†貧乏カメラ館†

Autoboy BF80 ★★★★★ 発売年月 1995.08/標準価格 ¥2.4800
安く作ったら名機になってしまった二焦点


38mm/80mmの二焦点で、ファインダーが大きいのが特長。先行機種のAutoboy Junoの廉価版として作られた。もともと廉価カメラであるJunoよりもさらに安く、AFカメラとしては最低価格帯の市場を狙った「ズームもどき」カメラ。しかし、技術的に十分成熟した時期に無駄な機能を削ったことで、逆に極めて操作性の良いカメラに仕上がっている。レンズの描写も充分シャープ。
写真は輸出版のSURE SHOT 80 Tele(2006.07.19)

実は私はファインダーの大きなカメラと、二焦点カメラが好きだ。大きなファインダーが好きなのは、最初に買ったコンパクト機のファインダーがあまりに酷く、トラウマになってしまったため。二焦点カメラが好きなのは、ズームに比べて光学的にも機械的にも無理がなく、同じ値段ならずっと写りが良いと思うから。それに、ズーム機でも中間の焦点距離なんて滅多に使わないから、いっそ二焦点の方が潔い。

●Autoboy Junoとの比較

最初にBF80のポジションを確認するために、姉のJunoと比較してみよう。Autoboy Junoが発売されたのは1995年3月、このBF80が発売されたのは5ヵ月後の同年8月。ほぼ同時期の製品であり、スペック、外観、操作系、ファインダーなど共通性が高い。価格はJunoが28000円、BF80が24800円だが、BF80の実売価格は非常に安く、私も新品を1万で入手した。また、BF80の国内流通量はかなり少なく、価格に敏感な海外マーケットや非カメラ系量販店ルートが主な市場ではなかったかと思われる。中古市場でもなかなか見掛けない機種だ。

一見するとJunoとBF80はあまり似ていない。Junoはシルバーのフラットなデザインで比較的高級感があるが、BF80は黒のぐにゃぐにゃプラ塊で全然高級感がない。だが、実際に手に取って両者を比べると、著しい類似性があることがわかる。ベムラーとギャンゴのようなものだ(^^ゞ スペック的にも非常に良く似ていて、撮影モードや操作系は完全に同じ。ただし、Junoがズームレンズを搭載しているのに対して、BF80は二焦点レンズに変更されており、ここが両機種の決定的な違いになっている。また、AFの測距点の数や内蔵ストロボのガイドナンバーなども少し異なる。

BF80はJunoよりも下位の機種だが、レンズの開放F値と望遠端の焦点距離は二焦点のBF80の方が優れている。Junoは38-60mm/F4.5-6.7、BF80は38mm/F3.7 & 80mm/F7.3。広角端では半段ほど明るいし、望遠端で20mm長いのはかなりの差だ。BF80は風景とポートレートに最適化した二焦点と言える。それに比べると、Junoの60mmは何とも中途半端だ。あくまでも、二焦点よりもズームの方が高級だと考えるならJunoの方が上位機種だが、レンズの明るさや長さを考えると、むしろBF80の方が魅力的な機種だと言えるだろう。

●Big Finder?

そもそもBF80の「BF」というのは「Big Finder」の略なのだが、実際には機種名にするほど大きくはない。38mm時に0.4倍、80mm時に0.85倍というのだから「Big Finder」はおこがましいだろう。また、明るさも少々物足りないし、タル型の歪曲も目立つ。KonicaのDr.Finderを覗いたときのようなショックはないね。普通のコンパクト機の中にも、これよりも倍率が高くて明るいファインダーのものはけっこうある。まあ、焦点距離可変のファインダーのわりに見にくくない、という程度の評価かな。Lunaよりは良いと思う。

KonicaのDr.Finderのファインダーは35mmで0.8倍くらいの倍率がある上に非常に明るい。タル型の歪曲がキツイが、見やすさはBF80の比ではない。

●シャープな描写の二焦点レンズ

このカメラは新品で入手した直後に使ってみた。つまり、私のカメラとしては異例の良いコンディションで使ったわけだが、それにしても描写がシャープなのには驚いた。かなり絞ってはいるがようだが、L判プリントでアズキ粒大の人物の顔の表情がはっきりとわかる。元々キャノンのコンパクトのレンズはかなり高い水準にあるので、この程度の描写は当然なのかも知れないが、このクラスでここまで写るとは思ってなかった。安い一眼レフと遜色ない。

焦点距離の選び方も良い。38mm/F3.8と80mm/F7.3で、スナップとポートレートに最適化したのが嬉しい。望遠側のF7.3がポートレート向きかどうかは別にして、広角側のF3.8は焦点距離が変わるコンパクトとしてはかなり頑張っている。ズームではないので中間の焦点距離は使えないが、画角を意識するという点では、むしろこちらの方が良いように思う。

ちなみに、1986年に出たAutoboy Teleの広角側は40mm/F2.8、2004年に出たAutoboy 180の広角端は38mm/F5.6。望遠端がほぼ同じN80でも広角端は38mm/F4.7。一般的に言って、古い機種ほど明るい。コンパクト・ユーザーは開放F値を気にしないのか…?

