†貧乏カメラ館†

ZOOM BROS-X 未評価 発売年月 1990?/標準価格 ¥4.9800
オートズーム機能付き2倍ズーム


90年代初頭のチノンの主力ズームコンパクト。35-70mmの2倍ズームで、マルチAFとオートズームがセールスポイント。両方とも当時としては先端的な技術であり、チノンが安易な廉価機メーカーではなかったことの証明とも言える。ズーム比や機能のわりにはボディサイズが大きく感じられるが、当時としては標準的。デザインや操作系には独特のチノン・テイストが色濃く漂っている。
(2007.07.05)

ZOOM BROSシリーズには2系統4モデルがあり、高機能モデルがZOOM BROS-6001/5501で、普及モデルがZOOM BROS-X/Zだ。レンズや外観は各系統で共通だが、オートズーム機能の有無などで差別化している。価格帯や機能などから考えると、おそらくZOOM BROS-Xが主力機だったと思われる。ちなみに、ZOOM BROS-ZはXの廉価版で、Xがセールスポイントにしている機能がほとんど省略されている。

●ESPIOの前と後

この時期に発売されたコンパクトカメラは、各社ともあまり売れなかったのではないかと思う。確たる証拠があるわけではないが、中古をこまめにチェックしていても、この時期の機種はあまり出てこない。理由は簡単で、直後にPentax ESPIOが出て小型ズーム機にブームを起こし、各社ともそれに追随して大幅なモデルチェンジを行ったのだ。

また、さらにその直後に偽パノラマが一大ブームを巻き起こし、偽パノラマはコンパクトの必須機能になる。したがって、'90年や'91年に発売された大振りでパノラマ機能を持たないズームコンパクトは、ほんの1、2年で商品寿命が尽きてしまったのだ。実質的な販売期間が短かったので、トータルの販売数もごく少なかったのだと思う。

この時期に各社が発売したズームコンパクトは、小型で描写が優れていて、しかもデザインセンスの良いものが多かった。ESPIO、μ zoom panorama、Autoboy A、BIG mini 310Zなどと比べると、ZOOM BROS-Xは二回り以上大きく、外観もグロテスクで、主たる購買層である「旅行好きの女性」に受け入れられる余地はなかっただろう。

では、こうした各社の動きに対して、チノンはどうしたのか? その答えが、発売当時、世界最小・最軽量を誇ったPocketZoomの投入だが…これも商売として成功したとは言いがたく、現在ではレア機種に近い。そして、PocketZoomの発売を最後に、チノンは『カメラ総合カタログ』から姿を消す。その後もカメラの製造は続けてはいたが、単焦点・単速の廉価機が主力で、大手メーカーの高機能小型ズーム機に対抗することはあきらめたようだ。その意味では、ZOOM BROSシリーズとPocketZoomは、チノンの最後のツッパリとも言える。

もっとも、海外ではGenesisの後継機を発売し続けていたようだ。オリンパスのLシリーズを見てもわかるように、国内では一時的なブームに終ったブリッジカメラだが、海外ではかなり長く売れ続けていたようだ。

●オートズームとマルチAF

この機種のメインのセールスポイントはオートズーム機能だが、オートズームはミノルタのAPEXシリーズが大々的にアピールしていて、チノンの「顔」的な機能とは言えなかった。また、チノンはマルチAFの元祖(のはず?)だが、こちらも既に他社が採用していて、独自性を打ち出すことはできなかった。つまり、先端技術を採用していたと言っても、大手の製品の陰に隠れる存在であったことは否定できない。また、これらの機能は、今から振り返れば大して意味のあるものではない。

オートズームの元祖がどこかは知らないが、案外チノンかも知れない。少なくとも、'88年ころ(?)に発売されたHandyZoom 5001では、既にオートズームを採用している。この時期にはまだミノルタのAPEXは出ていなかったし、当時の総合カタログをざっと見ても、他にオートズームを搭載した機種は見当たらない。

