第18話 お別れ

頑張ってもお散歩に行くだけの元気がなくなってちまったあたちは
お庭散歩をすることにちたの。
ゆっくりゆっくりお庭をお散歩。
いつもおとうさんかおかあさんかのりちゃんが
一緒にお散歩ちてくれた。
だんだんとあんよがふらふらになってきて
時々よたよたと転びそうになってちまったりちたけど
それでもあたちは一生懸命お庭をお散歩ちて
おしっこもう○ちも自分でしたよ。



のりちゃんは夜のほとんどの時間をあたちのそばで
過ごしてくれた。
甘えん坊のマリンはそんなときちょっと前までは
「ワンワン、あたちと遊んでよー。」
って言っていたけど
その頃にはもう何も言わなくて晩御飯が済んだら
ひとり寝床でまぁるくなって夜を過ごしてた。
今になって思うんだけれど、マリンはきっととっても寂しかったと思う。
お空でムーに会ったとき、ムーが言ってた。
「マリンちゃんね、毎晩いっぱい我慢ちてたよ。」
「とってもとっても寂しそうだった。」
って・・・
ごめんね、マリン。のりちゃんを独占しちゃったね。



だんだんピクピクがひどくなっていって
あんよやおててだけじゃなくなってちまって
身体全部が飛び跳ねるようになってきた。
背中も頭も、あたちは何もちていないのに
勝手にピョンピョン飛び跳ねるの。
朝も昼も夜も・・・
眠りたいのに眠れない。
寝てるのか起きてるのか自分でもよくわからない時間が続くの。

そしてついにあたちはひとりでは立つことも上手にできなくなってちまった。
2、3歩歩いたら、ふらふら、パタンって倒れてちまう。
一生懸命あんよに力を入れようと思うんだけど
思うように身体が動かないの。
お目目を開けているのもつらくなってきた。
おなかに布を巻きつけてみんなに引っ張りあげてもらって
やっとお散歩、おしっこ、う○ち。



ご飯も自分では食べられなくなってちまったよ。
のりちゃんが注射器でお口にいろんなお汁を入れてくれるの。
「ごっくんして。ちぃちゃん、ごっくん。」
けど、なかなかごっくんが出来ないの。
どうちて出来ないのかわからないけど
ごっくん出来なくてほとんどお口から流れて出てちまう。
それでも何時間もかけていっぱい休憩しながら
「ちょっとでもお口に入りますように。」
「ちょっとでも元気がでますように。」
って、ハチミツミルクとか、流動食とかいろいろ食べさせてくれたよ。

お空に来る前の日
のりちゃんが抱っこちてお庭にあたちを連れていってくれた。
ぽかぽかとお日様がやさしくて
「あぁ、もう春がきたのかちら。」
「あたち、春まで頑張れたのね。」
って思ったの。
春の気配がちたのよ。
でもまだ本物の春は遠かったのよね。
あれは神様があたちにプレゼントちてくれた
特別な春だったのだと思うわ。

最後の日は朝からとってもちんどかったわ。
息をするのもつらくって
身体のぴくぴくはとだえることがなくて
全身が飛び跳ねるの。
お目目を開けているのもちんどかったし
お目目を開けても何も見えなかった。

のりちゃん・・・もうあたち頑張れないかもちれない。



のりちゃんは朝からずっとそばにいてくれてた。
においと感触でのりちゃんだってわかったわよ。
のりちゃんはおとうさんと相談ちてた。
「お医者さん連れて行く?どうしよう・・・」
のりちゃんもあたちが限界まで頑張ってるってことが
わかったみたいだった。
「何か少しでも楽にしてあげる方法があるかもしれない」
そうおとうさんが言って、その日もあたちはお医者さんに行ったの。
あたちはもう何もわからなかった。
ただちんどくて苦しくて。
のりちゃんはお医者さんと長い時間相談ちてたよ。
注射するかちないかって。
その注射はね、打つとあたちの苦しさが少しマシになるんだって。
だけど、きついお薬だから
もしかしたらそのままあたちが死んでしまうかもしれない
って言われたみたい。

静かな時間が流れてた。
あたちははぁはぁちながら
「ねぇ、おうちに帰ろ。おうちに帰りたい。」
のりちゃんに、おとうさんに一生懸命心でお願いちたのよ。
もうすぐお別れの時がくる。
おうちでみんなにさよならちたい。
そう思ったの。

あたちは少しだけそのきついお薬の注射をちてもらって
おうちに帰った。
それからしばらくちてあたちはすぅすぅねんねちた。
楽しい夢をたっくさん見たわ。
ニーナやランやムーとかけっこちてる夢。
みんなでおすわりちて、おやつをもらっている夢。
ちっちゃなマリンがあたちを追いかけてる夢。
みんな、笑ってる。
おとうさんもおかあさんものりちゃんもなおちゃんも。
ずっとつらかったピクピクもなくて
苦しくもなくて
すぅすぅ・・・
ほんの少しの時間だったけれど、とっても気持ちよかったの。
のりちゃん、注射のおかげだね。
ありがとう。
お目目が覚めたときのりちゃんはそばにいてくれて
「ちぃちゃん、もうおっきしちゃったの。」
って心配そうに抱っこちてくれたから
あたちはそう言ったよ。

