(2003.02.13/2005.11.10upd)

Socket 7のCPU

●Socket 7 CPUの概観

まず、歴史から紐解いていこう。最初のSocket 7のCPUは…え〜と、よく知らない。そもそも、Socket 7の前にSocket 5があったのだから、「Socket 7のCPU」という表現自体が少々おかしいような気もするが……ともかく、初代Pentium(P54C)であった。クロックは…さあ…最低が75MHzだから、やっぱ75MHzが最初かなあ…? でも、Windows 95ブームに乗って爆発的に普及したのは100MHzだったような気がする。と、のっけから、いい加減な記述で始まるのであった。

で、この初代Pentiumは、FSBこそ50MHz、60MHz、66MHzと多彩だったが、電圧は基本的に3.3v単一電圧だけだった。3.52vや3.45vのVRE版というのもあったようだが、存在理由はよく知らない。まあ、一般論として、電圧が高い方が動作は安定するし、当時はまだ消費電力が深刻な問題にはならなかったので、高い方が良いくらいに考えられていたのかも知れない。それとも、低電圧では動かないデキの悪いCPUが高電圧版として安価で売られていたのだろうか? ちなみに、3.3v版のPentium 75の消費電力は3w/8w(通常/最大)、Pentium 133だって4w/11wだった。ファンレスも可能なレベルである。3.5vにしても知れている。

■WinChipの登場
ひょっとすると、メーカーPCではVRE版が多かったのかも知れない。というのは、Pentium互換CPUである、IDT WinChip C6が基本的に3.5vなのだ。3.3v版も存在はしているが、流通量は3.5vの方がずっと多い(と思う)。そもそも、WinChipの謳い文句は、CPUをスポッと交換するだけで、大幅な高速化が図れるということだった。一種のオーバードライブ・プロセッサのような感覚だ。これが何を意味するのか言うと、コア電圧もFSBも倍率も変更せずに、クロックアップできるということだ。つまり、元CPUであるPentiumも3.5vでなくてはならない…はずだ(実は、これはちょっとウソ臭い)。

ちなみに、何で同じ設定で高速化が図れるのかと言うと、WinChip C6は倍率設定に細工がしてあって、x1.5設定でx4動作するのであった。つまり、Pentium 90 (60x1.5)を抜いて、WinChip C6を差せば、60x4=240MHzで動作するのである。ただし、この初代WinChipのパフォーマンスは悲惨なレベルで、同クロックの初代Pentiumと比較すると6割程度の速度しか出ない(特に浮動小数点演算)。つまり、240MHzと言っても実際は150MHz相当にしかならない、かなりインチキ臭いものだった。ただ、発熱量は比較的小さく、同クロックのPentiumよりも安かったし(当たり前だが)、MMX命令も一応サポートしていた。何よりSokcet 5のマザーでそのまま240MHzが出せるというのは、それなりに魅力的だったような気がする。

なお、WinChip C6には200MHz(66x3)、225MHz(75x3)というのも存在するが、これらの存在理由はよく判らない。x3設定はPentiumでもWinChipでも同じなので、単純な交換だけではクロックアップできないだろう。x2設定でx3動作するというハナシもあるが資料不足で確認できない(マザーもWinChipはなかなか正式サポートしてくれなくて、取扱説明書にもジャンパ設定が書いてない)。また、定格使用ではないが、C6 200MHzをPentium 75(50x1.5)と換装すれば、そのまま50MHzx4=200MHz動作するという使い方も考えられる。

■意外に優等生のWinChip 2
せめて、本家並みのパフォーマンスが出て、なおかつ低価格であれば、互換CPUとしての存在意義がある。ということで、開発されたのがWinChip 2で、こちらは、本家Pentiumよりも僅かに遅いが、ほぼ匹敵するパフォーマンスが出るようになった。しかも、MMX命令を強化し、3D Now!命令もサポートした高機能CPUである。さらに、WinChip 2 Rev.A(通称WinChip 2A)では、FSB=100MHzにも対応し、最高クロックも300MHzになった。しかも、電圧は3.3vまたは3.5vの単一電圧で、古いマザーのユーザーを決して見捨てない情け深いCPUだったのである。もっとも、FSB=100MHzをサポートしていながら、単一電圧しか出ないマザーは存在していないとは思うが…