オートズームが欝陶しいだけでまったく便利でないのは、今さら強調するまでもない。現在では「ポートレートモード」という形で僅かに形跡を留めているだけだ。また、3点程度のマルチAFでは中ヌケが防げないのは、メーカーも認めているところ。確かに、その後もマルチAFは広く普及したが、中ヌケしないと宣伝するメーカーはなくなった。実際にはAFスポットが「点」から「短い線」になったくらいの意味しかない。素人がカップル写真を撮るシチュエーションに特化した機能と呼んで良いだろう。マルチAFでも画面の端の被写体にピントを合わせるときはAFロックが必須だし、AFロックが使えるならマルチAFなんてそもそも不要である。

なお、マルチAFと言うが、手許の資料には測距点の数は明記されていない。上位機種のZOOM BROS-6001は3点測距と明記されているので、このZOOM BROS-Xはそれ未満−−つまり2点なのかもしれない。2点だとすると、どこに測距点を配置しているのかハナハダ不思議だが…

要するに、現在では両機能ともありふれた、しかもそれほど重視されていない機能であり、機能面だけから言えばこのカメラは歴史的な意味しか持ってないと思う。しかし、現在こいつを手にして感じるは、何とも言えない異和感というとか、摩訶不思議な感覚だ。技術と言うのは、メーカーを問わず一定の方向に収斂していくものだが、こいつは何かが微妙にズレている。そこから外れたのか乗れなかったのかわからないが、チノンというメーカーは独自の選択をしたようだ。

●機械式スイッチ

その最たるものが「電子スイッチ嫌い」だ。チノンはなぜか電子スイッチを嫌い、ほとんどの場合機械式スイッチを採用している。廉価機・中級機だけでなく、Genesisのような高機能を謳った機種にも電子スイッチ嫌いははっきり見て取れる。このZOOM BROS-Xもデート合わせは電子式だが、ズームモードの変更はスライドスイッチだし(電源スイッチ兼用)、ストロボ制御もスライド式だ。通常、この時期の中級機であれば、両方とも電子スイッチを採用するのが常識だが、なぜかチノンは頑固に機械式にこだわっている。

ここで言う「電子スイッチ」というのは、接点が一つのボタン式スイッチで、ロジック回路でモードを切り替えるタイプのものを指す。また、ボタンの素材はゴムであることが多く、押すときの感触が悪く、確実性にも不安があることが多い。

一般に、機械式のスイッチは古い機種でしか使用されてない。この時期('90年代初頭)に機械式スイッチを採用するのは、オモカメレベルの超廉価機か、さもなければ設計者に明確な意図がある場合に限られる。機械式スイッチの優れている点は、操作感や視認性がよく、必要に応じて即座に切り替えが可能で、設定したモードを保持できる(勝手にリセットされない)点にある。つまり、ユーザーの意志を素直に反映してくれるのである。反面、設定の責任(往々にして失敗の責任)はユーザー自身に帰せられる。一方、電子スイッチはカメラ側の判断で自動的にモード変更が可能な点が特徴だ。カメラが判断してカメラが設定してくれる。初心者に親切という反面、メーカー側が想定してない使い方をしようとすると、操作が非常に煩瑣になる。

もし、チノンがこうした両者の特徴を考慮した上で機械式スイッチを採用したのなら大いに賞賛したいし、何より納得できるのだが……どうもそうではないらしい。「ユーザーの意志の反映が最も重要」という私の認識を、チノンが共有していないことは明らかなのだ。たとえば、ストロボ制御スイッチは、機械式のスライドスイッチを使用していながら、わざわざバネを入れてモードを保持できないように細工してある。つまり、ストロボを発光禁止にしたいときは、制御スイッチを押したままシャッターを切るという方式だ。ちょいと力を緩めると元に戻ってしまい、うっかり発光してしまうことも多い。

