(2003.08.24)

COSINA 28-200mm/F3.5-5.6 (PK)

1988年ころの発売と思われる。もっとも初期の高倍率ズームレンズの一つ。1986年ころには、この一つ前のモデルである28-200mm/F3.8-5.6という、微妙にF値とレンズ構成の異なるモデルが発売されている(カタログによってはF3.8-5.4ともあるが、鏡胴には3.8-5.6と記載されている)。

28-200ズームと言えば大ヒットしたTamronの71D/171D以降のシリーズが思い浮かぶが、実はこのレンジのズームレンズはかなり昔から存在している。私の手許にもCOSINAとKIRONの28-200があるが、どちらも1980年代半ばには世に出ていたようだ。つまり、本格的なAF一眼レフ時代が始まる前に、すでにこの万能高倍率ズームは存在していたのだ。

しかし、Tamronが171Dを出すまでは、このレンジのズームはそんなに普及しなかった。ちょっと不思議な気もしていたのだが、このCosinaの28-200を使ってみて何となく納得できたような気がする。要するに、他の部分へのしわ寄せが大きすぎるのだ。重い、暗い、でかい、寄れない、描写悪い、操作性悪い、etc.…。

まあ、このレンズは前玉が大きい(φ72mm)おかげで望遠端でもF5.6とまずまずの明るさがあるし、重さ600g台もまず許容範囲だろう。しかし、最短撮影距離2.5mというのは非常に扱いにくい。望遠端ではマクロモードで1mちょいまで寄れる(1:4マクロ)が、それ以外は全域で2.5m。また、実写結果は出ていないが、ファインダーを覗くだけでコントラストの低さが実感できてしまう困り者なのだ。

そもそも、このレンジのズームの存在意義は一本で全部済ます、という点にある。しかし、このレンズでは、広角で寄って遠近感を強調した表現は無理だし、中望遠でのポートレートも苦しい(!)。前者はやや特殊かもしれないが、後者はごく一般的なニーズで、それが自由にできないのは致命的だろう。観光地での記念写真さえ制限がキツすぎる。このレンズで可能なのは、広角による風景撮影、望遠による比較的遠くの人物や動物の撮影、比較的低倍率のマクロ撮影、くらいなのだ。

結局、広角単焦点と中望遠ズームの二本を持って行った方がずっと便利だ。重量だってほとんど同じか、場合によっては二本の方が軽くて済む。撮影重量に限れば、二本システムの方が遥かに軽い。確かに、現場でのレンズ交換というのはかなり面倒だが、それならNIKON mini+XR-7mkU+Tamron 70-210(158A)という組み合わせにすればよい。少なくとも、COSINA 28-200 1本よりは表現の範囲は広いし描写も上だ。

Tamronの171Dが成功した理由は、比較的軽量になったことと最短撮影距離が1mを切ったこと、さらにAF時代の素人ユーザーが大量に発生したためだろう。この手のユーザーには、暗さも描写もほとんど関係ない。ピントはカメラ任せだし、よもやサービスサイズ以外のプリントをするとも思えない。171DはEOSで使った限り、あれっ?て感じの描写だったが、まあ、ママカメ・ユーザーがどうこういうレベルではない。十分な性能なのだ。しかもレンズ交換が不要というのは圧倒的なメリットだ。

よく、高倍率ズームはレンズに振り回されて使いこなせないという意見も聞くが、それはある程度知識のあるユーザーにのみあてはまることで、怖いもの知らずの素人さんにはまったく関係がない。彼らにパースの感覚は不要なのだ。要するに、その場を動かずに大きく写したり、広く写したりできればそれでいいのである。結果的に良い写真ではないとしても、別に誰に怒られるわけでもない。そもそも、大多数のユーザーは写真が好きなのではなく、「被写体」が好きなのだ。良し悪しではなく、市場はそこに形成されているのであり、その市場ニーズを的確に把握すればこういう製品になる。結果が評価されるプロや、ウンチク好きのマニアだけを相手にしていてはメーカーはやっていけない。

なんか話が変な方にそれてしまったが、このCOSINA 28-200は持て余してるってのが本当のところ。先日も阿佐ヶ谷の七夕を撮影に行ったんだが、浴衣姿の子どものスナップを撮るのさえ一苦労。常に一歩引かなきゃなんない。まるで基本と反対。それに、やっぱり重いしね〜。あと、物理的に長いレンズで広角の風景を撮るのって、何か生理的に物凄い異和感があった。ま、慣れだろうけどね。ともかく、この手のレンズを使おうと思ったら、通常の基本とは別の、独特のお作法みたいなものを身に着ける必要がありそうだ。

2003.09.10/で、実写結果を見たのだが、意外に悪くないかも。コントラストもけっこうある。思ったほど酷くはなかった、という域は出ないけどね。歪曲収差もけっこう目立つように思う。なお、阿佐ヶ谷七夕のときは2.5mという最短撮影距離の長さに閉口したが、白山祭りのときはそんなに苦にならなかった。慣れれば案外使えるなあ…という印象。ちょいと低く評価し過ぎたかな? 


