†貧乏カメラ館†

Pentax P50 未評価 発売年月 1986.09/標準価格 ¥\6.0000
哀しいプログラムAE機


デザインが個性的なミドルクラスのプログラムAE機。P30の上位機種でデザインは同系統だが、露出モードや操作系が異なる。露出はP(2)/AE/Mの3モードで、電気接点なしのPKレンズでも絞り優先AEが効く。また、シャッターダイヤルがなく、液晶と▲▼ボタンで速度やモードを設定する。露出補正およびAEロックがあり、実用性は低くない。外観から受けるイメージとは異なり、剛性感があり質感も悪くないが、操作性にはかなりの違和感がある。
(2009.09.28)

このカメラ、以前からずっと気になっていた。デザインがへんてこなこと、旧PKマウントでもAEが効くこと、中古市場でも滅多に見ない「ぷち珍品」であること、などがその理由。端的に言って、イカモノ食い的な興味であって、決して高く評価していたわけではない。しかして実際に手にして見ると、やっぱりそういうカメラかなぁ……個性的であっても愛せる要素に欠けるんだよね。

●Pシリーズ

このPシリーズはペンタックスのカメラの中でもかなり特異な存在だ。まずはその系譜を追ってみよう。

Pシリーズは初代P30とP50の登場に始まる。おそらく、1986年ころだったと思う。しかし、この時期はまさにEOS 650が登場し、AF一眼レフが爆発的に普及し始めた時代で、ペンタックスも主力はAF機のSFXだった。こんな時期に投入されたMF機は当然影の薄い存在にならざるをえなかった。当初、ペンタックスがどう考えていたかは別として、結局LXの補完物か、写真学校生用か、完全実用目的の廉価機(たとえば工事カメラ)にならざるをえなかった。

P50は1986年9月発売という資料がある。P30の発売年月は方は不明だが、カメラ総合カタログへの登場はP50よりもやや早く、発売時期は1985〜86年であろうと思われる。

二、三年経つと、シリーズ縮小(?)でP30が消える。確かに、このポジションに二機種は不要だろう(正確にはモードラ内蔵のA3も含めて実用MF機は三機種もあった)。P30のP50のどちらを残すかと言うと…実質的にプログラム専用機のP30ではなく、露出モードが豊富なP50を残すのは当然の判断だっただろう。それに、エントリーモデルとしてはA3もあった。ただし、P50はミドルクラス機であり、発売当初6万もした。このポジションにこの価格は厳しかったと思われる。

そこで、P30に絞り優先AEモードを加えたP30Nが登場した。P30Nはスペック的にP50とほぼ同レベルになり、それと入れ代わりにP50は姿を消す。つまり、P50はP30系列に吸収合併されたと言って良いだろう。P50の発売当初の価格は6万、P30Nは3.6万、実質的な値下げだ。その後、P30NはP30Tにマイナーチェンジされかなり長い寿命を保つ。なお、P30シリーズには露出補正機能がなく、感度もDX専用であったため、露出補正ができない(AEロックはあったはずだが)。この点はP50のアドバンテージとして残る。

P30⇒P30Nのモデルチェンジは、機能面の変更を伴う合理的なものだったが、P30N⇒P30Tは外装のカラーリング以外、目立った変更点が発見できない。察するに、あのデザインがよほど不評だったのだろう(ソリャソウダ)。プラプラしたイメージを何とか活かそうとする苦肉のカラーリングだったのだろう。そして、それはある程度成功している。

この歴史から言っても、P50は非常に売れなかった機種だと思われる。値段で選ぶならP30だし、ミドルクラス機が欲しければAF機を選ぶ。MF信者の私だって、当時、この値段を出してP50を買うかと問われれば、その選択肢は絶対になかったと断言できる。と言う事で、このP50はP30にも増して「珍品」なのである。

●特徴

デザインはP30と同系統の、何とも言えないウソ臭いレトロフューチャー。ただし、P50の方が若干シャープなイメージになっている。全体的にそんなに突飛な印象ではないのだが、巻き上げレバーの形状、レリーズボタンのデザイン、スライド式電源スイッチなどが、全体のイメージをプラプラの安っぽい物にしている。