●測距点と露出制御

AFは3点AiAF。この「3点」というのがほとんど役に立たないのは周知の通り。ただし、測距点がどこに配置されているかは多少気になるところ。取扱説明書にも明記はないが、推測するところ、中心部に横に3点、かなり近づいて並んでいるものと思われる。したがって、3点測距と言うより中央一点測距に近い使い勝手。中抜けしにくいと言う一方で、中心部を外れた被写体にはAFロックで対応しろとか書いてある。それなら潔く一点にしろよ。

露出は単純な平均測光じゃないかと思う。少なくとも分割測光とはどこにも明記されていないし、逆光の自動補正もされないようだ。逆光時にはストロボを強制発光させて日中シンクロしろと書いてある。これはこれで納得。そう、逆光はユーザーの注意力と意志で対処すべきものだ。ただ、その一方で取扱説明書のQ&Aコーナーに「リバーサルでも使える」と書くのはいい度胸だとも思う。

●抜群の操作性

このカメラの最大にして最高の特徴は、実は抜群の操作性。メーカーとしては別段優れた操作性のカメラを作る気はなかっただろうが、機能と部品点数を減らしてコストを削減しようとしたら、結果的に非常にシンプルで扱いやすいカメラになった。ただし、「操作性」なんぞと言っても、このクラスのコンパクトに高度な機能があるわけじゃない。早い話がストロボの機能設定だけだ。だが、内蔵ストロボこそコンパクト・カメラの最大のガンである。素早く確実にストロボ発光を禁止できるのは、実は物凄いアドバンテージなのだ。

もう少し具体的に説明すると、BF80には背面ダイヤルが一つ付いているだけで、基本的に他の操作ボタンは一切ない(シャッターボタン、焦点距離切り替えボタン、デート合わせボタンは別)。ダイヤルには電源OFFの下側に「赤目軽減」「オート発光」の二項目が、電源OFFの上側に「強制発光」と「発光禁止」と「タイマー」の三項目が並んでる。私が電源を入れるときには、OFF位置から反時計周りにカチカチと二回回す。これでストロボオフ・モードで起動できるわけだ。他機種のように、電源を入れてから、ストロボボタンを押してモード変更する必要はない。

そもそも、最も操作性が優れているのは、古い機械式のストボロ・スイッチだ。「基本的にストロボは使わない、必要なときだけユーザーの判断で使用する」という使い方ができるからだ。しかし、コストと機能の両方の問題から、機械スイッチは電子スイッチに取って変わられた。機械スイッチよりも電子スイッチの方がコストが安いし、オート発光や赤目軽減、スローシンクロなど、ストロボモードが多様になるにしたがって、機械式スイッチでは追い付かなくなった。おまけに「機械」より「電子」の方が「偉い」という間違った常識がユーザーの間に広まった。畢竟、操作性の悪い電子スイッチ(ゴムボタン)が主流になった。

ところが、ゴムボタンを拒否し、スイッチで追い付かなくなった部分をダイヤルで代替したのが、このBF80なのである。複数のモードの中から一つを選ぶと言う操作に関しては、ゴムボタンよりもダイヤルの方が圧倒的に優れている。実際は、ゴムボタンに掛けるコストすら惜しくて、無理矢理設定を一つのダイヤルにまとめてしまったという方が真実に近いかも知れないが、ともかく結果的にはベストの選択をした。

そんなにゴムボタンが嫌いで機械スイッチが好きなら、古い機種を使えば良い−−もっともな意見だ。事実、BF80の祖先とも言えるAutoboy Teleは私の最もお気に入りの機種の一つだ。しかし、可搬性や最短撮影距離でBF80に劣るし、描写もややレトロだ(味はあるが)。BF80の存在意義は、全体としては進歩しながら、なおかつ進歩の弊害を回避できた点にある。たとえ動機が低コスト化であったとしても、成熟した時期にあえて機能を抑制をすると、実に良いものができるという好例。う〜ん、日本的な美だ。

無論、こうした操作系には欠点もある。ダイヤル一つでは、二つの異なった機能の組み合わせができない。たとえば、BF80のダイヤル上にはストロボ制御とタイマーが並んでいるので、タイマー時のストロボ・モードは選べない。赤目軽減オートのみである。しかし用途を考えると、タイマー撮影時にストロボをオフにしたり、赤目軽減なしの強制発光にする必然性はないだろう。強いて言えば夜景だが……実はタイマーモードで周囲が暗い場合には、自動的にスローシンクロに切り替わる、という超親切設計。

私は他の項で、自社の想定した撮影シチュエーションをユーザーに押し付けるキヤノンの態度に憤慨したが、こういう押し付けは歓迎する。良く考え抜かれた「押し付け」だからだ。熟慮なのか苦し紛れなのかは別として、作り手の工夫や気持ちが伝わってきて嬉しい。

●総評

まあ、こんなに貧乏臭いカメラをこれだけ誉めちぎるのは、世界広しと言えども、多分私より他にはいないだろう。自他共に偏屈を認める私ならではの評価である。もし、一般のユーザーがこのBF80を手にしたら、「な〜んだ」と思うに違いない。ただ、世に伯楽ありて、しかる後に千里の馬あり。もし、BF80を手に入れる機会があったら、いじくり回しながらいろいろ考えて見るも一興ではなかろうか。

主要諸元
レンズ 二焦点切替 38mm/F3.7(3群3枚)⇔ 80mm/F7.3(6群6枚)
ピント調節 アクティブ、AiAF(3点評価測距)
ピント確認 不可
AFロック シャッター半押し
最短距離 60cm
測光連動 広角 EV3.4(1"-F3.7)〜17(1/400"-F18)
望遠 EV5.7(1"-F7.3)〜17(1/400"-F18)
露出制御 プログラムEE
露出補正 不可(逆光時には日中シンクロを使用)
フラッシュ GN9.7、自動/強制/禁止/赤目/夜景
ファインダー 広角 x0.4、望遠 x0.85/84%
電池 CR123A×1
外観 128×70×57mm/235g(電池別)
その他 デート機能付


【貧乏カメラ館目次】 【ホーム】