第14話 ムーへ・ゆびきりげんまん




あたちの大好きなかわいい姪っ子。
やさしくっておとなしくって<いっつもにこにこ>のムー。
ムーがお空にいってちまった。

ずぅっとずぅっと昔
あたちがわん家族のリーダーになるんだって
張り切っていたころのわん家族のみんなは
あたちをおいて全員いなくなってちまった。

ムーの病気の名前は<慢性腎不全>っていうの。
春のやさしいお日様がちょっときらきらに変わる頃
ムーの調子が悪くなっていったの。
お散歩ちてても、途中で立ち止まってちまう。
うんちは下痢ピー。
つやつやだったお鼻はひび割れてちまってた。
食欲もだんだんになくなって行ったわ。
どうちたの?どっかちんどいの?
あたちはとっても心配だった。

ある日のりちゃんがおとうさんを一生懸命説得ちて
ムーをお医者さんに連れて行ったの。
その日からムーは毎日自動車に乗ってお医者さんに行くようになった。
ムーはその時初めて自動車に乗ったんだと思うわ。
あたちたちの中ではマリンは現代っ子で
自動車が大好きだったけれど
ムーはそれまで自動車に乗せてもらったことがなかったと思う。

その頃はおとうさんもおかあさんものりちゃんもお仕事をちてて
とっても忙しそうだった。
ムーがお医者さんに行く時には
おとうさんが一緒だったり、のりちゃんが一緒だったり
なおちゃんが一緒だったり
その日によってムーと一緒にお医者さんに行く人はいろいろだった。
のりちゃんが一緒に行くときには
いっつも「むっちゃぁん、ドライブに行こうね」ってにこにこちてた。
ムーは最初の頃はとってもいやそうだったけれど
だんだんにやさしいお顔で自動車に乗せてもらうようになったわ。

「ムー、自動車が好きになったの?」
「あのね、自動車は平気になったよ。時々景色を見たりちてるよ。」
ムーが言うには
お医者さんは好きじゃないけれど、お医者さんに行くときは
みんながとっても優しくちてくれて
いっぱいなでなでちてくれて
抱っこもちてくれて
いろいろお話ができるから楽しいんだって。
「だって独占できるもん!」
「いっつもふたりっきりよ。」
ムーはとってもうれちそうにそう言ったよ。
そうだよね。
それまでは、のりちゃんを独占ちたり
なおちゃんを独占ちたり、おとうさんを独占ちたり
そんなこと1度もできなかったものね。
たまぁに 「あのね、今日はね、らくらく登山道のあたりまで
ドライブちたのよ。」 とかてれくさそうに話してくれたりもちたわよ。



毎日お医者さんに行くようになって
ほんの少しムーは元気になったの。
頑張ってたんだよ、ムー。
けれど、何も食べたくないっていう日もあったみたい。
気持ち悪くて食べられないって。
でもね、せみの脱げ殻がおいちいって
お庭でせみの脱け殻を見つけては
大事そうに食べているときもあった。
そちてマリンがつかまえて遊んでポイちた
せみも食べたりちてた。
不思議ね、どうちてそんなものがおいちいのかちらって思ったわ。
それを見たのりちゃんは
「ムーはせみなら食べるのね。」
ってお庭でせみ取りをするようになったの。
ムーはうれしそうに「せみ、ちょうだい」って
のりちゃんの後ろに引っ付き虫ちてたわ。

昼間はみんなお仕事に行ってちまう。
たいていムーはガレージの自動車の奥で
ひとりねんねちてた。
どんなにちんどくっても
「ムー、気分はどう?」
って様子を見に行ったら尻尾をパタパタさせていた。
「だいじょぶよ。ありがとう。」
調子のいいときにはよたよたと歩いて
のりちゃんをお見送りちたりもちてたわ。

春が終わって雨ばっかりの毎日になって暑い夏になって。
ムーはそんな中でもお庭でずっと過ごしてた。
頑張って自分でおしっこちて、うんちちて
時々しりもちをついてお尻にいっぱいうんちをつけてる時もあったわ。
おかあさんやのりちゃんが帰ってきたら
きれいにちてくれるから、って、
それでもニコニコみんなの帰りをお庭で待っていたわ。



だんだんとムーの息が速くなって行った。
「とってもちんどいの。すっごく気持ち悪いの。」
ムーはそう言ってた。
「でもね、頑張るって約束ちたものね。」
「あたちは頑張るよ、頑張ってるよ。」
ムーはとっても頑張ってた。
いっぱいいっぱい頑張って
カンカン暑い夏の日の夜
お空に旅立っていってちまった。

その日みんながお仕事から帰ってくる前
「ねぇ、あたちもう十分頑張ったかちら。」
「もう、さよならちてものりちゃんは泣かないかちら。」
ってムーはあたちにそう聞いたよ。
あたちはそんなムーを見て
「もういいよ。ムーはすっごく頑張ったもん。」
「ランが迎えに来てくれたらいっちょに行っていいと思うよ。」
って答えたの。
すっごくすっごく寂しかったけど
ほんとはそんなの悲しくていやだったけれど
頑張って頑張って病気と闘って来たムーをずっと見てたから
それちか言えなかったの。
「のりちゃんも大丈夫。きっともう大丈夫。」って。

ムーは安心ちたのか
ガレージの自動車の後ろのお気に入りの場所で
すぅすぅねんねし始めたの。
そちて夜になってムーはランといっちょにお空に昇っていってちまった。

のりちゃんは動かなくなってちまったムーを見て
静かに静かに涙をこぼちてた。
「まだ、あったかいね。」
「ありがとね、ムー。」
「よく頑張ったね、えらかったね。」
「看病させてくれてホントにありがとうね。」
「ムーはやさしいいい子だったね。」
「見送ってあげられなくてごめんね。」

のりちゃんのお目目は涙でいっぱい。
時々はらはらと涙があふれてムーの上に落ちてた。
けれどランの時みたいに何もわからないみたいじゃなかった。
もうお目目を開けることのなくなったムーと
長い時間いっぱいお話ちてたよ。

よかった・・・
ムーは頑張ったから、のりちゃんは心の準備ができたんだね。
ちゃんとさよならができたんだね。

ムーはのりちゃんが帰ってくるほんの少し前にお空にいったの。
頑張ったけど、もうちょっとだったけど
のりちゃんを待っていられなかった。
あたちはそれだけがちょっとだけ心残りだった。

あくる日の朝、のりちゃんがうれしそうにこっそりと教えてくれた。
「チコちゃん、あのね、夕べね、ムーが来てくれたよ。」
「さよならって言う為に、私のところに来てくれたよ。」って。

あぁ、ムー!
ムーはのりちゃんの帰りを待っていられなかったけど
その夜に「ありがとう」って言う為に戻ってきたんだね。
「ちゃんとお別れを言いに戻ってきたのね。」
のりちゃん、うれしそうだったよ。喜んでたよ。

いつかお空でムーに会ったら
のりちゃんが喜んでたって
お別れに来てくれたんだよって
すっごくうれしそうに話してくれたって
教えてあげようと思ったわ。

ムーはあたちとの約束を守って
最後の最後まで頑張って
たくさんの一緒に頑張る時間を作って
そちてちゃんと最後に「ありがとう、さようなら」って
伝えてからお空に行ったよ。



ムーへ
ゆびきりげんまんのお約束!
あたちもちゃんと「ありがとう、さようなら」って言うからね。
最後の最後まで頑張るからね。

星空の下でのお約束、ムーとあたちのお約束
ちゃんと守るよぉ!