†貧乏カメラ館†

RICOH XR500 ★★★★ 発売年月 1978.08/標準価格 ¥2.8300(ボディのみ)
意外にデキの良い超廉価フルメカ機


フルメカニカルでKマウントのロースペック機。発売は1979年ころで、先行のXR-1の廉価版として作られた。価格はXR RIKENON 50/2とケース付きで3万9800円という破格値。スペックは低いが造りは意外に丁寧で、後年のXRシリーズほど安っぽい感じはしない。手に取ると「確かにカメラだな」と実感できる−−手を抜く技術が未発達だっただけかも知れないが。外観はNikomat ELに酷似している。
(2006.11.10)

これだけ安いと悪い評価はできない。もちろん、各所で思いっきり手を抜いている。しかし、それでもまだ質感に気を配っているのはよく伝わってくるし、写りも水準をキープしていて、道具としての実用性は十分だ。セット販売の標準レンズXR RIKENON 50mm/F2も評価は高い。うちは貧乏だす、そやけど誇りは捨ててまへんで、というカメラ。

●基本スペック

TTL開放測光のフルメカニカル機。シャッターは縦走り金属羽根シャッターで、B,1/8〜1/500"。シンクロ速度は1/60"でシンクロターミナルはなし。プレビュー用の絞り込みボタンも絞り直読窓も省略されている。露出計は指針式で、ニコンと同様、巻き上げレバーの畳み込みでオフになる。スクリーンは固定式で、スプリットプリズムが斜めなのが特徴。ボディ重量は540gとOM-1と大差ないが実感としてはずっと重い。サイズもOM-1より一回り大きい。もちろんボディダはイキャスト製だが、意外なことにトップカバーはプラスチック製。

そう言えば、米谷さんがインタビューの中で、OM-3Ti/4Tiのチタン製のトップカバーを成形するのに、ものすごくデカい設備が必要だったと言っていた記憶がある。チタンでなくても、金属製のトップカバーの形成にはかなりのコストが掛かるのだろう。確かに、一枚板をプレスしてあの形を出すんだからねえ。

●シャッター速度

このXR500で気になるのは何と言ってもシャッター速度。1980年前後と言えば最速1/2000"時代に突入していたし、入門機・廉価機と言えども1/1000"は当然だった。当時の総合カタログを調べても、最速1/500"なんて一眼レフは他に見当たらない。低速側の1/8"というのも際立って貧弱だ。少なくとも、シャッターのスペックを見る限りロシカメ・レベルだ(同時期のM42版Zenitはたいてい1/30〜1/500")。

尤も、1/8〜1/500"というスペックが実用的でないかと言うと、そうとも言えない。ISO100でF16まで絞れば1/500"でもEV17までいける。ISO 400(+2EV)を使ってもピーカン(EV15)に対応できる。実用面で困ることはない。もちろん、大口径の中望遠でボケを活かしたポートレートを…なんてことになると、全然お話にならないが、まさかこのカメラで美人を撮ろうとは思わないだろう。スロー側もF2で1/8"ならばEV5で、ISO 100でも室内灯のみでの撮影が可能。それにBがあるのだから、スロー不足で困ることはないだろう。

ロシカメの場合、シャッターのスペックはほとんど技術的な制限によって決まっていたような気がするが、このXR500はコストダウンのために、「室内灯撮影〜ピーカン」をぎりぎりカバーするようにスペックを決めたような気がする。ただし、このシャッターのスペックダウンがそんなにコストを左右するのかどうかは疑問。ぱっと見る限り、シャッター羽根の枚数は5枚-3枚で、Nikon FEと同じように見る。ひょっとすると、元々1〜1/1000"を出せるユニットを使いながら、上位機のXR-1との差別化のために、わざと制限しただけなのかも知れない。

その昔、カシオのポケコンにPB-100とFX-700Pという双子の機種があった。PB-100が入門機、FX-700Pがワンタッチ関数機能を持った上位機という位置づけだったが、実はPB-100にもワンタッチ関数機能は付いていた。ただ、使えないように隠していただけだった。スペックダウンをした基板を別のラインで作るより、同じものを二機種で使い分ける方が安く済むのは分かるが、何とも姑息な気がした。

●ファインダー

ファインダーはかなり暗いが倍率は高い。正確な資料が手許にないが恐らく0.9倍くらい。ぱっと見はOM-1(0.92倍)よりでかい感じ。スクリーンはスプリット/マイクロ/マットだが、スプリットが45度というのが特長。ただ、あまり合わせやすい感じはしない。スプリット部はF5.6あたりで翳り始める。これは標準的。ピントの山はつかみにくい感じ。露出計は追針式でCanon FTbと同じく丸の中に針を合わせるタイプ。これはまずまず使いやすい。総じて、ファインダー系はあまり感心しない。

●使用感

ホールディングはまずまず。特に難を感じない。巻き上げ感も悪くない。気持の良いコリコリ感とまではいかないが、値段を考えれば御の字。ただし、ラチェットは不可。また、Nikon同様、巻き上げレバーが露出計のスイッチを兼ねていて、畳み込むとシャッターもロックされる。シャッター音は大きくてあまり好ましくない。ミラーショックもそこそこ気になる。ただ、値段の割には使用感には気を使ったのは実感できる。比較的「まとも」な感触。

●ボディが写りを左右する?

