らくらくISO9001講座    【ISOの使い方の研究 その1】

トップへ
戻る

丸長運送株式会社


家族経営から組織経営への転換に成功
「本気度の問題ですね」


 大阪府南部の河内長野市に本社を置く丸長運送株式会社は、従業員は約70名で、本社以外に3つの営業所が
あります。この会社は、2003年にISO9001の認証を取得し、既に6年半経っています。久々に訪問した丸長運送は、
当時の古い本社の近くに、数倍のスペースを確保して、すっかり立派になっていました。井戸清明社長に、認証取
得の当時の事情や、現在の運用状況についておうかがいしました。





 認証取得の頃

 丸長運送は、工場や量販店から注文を受けてその荷物を運搬する、普通の運送会社です。一方で、全国規模の
運送会社から委託を受けて、大阪府南部の特定エリアの、宅配便の集荷配送を担当しています。堺営業所はこの
業務のために設置された営業所で、その大手運送会社のターミナルの中にあります。
 丸長運送が、ISO9001に取組んだ理由の一つは、この宅配便の仕事を引き受けたことでした。

社長: その時に言われたのが、「組織としての対応をして下さい」ということでした。そこで、ISOのコンサル
ティングを受けることを決め、初めにお願いしたのが「ちゃんとした組織を作りたい」ということと、
「ISOを教育の一環として取組みたい」ということでした。

 実際にこの時点では、丸長運送には組織らしい組織はありませんでした。というのも、それまでの丸長運送は、実
質上は本社だけで営業しており、社長と運行管理者の専務が従業員に直接指示をすれば業務は回っていたからで
す。
 しかし、多くのドライバーを抱えるもう一つの営業所ができ、宅配便の会社との綿密なコミュニケーションが必要な
状態になれば、経営者が逐一指示をするスタイルでは管理し切れません。そこで、体制作りのためにISO9001の取
得を決心されたのです。

 ISO取得のためのプロジェクトをスタートして半年たったところで、4人のマネージャーが任命され、現場に
も数人ずつを束ねる班長が置かれました。そして、それぞれの指揮命令系統や、役割分担や、報告体制が、順
次決められてゆきました。といっても、これを機能させるには、社員全員の意識の転換が必要ですから、一朝一夕に
はできません。ISOの認証を取得した時点でも、まだみんな戸惑いながら、何となく動き出した状態でした。


 従業員の成長

 マネージャーたちの、現在の様子について、社長にうかがいました。

社長: 新年の最初に、各営業所のマネージャーに、自分の目標を言ってもらいましたが、去年やって、今年
やると、やはりレベルアップしています。
当たり前のことなんですが、マネージャーは、それぞれの営業所で自分も現場で仕事をしながら、営
業所の売上げを上げることや、コストを抑えることを、意識できるようになりました。
そのためには、自分一人でもがいてもダメで、営業所のスタッフの力を借りないといけません。例え
ば、自分達で、時間外労働を削減しようと活動し、自分の営業所からの脱落者をなくそうとやってくれ
ています。

従業員の意識の向上に関して、このような効果もありました。

社長: 以前は、ほとんどは私のつながりで見つけてきた顧客が多かったのですが、今は、ドライバーが一所
懸命声をかけて、お客さんを開拓してくれます。「僕の友達がいるから」というところから担当者を紹
介され、仕事につながった例もあります。おかげで、ISO認証当時に比べると、顧客の数が倍くらい
になっています。
意識が高まり、会社の方向に沿って、アクションを起こしてくれた結果であり、現場の頑張りが大きい
ですね。


 特別なことはしていない

 丸長運送では、ISOを取得した後は、特にシステムを変えた点はないそうです。たしかに、熱心にQMSを見直し、シ
ステムの改善をしているとはいえません。どちらかといえば、なかなかISOに時間を使うことができず、徹底することが
できない普通の会社です。社長も、PDCAを確実に回せば、もっと効果が出せるはずだと言われています。

 しかし、今回うかがった社員の様子は、6年前の認証取得当時からは、見違えるように成長しています。
 6年前には、現場一筋のドライバーを、いきなりマネージャーに任命しましたから、いずれの人も初めての体験でし
た。それまでは、自分の仕事だけ考えていれば良かったのですが、会社全体の中で、自分の役割を認識しなければ
なりません。当時は、みんな本当に戸惑い、遠慮がちにやっていました。
 しかし、今では、各マネージャーがしっかり役割を果たしています。しかも、今のマネージャーの多くは、当時のまま
ではなく、代替わりしています。それでも、機能しているのは、マネジメントシステムの形が確立し、継承されている
からです。


 なぜ効果が得られたのか

 どうして、特別なことをしているわけではない、丸長運送の品質マネジメントシステムが、このように効果を上げてき
たのでしょう。
 それは、丸長運送の取組みに、1つたいへん優れた点があるからです。

 丸長運送は、組織作りと、社員の教育を目的としてISO9001を導入しましたが、その目的が、6年前から
現在に至るまで、一貫しているのです。組織の重要さと、教育の重要さについて語る社長の口調は、今回も6年
前と全く同じでした。そして、それが実際の仕事の中で、実践されています。

