(2011.07.26)

Kodak DC80

基本的に30万画素のトイカメ。にもかかわらず定価5万円という非常識な価格設定は、何らかの特殊事情によるものと考えられる。安価なCMOSトイカメに比べれば画質も造りも機能もマシだが、さりとて、まともなデジカメとして通用するレベルではない。なまじ、3点ゾーンフォーカスがあるのが虚しい。ソモソモ的にピントを気にするような絵にならない(^^; しかし、全体に漂うアナクロ感が不思議な魅力になっている。(2011.07.26)

あまりにも情報が少ないので、少しまとめておいた。珍品と言えば珍品だが、珍しいだけで価値はない。少なくとも一般ユーザーには…

●基本スペック

1999年11月発売(資料によっては12月発売とも。また、Kodakの【サポートページ】には2000年1月発売とある)、定価4万9800円、33万画素、1/3"CCD、原色フィルター、 640×320/320×240/1024×768(補間出力)、 46mm/F4.0、ISO100相当、1/30"〜1/1000"、 固定焦点(3点ゾーンフォーカス:人物/風景/マクロ)、 1.8"TFT液晶モニタ、単三4本、CF、 ストロボ設定保持(オート/強制/禁止/赤目)、132×73×46.5mm/約260g(電池別、撮影重量約360g)。

正直、ほとんど目を疑うようなスペック。 時代はとっくにメガピクセルに突入し、ズームもAFもアタリマエ、 単三2本の小型機もどうやら使い物になり始めていた。 それが、女の子の弁当箱のようにでかくて、33万画素しかなくて、 単焦点パンフォーカスで定価5万円! 当時としても完全にトイカメレベルのスペックでこの値段は馬鹿げている。

  DC25(96/11)の再利用モデルじゃねないのか?スペックはかなり違うけど。 光学系は一番近いような気がする。 ん?ひょっとしてDC200のスペックダウン版? いや、違うな、メニューとかが全然違う。わからん…。 しかし、メニューと言い、操作系と言い、随所にアナクロ感いっぱいで、 ベースになった旧型機があったであろうことは想像に難くない。

ちなみに、同時期にはFinepix 1200(130万画素/固定焦点)が同じ値段で出ている。 また、C-860L(130万画素/AF)のこの時期の実売価格が約4万円。 たとえ、DC80の実売価格が定価の半値だったとしても、 買い手を見つけるのは困難だっただろう。 定価の1/5ならトイカメユーザーが興味を示すかも、というレベル。

  わ〜お!いたよ、2001年10月に、某大手量販店の店員に欺されてDC80を4万で 買わされたユーザーが! いるんだ、ホントに……いや、2chだからネタか?

●これはいったい何であるのか?

と言う事で、いったい何を意図して企画した製品なのかが全然わからない。 35万画素のローエンド機(トイデジ)市場を狙うなら、 定価19800円、実売9800円がいいところ。 しかも、このスペックでなぜにここまで大きくなる? だって、同時期発売のメガピクセルのズーム機であるDC215より遥かにデカイんだよ。 カメラ自体の良し悪し以前、商品企画の段階で破綻している。 ホント、何を考えていたんだろう? よほど特殊な事情がなければ、こんな製品は世の中に出ないよ。 悪く言うよりも、そっちの事情の方を知りたい。

  ちょっと考えたのは、割引率でセールスするために「掛け値」をしたということ。 これなら「80%オフ!」が平気でできるもんね。 でも、そんなに安売りをされたという記録も見つからなかった… てか、そもそもこんなに売れそうにないモデルを扱うショップが少なかった のではないかと……ノベルティ向け?あるいはTV通販のオマケ用とか?
  おお〜、お年玉付き年賀ハガキの賞品にもなっていたそうだ(何年かは不明)。 「賞品は5万円相当のデジカメ!」と書いてもウソにならない所がミソかな…? さらに、NHKロゴの入ったものまで存在するらしい。 やっぱ、ノベルティ専用デジカメだったのではないかと…
  ちなみに、翌2000年にはDC3200という、これまた弁当箱のような 単焦点パンフォーカス機が出ている。ただし、こちらはメガピクセル機だが。 どうもワールドワイドで見ると、こうした「うすらでかい廉価機」の ニーズがそれなりにあったようだ。 そう言えば、ウチの婆さん(明治生れ)はテレビでもラジオでも、小さな機械は 「すぐに壊れる」と思い込んでいた。 機械は大きいほど立派で信用できるという感覚だったようだ。 まあ、そういう人も少なからずいるんだろうね、世界には今でも。

