12月23日

毎年12月は、来年の干支の動物を取材にいくことにしていますが、私にとって“猪〜豚”は苦手なモチーフです。美しい姿だ、と感じたことがないのです。

特に豚は、イスラム教やヒンズー教で“不浄の生き物”として忌み嫌われていますし、豚に関する言葉のほとんどは、あまり良い意味で使われません。

私の豚に対する今までのイメージも、そうした先入観に影響を受けているかもしれません。

ただ、絵描きにとって、対象を観念的なイメージで決めつけることは致命傷になります。4年まえの羊のときにも、よく観察することで魅力がみえてきました。

しかし今回は、「このイメージから“好き”に変われるだろうか?」と、不安半分、期待半分で取材にいきました。(好きなものは多い方がいいですから)

 

取材先は伊豆は天城の「いのしし村」で、猪は数十頭、黒豚も十数頭を見ることができます。実は私、いのししの実物を見るのは今回が初めてです。

まずはコミュニケーション、と猪用のエサ(ビスケット)を買い、割りながらあげてみますと、ブヒブビ言いながら我先に集まってきます。

「う〜ん、やはり美しくないなぁ。」 動物に罪はありませんし、見た目や立ち振る舞いを人間の姿や行動を基準に判断してしまう私がいけないのですが・・。

また、猪や豚は泥が好きなようで、身体についた虫などを払う意味でも泥を身体にこすりつけます。「う〜ん、身体が泥色だ・・・」 印象は芳しくありません。

 

「そうだ、うり坊は?」 猪は生まれてから3ヶ月くらいまで、身体にシマシマの模様があります。それがウリに似ているので“うり坊”という愛称があります。

しかし、あまりに無知でした。猪の出産期は春なのだそうです。そりゃそうですよね。生まれたての赤子は暖かい気候で育てたいですものね。

春に生まれて模様が消えるまで3ヶ月間・・・。つまり、うり坊が見られるのは春から初夏にかけてでして、初冬に見ることは無理な話だったのです。

 

しかし、うり模様こそ見ることができなかったものの、まだ茶色の色味を残した今年生まれの猪が、ガラス越しの室内で飼われていました。

泥にまみれていないので、肌の赤い微妙な色も観察できましたし、近くで見ることができたので、目の表情などに愛らしさを感じることができました。

一番違和感のあった鼻の形も、数時間眺めているうちに素直に受け入れられるようになりました。足もたくましく、いい形だと思います。

 

今回はまだ、泥まみれの猪からも魅力を感じられるところまではいきませんでしたが、理解が深まったことで、少し親しみがわきました。

野生を生き抜く姿が見られれば、また印象が大きく変わることでしょうが、いまは熊や猪が山を降りて里の畑を荒らしたりせざるを得なくなっていて、

人間との共存のあり方の再考が求められる難しい局面にあるようです。

 

また、豚さんの名誉のために追記しておきますが、人間と豚の関係は8千年も前から猪を家畜用に飼いならしたことに始まるそうです。

人間の都合で飼いならしたがために、野生を生き抜くための機能美を失ってしまった姿を悪く言うのは、あまりに身勝手なことなのかもしれません。