モードが保持したくなければ電子スイッチの方が便利だし、コストが問題ならばAutoboy 3同様の押しボタンスイッチで良いのではないか? なぜわざわざコストの掛かるスライドスイッチに、コストを掛けて細工しなければならなかったのか、私の理解を超えている(まあ、チノン自体が細工したんじゃなくて、部品メーカーから調達するんだから、それほどのコストが掛かるわけじゃないだろうけど)。あるいは、最初は通常のスライドスイッチを予定していたが、土壇場で上の指示があって仕様変更を余儀なくされたとか…それはないな、なにしろGenesisでも同じ方式を採用しているから。

チノンがストボロモードの保持を徹底的に嫌ったのは間違いがないようで、HandyZoom 5001では、ストロボ制御に電子式スイッチを採用した上に、シャッターを切る度にオートに戻るようになっている。完全に確信犯であるが、初心者から上級者まで、あらゆるユーザーに取って明らかに不便な仕様だ。設計者が何を考えていたのか、やはり理解不能だ。

つまり、モード保持をそれほど嫌うなら電子式スイッチを使うのが当然であり、あえて機械式にこだわった理由というのが全然見えないのである。オリンパスのAF-10 Superなどを見ていると、当時の電子式スイッチは案外コストが掛かったのかも知れないとも思うが、中級機でこれは変だろう。結果的に、こいつの操作感は変に安っぽく、レトロな印象を与えてしまう。この感覚はフラグシップ機であるはずのGenesisでも顕著だ。個人的にはこの種の「意味不明な工夫」あるいは「貧者の知恵」をこよなく愛するが(Genesisなんか「貧乏文殊」の称号を与えたいくらいだ)、一般ユーザーに受け入れられなかったことは想像に難くない。

●外観

元来、チノンのデザインセンスは決して悪くない。というか、けっこう良い部類だと思う。オリンパスやキャノンのように洗練されてはいないが、斬新でかつ破綻なくまとまっているデザインが多い。この時期、カメラ界はEOSの影響を受けて「ぐにゃ」ブーム(いわゆる「溶けたバター」)の真っ只中で、輪郭が直線だけで構成されたボディはなくなったと言ってもよい。例外的に、ニコンのコンパクトは素直な直方体ボディを採用し続けていたが、そもそものデザインセンスが良くなかった。

曲線や流面を主体としたデザインは素人の手には余る。工業デザイナーでも、かなりの手練でないと破綻する。事実、この時期には破綻したデザインのカメラも多かった。しかし、そんな中でもチノンは比較的健闘していて、PocketZoomのデザインはかなり優れていると思うし、ZOOM BROS-6001も没個性的ながらまとまりがある。でも、このZOOM BROS-Xはちょいと破綻しかけている。一見して「グロい」のである。

このグロさ、どこかで見た憶えがあると思ったら、オリンパスのIZM 200番台だ。黒くてパコパコしていて、装飾的な凹凸が目立つ点が良く似ている。そうそう、フジの望遠カルディアスーパーVもデザイン的には同系統だな。もちろん、これらがコピーとかOEMとか言う気は全然ないが、さりとて全く無関係に出てきた機種とも考えにくい。特に、IZM 200番台はオリンパス製品の中では異質なので、チノンOEMの可能性も頭の隅に入れておいた方が良いかもしれない。

主要諸元
発売年月 1990〜1991年? (4万9800円)
型式 [AF2倍ズーム]
レンズ 35-70mm/F3.7-6.9 (オートズーム可)
シャッター
ピント調節 近赤外光マルチフォーカス
AFロック
最短撮影距離 1m
露出制御 プログラムAE
測光連動範囲
露出補正 不可
フラッシュ GN=19?(開放F値×連動範囲で計算;多分1段くらいゲタはいている)
オート/禁止/強制(禁止と強制はスイッチを押しながらシャッターを切る)
ファインダー ?% x0.?
外観 137×77×64mm/360g(電池別)
電池 2CR5
仕様出典 '92カメラ総合カタログ Vol.105
その他 ズーム操作はプログラム(オート)とマニュアルの2モード


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