写真の写りを左右するのはレンズであって、カメラのボディ自体は実は大して重要ではない、とよく言われるが、本当だろうか? ボディに要求されるのは、測光とシャッター速度の正確性、圧板の平面性、完全な遮光性、内面反射処理、と言ったところだろう。一流メーカーのカメラならば、すべて水準をクリアしているだろう。逆に言えば、だからこそボディはどうでも良くて、レンズが重要だと言うことになる。

しかし、ロシア製のZENIT 412DXを使ってみて、どうもそうとも言い切れないと思うようになった。やはり、安く作ったボディはレンズの実力を台無しにするくらい悪い影響を及ぼすことがある。とすると、このXR500もかなり心配な価格ではあるのだが…実写結果はけっこう良好。RICOHは一流メーカーとは言えないが、ロシカメと同レベルで論じるのは失礼であると実感した。

●フィルム装填のトラブル

これは故障なのか仕様なのか判然としないのだが、手許にある二台のXR500のうち、一台はフィルム装填時に1コマ分しか巻き上げられない。二コマ目以降は空回りをしてしまう。原因はスプロケットのアソビが大きいこと。最初にフィルムを給送した後ギア3個分くらい後戻りしてしまうので、フィルムがスプロケットから外れて給送されなくなる。この状態になると、巻き上げ軸が空回りをしてフィルムを巻き取らなくなってしまう。ただし、この空回り自体は故障ではなく、もともと巻き戻し用に一定の負荷が掛かると空回りする仕様になっている。やはり問題はスプロケットのアソビの大きさの方だろう。巻き上げ時にフィルムをスプロケットに押し付けて外れないようにしてやれば、空回りせずに巻き上げることができる。

手許にあるもう一台のXR500ではこんな変な現象は起きない。スプロケットのアソビもごくわずか。それならば単なる故障じゃないか−−と言いたい所だが、そう決め付けるのも早計。というのは、1コマ分しか巻き取れなくてもフィルム装填自体には支障はなく、その後の給送も全然問題ない。コマ送りがバラけることもない。ただ、個人的にはいつも2コマ分巻き上げているので、1コマ分しか巻き上げられないのは酷く不愉快と言うか不安なのだが、それ以外の実害はない。とすると、これはロットによる仕様の違いじゃないのかとも勘繰りたくなる。この方がフィルムの節約になるしねえ……真実は藪の中。

……と思っていたら、解決した。やはり故障だった。トップカバーを開けて、フィルムカウンタのユニットを外して、逆回転ストッパーを特定し、ここの動きがスムーズでないと逆回転が起きることを確認。メンテナンスしてスムーズに動くようにしたら直った。

●フェイクNikomat

最初、Nikon New FM2と並べて遊んでいたら、なんか変に似てるなあ…と感じたんだ。で、ちょいと調べてみたら、これがNikomat ELとソックリ。違うのはレンズ脱着ボタンとペンタカバーのホットシュー部の角度くらい。XR500ではまったく意味を持たないペンタ部の銘板や絞り込みボタンまで真似している。下手すりゃ外装パーツには互換性があるかも知れない。以前、RICOHのボディにNikonのトップカバー乗っけているカメラを見て、世の中には物好きもいるもんだと思っていたが、成る程こういうことかと納得した。

ちなみに、ボディの金型はシリーズで共用していたようで、XR-1/2、XR1000も外装は完全に(?)同じ。つまり、このころのRICOHのXRシリーズは全部Nikomat ELのパクりだったんだね。ところが、そのXR-1/2がGマークを取ったから大笑い(^_^; 何やっとんのじゃ(旧)通産省!ニコンは何にも言わなかったのかねえ……。もっとも、ロシカメの例を引くまでもなく、日本のメーカーもかつてはライカやコンタックスのコピーを(堂々と)作っていたんだから、他人のことは言えなかったのかも知れないが。

余談だが、ミノルタのαシリーズの中には、EOSのパクりとしか思えないデザインの機種がある。色と大きさが全然違うのでぱっと見の印象は全く異なるのだが、各部の形状には著しい類似性が見られる。モノクロ写真のカタログをパラパラ見ていて気がついた。そういう業界なんだ、やっぱり。

【追記】その後、Nikomat ELは実はRICOHのOEM機だという情報が入ってきた。確証はないが、これだけ似ていると、その可能性もあるなあ…。とすると、私がここに書き込んだ誹謗中傷はまったく的外れと言うことになる。事実だったらごめんなさい。ただ、デザインはそっくりでも質感はかなり違うからなあ…