ともかく、WinChip C6はODP的な存在意義しかなかったが、このWinChip 2/2AはPentium互換CPUとして、それなりのポジションを得た。また、特筆すべきは消費電力の少なさで、一般的な3.5v版でも同クロックのMMX Pentium (コア2.8v)よりもかなり低い。200MHzで比較すると、MMX Pentiumは最大16w、WinChip 2は最大12wである。3.3v版ではさらに低く、200MHzで最大9w程度しか食わない。AMDやCyrixの同クラスCPUが最大20w程度消費するのに比べると、際立ったメリットである。

もっとも、3.3v版はかなりレアのようで、私も実物を見たことはない。ひょっとすると、3.5v版がそのまま3.3vで動くかも知れないが、試したことはない(噂では動くらしい)。また、12wや9wという数字も、どこまで信用してよいのか、多少疑問ではある。少なくとも、通常時の発熱量で比べると、MMX Pentiumの方が小さいような気がする。というか、チップの構造上、WinChip 2は常時最大発熱をしているのではないかと思われるフシがある。理論的な根拠はないが、使用してみた実感である。

■発熱に苦しめられたCyrix 68x6とMU
CyrixのPentium互換CPUは、発熱量という点から見ると完全に失格。一時、MU-300を使っていたが、余りの発熱の多さに大いに閉口した。パフォーマンス的にはかなり良い石だと思うが、15w/26wという消費電力は無茶だ。ファンの音が大きくて仕事にならない。MUの前モデルである6x86や6x86MXも、最大消費電力が軒並み20wを超える。それで、200MHz前後だから嫌になる。しかも、CyrixはPentium換算の速度表示をしていたので、たとえば、MU-300の実クロックは233MHzにすぎない。今となっては比較もできないが、たぶん、浮動小数点演算は実クロック相当の速度しか出なかっただろう。

ところが、例外がある。それが、MUの最終バージョンであるMU-400(285MHz)とMU-433(300MHz)だ。プロセスルールを変更し(0.35μ→0.25μ)、コア電圧を下げて(2.9v→2.2v)、一気に低消費電力化を実現した、MU最後の死に花である(0.25μ/2.2vの333なども存在はするらしいが未見)。最大消費電力は、MU-400で12w、MU-433でも13w。通常時のデータがないのでファンレス化が可能かどうかは判らないが、低速の静音ファンで十分使える。しかも、整数演算に関しては表記速度よりも速いくらい(浮動小数点演算は実クロック並みだが)。静音PC作成にはかなり魅力的な選択肢であるが、何しろ今となっては入手が難しい。

■やはり本命はAMD K6/K6-2
AMDのPentium互換CPUはK5から始まるが、K5は触ったこともない。ただ、データを見る限り静音化には向いていない石であろうと想像される。消費電力を考えると、K6の2.2vまたは2.1v版あたりからが、検討の対象になる。なお、K6/K6-2シリーズは非常にバリエーションが多いので、選ぶ際にもいろいろとややこしい。クロックの数字の後のAFQとかANZといった3文字の英字は、消費電力を比較する際には非常に重要なので要チェック。

全般的に言って、K6/K6-2シリーズはパフォーマンスに優れていて、単位クロック当たりの消費電力も比較的小さい。たとえば、K6-2/400 AFRを例に取ると、消費電力は10w/17w。200MHzに換算すると5w/9wで、MMX Pentium 200の7w/16wよりも大幅に低い。ファンレス化可能なレベルだ。我が家のLinuxサーバはK6-2/500を200MHzでファンレス動作させているが、熱暴走は一度も起きていない。その上、同クロックのMMX Pentiumよりも1割以上パフォーマンスが優れていると言われている。Socket 7の決定版のCPUと言ってもよいだろう。

しかし、マザーの方が問題になる。というのは、430TXや430HXなど、Socket 7の定番チップセットを搭載したマザーでは、通常、FSB=66MHz、電圧=2.5v、倍率=x3.5が限界で、2.2vのコア電圧とx4以上の倍率が必要なK6-2を載せることができない。そもそも、本家IntelはMMX Pentium 233を最後にSokcet 370に完全移行しているので(モバイル版には266MHzや300MHzのMMX Pentiumも存在する)、Intel規格にないSuper 7なんぞをサポートする義務はないのである。もちろん、SiSとかVIAとかAlladinとかのチップセットの搭載されたマザーならばK6-2を正式サポートしている物があるが、探すとなるとけっこう大変だ。