しかし、じゃあ、実用価値がないのかと言われると、これが微妙。 確かに所謂トイカメよりはマシで、画質も操作性もそれなりのレベル。 メーカー側はWeb素材用を念頭に置いていたみたいだが、 確かにその程度の日常スナップには使えるだろう。 てか、Web素材だとVGAでも大き過ぎるので、320×240なんてモードも用意してある。

しかし、画質は同時期の他の入門機よりもかなり大きく劣る。 たとえば、DC240のVGAモードの方が圧倒的に綺麗。 しかも、DC240(メガピクセルAF3倍ズーム機)とDC80(VGA単焦点パンフォーカス機)の実売価格差は1万程度しかない。さらに言えば、DC215(メガピクセル・パンフォーカス2倍ズーム機)とほとんど同じ値段。もちろん、画質的にもDC215の方がずっと上。あえてこのDC80を選ぶ理由は思い付かない。

強いて言えば、デジカメを持っていないユーザーが、たまさか懸賞で当たったとか、人から貰ったとかして、使って使えない事はないか〜〜的な使い方をするくらいだろう。そういう意味では、確かに、道具としての実用性はそれなりに備えている。めんどくせ〜、つかえね〜、というレベルではない。ただ、クオリティが低いだけだ。ここのところが微妙でね、用には足りるけど、満足感に欠ける。逆にハイスペックだけど使いにくモデルと比べて、はたしてどちらが……いや、どっちもいらんけど(^_^;

●3点ゾーンフォーカス

まず、3点ゾーンフォーカスがピピッと来る(^^ゞ 要するに、普通のパンフォーカスにマクロモードと無限遠モードを付けたものにすぎないのだが、これがなかなか私のココロをくすぐる。私は《コンパクトは固定焦点で充分》という主義だが、流石に風景の描写に物足りなさを感じる事が多いので、無限遠モード大歓迎。もちろん、マクロも必須だけど、マクロ付き固定焦点機は他にもある。そこにいくと、無限遠モード付きコンデジはあまり見たことがない(それこそトイカメには付いている機種もあるんだけど)。もっとも、問題は風景とポートレートで本当に違いが出るのか?つか、違いが判るような画質なのか?違いがあったところで、そもそも使い物になるレベルの画質なのか?−−なかなか厳しい(u_u;)

●JpegとCF

このDC80を手にして最初に思い浮かべたのはEPSON CP-200。大きさや雰囲気が良く似ているし、どちらもVGA機だ。あ〜〜、このクラスなんだぁ…と思ってハタと気が付いた。CP-200には液晶モニタが内蔵されていないし(外付け)、メモリカードにも対応していない。よく考えると、30万画素機でメモリカードを採用した液晶モニタ内蔵モデルって、かなり珍しいのではないか? ぱっと思い浮かぶのは、PowerShot 350とその兄弟機くらいかな…OLYMPUS C-400LやSANYO DSC-V1は内蔵メモリ専用だもんね。DSC-V100はスマメ対応だが、ちょっと趣旨が異なる機種。

⇒おっとっと、FujiのClip-Itシリーズを忘れていた。少なくとも、Clip-It DS-7/8/20、それにClip-It 50(なぜかこれだけ「DS-50」ではない)は「VGA+液晶モニタ+メモリカード」という構成。もっとも、DS-7/8には逆に光学ファインダーがない(外付け)らしいが。そう言えばPowerShot 350系にも光学ファインダーはなかったな。そう考えると、DC80とほぼ同スペックなのはClip-It 50あたりということになる。しかし、そのClip-It 50も1998年6月発売で定価39800円。DC80よりも1年半も前に出ていて、しかも1万円も安く、おまけに80g軽い。さらに言えば、そのClip-It 50でさえ発売半年で店頭から姿を消している。そして、99年夏には特売品として1万円で投げ売りされていたそうな。DC80は、さらにその半年後に5万円の定価を付けて登場してきたのである。いかに尋常でないかがわかるだろう。