主要諸元
シャッター 機械制御 横走布幕 B,1/8〜1/500" X接点1/60"
露出 マニュアル(追針式露出計内蔵)
測光方式 中央重点平均測光 EV5〜EV17
ファインダー 倍率?倍、視野率93%
外観 140×91×48mm/540g
電池 SR44×2
独断評価
操作感 B 特段不満な点はない
堅牢性 B フルメカは良いがトップカバーがプラ製
機能 C+ シャッター速度が貧弱
携帯性 B 実重量はさほどでもないが軽快感がない
用途 △仕事 ○趣味 △スナップ ○軽旅行 △海外旅行


Long-run reports ...

2003.05.09/中野Fカメラのジャンク館で2000円で拾ってくる。巻き上げレバーが故障していたが、単なる組み立てミスと踏んだ。案の定、5分で修理成功。この程度だと“たやすく”直せるようになったなあ……スキルアップしてんだ、やっぱり。露出計もOK、シャッター速度もだいたい出ている。ただし、ファインダー系が汚い。プリズム掃除が必要なようだ。これも近いうちに。

このカメラはオークションでもちょくちょく見掛けていたが、はっきり言うと、ほとんど興味がなかった。私が持っているRICOHのカメラといえば、XR SOLAR、XR-7mkU、XR-8だけだが、総じて造りがチープ。スペックは一人前だが使っている幸福感に乏しい。だから、RICOHの廉価機はもういいなあ、まして、スペック的に劣るXR500では…金貯めてXR-P買おうっと、と思っていた。

しかし、今日実際に手に取ってみると、意外に質感がよい。隣にシャッターの切れるジャンク(外装破損品)が並んでいたので、ちょっといじってみたが、巻き上げ感もレリーズ感も存外悪くない。こりゃ、コシナOEM品じゃないかもね(よく知らないけど)。ということで、質感に惚れて買ってきたわけだ。

で、こうして一応“完動品”レベルになったんだが、やっぱりちょっと…という感じはするな。何と言っても、B,1/8〜1/500"というシャッタースピードはないんじゃないの? 一応、縦走りの金属シャッターなのに(ちなみに、XR500 AUTOはその名に反して1/1000"まで出る。多分、中身は全然別の機種だろうな)。X接点1/60"。シャッター音は大きくて安っぽい。

もう一つ気になっているのが、ファインダーの暗さ。OM-1の1-13スクリーンと比較するとゆうに1段分は暗いような気がする。スクリーンは45度のスプリット/マイクロ/マットで固定。ピン合わせはあまりやり易くない。もちろん、掃除してからでないと何とも言えないけど。

露出計はCanon FTbと良く似た追針式で、これはかなり使いやすい。また、NIKONと同じように、巻き上げレバーが露出計のスイッチとレリーズのロックも兼ねている。しかも、XR-8と違って、眼鏡をかけての撮影でもレバーがほとんど邪魔にならない。

評価の難しい機種だが、少なくとも、XR-8以降のおざなり路線に入る前の機種だなというのは実感できる。行き届いているかどうかは別として、きちんと考えて設計しているのがわかる。ただねえ、愛着持てる機種とは言えないなあ。

2003.08.10/【阿佐ヶ谷七夕祭り】試写開始。フィルム装填がとてもやりにくい。これはかなり大きなマイナス・ポイント――と思ったら、実はスプロケット部に不正なアソビがあることが判明した。これは故障。が、まあ、頑張ればフィルム給送ができないわけではない。COSINAの28-200を使ったが望遠側(F5.6だっけ?)で若干カゲリが出たが、まあ、使えるレベル。ファインダーはもう一度掃除しないといけないな。ゴミが結構気になった。

いずれにしろこのレンズはお祭りスナップには向かない。何しろ最短が2.5mだからね。むしろ70-210mm/F4クラスの方が望ましい。70mmが自分の視角に一番近い気がするし、相手に意識されずに表情を撮ろうと思ったら200mmくらい必要。また、ほとんどのカメラはF5.6あたりでスプリット・プリズムが翳り始めるので少なくともF4.5は欲しい。最短も1.5mを切らないと…。Tamron 03Aあたりが理想的かな。

2003.09.10/【実写結果出る】悪くなかった。内面反射処理もちゃんと処理されてるってことかな。ファインダーが暗くてスプリット・プリズムが斜めなことを除けば、けっこう良いカメラのような気がして来た。Cosina 28-200も思ったよりは描写がよい。ただし、サービスサイズが限界だろう。広角時には周辺の描写の落ち方が凄い。

2006.04.22/【逆回転防止ツメ修理】成功。トップカバーを開け、フィルムカウンタのユニットを外し、奥の前面側にあるツメが問題の部分。ごく少量のオイルを差して、動きを良くしたら直った。


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