5月14日

ただの人が作った人の世が

住みにくいからとて、越す国はあるまい。

あれば人でなしの国へ行くばかりだ。

人でなしの国は人の世よりも

なお住みにくかろう。


 越す事のならぬ世が住みにくければ、

住みにくい所をどれほどか、

寛容(くつろげ)て、

束(つか)の間(ま)の命を、

束の間でも住みよくせねばならぬ。

ここに詩人という天職が出来て、

ここに画家という使命が降(くだ)る。

( 夏目漱石 「草枕」 より )