†貧乏カメラ館†

Autoboy MINI T ★★★★ 発売年月 1991.09/標準価格 ¥2.9800
二焦点レンズの優等生モデル


小型のAF二焦点コンパクト。Autoboyシリーズのローエンド機だが、このクラスの機種としては、非常によくできている。当時の二焦点(ズーム)コンパクトとしてはかなり小さい部類だが、レンズも比較的明るいし、操作性も非常に良い。描写もキャノンらしい無難なもの。欠点らしい欠点はない。優等生過ぎて遊び心に欠けるのが難点と言えば難点。
(2007.04.25)

Autoboyシリーズのローエンドの小型モデル。同時期に発売された単焦点カメラAutoboy MINIを二焦点化したものだが、外装がほとんど同じなのに驚く。系統的にはAutoboy TELEの後継機のようで、操作系が非常によく似ている。当時のキャノンの主力コンパクトはAutoboy ZOOM 105(490g)やNew Autoboy(416g)だったので、このAutoboy MINI Tの256gはかなり画期的な軽さだっただろう。

このクラスではオリンパスのAF-1TWIN/AF-10TWINが一歩先んじていたが、それ以外のメーカーでは二焦点機はあまりなく、35-70ズームで400gくらいが相場だった。キャノンの小型軽量化への取り組みは比較的早い部類だったと言えるだろう。しかし、その直後にESPIO、Autoboy A、μ zoom panorama、BIG mini 310Zなどの高画質・小型2倍ズーム(おまけに偽パノラマ)機の時代に突入したため、このAutoboy MINI Tは非常に影の薄い存在になってしまったようだ。使い易さではAutoboy Aよりも遥かに上なんだけどね〜

●スペック概要

レンズは38mm/F3.5⇔70mm/F6の二焦点切替式。開放F値はAutoboy TELE(40mm/F2.8⇔70mm/F4.9)より1ランク暗いが、他機種に比べれば比較的明るい部類。たとえば、Autoboy N80(2003年)は38-80mm/F4.7-9.4。最短撮影距離は65cmで、現在の標準的なスペックに達している。Autoboy TELEは96cmまでしか寄れず、テーブルの向かいに座った人物を写せないのが欠点の一つになっていたので、この点は評価できる。スローシャッターは1/8"で、広角側でEV7(ISO100)まで連動。ISO400を使えば室内ノンストロボ撮影も可能だが、夜景は無理なレベル。ストロボはオン/オフ/オートの機械式スイッチで抜群に使い易い。AFは赤外線アクティブの3点評価測距(おそらく、後に「AiAF」と呼ばれるものだろう)。

●レンズの描写力

Autoboyシリーズのレンズは、どのモデルも一定水準以上のレベルにあり、コンパクトとしてはほとんど文句の付けようがない(ごく一部に例外はあるが…Liteとか)。確かに、突出した異能の描写を持つモデルはないかもしれないが、Autoboy SやAutoboy FXLは隠れた名機と呼べると思う。無論、Autoboy MINI Tのレンズはそのレベルにはないが、それでも広角・望遠ともあからさまな破綻は見られない。

そこそこシャープで立体感もあり、コントラストも発色もコンパクトとしては全く問題がない。周辺光量が極端に落ちたり、四隅で像が流れるようなこともなかった。半逆光で使ってみたが、フレアらしいものも見当たらなかった。「はっ」とするような驚きはないが、露骨な欠点のない無難な描写だ。

もちろん、ネガのサービス判プリントのレベルよ……って、それで欠点が見えちゃうレンズなんてあるのか?ってツッコミがきそうだけど、けっこうあるんだよ、有名メーカーの機種でも。

プログラムラインは開き気味なのか、ISO100だとけっこう背景がボケてくれる。ボケ自体は汚いが、何でもかんでも絞って誤魔化そうという悪習に染まる前の製品で好感が持てる。ただし、AFやAEの精度は問題ありだ。晴天屋外だと、背景の木立にAEが引きずられて人物の顔が白く飛ぶよ。まあ、ラボの責任も大きいと思うし、原則的に人物は画面の中央に入れない、という私の撮り方にも問題はあるけど。AFの方も「3点評価測距」を売り物にしているようだが、被写体がちょっと複雑な形状だったり、構図に少し凝ろうとすると高確率でピンボケになる。……ま、コンパクトでそんなことするな、っていうのは正論ですが。

●操作性

非常に扱いやすい。基本的に、電源スイッチとシャッターボタンを除けば、焦点切替とストロボ切替しか操作する部分はないが、ともに機械式なのが特長。抜群に使いやすい。Autoboy AやSとは比較にならない快適さ。ただし、電源スイッチがレンズに付いているのはやや異和感があった。フォールディングやファインダー、レリーズの感触に関しても特に問題は感じなかった。過度に静音化されていないのがよい(Autoboy Aのように、レリーズの感触すらないのは逆に困り者)。

ちなみに、測距段階ではAFモーターは動作しないタイプ。シャッター半押しで測距して、シャッターボタンを押すとモーターがレンズを駆動し、その後でシャッターが切れる。したがって、タイムラグはけっこう大きいし、モーター音もちょっと気になる。シャッターボタンを押したあとで、「ギィ(AF)、パチ(シャッター)、ジャー(給送)」という感じ。

●総評

総体的に見て平凡なスペックの機種だが、満遍なく高レベルにあるコンパクト言うのは実は意外に少ない。世の中には、描写は抜群だが操作性が悪いとか、見た目はカッコイイがホールディングが悪いとか、性能は高いが故障が多いとか、一長があれば一短も避けがたいものなのだが、このAutoboy MINI Tにはそうした露骨な欠点がない。バランス的には非常に高いレベルの機種と言っても過言ではないと思う。ただ、消去法的な「良いカメラ」であり、没個性的な印象が使用する幸福感を薄めているのも否定しがたい。

主要諸元
発売年月 1991年9月 2.9800円
型式 二焦点AFコンパクト
レンズ 38mm/F3.5(3群3枚)⇔70mm/F6(6群6枚)
測光連動範囲 38mm時:EV7(1/8"-F3.5)〜17(1/250"-F22)
70mm時:EV8.5(1/8"-F6)〜17(1/200"-F24)
ピント調節 赤外線アクティブ3点評価測距
AFロック シャッター半押し
最短撮影距離 0.65m
露出制御 a-Si素子使用の完全自動プログラム式EE
露出補正 なし(日中シンクロは可能)
フラッシュ GN 10.7、自動/強制/オフ機械式スイッチ
ファインダー 85% ×0.37⇔×0.64
外観 125×68×53mm/255g(電池含)
電池 CR123A×1
仕様出典 キヤノン・カメラ・ミュージアム ※リンク切れ
その他 単焦点モデルAutoboy MINIもあり


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