(2010.11.01)

SANYO DSC-S1

これはひょっとすると大当たりかも知れない。 少なくとも、相当に「面白い」機種である。

Optio 30と同系統ということもあり、 今までOptio 30との比較で考えて来たが、 少し基準を変える必要がありそうだ。 確かにスタンダードな基準で評価するとOptio 30に及ばないが、 これはこれでSANYOの流儀だと気が付いた。 つまり、足りない部分も手抜きなのではなく、 それなりに考えた上での仕様決定のように感じられる。 そして、実際には三洋流の方が合理的なのかもしれない。 ともかく、第一印象と習熟したあとの印象が極端に変わる機種だ。

  ちなみに、Optio 30と同系統と言っても兄弟機ではなさそうだ。 DSC-S3/S4は確かにOptio 30と酷似している兄弟機だが、 このDSC-S1はそれらの機種と横幅や厚さが異なり、 中身は別物という感じがする。従兄弟くらい? 総じてS1の方が造りが丁寧。 ちなみに、このDSC-S1は2003年9月発売。 Optio 30は半年後に出ている。DSC-S3/S4はさらに三月後。

いずれにしろ、基本スペックはOptio 30やDSC-S3/S4と良く似ている。 光学3倍ズーム、320万画素(S4は400万画素)、単三2本、小型軽量、VF(光学ファインダー)付き。 共にローエンドクラス機で、性能自体は良くも悪くも似たようなもんだ。 ただ、S1の発色はかなりビビッドで、画質もS4よりは良いように思う。 しかし、いずれも携帯性最優先で、画質を問題にする機種ではない。 レンズはS1が36-108mm/F2.8-4.9、このクラスとしてはわりと広角寄り(38mm〜の機種が多い)。 S4は37-105mm/F3.0-5.0、Optio 30は38-114mm/F2.9-5.0。 広角端の1mm、2mmの違いは、けっこう気になる。

●VFモードの操作性

Optio 30とDSC-S1の最大の違いは、やはり操作性。 委託生産と言っても、プログラム部は当然自社開発だろうから、 それぞれのメーカーの個性がはっきりと出て来る。 ペンタックスはともかく真面目、 中級機やデジイチと変わらないようなメニュー構成になっている。 したがって、ある程度デジカメを使い慣れた層には使い方が直感で判る。 しかし、それが機能に相応しいものかは別問題。 正直、このクラスでヒストグラム表示までしてくれるのは笑う。

それと比較すると、三洋の流儀は一見手抜きが目立つ。 最初に困ったのは、VFモード(=液晶オフ)で立ち上げると、 設定情報が一切表示されないこと。 しかもこいつは、マクロモードまで含めて、すべての設定を無条件に保持する (流石に露出補正はクリアされるようだが)。 そのため、起動時にマクロモードになっていても、ユーザーには判らない。 これでは、うっかりマクロのまま終了すると、次回起動時にはピンボケ頻発では? と思ったのだが、実は測距段階でマクロ範囲外になると、自動的にノーマルモードに 変更されるようだ。おそらく合焦速度には影響が出ると思うが、 ピンボケにはならない。

しかし、ストロボ設定や撮影モードは同じようにはいかない。 これらは自動的に設定を変更すべきものではないし、実際変更されない。 気になるなら、手動で設定を確認する必要がある。 だが、その場合も、[メニュー]ボタンをクリックするだけで済む。 VFモードではメニュー自体の変更はできず、 メニューボタンは液晶オン/オフの切り替えスイッチになる。 ストロボボタンやマクロボタン(△)でも液晶はオンになる。 ただし、こうして液晶をオンにした場合、4〜5秒で自動的に消える。

つまり、ペンタックスやオリンパスが起動時に自動的に行っていた表示を、 三洋は手動式にしたわけだ。 たぶん、ギリギリの速写性を考えるとこ三洋流の方が有利。 通常は[電源オン|メニューボタン|設定チェック|メニューボタン|撮影] という流れになると思うが、手間と言うほどではない。1秒程度で済む。

また、液晶が自動消灯する前にシャッターを半押しにすれば、 液晶オン状態は維持される。 つまり、この場合のメニューボタンは設定の確認だけでなく、 撮影時における液晶ONボタンとしても機能する。 実際には、4〜5秒で自動消灯はやや短すぎる気もするが、 慣れればスライドスイッチでVFモードと液晶モードを切り替える必要がなくなる。

さらに驚いたのは、撮影後の液晶点灯中に[SET]でチェックすれば(後述)、その点灯中に変更した設定をクリアするらしい。これは、ストロボモードも同じ。一時的に設定を変更し、撮影後確認で元の設定に戻る。ベース設定の保持と必要に応じた設定変更を両立させる、なかなか上手い方法だ。ただし、確認しないと設定変更は保持されてしまうし、4秒消灯では少し手間取っている間に消えてしまう。一時変更の方法としてはけっこう微妙な点もある。原則的に起動時確認は必要だろう。