そもそも、なんで今更Socket 7なのかというと、ATフォームファクターの古いケースが捨てられないからだ。10年以上前にアメリカから輸入した486DX2のマイクロタワー機の篋体をまだ大事に使っているので、どうしてもATでなくてはならない。背面板の交換も不可能な時代なので、ATXのマザーは乗らないのである。baby-ATのマザー自体がもはや珍しくなっている時代に、チップセット云々はなかなか言っておられない。いわんや、Super 7対応のマザーは多くがATX仕様である。となると、何とかTXやHXでK6-2を動かさなくてはならない。

■旧マザーでK6-2を動かす
ま、そんなに深刻ぶらなくても実は動く。ただ、けっこう裏技とか細工が必要で、静音安定動作第一主義の私としては、少々気乗りがしないのである。もちろん、ゲタを使うという方法はある。これならばマザーを痛めずに気軽に使えるが、実は物理形状の問題がある。ATのマイクロタワーにbaby-ATのマザーと言う組み合わせだと、CPUの上部にシャドウベイが来て、厚いヒートシンクやゲタの類が付かないことがあるのだ。少なくとも、私が所有している3台のAT機のうち、1台ではこの問題が物凄く大きなネックになっている。

では、どうするのかと言うと……まず、電圧は隠し設定で2.2vが出せるようになっているマザーが多い。430TX搭載のマザーならば、ほぼ大丈夫だと思う。各メーカーのHPを調べて見るとよい。しかし、倍率の方は少々厄介で、高倍率を出すにはBFのジャンパピンが3本必要だが、多くのマザーでは2本しかない。端子が出ていれば自分で半田付けするとか、ZIFソケットの特定のピンをショートさせるという方法もあるようだが、非常に気乗りがしない。

救いの神となるのが新コアのK6-2。こいつは、x2設定でx6動作するのだ。つまり、FSB=66MHz、倍率=x2の133MHz設定にしておけば、66MHzx6=400MHzで動作してくれる。非常に有り難いCPUなのである。ただ問題は、6倍しか設定できない点。x3.5の次がx6では、消費電力を考慮してクロックダウンをしたいときなど、細かな調整が効かない。FSB側で調整する方法もあるが、パフォーマンス的に不利だろう。

●Scoket 7 CPUの選択指針

VcoreCPU clock TDP/MAX
3.5v WinChip 2 200 66MHz x 3 --/12w
WinChip 2 225 75MHz x 3 --/13w
WinChip 2A 300 100MHz x 3 --/16w
3.3v Pentium 200 66MHz x 3 _7w/16w
WinChip 2 200 66MHz x 3 --/ 9w
WinChip 2A 300 100MHz x 3 --/12w
2.8v-2.9v MMX Pent 166 66MHz x 2.5_6w/13w
K6 /166 ALR 66MHz x 2.510w/17w
K6 /200 ALR 66MHz x 3 12w/20w
2.2v K6 /266 AFR 66MHz x 4 _8w/12w
K6 /300 AFR 66MHz x 4.5_9w/15w
K6-2/300 AFR 66MHz x 4.510w/17w
K6-2/400 AFR
     AFK
     AFQ
66MHz x 6 10w/17w
66MHz x 6 13w/16w
66MHz x 6 14w/23w
K6-2/500 AFX 100MHz x 5 12w/20w
MU-400 95MHz x 3 --/12w
MU-433 100MHz x 3 --/13w
1.8vK6-2/300 ANZ 66MHz x 4.5 _9w/10w
では、結局、どんなCPUを使えば良いのか、ということになると…ま、何の制約もない状況であれば、Super 7のマザーにK6-V+を乗っければよい(500MHzでも13w/16w)。パフォーマンスも静音性もかなり優れたシステムだ。しかし、現状ではこのシステムは性能に不釣り合いなほど高く付く。
■Super 7
Super 7のMBなら、K6-2/400〜500あたりが狙い目だろう。ただし、400はAFRが望ましい。AFQでは消費電力が大きくて静音化に支障が出る。その点、500は1種類しかなく、400 AFRと同じコアのようなので安心。コストもそれほどではない。

