第12話 ハイキング


まだランやムーが生まれる前、あたちとニーナはよくのりちゃんとなおちゃんに
水呑地蔵って所までハイキングに連れて行ってもらったよ。
結構なきつい登り道、山登りだよ。
お休みの日にのりちゃんとなおちゃんがいたら
連れていってくれたんだ。
あたちもニーナもすっごく元気でのりちゃんとなおちゃんを
引っ張ってあげたの。
登りは喜んでくれたけど、下りはいっつも怒られてたなぁ。
道はずるずるちてて、のりちゃんもなおちゃんもすべってころんで滑り台。
でもすっごくすっごく楽しかったの。



マリンが家族に加わったその年の冬はよくハイキングにいったわ。
近くにらくらく登山道っていうのがあって
そこをおとうさんとおかあさんとのりちゃんとあたちとムーとマリンで歩くの。
あ、1回だけなおちゃん一家もいっちょに行ったわよ。

最初に行ったのは11月だったかちら。
マリンにとっては初めての遠出だったから
みんなマリンがちゃんと歩けるかどうかとっても心配ちたわ。
マリンは登山道の終点の休憩所までの往復をちゃんと歩いたの。
えらいわねぇ、って言ってたらおうちに着くとすぐにグースカピースカ
大の字になって眠ってちまったわ。
かなり緊張していた様子だったから
やっぱりだいぶ疲れたんだね。



それから何回もハイキングに行って、だんだん遠くまで歩くようになったの。
いろんなコースがあるのよ。

いつだったかぐんぐんお山を登っていったの。
てっぺんまで登ったのよ。
その帰り道に事件が起こってちまったわ。
すっごい段差のあるでこぼこ階段。自然のまんまの階段だったの。
あたちはピョンピョン調子よく歩いていたんだけど
突然足がカクってちて、動けなくなってちまった。

のりちゃんが「どしたの?あんよ痛いの?歩けないの?」
って、「がんばれ」って言うんだけど、痛くて動かせなかったの。
どうちたのかしら、あたちのあんよ。
あたちも混乱しちゃったわよ。
「仕方ないわねぇ」ってのりちゃんがあたちを抱っこちてくれた。
あたちはその頃とっても太っていて重かったんだって。
足元はでこぼこ階段だち、のりちゃんはふらふらちてて
ちょっと怖かったけど、しっかりしがみついてたの。
「のりちゃん、転ばないでね。お願いね。」
あたちはそう心の中でお願いちてた。
やっとアスファルトの道に出て
のりちゃんが「ちぃちゃん、歩ける?」
ってあたちを地面におろしてくれた。
あたちは歩けるようになってたわ。
いったい何だったのかちら。
そこからおうちまではちゃぁんと自分で歩いたわよ。
なのにおとうさんもおかあさんも
「チコにあの階段はきつかったのかもな。」
「もうチコを連れてハイキングは無理やなぁ。」って。
そんなことないのに・・・階段さえなかったらだいじょぶだよ。
あたちはちゃんとそう言ったのに
その冬のハイキングはその日でおしまいになってちまった。

おいちいおやつを持ってみんなでゆっくりのんびり
たっくさんクンクンちて、とってもとっても楽しかったのに。

でもね、その次の冬も何回かハイキングに行ったの。
そのときはね、あたちはだいじょぶだった。
急な階段のところには行かなかったから。
でもね、おとうさんが転んだの。
思いっきり頭をぶつけてしばらく地面にねんねちて
起き上がらなかった。
「救急車?」って思うくらいだったわよ。
ほんととっても心配したわ。
おとうさんはお顔にいっぱいあざができるくらいひどい状態だったけど
しばらくちたら「大丈夫だ」って起き上がって
ちゃんと歩いておうちまで帰ってわ。
でもすっごくみんなびっくりちてちまって
それからはみんなでハイキングに行こうっていうお話が
なくなってちまった。

マリンはね、その翌年にもハイキングに行ってたわよ。
のりちゃんとおかあさんと3人でね。
あたちはおとうさんとお留守番になってちまった。
でもおとうさんとお留守番も楽しかったわよ。
その頃はあたちももうハイキングに行きたいなとかあんまり思わなかったの。
にぎやかなマリンがいないうちにお昼寝ちまちょ、って思って
ぐぅすぅねんねちてたのよ。

あたちは自動車が苦手だったから
あんまり遠くには行けなかったの。
あの頃行ったハイキングがあたちの17年で一番の遠出ね。
とっても楽しかった思い出よ。