さて、この三洋の流儀と、起動時に設定を自動表示し、独立した液晶ON/OFFボタンを持つペンタックスの流儀は、どちらが便利だろうか? 考え方としては、ペンタックスの方が明らかに行儀が良い。 しかし、操作に習熟した場合の利便性は俄には判断しかねる。

●スライドスイッチを使わないモード切り替え

三洋は伝統的にモード切り替えにスライドスイッチを採用している。スライドスイッチは設定を物理的に固定でき、基本的に好ましい物だと思っている。しかし、三洋のデジカメのスライドスイッチはかなり小さいため、真ん中に合わせるのには神経を使うし、あんまりパチパチ頻繁に切り替えると、中の板バネがバカになりそうで恐い。さらに、スライドスイッチと電源スイッチが別だと、再生モードで起動してしまうこともある。単純な押しボタンとロジック回路による切り替えにもメリットはある。

ということで、前述のように、VFモードでは[メニュー][ストロボ][マクロ]ボタンが擬似的に液晶ONボタンとして機能する。これを使えば、スライドスイッチで液晶撮影モードに変更する頻度はずっと低くなる。液晶撮影モードにする必要があるのは、むしろ設定変更の場合だろう。

では、再生はというと、これも撮影モードから[SET]ボタンを押せば呼び出せる。ただし、表示/拡大/削除しかできない。プロテクトやリサイズ、回転などの付加的な機能は使えない。考えてみると、一口に「再生」と言っても用途は大きく二つに分けられる。一つは、本来的な再生で、要するに撮影した画像を鑑賞したり編集したりするためのもの。もう一つは、撮影直後の画像が意図通りに撮れているかのチェック。[SET]ボタンによる再生は後者の用途に特化したものと考えて良い。

実は、このDSC-S1には自動レックビュー(プレビュー)機能がない。最初はかなり異和感を感じたが、これもよく考えるとなくすべきものかもしれない。私自身、通常の撮影の場合は、レックビューは必ずオフにしている。1枚取る度に確認していては撮影リズムが狂ってしまう。ガーっと撮って、一息付いた段階でまとめてチェックする。もちろん、それでは撮り直しが効かない場合も多いが、1枚ずつチェックしたからと言って失敗が取り戻せるとは限らない。むしろ、失敗を引きずってしまう方が恐い。

かと言って、撮影直後の確認が全然いらないかと言えば、無論そんなことはない。特に、テスト撮影の場合などには絶対必要だ。そんなときは、撮影直後に[SET]ボタンを押せばいいわけだ。つまり手動レックビュー。使ってみて実感したのは、レックビューが自動である必然性は全然ないということだ。オリンパスのようなダブルクリック呼び出しでは流石に煩わしいが、このS1のように単純にボタンを押すだけなら何の問題もない。むしろ「必要に応じて」レックビュー設定を変更するなんて方が煩わしい。また、書き込み速度が遅いと、記録後に呼び出すのはイラつくが、S1の速度ならばそれも気にならない。

●ISO感度とプログラムライン

次に、ISO感度がAUTOのみという点が気になった。しかも、その範囲も50〜200と、この時期としてはかなり低感度だ。さらに、実写結果を確認したところ、少なくとも1/8"まではISO 100のままだった。スローシャッターギリギリまで増感しない極悪プログラムラインと推測される。

まず、最高感度がISO 200までという点だが、これはまあ、設計者の「一定水準の画質をキープしたい」という意思表示なんで仕方のないところ。実際、後継のDSC-S4はISO 400までとなったが(静止画でも400可)、高感度時は極めてノイジーで、感度を取るか画質を取るかの二者択一をシビアに迫られる。S1はS4に比べれば良い画質だと思うが、マイナスの露出補正を掛けて、ソフト的に無理矢理ISO 400弱相当にまで増感したところ、やはりけっこうなノイズが確認できた。同じ手法で増感したC-2の画像よりもノイジーに感じられる。個人的には、ISO 400は最低ラインだと思っているが、こうなると設計者の判断を良しとしなければならない。物理的・コスト的な限界なのだろう。

むしろ問題はプログラムライン。最高感度が200だろうと400だろうと、スロー限界まで増感しない極悪プログラムラインでは意味がない。しかし、このS1ではスポーツモードに設定すると、プログラムラインが変更されて、増感の立ち上がりが早くなる。少なくとも、1/20"でISO 200になっていることを確認している。これならば、室内ノンストロボ撮影にも使用できそうだ。ただし、マクロとは排他的なので、高感度でブツ撮りをすることはできない。

