†貧乏カメラ館†

タムロンの交換マウントの変遷

(2002.11.09/2006.04.08upd)

タムロンの交換マウントの歴史は、一眼レフの測光システムの歴史と重なる。言わば時代の必要に応じて変化してきたのだ。何が問題とされ、どのように解決されてきたか、それを研究することは、測光システムを原理を理解することになる。

●タムロンのマウントの種類

タムロンの交換マウントには@Tマウント、Aアダプトマチック、B初代アダプトール(アダプトール1)、Cアダプトール2、の4種類がある。これらは物理構造も異なっているが、根本的な違いはレンズ→ボディ間の情報伝達とボディ→レンズの制御の可否という点にある。

●Tマウント('57〜'65)

タムロンが最初に開発した一眼レフ用交換マウント。M42マウントとそっくりだが、ネジピッチが異なるため互換性はない(M42は1mm、Tは0.75mm)。レンズとボディはまったく無関係で、レンズはボディに一切の情報を伝達しないし、ボディはレンズを一切制御しない。物理的にボディとレンズを接続してフランジバックを整えるだけのもの。必然的に手動絞りでしか使えない。また、この時代はTTL測光がなかったので測光システムとマウントは無関係。現在でも、天体写真などでは使われているらしい。

天体写真では「Tマウント」と並んで「Pマウント」も使用されている。PマウントとTマウントは、ともに42ミリ径のスクリューマウントだが、ネジピッチが違う(Pは1ミリ、Tは0.75ミリ)。PマウントはM42マウントと同じもの。つーか、M42は元々「プラクチクカ・マウント」と呼ばれていたわけだから、PマウントとM42マウントは同じでアタリマエ。ただし、現在では天体望遠鏡とカメラをくっつけるアダプタを特に「Pマウント」と呼び、カメラのレンズのマウントであるM42マウントと区別することが多いように感じる。ちなみに、メジャーなのはTマウントの方で、Pマウントは主にKenkoが採用しているようだ。

●アダプトマチック('69〜'72)

自動絞りに対応したスクリュー式の交換マウント。ボディ側からレンズの絞りを制御できるようになった。また、レンズの絞り値をボディに伝えることも可能になったが、対応機種は限定されていた。これは絞り値を伝えるシステムが絞り環しかなかったため。伝達可能な機種ではTTL開放測光が可能だが、不可能な機種ではTTL絞り込み測光しかできない。現在の主要MFマウントのうち、OMマウントとKマウントが欠落している。CanonもFDではなく絞り込み測光のFLである。エキザクタやトプコン、ミランダなどはサポートしているらしい。

●アダプトール1('73〜'78)

TTL開放測光に対応したバヨネット式の交換マウント。絞り環の回転をマウント面の絞り連動ツメに伝えるシステムが実現したため、ほとんどのマウントでTTL開放測光が可能になった。絞り環の回転を変換するための外ギアが外観的な特徴。また、レンズ自体は開放F値情報も持っていたが、マウント経由でボディに伝達する方法がなく、絞り直読用に利用されているだけだった(ニコンのカニ爪は例外かも…?)。そのため、開放F値情報が必要とされる速度優先AE(Canon FD)への対応は不完全で、レンズの開放F値ごとに別マウントを用意する必要があった。

●アダプトール2('79〜現在)

初代アダプトールの改良版。物理的な耐久性の改善、外ギアの廃止、対応マウントの多様化のほか、レンズの開放F値をマウント面経由でボディに伝達できるようになった。これで、FDマウントへの対応が完全になり、一つのマウントで全ての開放F値に対応できるようになった……はずである(FDマウントには未だに謎の部分があるのだが)。また、一部だが電気接点を組み込んだマウントにも対応するようになったし、EOSやα用のマウントも発売された。なお、SPレンズにはアダプトール2必須との注意書があった。

マウント レンズ→ボディ情報伝達 ボディ→レンズ制御
Tマウント 無伝達 無制御
アダプトマチック 無伝達/絞り値(一部のみ) 自動絞り
初代アダプトール 絞り値(全部)
アダプトール2 絞り値(ほぼ全部*注)&開放F値(FD)
注)EOSやαなどのように物理的に情報を伝達できないものは除く

●Tマウント−−手動絞りの時代

ごく初期の一眼レフでは、絞りの開け閉めを手動で行わなければなかった。ボディはレンズの絞り情報を受け取ることはできないし、逆にレンズの絞りを制御することもできなかった。要するに、レンズはボディにくっついているだけで互いに無関係だったのである。それゆえ互換性のあるマウントを作ることは簡単だった。Tマウントは、前後に異なったネジが切ってある、ただの筒だったのである。