コンデジはメモリカード対応とメガピクセル化がほぼ同時期に起きたので、メモリカード対応の30万画素機は、実は余り多くないのである。無論、トイカメも最近になるまで内蔵メモリのみで、USBでもストレージクラスではなく、専用の読み取りソフトが必要だった。液晶モニタも原則的になし。

また、Jpeg対応と言うのも、実は意外に重要なポイント。現在では考えられないことだが、黎明期にはJpeg非互換の独自フォーマットが大手を振ってまかり通っていた。中には、CASIO QV-700のように、意図的にJpegとの互換性を破壊した機種まであった(Jpegベースの非互換フォーマット!)。それに比べれば、DC80はCFをリーダーに差し込むだけで、簡単にPC上で画像が表示できる。

これらの旧式VGA機やトイデジと比較すると、DC80はかなり実用的と言える。何が言いたいのかと言うと、画素数(と画質)以外は当時のフツーのコンデジだと言うこと。 この時期の単焦点コンデジが普通に備えている、メモリカード対応や TFTカラー液晶が、このDC80にも普通に付いているということ。 極端に消費電力が大きいとか、起動が遅いとか、撮影間隔が長いということもない。 AFこそ付いていないが、このクラスなら固定焦点でも大差はない。 だから、Web用の写真なら、これでも充分事足りる。 つまり、フツーのコンデジの画素数を1/4にして、 価格を据置にしたモデル(^^;ソコガモンダイ これで価格が1/4なら説得的だったんだけどね〜〜

●デザイン

個人的に惹かれたのは実はデザイン。 非常に懐かしいデザインだ。 CHINON 35FX-VやAUTO-GLを髣髴とさせる。 サイズ的にもかなり近い。 弁当箱などと悪口を言われることが多いが(私も言っているんだが)、 そもそも銀塩時代のコンパクト(ESPIO以前)は、このくらいの大きさだった。 このDC80も恐らくチノン製だと思われるので、 ひょっとすると、手掛けたデザイナーも同じ人かも。 縦に3つに割って、真ん中にレンズ、その直上にファインダー、 レンズそばにスライド式のメインスイッチという構成が似ているが、 それ以上に雰囲気が似ている。

  カラーリングを含めた雰囲気は、むしろコニカBigMiniに近いかも。 サイズはBigMiniの方が遥かに小さいが。

●画質

正直、非常に厳しい。圧縮率設定やゾーンフォーカスが虚しくなるレベル。無論、80万画素補間出力はお話にならない。一応リサンプリングはしているようだが、当然のことながらVGA画像よりも画質が向上するわけではない。ホワイトバランスも当たったり外れたり、というカンジ(オートのみ)。そもそもVGAサイズだからね。プリントは考えない方が賢明で、あくまでもWeb素材用と割り切るのが重要。小さければ、それなりに見栄えがする。

●使い方

@ボタン&スイッチの設定

まず、単三電池4本とCFをセットする。ズシリ…撮影重量360gだもんねぇ。

で、前面レンズ下にあるスライド式の電源スイッチをオン。 う〜む、レンズバリアの開閉のためなのだろうが、 何とも変なところに電源スイッチがあるもんだ。 もっとも、背面からでも簡単に操作できるので、 電源スイッチ操作のために、カメラを正面向ける必要はない。 それに、銀塩コンパクトCHINON 35FX-Wと同じ構造なんだよね。