まあ、スポーツモードでマクロなんてのはおかしいのだが、そもそも、ISO 100→200程度の増感で、動き回っている人間がちゃんと撮れるわけがないから、「スポーツモード」ではなく「増感モード」という位置付けにすべきだったように思う。メーカーもそのことに気が付いたのか、後継のS4ではスポーツモードでもMFのマクロが使えるようになっている。いずれにしろ、モード変更でプログラムラインが変更され、実質的に感度固定モードに近い使い方ができることは確かなわけだ。

さて、これもペンタックス流の感度固定可能が便利なのか、三洋流の複数のプログラムラインの方が便利なのか、という問題になる。もちろん、感度固定の方がスッキリしているが、高感度のまま設定が保持されると、晴天屋外に持ち出した時に露出オーバーになってしまったり、無駄に画質が犠牲になったりする。スポーツモードであれば、暗いところでは画質よりも手ぶれ・被写体ぶれ対策優先、明るいところでは画質優先、という判断をカメラが自動的にしてくれる(ハズ;晴天屋外でスポーツモードを使ったことはない)。つまり、同じ「感度オートのみ/低感度/極悪プログラムライン」と言っても、オリンパスのC-2Zなどとは意味合いが相当に違うということだ。

そうは言っても、室内ノンストロボでマクロのブツ取りをする場合など、実質的にISO 100の極悪プログラムラインはやはり大きな壁になる。しかも、VFモードからは露出補正ができないので、アンダー目にしてソフト増感という方法もやりにくい(まあ液晶モードにすりゃいいんだが)。そんなときに大きな力を発揮するのが2秒タイマー。慣れると、下手な増感よりも手ぶれ軽減効果は大きい。また、そういう使い方をしろよ〜的な場所にボタンが付いている。しかも、10秒→2秒じゃなくて、2秒→10秒だ。何だか、こっちが試されているような気分になってくる(^_^;

●電池寿命

このDSC-S1のセールスポイントの一つが電池寿命。単三アルカリ2本で220枚も撮れる(おそらくCIPA準拠)。これはかなり凄い。他社製品で電池寿命がこのレベルに達するのは、液晶のみモデルの時代に入ってから。また、後継のS3/S4は電池寿命が大幅に短くなっているので、この電池寿命はS1特有のアドバンテージと言える(S5の電池寿命はS1以上らしいが)。

もちろん、この手のデジカメでは、撮影可能枚数よりも、使用可能期間の方が重要。何枚撮れるかではなく、何ヵ月持つか? 一般的な家庭では、年間100枚も撮れば多い方だと思うので、枚数自体は大した問題でない。しかし、正月に使ったあと、花見に持ち出そうとしたら電池切れ〜〜というのはちと悲しい。アルカリ単三2本だから、コストは大したことないけど、確か、正月に新品にして5〜6枚撮っただけだったのに……ということが、起きるかどうか(^_^; ま、こればっかりは使ってみないとわからない。

ちなみに、ごくざっくり言って、満タンのエネループでC-2は約半年、Optio 30は約3ヵ月、DiMAGE X20は2ヵ月くらい。無論、温度や使用頻度は一定ではなく、個人的な使用感にすぎないが。……ひょっとすると、CR-V3って5年持つ?

  一時期、銀塩コンパクトでリチウム電池を内蔵している機種(ユーザーには電池交換不能)が出ていたが、その時の謳い文句が5年間電池交換不要!だったような記憶がある。リチウム電池は容量が大きいだけじゃなくて、自己放電が比較的小さいからね。デジカメもヘタリ強い機種なら同じ理屈が成り立つはず。ちなみに、S1はCR-V3で750枚撮影可能。マジで5年くらいは持つかも…

この設計者は、自身がかなりのカメラ好きで、「液晶とストロボはオフが原則」という価値観を強く持っているように感じられる。さりとて、ビギナー向け機でそれを押し通すのは難しい。そこで、ビギナー向けの仕様をベースにしながら、そこにこだわり派ユーザーのニーズを上手に潜ませたという感じがする。こだわり派が「便利」と感じるのはどういうことか、実感として判っているようだ。不満に感じたのはVFモードでは露出補正ができないことくらいで、あとは最初「不便」と感じたスペックも、使っていると上手い逃げ道が作ってあるなぁ…と感心してしまう。セオリーに拘泥していると、その逃げ道がなかなか見つけ出せないのが難点だが(^^ゞ 機能を行儀よくカテゴライズして、整然とメニューに置いていくペンタックスのやり方とは実に対照的。この三洋流を諸手をあげて賞賛する気にはならないが、使っていてすごく楽しかった(*^_^*)

【追記】そう言えば、こいつは再生時に画像をクロップすることができる。これなんかも、デジタルズームに対する明確なアンチテーゼだよな。デジタルズーム機能自体はあるけど、どう考えても、後から切り抜く方が使いやすい。問題はメモリカードの容量だけど、SDカードの300万画素機なら、今や全然問題にならないからね(と言っても、最大容量はチェックしてないけど)。

【貧乏カメラ館目次】 【ホーム】