●類似モデル (2012.05.22)

コシナの28-200クラスズーム(MF)は1980年代中頃からあり、幾度かモデルチェンジされたり、スペック変更されたりしている。そのため、良く似た製品で、細部が微妙に異なるモデルが何種類もある。現在、私が確認しているのは次の通り;

ズーム域 開放F値 レンズ構成 ゴムパターン 重量 備考
28-200mm F3.8-5.6 15群17枚 碁盤目状 650g '86カタログ記載

28-200mm F3.5-5.6 12群14枚 碁盤目状 650g '88カタログ記載
斜め線 写真のみ確認
短冊状 500g重量は実測

28-210mm F3.5-5.6 碁盤目状 写真のみ確認
13群15枚 短冊状 540g '99カタログ記載

外観上の最大の違いはヘリコイドのゴムのパターンで、恐らく、碁盤目状→斜め線→短冊状の順に新しくなると思う。短冊状のモデルは重量も軽くなっている。素材が変更されている可能性が高い。また、PK版を使う場合の留意点は、新しいモデルではKA対応(電気接点付き)していない可能性があるということ。最初はPentaxの互換レンズとして発売されていたので、当然KA対応をしていたわけだが、途中から自社のCT-1/C1s系列ボディとのバンドリング販売が主流になったため、不要な電気接点は付かなくなったものだと思われる。ただし、新しいモデルでも、単体売りの28-210/3.5-5.6(短冊状)はKA対応していると思う。

共通点は28〜200mmクラスの直進ズームで、φ72mm、最短撮影距離2.5m、望遠端で1:4マクロが可能という点。そして、直進ズームと最短2.5mというのは共通の欠点と呼んでもよい。直進ズーム自体が悪い訳ではないのだが、ロック機構がないため、移動時や三脚使用時には自重で伸び縮みしてしまう。これにはかなり大きな実害がある。最短2.5mは言わずもがな。マクロも望遠端のみ。撮影シチュエーションが極めて限定される。

つまり、カメラに付けっぱなしにしてブラブラ歩いて、被写体を見つけたら即撮影、という使い方はできない。レンズは外して歩くか、付けたまま抱えて移動する必要がある(この重量だとアタリマエだけど)。レンズが装着されているときも、近くに被写体を見つけたら、レンズを交換するか、サブカメラを取り出すしかない。あるいは、ダッシュして被写体から離れるとか…(^^; 宣伝文句の「万能レンズ」にはほど遠い。基本的に望遠ズームのオマケに広角機能が付いたものと考える方が賢明。

  もっとも、最短撮影距離に関しては、2.5m/28mm/F8とすれば1.5m〜∞のパンフォーカスになる。一眼レフでパンフォーカスもどうかと思うが、このレンズならば、そういう選択肢もありかなと…

また、画質も単焦点や低倍率のズームに比べるとはっきる劣る。コントラストや解像感の低さや歪曲収差はかなり気になるレベル。Tamronの初期の28-200(71A)も褒められた画質ではなかったが、それよりも更にもう1ランク劣ると思った方がよい。これは私が28-200/3.5-5.6(碁盤目状)を使用した実感だが、モデルによって光学系もけっこういじられているようで、このシリーズの画質がすべてこのレベルなのかと言うと、それは判らない。しかし、同時期の他の廉価コシナレンズの性能から考えても、大きな改善は期待できないだろう。

ただし、これは低画質レンズ全般に言えることだが、別に画質が悪いからと言って、写真が悪くなるとは限らない。また、写真のデキが悪くても、誰に怒られるワケのものでもない。画面の端に立っている浴衣姿の女の子がひん曲がって写っていても、それはそれで思い出だし、下手に上手に撮れるよりも楽しいものだ。つまり、トイカメ感覚で使うレンズであり、そもそも一流メーカーの高級レンズと同じ基準で論ずるようなものではない。時代と価格を勘案すれば低画質を誹るのは的外れ。要するに、ユーザーが楽しみ方を工夫すべきレンズなのである。確かに、扱いにくさには閉口するけれど。

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