†ろしかめ研究室†

KMZ ZENIT 412DX 評価不能 発売年月2000?/標準価格 $85
M42マウントのまん丸黒助


ロシアKMZ社の最新型(笑)M42マウント一眼レフ。球面を大胆に取り入れた斬新なデザインが目を惹くが、中身は絞り込み測光・最速1/500"というウルトラ・ロースペック機。基本性能は40年前のZENIT Eからほとんど進化していない。自動絞りとTTL露出計が付いた程度。でも、持ってると嬉しくなるのは何故だろう?

(2006.07.19)

●外観

この412の最大の特長は、何と言っても愛嬌のある丸っこいデザイン。ベースとなったのは恐らくルイジ・コラーニのEOSだろう。事実、212のころはEOSの影響がかなり色濃く感じられた(むしろLeica R8かな?)。しかし、この412になると、ちょっと違った方向にデフォルメされて来たように思う。エルゴノミックスとか何とかいう前に、異様に丸っこいのだ。また、なだらかなペンタ部はPentaxのMZ-Sを髣髴とさせるし、全体の印象はCOSINAのC-1sの兄気分のようだ。真っ黒でまん丸なところは巨大化したOLMYPUS XAと言おうか、はたまたサムソンのゾウさんカメラに面差しが似てなくもない。コラーニならむしろシーガルの方にイメージが近いかも知れない。そうそう、緑に塗ったらサンダーバード2号にそっくり(^_^;

要するに、EOSから出発したかも知れないが、今やかなり別物のデザインになっているのである。で、それでどうなんだと言うと……なかなか愛らしく非常によろしい。なんのことやら。でも、後述するように、このデザインには機能的に大きな問題点があるのだ(;_;)

デザインは秀逸としても、素材の質感はあまり感心できない。おそらく、中身はきちんとしたダイキャスト製だと思うが、ボディシェルのプラスチックが安物だから、全体的にパカパカした印象が強く剛性感に乏しい。プラの表面も一応つや消しなんだが、これまた安っぽいつや消しで悲しい。工作精度も……裏蓋、光線洩れしないだろうか? 凄く不安だ…と思っていたら、実際、盛大な光線カブリが発生した(;_;)

大きさはOM-1よりも二周りほど大きい。横幅はほぼ同じだが高さと厚みがあってボリューム感が凄い。グラマーなんですわ。重さは540g、大きさの割には軽い方。標準レンズのZENITAR-M2sも140gとベラボーに軽い。撮影重量ではOM-1よりも軽い。ロシカメSLRとしては、最も携帯性に優れていると思う。

●M42レンズと測光

レンズはM42スクリューマウント。ロシアではまだM42が主流なんだろうか? 流石に自動絞りには対応しているけれど、何と未だにTTL絞り込み測光。シャッターを半押しすると絞りが絞り込まれるので、絞り環を回して3点LEDで露出合わせをすると言う、とんでもないシステム。あたま痛い。もっとも、M42マウントではTTL開放測光は実質的に無理。M42では絞り値をボディに伝えるシステムが統一されなかったから。しかも、過去の名玉の中には絞り連動システム自体を持っていない物も多い。

この絞り込み測光は、Pentax SPと似たシステムのようだ。持ってないので知らないけど。それにしたって、40年前じゃない…と思っていたら、この間出たBessaflex TMも似たような物のようだ。う〜ん、時間が逆回転しておる。

たとえば、仮にPentax方式を採用したとすると、SMC-Takumar(開放測光対応のTakumar)以外のレンズは使えなくなってしまう。少なくとも他のM42レンズを使うときは、測光方式を切り替える必要が出てくる。それではコストも圧迫するし、ユーザーも混乱する。仕方のないところだろう。さらに言えば、自動絞りのないM42レンズもたくさん存在しているのだから、自動絞りを使った絞り込み測光ですら、M42の世界では先走りし過ぎなのかもしれない。

話は逸れるが、ZENITではSMC Takumarは使用厳禁。SMC Takumarはなぜかマウント面にAUTO / MANUAL切り替え用のピンがあり、これがZENITのマウント面のネジ穴にはまりこんで、レンズが外れなくなる。Pentax SVでも良く似た症状が出るが、原因は別みたいだ。SVのマウント面にはネジ穴はない。ちなみに、SMC Takumar互換のアダプトール(ES用)にはこのような怪しからんピンはないが、ZENIT 412DXでは物理形状の問題で使えない(後述)。