お昼が過ぎて、なおちゃんが来てくれた。
「ちょっとくらい食べられない?」
「これは?あれは?」
なおちゃんはいろんなものをお口に入れてくれたけれど
あたちはもう何もごっくんできなかった。
帰り際に
「また来るからね。待っててね。これおいとくからね。」
って、車の座席に敷いてあったお座布団をあたちの下に敷いてくれた。
なおちゃんのにおいがちた。
クーン、うれしかったよ。
「しんどいかもしれないけれど、ちょっとだけ抱っこさせてね。」
そういってなおちゃんは抱っこちてくれた。

あ・り・が・と・う
今日までホントにありがとう。
遠いのに何回もお見舞いに来てくれてありがとう。
いろんなことをちて遊んだよね。
お散歩にもいっぱい一緒に行ったよね。
いっぱいなでなでちてくれたよね。
楽しかったよ。
なおちゃんに抱っこちてもらっている間に
あたちはなおちゃんに「ありがとう」って伝えたよ。
なおちゃんは何回も何回も
「また来るから」
って言ってたけれど
きっとそのときがお別れだってわかってくれたと思う。

なおちゃんが帰っていって
あたちは大事なことをひとつ果たしたような気分がちたわ。
あと少し、もう少し、頑張って
おとうさんとおかあさんとのりちゃんにさよならを言わないと。
のりちゃんは心配そうにずっとあたちのそばにいてくれた。
その頃ののりちゃんはすぐにぽろぽろ涙をこぼしていたわ。
大丈夫?あたちがいなくなっても大丈夫?
のりちゃん、あたち一杯頑張ったよ。
もうさよならちてもいいよね。

きっとのりちゃんはわかっていたと思う。
もう一緒に過ごせる残された時間はほとんどないってことを。

だんだん息が苦しくなってきて
あたちはお口をあけてふぅふぅってするようになってちまった。
そんなあたちを泣きながらみていたのりちゃんは
そっとあたちのそばから離れてお庭に出て行ったの。
のりちゃん、どこに行ったのかちらってちょっと寂しくなった。
しばらくちて戻ってきたのりちゃんは
「もうすぐムーが迎えに来てくれるから
そうしたら一緒に行っていいよ。」
って言ったよ。
「ありがと、ね。もう頑張らなくていいからね。」
って。。。
そしておとうさんとおかあさんに
「ちぃちゃん、息が荒くなってきた。」
って伝えたの。

のりちゃん、ムーのお墓に行ってたのね。
ムーにあたちを迎えに来てくれるようにお願いちてくれたのね。
のりちゃん、あたちがいっぱい頑張ってた事
もうさよならだって事
ちゃぁんとわかってくれたのね。

ありがとう。
17年間ありがとう。
楽しい思い出がいっぱいだよ。
最後は優しく看病ちてくれてありがとう。
お別れの時間が来たんだよね。
みんなありがとう。
ほんとにありがとう。

気がついたらムーが目の前に立っていたの。
あれ〜?お目目は見えないはずなのにって思ったけれど
それはほんとにムーだったよ。
「頑張ったね。えらかったね。」
「あたちとのお約束、守ってくれたんだね。」
「ちゃんとさよならも出来たね。」
「もういいね。迎えに来たよ。いっちょに行こう。」
「みんな待ってるよ。」
ムーはニコニコ、尻尾をブンブン振ってあたちを誘ってくれたの。
ふと気がついたらムーの向こうにはお友達がいっぱい。
知っているお顔も知らないお顔も
みんなニコニコ、尻尾をブンブン。
「チコちゃぁん、えらかったね。早くこっちにおいでよー!」
そう言ってくれていたの。
そこはあったかそうで、とってもきれいで楽しそうに見えたの。
あたちはなんだかとってもうれちくなってちまったの。
「ワン!」
思わずそう言ってちまったわ。
そちたらそれまでぜんぜん動かなかった身体が急に軽くなって
ちんどいこともなくなって
元気一杯のあたちに戻っていたわ。
「ワンワン!連れて行って〜!いっちょに行くよ!」
ブルル、身体をふって、尻尾をブンブン
元気一杯にムーのところへ、お友達のところへ
あたちは駆けていったのよ。



さよなら、さよなら、今日までありがとう。
あたちはもうお空に行くよ。
みんなが待ってくれているお空にかけっこちていくよ。
もう心配ちないでいいよ。
あたちは元気になったから。
ひとりぼっちじゃないからね。
たっくさんの仲間がいるから寂しくなんてないよ。
おとうさん、おかあさん、のりちゃん、なおちゃん
長い間ありがとう。

マリンへ
これからみんなのことをよろしくね。
毎日元気に楽しく暮らしてね。
いい子いい子っていっぱいなでなでしてもらうのよ。
わがまま言ったらだめだよ。
みんなと仲良しこよしだよ。
約束だよ。
マリン、おとうさんとおかあさんとのりちゃんをお願いね。

さ よ う な ら そして あ り が と う