これは、基本的にレンジファインダー機のボディとレンズの関係に近い(正確には、RF機ではピント情報を伝達しているが、ここでは絞りと測光に着目している)。しかし、RF機ではレンズとファインダーは別の光学系であったため、絞りの設定に拘らずファインダーを明瞭に見ることができた。これに対して、一眼レフではレンズとファインダーが同一の光学系を利用しているため、絞るとファインダーが暗くなるという欠点があった。

この時期の一眼レフは、まず開放で構図やピントを決めた後、外部露出計で絞りを決めて、レンズの絞りを設定してシャッターを切る、さらに次の撮影に前に再び絞りを開放に戻す、と言うとんでもなく面倒なことを繰り返さなければならなかった。当然、この絞り制御を機械に任せ、ファインダーを常に明るい状態に保つ方法が摸索されることになった。

●アダプトマチック−−手動絞りから自動絞りへ

アダプトマチックには自動絞りの実現とTTL開放測光への対応という二つの大きなテーマがあった。このうち、TTL開放測光への対応は非常に不完全であったが、自動絞りの実現は完全にクリアできた。

毎回絞りを手作業で戻す不便さを解消したのが自動絞り。この方式では、絞りが実際に絞られるのは、ミラーがアップしてシャッターが切れる瞬間だけ。したがって、次の撮影の前に絞りを開放に戻す必要はないし、絞りを設定してもファインダーが暗くなることもない。この自動絞りを実現するためには、シャッターが切れた瞬間にレンズの絞りを絞る機構が必要になるが、これはレンズに付いている突起を叩くとか、レバーを跳ねる、などのような簡単なアクションで実現できる。また、レンズ側からボディ側に伝える情報はない。

基本的に、この時代のタムロンのマウントがアダプトマチックだったと思われる。このマウントのポイントは、メーカーごとに異なる自動絞りの動作をマウント内部で「前に押す」という1つの動作に変換した点にある。自動絞りは、レバーが側面に付いていて縦に跳ねあげるもの、底面についていて横に動くもの、前に押すものなどさまざまあったので、これをまとめ上げただけでも大発明だった。これは次世代のアダプトールにも受け継がれる。

自動絞りは大きな進歩だったが、しかし、測光には問題が残った。TTL測光の際には絞りを手作業で絞る必要があり、絞れば当然ファインダーは暗くなる。外部露出計を使えば暗くはならないが、それでは精度が十分ではない。開放状態でTTL測光ができる「TTL開放測光」が次の課題としてクローズアップされた。そして、アダプトマチックでも、この革命的なシステムに限定的ながら対応するようになった。

●TTL開放測光の時代

さて、次の課題はTTL開放測光。この測光方式の登場がマウントの世界を大きく変えた。目的は、構図の決定、ピント調節、露出の設定をすべてファインダーを覗いたままできるようにすること。これを実現するには、露出計を光学系のどこかに埋め込むしかない。もちろん、外部露出計の表示部だけファインダー内に入れるという方法もないではないが、それでは余りに中途半端。ポジの普及に伴って、露出もシビアになったから、外部測光では厳しい。

ただ、光学系の光を直接測ると言っても、自動絞りを採用している以上、ファインダーを覗いている間は常に開放状態で、絞りの変化が反映されない。そこで、レンズに設定されている絞り値をボディ側に伝えて、露出計をその分補正してやる必要が出てくる。ということで、TTL開放測光には、絞りに連動して値を伝達する爪やレバーを備えたレンズが必要になる。また、絞り値の伝達の仕方には二通りの方法が考えられる。

●TTL開放測光への道−−絶対値伝達のディレンマ

一つは、絞りの絶対値を伝達する方法である。たとえば、開放F値がF2.8のレンズをF5.6で使う場合、「シャッターを切るとF5.6になる」という情報をカメラに伝える。これは一見アタリマエのことのように思えるが、実は問題がある。というのは、実際に測光をしている開放状態のF値が判らないことには、実絞りの「F5.6」という数字が意味を持たないのである。すなわち、「今は開放のF2.8で測光しているけど、シャッターを切るとF5.6になるよ」というように「開放F値」と「実際の絞り値」の両方を伝達しないと適正露出が算出できないのである。