 社長は、かつてはドライバーに直接業務を指示されていたのですが、今では、できるだけマネージャーに権限を与
えて、従業員への1対1の指示はしないようにされています。その代わり、マネージャーに各拠点の目標を明確に設
定させ、チームとしての活動をうながすことで、マネージャーを中心とする業務の運営を図っています。その結果、最
近ではマネージャーが指示をしている内容が、従来、社長が指示していたことと一致し、判断の尺度が合ってきたと
のことです。
 このように、「組織的な動きができる会社にする」という目的に向かって、首尾一貫して進められており、その基盤と
してQMSを活用しています。


 効果的なマネジメントレビュー

 もう一つ、丸長運送に優れた点があるとすると、マネジメントレビュー、年度目標など、マネジメントシステムのため
の導入した項目を、構築時に決めた通りに、その目的を違えることなく、着実に実施していることです。

社長: それまでやっていなかった、会議がキチンとできるようになった点は、ISOを取って大きく変わった点
のひとつです。当社ではマネジメントレビューの代わりに、月1回の経営会議をするということを決め
ましたが、今もその通りにやっています。

 経営会議(マネジメントレビュー)の内容は、各マネージャーからの業務の進捗状況、発生した問題点の報告を中心
とし、社長からは会社の経営状況の説明が行われます。一般的には、管理職会議、部課長会議などと呼ばれる内
容です。

 ISO取得以前の丸長運送では、中間管理層が存在せず、このような会議は存在しませんでした。経営者が各担当
者に直接指示をし、報告を受けていましたから、従業員が、会社全体の動きを知る機会はありませんでした。
 このような基本的なことを、着実に行うことで、開始当初の経験不足のマネージャーたちに、意識づけし、教育して
きたのです。


 課題となっていること

 うまく行っていない点についても、社長にうかがいました。

社長: マネージャーの意識が上って、自分で解決してくれるのはよいが、どう解決したか報告が上って来な
いことがあります。
日常の仕事というのは、一つ一つの物事を解決してゆくことですが、そのことが正しいかどうかの判
断基準が、個人でなされると困ります。今の場合は、お金がかかるかどうかで報告が来るかどうか
が決まりますね(笑)。
うちの会社としてはこうですよという部分が、完全には浸透していない。どうすれば気がついてくれる
かが悩みですね

 運送業は、従業員が会社から見えないところで、1人で仕事をするため、管理が難しい業種です。しかも、仕事の
内容は、運転や積み下ろしだけではなく、接客コミュニケーションも重要な要素です。
 一方、現場で発生する状況は、毎回異なり、それを従業員が適切に判断して対応しなければなりません。そのた
めには、従業員が会社の方針や、考え方をよく理解している必要があります。社長から見ると、今のマネージャーの
判断もまだ甘いようで、さらなる成長を期待されています。


 ISO9001で変わったこと

ISO9001の成果について、社長にまとめていただきました。

社長: 今まで、目が向いていなかったことに、ISOのおかげで取組めました。我々は、ルールを決め、書類
や記録にする経験をしてこなかったため、苦手です。苦手なので、ほったらかしになっていました。大
会社では当たり前のようにやっていることが、我々にはできていませんでした。
ISOをとった後に、全日本トラック協会の安全性優良事業所認定や、運送業のグリーン経営認証を取
りましたが、これもISOがなければ、やろうとは思わなかったでしょう。

決めたことを実行するために、組織を作ってゆくと、適材適所の考え方で、そのポジションに適した人
材が必要になります。そうやって、人を当て、育ってきました。品質方針は、経営理念に当たるもの
ですが、それを現実のものにするためには一人ではだめです。総合力ですよね。
私がいなくなったら会社が終わりというのでは、企業ではないと思います。それに気がつかせてくれ
たのがISOです。


 丸長運送の取組みから分かること

 丸長運送は、ISO9001の導入により、6年間で、家族経営から組織的経営への転換に成功しました。その取組み
の特徴をまとめると、次の通りです。

 1.組織作りと教育という明確な目的を持ち、一貫して取組んできたこと。
 2.QMSとして、緻密なものでも、高度なものでもない。
 3.QMS構築の時点で、組織の実態と、目的に沿った仕組みづくりを行ったこと。
 4.QMSは6年間ほとんど変更がなく、最初に決めた仕組みを着実に実施してき
   た。しかし、その中で、社員を成長させてきた。

 特別なことをしなくても、目的を明確にし、目的に合った仕組みをつくり、それを着実に実行してゆけば成果が出るこ
とを、丸長運送の品質マネジメントシステムは教えてくれます。

 最後に、社長から、ISO9001の取組む組織に対して、アドバイスをいただきました。

社長: 本気度の問題だけですね
ISOを、やろうかやらないか迷っているならば、やった方がいい。でも、本気でやって下さい。
資格だけを取るなら、止めた方が良い。どのような目的でやるのかを、忘れないようにして下さい。


インタビュー 2010年1月20日
月刊アイソス 2010年4月号掲載
「5年後の品質マネジメントシステム 第1回」より


目次へ次頁へ
トップへ
戻る