†貧乏カメラ館†

Sketchbook ★★★★★ 発売年月 1989.10/標準価格 ¥1.7800
魅力満載のキワモノ機!


外観も機能も際立って個性的な固定焦点機。一流メーカーのメンツに掛けて、平凡な安物は出せないが、かと言ってコストも掛けられない。そこで、金を使わず頭を使い、工夫で差別化を図ったのがこのSketchbook。カメラを良く知っている人間が、わざと定番の設定を外して、楽しんで設計したのが良く伝わってくる。性能的に突出した部分があるわけではないが、随所に工夫が見られ、造り手の意図がひしひしと伝わってきて実に嬉しい。
(2005.03.02)

まず、シャッター速度が1/70"固定なのが目を引く。単速機としては例外的に遅い設定で、それを補うように絞りがF21.6まで絞れるようになっている。したがって、非常に深い被写界深度を持つ。ピント位置を3mと仮定して試算をしたら、ISO400ピーカンで0.8m〜∞以上が被写界に収まった。まず、ここが凄いわ。

また、ISO感度設定が手動なので、露出補正が可能。ISO400を入れておけば、逆光時に+2段の補正としても使えるし、室内でのストロボなし撮影にも便利。ちなみに、正規の使い方では低輝度側はLV=10程度までしか対応できないが、このフィルム感度による補正でLV=8まで対応可能。室内灯のみでの撮影にはまだ2段ほど露出不足だが、何とか写らないことはないだろう。また、ISO 800ならば充分ラチチュード内に収まるだろう。

なお、絞りの形は若干問題がある。F4.5とF21.6時はほぼ円形の絞りだが、F10.8とF9のときは非常に細長い絞りになるため、描写は若干落ちるような気がする(未実写)。…まてよ、逆かな? 円形が一番良いのは確かだとは思うが、細長いのも悪くはないんじゃないか? 明るさを稼いで、なおかつレンズ周辺部の劣った描写の寄与が少なくて済むのでは……う〜んと、うまくロジックが整理できないが、もし、細長絞りが描写に決定的な悪影響を与えるなら、こいつの設計者は細長絞りを採用しなかったと思う。細部に気を使った作り方を見ていると、そこで安易な選択をするとは思えない。

もう一つ特長的なのは、コーナーフォギーフィルター。似たような機能はAutoboy TELEにもあったが、こっちはさらに面白い。何と、このフィルターはレンズバリア兼用。でも、バリアを開かないと撮影できないはず、どうやって使うの?……というと、なんと、バリアを閉じたまま、前面の下の方に付いているスイッチを押しながら、レリーズボタンを押すのである。つまり、このスイッチでバリアのレリーズロックを解除しているんだね。全然まっとうなアプローチではないと思うが、工夫が伝わって楽しい(^^) おまけに、暗くなると、赤いストロボスイッチが乳首みたいにぴょこんと飛び出してくるのが超セクシー(^^;

外観も個性的。通常のボディの下に電池ボックスをくっつけたような感じで、正面から見ると角の欠けた正方形に近い。しかも、三脚ネジ穴がボディの側面に付いている。変だな?と思ったんだが、実は電池ボックスのおかげで、通常の横位置撮影ならば、三脚なしで安定的に立っていられる。テーブルや杭の上に乗せてもよいし、三脚があるなら、三脚の上に乗せれば(固定しなくても)よいわけだ。しかも、ボディの横に三脚ネジが付いているから、縦位置でのセルフ撮影も可能になる。こういう何でもないようなところも、ちゃんと考えてある。

超廉価機というのは、メーカーごとにアプローチの仕方が全然違う。富士は数こそ多いがお座なりだし、コニカは一工夫はしてくれるが基幹スペックは平凡だ。チノンはどん臭いまでに地道だし、ニコンは原則的にこのクラスには手を出さない。ペンタックスはけっこう頑張ったが華がなかったし、オリンパスは凡庸なOEM製品をラインナップしている程度。

そんな中でキヤノンがどんな製品を出してくるのか……というと、実はニコンと同じように手を出したくはなかったんだと思う。利益薄いし、ブランドイメージも落ちるしね。でも、海外マーケットを中心に廉価機需要が大きく、無視できなくなったのだろう。そして、廉価機と言えどもCanonブランドで出す以上は、ブランドに似つかわしいレベルのものではなくては……というところに、工夫が出てくるわけだ。

私は、この分野ではコニカが頭一つ抜きん出ていると思っているが、このSketchbookに関しては、コニカ製品を凌駕していると断言する。キヤノンの底力を見たような気がする。でも、SNAPPYシリーズは所詮日陰の花だし、中でもこのSketchbookはあっという間に市場から消えているので、メーカーから見れば完全な「失敗作」なのだろう。これを作れるのもキヤノンだけど、これを潰してしまうのもキヤノンなんだなあ……

●実写結果

一言で言って、かなり良い。パンフォーカス機としてはほぼ満点でしょう。発色も良くピントに芯もある。シャープさではコニカの固定焦点機の方が上のような気がするが、人物から風景までのトータルな描写では、こちらの勝ちでしょう。ピント位置がやや遠目に設定してあるためか、流石にバストアップは甘い感じになるが、まあ、記念写真用途には十分。コーナーフォギーフィルターも使ってみたが、こちらはワザとらしさが目立つ(^_^; それに、この機能を使うからには、やっぱりバストアップ以上にしたいワケで…。ま、これはお遊びだから。

主要諸元
発売年月1989年10月 定価17800円
型式[固定焦点][自動露出][電動巻上]
レンズ35mm/F4.5 (3群3枚)
シャッター1/70"固定
露出ISO100=F4.5/F10.8 ISO400=F9/F21.6(自動切替)
露出補正なし(ISO感度で補正可能)
ピント固定焦点
最短撮影距離ISO100=1.5m ISO400=1.2m
ストロボ自動/禁止 GN=9(ちょっとした工夫で強制発光も可能)
ファインダー逆ガリレオ式、倍率0.4倍、視野率約84%
電池UM-3×2
外観118×90×49mm、300g(電池含む)
仕様出典キヤノンカメラミュージアム ※リンク切れ
その他コーナーフォギーフィルター内蔵
機械式セルフタイマー内蔵
SNAPPYシリーズに分類され、海外名はSNAPPY Qだったらしい。


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