このディレンマを抱えてしまったのがニコンのカニ爪だ。カニ爪は「12時の位置=F5.6」のように、絞りの絶対値を伝えるシステムで、爪の位置はレンズの開放F値によらない。開放F値がF2のレンズでもF4のレンズでも、F5.6に設定してあればF5.6という数値しか伝達されない。無論、同じF5.6と言っても、開放F値がF2のレンズとF4のレンズでは、露出計に入る光は4倍も違う。正しい露出を得るには開放F値と設定値の差(相対値)を算出する必要がある。ちなみに、外部測光の場合には設定値の絶対値のみが必要で、開放F値や相対値は不要だ。元来カニ爪は外部測光向きの仕組だったと考えてよいだろう。

この問題と真正面から取り組んだのがNikomat FTおよびFTNだ。まず、FTで採用された解決策は、何と手作業で開放F値を設定する方法だった。FTのマウント部には開放F値の設定レバーがあり、レンズを交換する度に開放F値を設定し直していた。これならばレンズにもマウントにも細工は不要だが、流石にこれでは不便だとクレームが出た。そこで、FTNでは大幅な改良が加えられた。開放状態でレンズを装着したときにカニ爪がどこまで回るかを記憶し、装着時のカニ爪の位置から自動的に開放F値を判別する方法だ。所謂“ガチャガチャ"である。メカ的には楽しいが、何とも苦しいシステムだ。

さて、アダプトマチックは、このニコンのカニ爪に対応していたのだが、当然レンズによって開放F値が異なる。そこで、マウント本体とは別に、カニ爪が付いた金属環を用意して、開放F値に合わせて絞り環に巻き付けていた。この方法は不便な上に汎用性が低かった。絞りの回転方向が逆のメーカーや、絞り値をマウント面のレバーで伝達する方式には対応不可能だった。

ちなみに、絶対値伝達方式では、焦点距離によって開放F値が変わるズームレンズには対応できない。まさか、焦点距離ごとに爪の位置をずらすわけにはいかない。そのためか、アダプトマチックのズームレンズはすべて開放F値が通しなのであった(だからあんなに重いのだろう)。

●TTL開放測光への道−−相対値伝達の優位

絞り値を伝達するもう一つの方法は、絞りの相対値を伝達する方法である。これは、開放F値は不問に付しておいて、たとえば「シャッターを切ると現在よりも2段暗くなるよ」という情報を伝達する。この方法ならば伝達すべき情報は一つで済む。前述の方法でも、結局「実絞り値−開放F値=絞りの相対値」を算出して補正を掛けているわけで、それならば初めから相対値のみを伝える方がシンプルだ。事実、TTL開放測光やその延長技術である絞り優先AEのシステムでは相対値のみで何の問題もない。だから、この方法が業界標準になったし、ニコンもカニ爪を捨ててAI爪で相対値伝達を採用した。ただし、後に速度優先AEやプログラムAEが一般化すると、再度開放F値(絶対値)が必要になってくるのであった。

さて、アダプトマチックは相対値伝達に対応していたのかと言うと…原理的には可能だったと思うが、なにしろ物がなくて良くわからない。ニコンのカニ爪には対応していたが、AI爪には対応していなかったようだし、キャノンはFLだからそもそも開放測光ができない。ミノルタは多分SRマウントで、絶対値伝達タイプではないかと思う(自信はないが…)。相対値伝達であることがはっきりしているPKやOMは、マウント面の絞り連動レバーで伝達するタイプなので、物理的に対応不可能だった。

相対値伝達による本格的なTTL開放測光への対応は、やはりアダプトールの登場を待たなくてはならない。

先日、ちょっと面白い改造版アダプトマチック・マウントを発見した。本来、アダプトマチックはニコンのカニ爪には対応できるが、Ai爪には対応できない。ところが、カニ爪に金属片を取り付けて無理矢理Ai爪対応にしてしまったのだ。改造のデキが素人っぽいのでメーカー改造ではないと思うが、こういう簡単な改造でカニ爪→Ai爪の変換はできる。絶対値伝達と相対値伝達の違いがあるが、これも巻き付ける位置を変えることで対応できる…かな?