と言うわけで、M42マウントを採用する以上、測光に大きな制限が出るのはやむをえない。これならいっそ、外部メーターの方が便利かもしれない。KMZも流石にこれではいかんと思ったのか、ZENIT KMでは、Kマウントを採用して一気にAE化まで突き進んだ。

正確に言えば、ZENIT 122Kや212Kのように、旧機種にもKマウント機はあったが、これらはM42マウントを物理的にKマウントに交換しただけで、M42マウント機と同じく絞り込み測光を採用していた。……と思っていたら、実はその前にもKマウントの開放測光機が存在したらしい。ろしかめの進化は何だかよくわからないなあ…

あと、どうでもいい事だけど、付属レンズのZENITARってなんて発音するのかね? アメリカ流に「ゼニター」なのか、ドイツ流に「ゼニタール」なのか? 「銭太」よりも「銭樽」の方が縁起が良さそうだが。「タムシにタムロン」は川崎ゆきおの迷言だが、「銭タムシにはゼニタール」も悪くないな(^^ゞ も一つおまけに、「イカれた頭にイカレックス」。

●操作性

工作精度が低いこともあり、全体の操作性はあまり良くない。ダイヤルもシャッターもかなり固い。シャッター音も横走布幕シャッターとしてはかなり騒い部類。ただし、ミラーショックは小さめ。今更ロシカメの操作性を細かくあげつらうのはやめるが、特に注意すべき点を三つ指摘しておく。

一つは、レンズの絞り環がとても回しにくいこと。これは丸っこいデザインと密接な関係がある。通常、エプロン部はボディ前面から直角に立ち上がっていて、横幅もレンズの外径よりも小さい。そのおかげで、レンズの根元にある絞り環でもスムーズに回すことができる。ところが、この412のエプロン部は、デザインの調和を意識したためか、立ち上がりがなだらかで、しかも横幅がレンズの外径よりも大きい。このため、絞り環が恐ろしく掴みにくい。はっきり言って、ファインダー覗きながら絞り環を回せというのは無茶である。

もう一つ、このデザインにはTamronのアダプトールが使えないという大きな欠点がある。外ギアがペンタ部のオデコに当たってねじ込めないのである。実用面ではかなり大きなデメリットになる。ただし、外ギアのないアダプトマチックであれば問題なく使える。アダプトマチックも28mm、35mm、105mm、300mm、70-220mmとけっこう揃ったので、これはこれでありがたい。

二つ目はシャッター半押しでの測光。シャッターボタンが固いので、つい力を入れすぎてしまい、半押しで止まらずに、一気に切ってしまうことがしばしばあった。これもはっきり言えば、半押しなんて高級な機能を付けるにしては工作精度が低すぎ。この412のTTL絞り込み測光は、面倒・使いにくい・不確実の三拍子が揃ってしまった。外部メーターにしましょう。

三つ目の問題点は巻き上げ。意外にもラチェット可能なのだが、何と巻き上げ途中でもレリーズが可能なのだ。もちろん、ミラーは上がらないし、中途半端な位置で幕が走るから何も写らないとは思うが、不完全な巻き上げでシャッターを切ってしまうリスクがある。覚えておかないと大失敗するかもしれない。恐い仕様である。

●基本スペック

まず、シャッターはB・1/30"〜1/500"の横走り布幕シャッター。横走り布幕は大歓迎だが、最速1/500"は流石に見劣りする。もっとも、日常的な状況での撮影ならば、そう深刻に困るスペックではないが。300mm/F5.6だって手持ちで使えるし、JUPITER-9だってF2だから、開放で使っても知れている。

むしろ、問題は低速側の1/30"の方だろう。ちなみに、212では1/8"まであったから、大幅なスペックダウンと言うべきだろう。ZORKI/ZENITでは低速シャッターの故障が頻発しているそうだから、どうせまともに動かねえなら取っちまえ、とでも思ったんだろうか(単に別の機種をコピーしたというだけのことかも知れないが)……室内でストロボなしで撮るときにはとても不便で困る。