Super 7のもう一つの選択肢はMU-400/433。これは、実質的にSuper 7でしか使用できない(本来の性能が出せない)CPUなので、折角Super 7があるなら是非とも候補に入れるべきだろう。MU-433で最大13wという消費電力は大いに魅力的。

■Intel 430TX/HX搭載MB
Intel 430TXまたはHXのマザーであれば、やはりK6-2/400 AFRか500 AFXだろう。隠し設定で2.2vが出せ、x2設定でx6動作するので、パフォーマンス的にも静音化の面でも優れている。もし、400 AFQしかない場合は、クロックダウンしながら静音化との兼合いを探すわけだが、その際にはx3.5とx6の間の倍率が出せないのがネックになる。BF2ジャンパの追加などの改造をするか、FSB側で調節することになる。
■低電圧が出せないMB
2.2vが出せないマザーでは、WinChip 2/2AかMMX Pentiumしかない。もし、単一電圧のみのMBならばWinChip 2/2Aしかないが、デュアルボルテージ対応MBだとちょっと迷う。データシート上はWinChip 2/2Aの方が低発熱だが、使用実感はなんとも言えない。最高クロックはMMX Pentiumが233MHz、WinChip 2Aが300MHzだが、WinChip 2Aはかなりレアだと思う。実際に流通しているのは、せいぜいWinChip 2の225MHzくらいまでではないか? この手の古いMBでは、MMX Pentium 166あたりをファンレスで使うのが、コスト的にも実現の容易さにおいても、実は最も現実的なのではないかと思っていたりする。

●ファンレス化の可能性

Socket 7のファンレス化にはかなりいろいろな問題がある。特に注意しなければならないのは、消費電力の問題だけでなく、物理形状がネックになると言う点だ。既に述べたように、CPUの上部にシャドウベイが被って大型ヒートシンクが付かないこともあるし、ソケット回りに電解コンデンサが林立して、これまた大型ヒートシンクの取り付けが不可能なこともある。さらに、古いマザーや安いマザーではCPUの温度を測るサーミスタが付いていないことも多い。これもファンレス化の際にはかなり大きな障害になる。これらはSocket 7/ATフォームファクター固有の問題と考えても良いだろう(一部はSocket 370も引きずっているが…)。

Socket 7ではファンレス化よりも低速ファンによる静音化を目指す方が現実的だと思う。定格14dbの静音ファンを5v化して使えば、多分7〜8db程度まで騒音を抑えられる。この超静音ファンならば何とか我慢できる範囲である。

■ファンレスでの動作実績
問題は、そんなに低い冷却能力で安定動作させるには、やはりファンレスに準ずるレベルの低消費電力CPUが必要だと言うこと。今までの経験では、MMX Pentium 166は大型ヒートシンクのみで安定動作した。K6-2も500 AFXを200MHzにクロックダウンしたらファンレスで安定動作した。WinChip 2は133MHzにクロックダウンしたらファンレスでも大丈夫だった。これらのCPUならば、超静音ファンでも問題ないだろう。

ただし、いずれのCPUもOSインストール時にはファンを使用した。高負荷作業でファンレスは無理だと思った方が賢明だ。超静音ファンも少々心細い気がする。ファンコンを使って、12v定格での動作も可能にしておくべきだろう。

■超静音ファンで動作可能なCPU
一般に、ファンレス化可能な消費電力は6wと言われているが、超静音ファンでは「通常時10w以下、最大時10w台半ば」を一応の目安として考えている。12w/18wの河童566を超静音ファンで使っているが、真夏に高負荷作業はちょっと厳しいかな、というレベル。安心して使うには、もう少し低い消費電力に収めたい。

この数字をクリアできるのは、K6-2なら400AFRまで、K6は2.2v/2.1v版のみ、MUならば433/400のみ、WinChip 2とMMX Pentiumは概ねOK。あとは、上述の指針を参考にしてMBに合わせてCPUを決めることになるだろう。

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