●アダプトールにおける相対値と開放F値

アダプトール1やアダプトール2は、相対値伝達が一般化した時代のマウントである。従って、相対値を伝えるシステムを持っているのは当然だが、実は開放F値(絶対値)を伝えるシステムも持っていた。

アダプトールのレンズの情報は「マウントのツメ」と「レンズのツメ受け」で伝達される。もし、相対値を伝達するだけで問題がないのなら、ツメとツメ受けは一組あれば事足りる。実際、OMマウントなどはツメは一本しかない。ところが、レンズ自体にはツメ受けが二つあるし、Nikon AiやPKではツメも二本ある。明らかに、二種類の情報が伝達されるようになっている。この二つめの情報がレンズの開放F値である。

なぜ、アダプトールは開放F値を必要としたのだろうか? 一番簡単な理由は、古いマウントへの対応である。カニ爪に対応するのには絶対値情報が必要なので、開放F値と相対値から絶対値を得られるようにしたのであろう。一応、この説明は納得がいく。しかし、それならば完全に相対値伝達になったPKやAiでもツメが二本あるのがわからない。OMが一本で済むのだから、PKやAiも一本で良いはずだ。実は、後述するように、これには意外な役割がある。と言うよりも、この意外な役割こそ、アダプトールの開放F値ツメのレーゾンデートルではないかと思ったりする。

もう一つ考えられるのは、速度優先AEやプログラムAEへの対応だ。これらのAEでは絶対値情報(開放F値)が必要とされる。たとえば、キャノンのFDやコニカのARマウントは速度優先AEを採用しており、開放F値情報を伝達する仕様になっている。それらに対応するために、アダプトールも開放F値情報を伝達できるようにした……と考えるのが普通だが、実はこれは誤り。何とも紛らわしいのだが、FDやARのアダプトールではツメによる開放F値の伝達をしていない。全然別の仕組を使っているのだ。これについても後述する。

●絞りの絶対値情報−−ファインダー内への表示

さきほど、TTL開放測光や絞り優先AEでは、絞りの相対値さえあればよい、開放F値はいらないと述べたが、それはあくまでもメカニズム上の問題だ。機構上不要であっても、ユーザーがそれを「知りたい」ということも忘れてはならない。正確に言えば、開放F値ではなく設定した絞りの値(絶対値)をファインダー内で確認したいのである(絶対値は「開放F値+相対値」で算出できる)。

露出は速度と絞りで決まる。このうち、速度はボディ側が制御するものなので、速度情報をファインダー内に表示することは難しくない。OM-2のように電気的に表示してもよいし、FTb-Nのように機械的に表示してもよい。コストさえ惜しまなければ問題なく表示できる。ところが、絞り値はそうはいかない。そもそも、レンズが相対値しか伝達しないのでは、ボディ側で絶対値を確認する方法はない。原理的に表示不可能なのである。

そこで、NikonやPentaxはレンズの絞り環に印刷された数字を、光学的にファインダー内に導く「絞り直読方式」という荒業を採用した。機械的に伝達することは不可能なので、光学的に読んでしまえ、ということだ。本家はそれで問題はないが、タムロンのように多機種対応のレンズでこれを実現するのには問題がある。まず、タムロン、ニコン、ペンタックスの絞りの設定間隔や始点が完全に一致している保証はない。実は、この3社に限れば規格が統一されているようなのだが、別のメーカーが同じようなシステムを採用したときに、対応できるかどうかは判らない(いや、間隔や始点は関係ないかな…要は絞りの値が正しい位置に表示されれば良いわけで、間隔、位置、回転方向が違っても問題ない?)。

また、絞りの規格が共通であったとしても、アダプトール自体の厚さがあるので、絞り環をニコンやペンタックスと同じようなマウントの根元に付けることはできない。絞り環の場所が異なっては絞り直読は不可能である。そこで、レンズ本体ではなく、アダプトールマウントに絞り環を追加して、レンズの絞り環に連動するようにした。マウントの開放F値爪は、実はこの追加された絞り環の位置調整に使われているのだ。

つまり、開放F値情報は、絞り直読システムのために必要であり、絞り直読を採用しなかったOMには不要のものなのだ。これで、OMが1本爪、PKやAiが2本爪の理由が判る。

●速度優先AEへの対応

次に、速度優先AEと開放F値の関係を考えてみよう。まず、速度優先AEシステムには、レンズの開放F値情報が必要である。ただし、速度優先AEシステム自体は、相対値情報のみで機能する。絶対値は機構上必要というわけではない。これも、言わばユーザーが知りたいと言う要求があるからに過ぎない。しかし、速度優先AEの場合、この問題はより深刻になる。

