第10話 ランがお空に


ニーナがいなくなって一番寂しい思いをちたのはたぶんランだったと思う。
なぜってニーナはいっつもランの事をそっと影から支えていたから。
最初はそうでもなかったけれど
だんだんみんなが集まるところにランがいることが減ってきて
ひとり縁の下でねんねちていたり
みんなから離れた所で寝そべっていたりすることが多くなっていったわ。
食いしん坊のくせに食欲に波があって
「食べたくないもん」って日は呼ばれても動こうともちなかった。

その頃はなおちゃんはもうおうちにいなかったし
のりちゃんもお仕事の都合で週末だけちかおうちに帰ってこなかったから
ニーナ母さんもいない、のりちゃんもいない。
ランはたぶんとても寂しかったと思うの。
なんたってランはのりちゃんの事が1番好きだったからね。
のりちゃんがいるお休みの日は
のりちゃんの後ろをうろうろついて歩いていたり
おうちの三和土のところで寝そべっていたりもちたけど
普段の日はぽつんとちてることが多かったわ。
おとうさんもおかあさんもべつにいじわるをちたわけじゃないのに
なぜだかランは近づこうとちなくて甘えることもちなかったの。
どうちてなのかちらって、ヘンな子ねぇって思っていたわ。



あたちがランの様子がどうもおかちいわね
って気がついてからしばらくちて
ランは駆け足でお空に旅立って行った。
ほんとはしんどかったのにぎりぎりまでひとりで我慢ちていたのかちら。
おとうさんやおかあさんがランの様子がどうもおかしいって
いつもの気まぐれ気ままで食べないのではないって
気がついてから1週間ほどで逝ってちまった。

のりちゃんが知らせを聞いて帰ってきた夜から
2日後の夕方だった。
その日の朝ランはよたよたとお庭をお散歩ちていたわ。
のりちゃんが心配そうにずっとランの後ろをついて歩いていた。
お庭をうろうろ歩いた後ランははっぱの上に横すわりちて
長いことお庭を静かに眺めていた。
秋晴れの穏やかな朝だった。
そっと寄り添っているのりちゃんのことも寂しそうなおめめで
じっと見つめていたの。
立ち上がってよたよたと歩き出ちて縁の下に入ろうをちたランを
のりちゃんが抱いておうちの中に連れて行って
それがあたちが見た生きている最後のランだったわ。

おとうさんとおかあさんがお出かけをちて
夕方までおうちの中はとっても静かだった。
突然のりちゃんの大きな声が聞こえたの。
ちょうどその時におとうさんとおかあさんが帰ってきたの。
のりちゃんが戸口から大きな声で
「ランが今死んじゃったぁ!」

あんなのりちゃんを見たのは初めてだった。
子供みたいにわぁわぁ泣きじゃくっていて
「ラン!ラン!」
あたちがそばに行っても気がつかないのか
三和土にぺたりと座り込んでランの背中をなでているだけ。
その背中にポトポトと途切れることがないくらいに
のりちゃんの大粒の涙が落ちてた。
「ごめんね、ごめんね。何もしてあげられなかった。」
そういってずっとずっとランのそばから離れないで
しゃくりあげて泣いていた。

ランは何の病気だったのかちら。
あんなに急にお空にいっちゃうなんて思わなかったわ。
のりちゃんを慰めてあげたくて
ムーといっちょにずっとそばにいてあげたの。

ランのお葬式の後、あたちとムーはお星様を見ながら
いろいろとお話ちたわ。

ねぇ、ランはちゃんとお別れを言っていたわね。
きっと朝お庭でのりちゃんをじっと見つめていたのは
お別れを言っていたのね。
楽しかったたくさんの出来事を思い浮かべて
「ありがとう」って言っていたのね。
でものりちゃんにはお別れの準備をする時間が足りなかったのね。
心の準備ができなかったんだね。
だからあんなに苦しそうにつらそうにいっぱい泣いてちまったのね。
あたちたちの最後の時には
のりちゃんにちゃんと心の準備ができるまで
いっぱい時間をあげないとダメだね。
ちんどくっても辛くっても
のりちゃんが「さよなら」を受け入れられるようになるまで
がんばらないとダメだね。

ムーもあたちも同じ思いだったわ。
病気になってもあんまり駆け足でさよならしないでおこうね
ってきらきら星を眺めながらその夜ムーと約束ちたのです。



ラン、さようなら。
いつかあたちもそこに行くからね。
お友達をいっぱい作って待っててね。
また会おうね。
そう言ってランとお別れちたのでちた。