P30が回転式のシャッターダイヤルを採用しているのに対して、P50は「液晶表示+▲▼ボタン」による操作を採用している。酷く使いにくいわけではないが、やはり違和感を覚える。同じ液晶表示でも、EOSの電子ダイヤルの使い心地とは比較にならない。これならP30の軍艦部に埋まった回しにくいダイヤルの方がまだマシだと思う。

露出モードはP/A/Mの3モード。ただし、プログラムは通常/高速の2モードで、さらにストロボモードもあることから、スペック表的には露出5モードという表記している。また、0.5evステップで露出補正ができる。これも液晶とボタンで操作するが、操作性は実用範囲内だと思う。無論、ダイヤルには勝る部分は何もないが。

絞り優先AEは電気接点のない従来のPKマウントレンズでも可能。当たり前のことのようだけれど、KAに固執したペンタックスのAE機では、必ずしも当然のことではない。KAマウント登場後の廉価機は非常に危ない。たとえば、初代P30に旧PKレンズを付けると、マニュアル露出しか使えない。AF機のZ-10でも同様。PKでAE可というのは意外に重要なポイント。

スクリーンはペンタックスお得意の四角マイクロ+大型スプリット。しかもP30Tのような斜めスプリットではなく、トラディショナルな水平スプリット。やはりこちらの方が落ち着く。ピント合わせはしやすい。ファインダーも比較的明るい印象。倍率×0.82は丁度良いが、視野率92%は少々物足らない。

ファインダー内にはモードと速度がLEDで表示されるが、電池の消耗を嫌ってか、かなり短い時間(10秒?)で消えてしまう。ちなみに、このファインダー内LEDの「P」や「M」がゆっくり点滅すると電池残量警告で、まったく点かなくなると電池切れらしい。その場合でも軍艦部の液晶は表示されるが、液晶部にバッテリマークはないようだ。電池はLR44×2だが、電池の消耗には比較的敏感な部類だと思う。

LED表示は、シャッター半押しで再点灯できるはずだが、私の機体では接触が悪いのか、なかなか点いてくれない。実質的に、シャッターを切ったあとに事後確認の表示がされている状態(^_^; ちなみに、やはり接触不良のせいなのか、レリーズの感触はひどく安っぽい。シャッター音はでかい。

●ペンタックスのAEカメラ

前々から不思議に思っていたのだが、なぜペンタックスには「まとも」なAE機がないのだろうか?最初に「まとも」という言葉を定義しておかないと怒られそうだから、私の考える「まとも」なAE機の条件を列挙する;

 @AE/マニュアルの2モード(以上)で、AEは電気接点のないレンズでも可
 Aシャッター速度およびモード切り替えは回転式ダイヤルを採用
 B露出補正は0.5EVまたは0.3EVステップで、独立ダイヤルを採用

端的に言って、リコーのXR-7を思い浮かべれば良い。現在から見れば、この条件は極めて妥当なものだし、当時からスタンダードとして定着していたと思う。OLYMPUS OM-2も、Nikon FEも、Canon AE-1Pも、Minolta X-700も、そういう「まとも」なAEカメラだった。ところが、ペンタックスにはそれがない。正確に言えば、最高級機LXやごく初期のK2なんかはこれに該当するだろうが、その後の中核シリーズには見当たらない。

ペンタックスはAE専用機を乱発し、プログラムにこだわり、KAマウントにこだわり、ボタン操作に固執し、露出補正を軽んじた。おそらく、XR-7のようなAE機は、没個性的で訴求力に欠けると考えたのだろう。MEの成功体験が悪い方向に作用した気がする。しかし、凡庸を嫌って凡庸以下を作ったのではお話しにならない。どうも、ペンタックスはボタン式の方が優れた(或はユーザーにアピールする)操作システムだと考えていたフシがあり、かなり長い期間それに固執していたが、その固執が大間違いであったことは、Zシリーズ以降の歴史が証明している。

その中でPシリーズのポジションはと言うと、これは方向転換を模索している時期の試作品だったような気がする。P50はボタン操作という点が、P30Nは露出補正がない点が、それぞれ欠点になってはいるが、向いている方向はだいぶ「まとも」になってきた気がする。ただし、現在から眺めれば、明後日の方向から軌道修正した中途半端な機種に、実用的な価値は見出せない。


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