第16話 病気になっちゃった



あたちの毎日はとってもゆったりとちたものになったわ。
お散歩ではガウガウ言うマリンがいないから
たくさんのお友達を作ることができたわ。
「おはよう」って尻尾をフリフリちてお鼻とお鼻をくっつけて
ごあいさつするの。
時々とってもご機嫌の悪い子なんかもいて
ガウガウ言われてちまうこともあったけど
「どうちたのかちらね」ってぜぇんぜん気にしない。
春のぽかぽかちたお日様も カンカン暑い夏のお日様も
秋のさわやかな風も しんしん冷たい冬の空気も
全部大好きだったよ。
お休みの日なんて1時間以上ものりちゃんとお散歩ちてて
おうちに帰ったらお母さんがすっごく心配ちてたってこともあったわ。
歩くのは楽しいもの。
1時間だって2時間だってゆっくりとならへっちゃらよ。



あたちはずっとお外で暮らしていたけれど、
その冬には「お外は寒いからね」って
勝手口の三和土があたちのお部屋になった。
朝お散歩に行って、お庭で少し遊んで
お母さんがお仕事に出かけるときにおうちに入るの。
それから夕方お母さんが帰ってくるまでは
おうちの中でお昼寝ちながらお留守番するのよ。
お外ではマリンがしっかり番犬ちててくれるから
安心ちて眠れてちまうの。
夕方お母さんが帰ってきたら
「お庭で遊んで来なさい」ってお外に出してくれるの。
夜にはのりちゃんとお散歩に行って
勝手口でねんねするのよ。

でもね、あたちが甘えん坊になって
のりちゃんにいっぱい好き好きするようになって
そうちたらマリンが怒るようになっちゃったの。
「あたちのお母さんなんだからね」
「取らないでよぉ!」
って、マリンが飛び掛ってくることがあったの。
おとうさんやおかあさんに甘えても怒らないのに
のりちゃんに甘えるとマリンが怒るの。
けんかもちたわ。
マリンはすっごく叱られてたけれど
それでも「だってチコおばちゃんが・・・」
ってのりちゃんの言うこともおとうさんの言うことも
ぜんぜん聞かないのよ。
ホントにダメな子よ、マリンって。
あたちだってのりちゃんに甘えん坊ちたいもの。
のりちゃんはどっちもヨシヨシしてあげたいのに
ってとっても困ってたわ。



春が来て夏が来て、あたちはとっても元気だった。
毎朝夜のお散歩が1番の楽しみだったわ。
「お散歩行くよ〜!」ってのりちゃんが呼びに来てくれたら
門のところまで全力疾走よ。
のりちゃんもおかあさんもおとうさんも
「ようあれだけ走れるなぁ!」って
感心するくらいビュンビュンぴょんぴょん走ってたのよ。

ある日、朝の早い時間におなかが痛くて目が覚めたの。
痛くて痛くて、なにがどうなってるのかもわからなかった。
立ち上がろうと思ったけど、それもできないの。
怖くて痛くて、あたちは初めておしっこを漏らしてちまった。
のりちゃんがもうすぐお散歩に行こうって来てくれるから
そちたら助けてくれるから
もうちょっとの辛抱よって一生懸命我慢ちたの。
ないたりなんてちなかったわよ。
我慢、我慢ってのりちゃんを待ってたの。
のりちゃん、おなかが痛いよぉ。
どうちてなの?どうなっちゃったの?
とってもとっても心細かった。

それがあたちの闘病生活の始まりだったわ。
元気一杯で大きな病気なんてちたことがなかったのに
あたちはとうとう大きな病気になってちまったのでちた。