らくらくISO9001講座



ISO成功のための10の視点(2)

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  4.ISOがツールならば審査員もツール


◆審査員の言う通りにしなくても良い
◆審査員は会社の業績に責任を負わない
◆審査員のコメントは、取捨選択や加工をして使う



 ISOが管理手法として効果的なの は、第三者審査があるからです。といっても、審査員の
すばらしい指摘で会社が良くなるからではありません。確かに、的を射た指摘で、改善のキッ
カケになることもありますが、それが主ではありません。
 本当の審査の効果は、第三者の目を意識して、自ら改善する点にあります。自社の業務を
外部に説明するためには、システムを明確にし、矛盾を無くし、ルールを確実に守らなければ
なりません。こうして、審査を外圧として、また参考意見として利用して、自社の形を作り上げ
ます。

 審査員は、わずか1〜3日程度の訪問で気がついたことを述べるわけですから、常に核心を
捕らえた指摘ができるものじゃありません。また、会社の業績に直接責任を負わない立場か
らの意見ですから、どうしても評論家的になります。さらに、審査員もほとんどがサラリーマン
出身ですから、必ずしも経営者と視点が一致しません。審査にはこのような限界があるの
だと認識した上で、社内に緊張感を与える手段として利用して下さい。

 ですから、審査員の指摘やコメントは、取捨選択し、加工して使いましょう。改善に繋がる
コメントは、膨らませて、社内にアナウンスします。役に立つならば、会話中のコメントでも
指摘扱いにします。逆に、的外れな意見については、無視したり適当にやり過ごして構いま
せん。
 受身の姿勢では、どうしても審査員の言葉に振り回されます。審査は、受審企業が自ら
体制整備を行う中で、一つの区切りとして利用するものです。ISOはツールだと言われま
すが、その担い手である審査機関や審査員もまた、利用するツールだと思ってください。
例えば、審査の対象部門、重点項目、進め方などについて、審査員に要望しても良いの
です。「問題の多い部門を 重点的に審査してほしい」「是正処置の内容を厳しく見てほし
い」「現場の班長にインタビューしてほしい」などの前向きの要望だったら、審査員も配慮
します。





  5.ISOは、都合の良い時だけ利用する


◆ISOは必要な時に使う
◆何から何までISOに付き合う必要はない
◆どうでも良いところでは、ISOを振りかざさない



 ISOを強調するのは、外圧を使って業務の質を上げたいプロセスや、外部の視点でチェック
を受けたいプロセスだけにしましょう。ISOを使う効果がないプロセスは、無理にISOを使わ
なくても良いです。

 例えば、受注(ISO9001 7.2.2項)に関して、もし顧客との行き違いが度々発生している
のならば、ISOを梃子にして、受注内容の確認の方法を見直さなければいけません。営業
部門は「そんな固いことを言ったら、顧客が注文をくれない」と言って抵抗するかもしれません
が、この時こそISOを前面に出して押し切りましょう。
 逆に、現状の受注方法に問題がないのならば、特に何かを変える必要はありません
(そのままでISO9001に適合しています)。このような場合には、ISOを強調しないほうが良い
でしょう。必要がない時にISOを振りかざすと、肝心な時にISOが説得力を失います。
 一方、正式受注の前に、顧客と様々な折衝をして、その中で色々な約束をしていることも
ありますね。これも、顧客要求事項ですから、記録に残さなければいけないでしょうか。
それは自社で判断して下さい。もし、そんなものまで記録に残したくない(残すとまずい)
というならば、ISOの管理の範囲に入れなくても良いです。何から何までISOに付き合う必要
はないのです。

 また、ISO9001に出てこない項目であっても、会社として必要ならば、QMSに組み込みま
しょう。例えば、顧客情報の管理、受注から生産計画につなぐ仕組みなどは、システムが
整備されていないことが多いですね。こういう部分を、ISOの名目で改善します。
 このように、ISOを使って管理する項目は、自社の必要性に基づいて決めましょう。もっとも、
ISOを使うかどうかは、あくまで経営の視点からの話です。管理がズサンなプロセスを隠す
ためではないのは、言うまでもありません。






  6.ISOは、都合の良い部分だけ利用する


◆ISOはザックリ読む
◆ISOはいいとこ取りする
◆ISOは全ての産業にピッタリ合うようには出来ていない



 ISO9001の規格を作成する時は、世界中から集まった数千の意見を審議し、たくさんの
国の委員が「ああでもないこうでもない」と議論して決めました。従って、ISO9001の細部を
見ると、その時の議論の経緯を反映して、バラツキや矛盾があります。
 また、ISO9001は、最初の段階で機械や電機産業のニーズを受けて作られたため、まだ
その影響が残っています。例えば、「顧客の所有物」の項は、機械メーカーが組立を外注に
出す際 に、預けた部品を管理させるためにできた条項だと思われます。この他、デザイン
レビューや測定機器の管埋も、他の多くの産業では重すぎます。

 このように、ISO9001は完全なものではありません。一方で、品質保証、顧客満足、継続
的改善と言った幹となる考え方は一貫しています(良くまとめたものです)。よく言われる
「規格の意図を読む」と言うのは、バラツキの大きい細部に捕らわれず、幹に沿って理解しま
しょうと言うことだと思います。言い方を変えれば「ISOはザックリ読む」です。

 ISOは条項のバラツキが大きいので、全ての条項に同じように対応する必要はありません。
自社の産業の特性や改善のターゲットに合わせて、ISOのどの部分に力を入れるかを決め
て良いのです。
 例えば、インフラストラクチャー(ISO 9001 6.3項)について、しっかりと日常管理をしなけれ
ばいけない設備があれば、ISOを利用してルールの徹底を行います。しかし、不良発生に
直結する設備もなく、管理を強化する意志がないのならば、お付き合いの形式的な対応で
十分です(品質マニュアルに代表的な設備を列挙するぐらい)。何も 必要のない日常点検
を始めることはありません。

 ISO9001の各々の要求事項について、本気でシステムを構築するか、形だけ合わせて
おくかは、自社の業務上の必要性から判断して下さい。  






  7.ISOに書いてあることだけやっても良くならない


◆ISOは十分条件ではない
◆ISOは重要なことがいっぱい抜けている
◆会社にとって必要なことは自分で決めて、マネジメントシステムに入れる



 QMSの構築方法として、最初にISO9001に沿った品質マニュアルを作り、ISO9001に書いて
ある項目のみを整備する会社があります(そういう手法のコンサルタントもいます)。これで
審査は通ります。でも、会社の改善は進みません。なぜならば、これは本当の仕組み作り
ではなく、審査に通るための方法だからです。

 ISO9001は、管理するべき項目(プロセス)を自分で決めるように言っています(4.4項の第2
段落)。一方、ISOは業種ごとに異なる部分には踏み込まず、それ以外にも漏れていることが
多いので、どこの会社にも、ISOが言及していない重要なプロセスがたくさんあります。
例えば、ISO9001には、生産計画、製造移管、クレーム対応などについて具体的な要求は
ありません。そこで、システム構築にあたっては、自社として管理すべき項目を選び、マネジ
メントシステムに確実に組み込むことが必要です。
 この作業を怠った会社は、重要なプロセスを放置したままで、ISO対応だけを行うことになり
ます。例えば、製造工程の管理はいい加減なのに、たいして重要でもない顧客所有物の
管理はやたらと厳重といった感じです。これでは、何も良くなりません。 




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