で、電源が入ったら上部にある設定表示用のモノクロ液晶をチェック。 必要に応じて、上部に並んでいるストロボ、画質、セルフタイマーのボタンを操作して設定を変更する。 画質は[320/640(高圧縮)/640(低圧縮)/1024(補間拡大)]の4モード。 なお、ストロボ設定は保持される。電源を切っても初期化されない。 これはKodakの入門機としてはかなり異例(DC240もホールドされたと記憶しているが)。もっとも、シャッター速度の下限が1/30"で、感度がISO100固定なので、暗い場所でノンストロボ撮影するのは現実的ではない。有難み半減。

で、被写体との距離に応じて、背面のゾーンフォーカスをレバーを設定。 [マクロ/人物/風景]の3モード。 このゾーンフォーカス設定は完全機械式で、電源をオフにしても初期化されない。 マクロに設定したままで人物などを撮るとボケるので注意。 フォーカスモードは上部設定液晶には表示されるが、 ファインダー内では確かめる方法がない。

A撮影

次にファインダーに目を当てて構えると……非常にホールドしにくいことに気付く。 レンズユニットが全体に右手側に寄り過ぎていて、 右手でしっかりホールドするとレンズに指が掛かる。 と言うか、レリーズボタンが端に寄り過ぎているので、 しっかりホールドするとシャッターが切れない(u_u;) したがって、この馬鹿デカいボディの端っこをちょこんと持つ、 かなり不安定な状態でホールドしなくてはならない。 ストラップの位置も邪魔。

で、ファインダーを覗くと、懐かしいブライトフレームが見える。 そして、ファインダー内の下部に緑の光が見える。 これは撮影レディのマークで、点灯状態ならば撮影可能。 CF書込中やストロボチャージ中は点滅する。 が、ファインダー内に強いLED光があるのは、かなり煩く感じられる。 ファインダーの倍率は0.5倍くらいかな? 比較的まとも。ただし、視野率は不明。

液晶モニタで撮影するときは、PREVIEWボタンを押す。 一応TFT液晶だが、あまり質の良いものではない上に、 フレームレートが低いので、動体はカクカクになる。 また、液晶モニタON設定は保持されない。 電源を切ると自動的にOFFモードになる。 あくまでも光学ファインダーがメイン。

で、レリーズボタンを押すと撮影完了。 デフォルトではシャッター音はしない。 設定を変更すればレリーズ時に「ピッ」という音を出すこともできる。 また、やはりデフォルトでは撮影画像の自動確認表示はされない。 これも設定を変更してQuick Reviewを有効にすればよい。 Quick Review状態では画像の削除も選べる。

B再生

Reviewボタンを押すと撮影画像が再生される。 他のKodak機のように、機械式のスイッチ(ダイヤル)で 撮影モードや再生モードを切り替える方式ではない。 こちらの方が使いやすい。 ▲▼キーで画像を送り、MEMUボタンから画像の削除などができる。 ただし、拡大表示機能はないようだ。

Cメニュー設定

メニュー操作は三択形式。 液晶モニタ左側に[メニュー/プレビュー(液晶モニタ撮影)/レビュー(再生)]の3つのボタンが縦に並んでいて、メニュー操作時には、この3つのボタンがそのまま3つの選択肢のボタンになる。 選択肢が4つ以上あるときは、液晶モニタ右側の▼ボタンで次ページを表示する。 かなりアナクロな操作系だが、設定項目が少ない事もあって、思いの外苦にならない。 なお、基本的に撮影時にはメニュー操作は必要ない。 メニューには主に再生時の機能が割り当てられている。

DPCへの転送

基本的に、CFカードリーダーを使う事になると思う。 ファイル形式は標準的なJpegなので問題はなさそうだ。 PCとの接続はシリアル。 DC215などと互換性があるかどうかは不明。 確認はしていないが、ジャックの直径が異なっているように見える。

◎電池寿命

不明。この時期の単三4本機であれば、かなりの長寿命のはずだが、旧モデルの再利用だった場合にはなんとも言えない。いずれにしろ、液晶モニタ撮影をメインにするのは無理と見た方がよさそうだ。その点は個人的には大歓迎だが、それならホールディングをもう少し何とかしてもらわないと…

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