シンクロ速度は1/30"でストロボ接続はホットシューのみ。シンクロターミナルまで省略するとは、コストは削れるだけ削るという魂胆か。もう、とほほですなあ……。ただし、シンクロが1/30"というのは、ある意味で仕方ないのかもしれない。スローガバナを廃止してしまった以上、シンクロ速度=最低速度ということになるから。シンクロが1/250"になっても、最低速度が1/250"になったりしたら困ってしまう。まあ、1/30"ってのは落し所でしょう。OM-2だってTTLオートのときは1/30"だったんだから…って、次元が大分違う話だけどね。

テレビを使った簡易シャッター速度チェックで気がついたんだが、実は1/60"で幕がすべて開くようだ。恐らく、1/60"でもシンクロするだろう。1/30"は余裕を見ているのではないか?

露出計は前述のように3点LED(赤・緑・赤)によるマニュアル絞り込み測光。元々この三点LEDってのは大嫌いなのだが、どうせこの露出計は使わないからもう悪口は言わない。なお、この412からDX対応になった。ちょっと考えると進歩のようだが、感度設定ダイヤルを廃止したところを見ると、これも単なるコストカットだろう。どう考えても、感度ダイヤルよりもDX接点の方が安く済む。ちなみに、DXと言っても対応しているのはISO 64〜640まで、つまり使用可能なフィルム感度は100/200/400の3種類のみ。20年前のコンパクトじゃないんだから…。

露出計にはかなり大きな問題があるようだ。ISO 400のフィルムを入れて、1/500"-F16に設定したら、キャップをした真っ暗な状態でも露出オーバーを示した。壊れているのかとも思ったが、被写体によってはまともな値を示すこともあった。絞ると精度が落ちるのかも知れないが、これではネガの目安用としても恐い。

電池はLR44×2。原則的にフルメカニカル機で、露出計以外電池不要。セルフタイマーはゼンマイ式。フィルムカウンタのリセットは手動式…って、オイオイ……。

●ファインダー系

ファインダーは古いZENITよりもかなり明るくて見やすいが、アイポイントが低くて眼鏡ユーザーには少々不便。倍率、視野率ともに不明。実感として、倍率は0.85倍くらいかな? まずまず大きな印象。実写していないので視野率はわからないが、話によると相等低いらしい。ちなみに、ミラーはかなり小さい。

スクリーンは固定式で、スプリット/マイクロ/マットという標準的なもの。強度近視の私でも比較的楽にピント合わせができる(使える視度補正レンズはなさそうだ)。ただし、プリズム頂角は割とシビアのようで、F4あたりから翳り始める。300mm/F5.6ではちょっと辛いかもしれない。135mm/F3.5にテレコンを噛ませて270mm/F7としてみたが、これは流石に無理。

●実写結果

と、いうことで実写をしてみたのだが…

ま、散々な結果でしたわ。光線洩れと視度補正は何とかしましょう。また、何とかなるでしょう。しかし、低コントラスト対策はフードを付けるくらいしか思い付かない。もっとも、このカメラの写りに関してはあまり悪い評価を聞かないので、たまたま私の機体がハズレなのかも知れない…と慰めてみたりする。そんなわきゃね〜よな〜〜

●でも好き嫌いは別

なんか悪口ばっかり書いてきたけど、好きか嫌いかと言われると、実は物凄く好きなんだな。好き嫌いなんてそんなものかも知れない。ただ、目的のために道具を使うんじゃなくて、道具を使うことが目的になっているからこそ、許せる存在ではあるけれど。

主要諸元
シャッター 機械制御 横走布幕 B,1/30〜1/500" X接点1/30"
露出 マニュアル(三点LED式TTL露出計内蔵)
ファインダー 倍率?、視野率?
外観 139×96×59mm/540g(実測)
ZENITAR-M2s 50mm/F2は140g
電池 LR-44×2
その他 DXコード対応(ISO 16〜640)
独断評価
操作感 − 何をか言わんや
堅牢性 − 構造的には頑丈なはずだが故障は多いと思う…
機能 − 写真が撮れる!
携帯性 − 持ち運びには意外に便利
用途 ×仕事 ○趣味 △スナップ △軽旅行 ×海外旅行


●試用レポート

2003.09.27/オークションで入手。ケース、ストラップ、ZENITAR-M2s付きで5750円。う〜ん、安い。外観は少しくたびれているが、機能は完動のようだ。

2003.09.28/あ、ファインダーの中にゴミが出てきた…どうも、スクリーンの内側みたい。空シャッター切って遊んでいただけなのに……。と思っていたら、翌日には何故か取れていた。虫かなぁ?

