第17話 闘病生活

「おはよう!ちぃちゃん、お散歩行こう!」
いつもの朝と同じようにのりちゃんがガラガラと扉を開けて迎えに来てくれた。
そして扉を開けて、ぎょっとちたみたいにそこに立ち止まってちまった。
「ちぃちゃん、どうしたの?」 
のりちゃんは立ちすくんだみたいに固まってちまっていたわ。
「のりちゃん!」 あたちはうれしかった。笑顔になったよ。
それで全身の力を振り絞って立ち上がろうとちてみたけれど
前足で身体を支えようとちてみたけれど
後ろ足にぜんぜん力が入らなくて
バタンと倒れてちまった。
もう1回! でも・・・立てなかったの。
「ちぃちゃん!」 
そんなあたちを見てのりちゃんが駆け寄ってきてくれた。
「どうしたの?あんよ痛いの? どこ? おなかが痛いの?」
「あぁ、良かった。のりちゃんが来てくれた・・・もう大丈夫。」
あたちは安心ちてちまって、そのまま動けなくなってちまった。

その日はいつものおいしゃさんがおやすみで
のりちゃんは知らない病院に電話をして診てもらえるかどうか聞いてくれて
それからおとうさんと一緒にあたちを病院につれていってくれたの。
大嫌いな車に乗って大嫌いなお医者さん。
けれどあたちはおなかが痛すぎてそんなことを考える余裕もなかったの。
病院ではレントゲンっていうのやら血液検査っていうのやら
いっぱい検査をされたけれど、あたちはぐにゃぐにゃのおにんぎょさん。

病気の名前は「子宮蓄膿症」だった。
のりちゃんは先生から病気の名前を聞くまでに、わかっていたみたいだった。
その少し前から、「ちぃちゃん、ちょっとおかしい。」って
いつものお医者さんに連れて行かれて予防のためだって
あたちは抗生剤っていうお薬を毎日1錠ずつ飲んでいたの。
あたちは元気だったから
おとうさんやおかあさんは心配しすぎだって笑ってたけど
あたちもそう思っていたけど、あたちはやっぱり病気だったのかな。
血液検査っていうのの結果がすべて正常だったからって
その先生は「体力の回復を待ってすぐに手術したほうがいいです。」って
言ってたらしいよ。
手術ってね、おなかを切るのよ。
きっとすっごく痛いわよね。 
けれどのりちゃんは手術しない場合の事とかいろいろ聞いていたみたい。
あたちはその時はなぁんにもわからなかったし
痛いのをなんとかちてほしい
ってそればっかり思っていたわ。
ないちょだけどね、あたちお医者さんでう○ちしちゃったの。
そんな失礼なこと、生まれて初めてだったわ。

その日のお昼過ぎにはなおちゃんたちがお見舞いに来てくれた。
あたちは寝たままでぜんぜん起きれなかったけれど
まわりにみんないてくれて
「どうしたの? 大丈夫? おなか痛い?」
って、いっぱいなでなで、優しくちてくれたからうれしかった。
頑張らなくっちゃって思ったわ。
夜になるとのりちゃんが抱っこちてお庭につれて行ってくれた。
「ちぃちゃん、おしっこしたくない?」
おしっこはちたかったけれど、一人だと立ってられないの。
なおちゃんも来てくれて、のりちゃんとなおちゃんであたちを支えてくれて
それでやっとおしっこが出来たんだよ。
おとうさん、おかあさん、のりちゃん、なおちゃん、が相談ちて
「かかりつけの先生のお休みが終わったら診察してもらってどうするか決めよう。」
ということになったみたい。 
あたちはどうちてこんなことになってちまったのかちら?って
そればっかり思ってた。

あくる日のお昼、のりちゃんが抱っこちてお外に出してくれたとき
「頑張ってみよう」って思ったら、自分で立てたよ。
のりちゃんがそっとお庭に下ろしてくれて、「ちぃちゃん、立てるかな」って。
あたちは頑張ってひとりで立ったんだよ。
のりちゃんは「ちぃちゃんが立てた!立てた!1歩歩いた!2歩歩いた!」
ってうれしそうに大騒ぎちてたわ。
あたち、頑張ったもん。エライでしょ。

いつもの先生に相談したら、えっと・・・のりちゃん、先生なんて言われたんだっけ?
「手術自体には麻酔の危険があります。心臓が持つかどうか。
チコちゃんは内臓の機能には問題がないので手術は可能で
成功するかもしれませんが
抗生剤を飲んでいて子宮蓄膿症になってしまったということは
抵抗力は予想より相当落ちているということだと思うので術後が問題です。
感染症でそのままよくなれず・・・ということも考えられます。」