速度優先AEの場合、速度はユーザーが設定するので既知量だが、絞りはカメラ側が決める未知量である。しかも、カメラが決める絞り値は相対値である。そのため、カメラ自体も絶対値を知らない。カメラは算出した相対値に合わせて、レンズの絞りレバーの叩き具合を加減するのだが、そのメカニズムは外部からは全く見えない。絞り直読を使おうと思っても、カメラが絞りリングを回すわけではない。つまり、ファインダー内はおろか、いかなる方法でも絞りの絶対値を知ることができないのだ。これは一眼レフとしては致命的だ。そこで、速度優先AEでは、絞りの相対値と開放F値から絶対値を算出し、それをファインダー内に表示するようになっている。

速度優先AEの代表は、言わずと知れたCanon FDマウントとKonica ARマウント。では、FDやARのアダプトールマウントでは、どのようにして開放F値情報をボディに渡しているのだろうか? 再三述べているように、アダプトールのツメのうち1本は開放F値情報を伝達するものだから、これを使うのが常道だと思うのだが、実はそうではない。これについてはアダプトール1とアダプトール2に別けて考えよう。

●アダプトール1の開放F値情報

結論から言えば、アダプトール1ではマウント自体を取り換えるという、とんでもない方法で様々な開放F値に対応していた。たとえば、開放F値がF2.8とF4とF5.6の3本のレンズを持っていたら、マウントもF2.8用、F4用、F5.6用と3個必要なのである。我々の常識では、一つのアダプトールで複数のレンズを使い分けるのが当然だと思っているので、これは異様に不経済に映る。しかし、当時はレンズとマウントはセットで入手するもので、レンズごとにマウントを購入するのが普通だったようだ。それにしても……

では、なぜこんなことになったのだろうか? そもそもレンズが持っている開放F値情報がなぜ使われなかったのだろうか? 答えは、FDマウントやARマウントの開放F値の伝達方法にある。少なくとも、FDマウントでは「回転」ではなかったのだ。マウント面にでんと居座る金属円柱、これが開放F値を伝えるピンで、値はピンの高さで伝達している。もし、ツメの開放F値を利用しようと思ったら、マウント内で「ツメの回転→ピンの高さ」という変換を行わなくてはならない。これが困難であることは想像に難くない。したがって、技術的には納得できるが、不便で不経済であることは間違いない。この問題を解決したのがアダプトール2だ。

●アダプトール2の開放F値情報

アダプトール2では、開放F値ごとにマウントを交換する必要はなくなった。FDマウントでも、すべてのレンズが一つのマウントで使用できる。今度こそ、ツメの開放F値情報が使用されているのか……と思ったら、実はこれも違う。アダプトール2レンズは、レンズのマウント面の後玉の周りの部分に開放F値情報を持っている。FD版アダプトール2の開放F値ピンの端は、この後玉の周囲に当たり、開放F値に見合った高さになる。ちなみに、アダプトール1では、後玉の周囲は隙間になっていて、開放F値ピンは正しい位置で止まらない。したがって、少なくともFDマウントに関しては「アダプトール2レンズ+アダプトール2マウント」という組み合わせでないと正しい露出は得られない。

上記の説明はあくまでも私の仮説である。FDマウントには未だに謎の部分があり、実はよくわからない。上記の説では開放F値情報は後玉の周囲の部分にあり、ツメの情報はなくてもよいはずだ。ところが、実際のFD版アダプトール2は、ツメの開放F値情報も使っている形跡がある。使われてはいるようだが、その役割が良く判らない。と言うことで、この説を鵜呑みにして他人に吹聴すると恥をかくので注意のこと。

ところで、ARマウントはどうなったのかと言うと……ARマウントも一つのマウントですべての開放F値に対応するようになったのだが、対応方法はFDとは全く違う。マウント内に切り替えスイッチを持っていて、レンズの開放F値に合わせて、手作業でこのスイッチを合わせる。なんか、Nikomat FTみたいだ。ま、マイナーなARよりは、メジャーなFDを取ったいう感じだ。

●プログラムAEの時代

プログラムAEの時代になると、従来絞り優先AEを採用していてメーカーも、絞りの絶対値情報が必要になってきた。かつて速度優先AEメーカーが抱えた悩みと同じ問題に直面した。しかし、伝達できる情報が足りないものはどうしようもない。そこで、初期のプログラム機は絞り値の表示をあきらめるという素晴らしい対策を取った。プログラムAE自体は可能でも、表示は速度のみ、という機種が圧倒的に多かったのだ。この問題が根本的に解決されるのは、AF化に伴う電子接点の採用を待たなければならなかった。流石のアダプトールもその役割を終えたのであった。


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