2004.03.29/浅草・墨田公園で試写。お花見狙いだったが、まだ3〜5分咲きでやや期待外れ。でも、リタイヤ組と地方・海外(欧米、アジア)からの観光客がたくさんいて、平日の昼間だと言うのに物凄い人出だった。昼飯時はどこも長蛇の列で、大黒屋なんか凄かったもんなあ……ちなみに、大黒屋は十数年前に一度入ったきりが、とんでもなくまずかった。素材はとても良いのだが、こんがり揚がった天ぷらはアメリカンドッグと見まごうばかり。ま、たまたま私が入ったときだけハズレだったのかもしれないが…と思って、今日再挑戦するつもりだったんだが流石にやめた。

レンズは標準のMC Zenitar-M2s 50mm/F2、中望遠のSuper-Takumar 135mm/F3.5、超広角のSMC-Takumar 28mm/F3.5、それにスナップ用にSMENA 35 40mm/F4を持って行った。しかし、もう散々であった。何といっても、SMC-Takumarは絶対に使用厳禁! Pentax SVの時もレンズが外れなくなる症状が出たが、このZenitでもやってしまった。原因は、SMC Takumarのマウント面にあるオート/マニュアル切り替えスイッチ用のピンが、マウントを止めるネジ穴にはまり込むこと。何を考えてやがんだ、Pentaxは〜〜〜!!! こんなもん、ほとんどのカメラでトラブルわい!! それでも何でも力ワザで取り外したけどねえ、もう二度と使わないよSMCは!怒怒怒!→Zenitに関してはその通りだけど、SVは別の理由みたい。早とちりで軽々に怒るんじゃないよ!

でも、そうするとM42の超広角がなくなってしまう…で、当然Tamronに泣き付いたのだが…何と、Zenit 412DXのえるごのみっくすデザインでは、Pentax用アダプトールの外ギアがペンタ部に引っ掛かって、装着できない(>_<)とほほほ…。なお、アダプトールはES用(つまりSMC Takumar互換)なのだが、流石に間抜けなA/Mスイッチ用ピンは付いていないので、外れなくなることはない(はず)。結局、現時点でZenit 412DXで使える超広角はアダプトマチックの28mm/F2.8だけ。悪いレンズじゃないけどね…ちょっと物足りないよなあ…

それから、内蔵TTL露出計、まったくアテにならず。ハナからアテにはしてなかったけど、それにしても目安にもなりゃしない。たとえばISO 400入れて、1/500"-F16で花曇り屋外でオーバー表示。それどころか、レンズを手で覆って真っ暗にしてもオーバー表示。そうかと思うと、突如適切な露出値で緑が点く。何なの、これ? 絞ると精度が極端に落ちるのかもしれないけど…

あと、ワンタッチストラップを付けたら、金具の当たる部分の塗装がいとも簡単にハゲた。も〜、サイテーの仕上げなんだわ。それは言わない約束だけど…。

視度補正は付けなかった(取り付け可能な視度補正レンズがなかった)が、ピント合わせはそんなに辛くはなかった。大型のスプリットプリズムはけっこう使いやすい。また、以前のZenitに比べると、ファインダーもかなり明るくなっている印象。

2004.06.04/DPE上がる。良くない。まずピントが全然来ていない。やはり視度補正がなかったためか? スプリットプリズムもダメなんだねえ。また、危惧していたように、光線かぶりが頻発していた。2/3くらいのコマがカブっている。さらに、明確にコントラストが低い。特にZENITARで顕著。ボディもレンズも内面反射の処理が不十分のようだ。Takumarで撮影したコマはややマシ。


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