよね。今まで1度もこんなことはなかったもの。

おとうさんもおかあさんものりちゃんもなおちゃんも
一生懸命ニーナを捜していた。
あたちたちもお休みの日には一緒に捜しに行ったわ。
もちかちたら、ニーナのにおいがわかるかもちれない・・・
あたちもランもムーも普通なら行かないような遠いところまで
捜しにいったの。
クンクン・・・ニーナのにおいしないかちら。
こっちはどうかな。
あたちたちはニーナがおうちを抜け出してどこで遊んでいるのか
だれも知らなかったから、あてずっぽうにあちこち捜すしかなかったの。
お山で遊んだことが楽しかったから、お山かも・・・
そう思って普段は行かないようなお山の奥にも捜しに行った。
雨の日も、雷の日も、みんなの心配をよそに、ニーナは帰ってこなかった。
もうどこを捜したらいいのかもわからなくなってしまっていたわ。
神社にお願いにも行ったけど、ニーナは帰ってこなかった。
待っているしかなくなってちまった。

そちてそれっきりニーナに会うことはなかったの。
ニーナはさよならも言わないで行ってしまった。
あたちの自慢の妹はどこへ行ってちまったんだろう。




お別れをするときにはきちんとさよならを言わないといけない。
何日たっても何ヶ月たっても、心配ちて
悲しむ家族を見てあたちはそう心に誓ったよ。
だまってどこかに消えてちまうのは1番悪いことだよね。
最後の時には「ありがとう。さようなら。」
って言うことにしようっと思ったの。