あたちは手術ちないで、お薬を一杯飲んで
病気と戦う方法に決まったみたい。
おなかを切るなんて痛そうだもの。
お薬も嫌いだけれど、我慢ちなくちゃね。
それからは毎日車に乗ってお医者さん。
のりちゃんがお仕事の日はおとうさんとおかあさんで。
のりちゃんがお休みの日はおとうさんとのりちゃんで。
毎日毎日、お空に来たその日まで。
調子のいいときは2日に1度、とか3日に1度とかだったけれど
ほとんど毎日お医者さんに行くことになってちまったの。
お医者さんも車も大嫌いだったから、ちょっと元気になったら
診察室でも車の中でも「ワンワン!ワンワン!」って
いっぱいないたりもしちゃったよ。
それからう○ちも何回もしちゃったの。
お医者さんでも車の中でも。
我慢できなかったんだもん。
ごめんね。でもしょうがなかったの。

しばらくちたら膿も出てきて、あたちの病気は決定的になったの。
膿がいっぱい出るようになったら、あたちはだいぶ元気になって
お休みちていたお散歩にまたいけるようにもなったの。
のりちゃんは「ちぃちゃんとお散歩、うれしいな。楽しいね。」って。
あたちも楽しかったわぁ! 
あっつい夏の日の夕方にのりちゃんと一緒にテコテコお散歩ちたのよ。
夕日がとってもきれいで、あたちの自慢の髪がきらきらそよそよ。
夕日さんも「おめでとう」って言ってくれてるみたいだった。
「えっへん! 見てみてぇ!あたちもう元気だよー。」
また前と同じようにお友達と「おはよう!」のご挨拶も出来るようになったし
クンクンもできるようになったし、ね。
いろんな人に「頑張ってるね、えらいねぇ。」って
ほめてもらったよ。

けれどあたちの病気はよくなったかと思ったら、また悪くなって
の繰り返しになってちまった。
あ、それでもね、お散歩だけはほとんど毎日行ったのよ。
ごはんはいろいろ作ってもらったけれど、あんまり食べられくて
「食べる楽しみ」っていうのがなくなってちまって
その上苦いお薬を毎日たっくさん飲まないといけなくなって
これでお散歩までダメって言われたらあたちいじけてちまうもの。
のりちゃんが毎朝毎晩、その日のあたちの調子に合わせて
ゆっくり、ゆぅぅっくり、お散歩に連れて行ってくれたよ。

毎日病気のことを考えながらだったけれど、みんな優しくちてくれたし
あたちはまだまだみんなと一緒に居たかったから、頑張った!
ホントにホントに頑張ったよ。
暑い夏に病気になって、秋がきて、冬がきて・・・
負けるもんか、って頑張ったよ。
苦いお薬もたくさん飲んだよ。
北風ぴゅーぴゅーだってお散歩に行ったよ。
雨降りの日だって、雪がちらちらしている日だって
てこてことことこ、お散歩、お散歩、うれちいな。
「ちぃちゃぁん、お散歩行くよー。」
お耳は聞こえなかったけれど、ちゃぁんとわかった。
「よっこらちょ!お散歩、お散歩!お散歩の時間ね。」

お正月をみんなで過ごせてうれしかったよ。
なおちゃんたちもいっちょに記念写真を撮ったよ。
ちょっと寝ぼけまなこではずかちい写真になっちゃったけど。

もうすぐ春が来るもん! 
そしたらあったかなお日様の下をお散歩するんだもん!
頑張るんだもん! って。

だけど・・・あたちは元気にはなれなかったの。
少しずつ少しずつ身体が思うように動かなくなっていった・・・
おなかは痛くなくても、身体が勝手に動いてちまうようになってきた。
ピクピク・・・ピクピク・・・お手手があんよが勝手に飛び跳ねる。
どうちて? なんで?
ねんねちててもお目目が覚めてちまう。
のりちゃんが抱っこちてくれてストーブの前で
「ねんね、ゆっくりねんね。」
「ピクピク、止まれぇ!」
って毎晩そうやってねんねさせてくれたのに。

そしてついにお散歩に行くことをあきらめてちまったの。
のりちゃん・・・頑張ったけど、あたちもうお散歩いけなくなっちゃったよ・・・

2002年2月。
あたちがのりちゃんたちと一緒に過ごした最後の時間。
ちょっと悲しくなってきちゃったから
この続きはまた今度ね。