†貧乏カメラ館†

CHINON 35FX-IV ★★☆ 発売年月 1991?/標準価格 ¥2.5800
中途半端で使いにくい廉価機


固定焦点、単速、二段絞の廉価カメラ。二段と言っても、ストロボ発光時に開放になるだけなので、実質的には単絞り。しかし、35mm/F4.5(3群3枚)のレンズの描写は個性的で魅力がある。低輝度自動発光、モーター巻き上げ、セルフタイマー、リチウム電池採用など、玩具カメラよりはワンランク上。だが、結果的にはそれらの機能が使い勝手を悪くしている。特に低輝度自動発光のみと言うのは最悪。
(2001/06/04)

35FX-IIIの後継機種でチノン・ブランド最晩期の廉価機。しかし、中身は2〜3年前に出たターボSと完全に同じものと思われる。スペック、サイズ、価格全て完全に一致する。そもそもこのクラスのチノンカメラは中身は殆ど同じ。特にレンズ、シャッター、絞りのコア部分は完全に同一だろう。デザインと付加機能だけが異なっている機種が何種類も出ている。前モデルの35FX-IIIも、この下のクラスのAUTO GLも実質的に同じ物と思われる。でも、デザインから見ると、こいつのAF版も考えていた模様。

●レンズの描写

常識的な評価をすれば、こいつのレンズの描写は決して良くない。80年代のKonicaのパンフォーカス機と比べると明らかに劣っている。35F-Uの項でも述べたが、細部が潰れて平板な描写だ。発色もべったりした感じ。しかし、ネムくて平板なりに絵になっているとでも言おうか、ちょっと懐かしい写り。数値的な性能は低くても味がある。廃屋とか路地裏とか、雨の情景とか、子供のころ遊んだ場所とか、まあ、そういうところを撮りたいなあと。ああ、そう、夢の中の風景に似ているか…。

と、言うとボケボケのレンズのような思うかもしれないが、そうでもない。明るい所でピント位置にある被写体ならば、そこそこの描写もする。赤系の発色もけっこう魅力的。何とも独特な描写なんだよね。オモカメのレンズの中には、解像度がどうのディストーションがこうのと言う以前に、一目で破綻した印象を与えるものがあるが、流石にCHINON製品にそれはない。ちょっと変わっているが、まとまりのよい絵だと思う。

●ピント位置と被写界深度

ピント位置は推定で3m弱。スペック上は最短撮影距離が1.3mなので、ひょっとするとピント位置は2.5mくらいかもしれないが、F8の通常モードで使えば遠景もそれなりに写る。KonicaのS-miniやK-miniような悲惨な風景写真にはならない。だが、ストロボ撮影時には絞り開放となるため被写界深度が浅くなり、ピンが合う範囲が非常に限定されてしまう(推定で2.2〜4.5m)。人物ならば、全身像でないとピンボケになる計算だ。実際、バストアップは見るに堪えないレベル。

●スペック上の問題点

ということで、描写に関しては悪いなりに魅力を感じているのだが、その他のスペックにあまりに問題が多い。まず、モーター巻き上げなので電池なしでは全く動かない。絞りがF8とF4.5開放(ストロボ用)の二段階だけでF16まで絞れない。電池必須のくせにシャッターは機械式で1/125"単速。DX対応と言うが、実際はストロボ発光の閾値を決めているだけで、露出制御はまったくできない(通常撮影はフィルム感度に拘らずF8-1/125")。そして、極め付けはストロボが低輝度自動発光のみ。

まあ、ピント位置が遠めに設定してあるし、ネガは露出オーバーには強いから、絞れなくても実害は大きくない。知っている人間がスペック表を見て苦笑いする程度。しかし、ストロボが低輝度自動発光のみというのは実害を伴う致命的な欠陥。前モデルの35FX-Vまではストロボが手動制御だったのに、何をトチ狂ったのか…

と言っても、ストロボ以外は35FX-Vと全然変わらないのだから、手動制御のままだとモデルチェンジの意味がない。モデルチェンジのためにわざわざ使いにくくしたのね。

低輝度自動発光は二重三重の意味で大改悪。もちろんストロボ撮影禁止の場所で使えないし、日中シンクロもできないし、露出補正もできない。その上、予期せぬピンボケの原因となるわけだ。試写のときも、木陰の大鳥居を写したときに勝手に発光、みっともないピンボケ写真にしてくれた。多少アンダーでも、ネガならプリント時に救えるのに。

35FX-IIIではシャッターチャージ後電池を抜いてストロボのスイッチをオンにすると、ノーフラッシュでF4.5撮影ができる。実用的かどうかはさておいて。

なお、チノンのこのシリーズは空シャッターが切れないので注意。空シャッターを切りたいときは、必ず裏蓋を開けること。

●でも…

ということで、実際の使用にはたいへんな欠陥のある機種なのだが、突き放してしまうのも不憫な気がする。ホールディング、レリーズの感触、ファインダーなどは手を抜いてはいない。使っていると良心的だな〜と実感することもある。弱小メーカーが頑張って作っているんだというのが伝わってくる。ただし、本気で使うなら、35FX-Vの方が圧倒的に良い。

主要諸元
レンズ 35mm/F4.5(3群3枚)ガラスモールド(*)
ピント調節 固定焦点式 1.3m〜
シャッター 1/125秒固定、機械式(要電池)
露出 F8(通常)/F4.5(フラッシュ時)(*)、DX対応
フラッシュ 低輝度自動発光のみ、GN=10
電源 CR123A 1本
外観 126×71×53mm、240g(電池別)
その他 自動巻上・巻戻、セルフタイマー、電池必須
(*)は推測を含む(カタログ明記なし)


Long-run report

2001.06.??/500円で落札。送料他込みで890円だった。程度は良好だが機能に失望する。

2001.10.08/2台目を購入。ビックカメラのジャンクワゴン品で300円。空シャッターが切れないのを故障と誤認したと思われる。外観あまり良くない、フラッシュ黄ばんでいる。欲しい機種ではないが、救い出したという感じ。

2001.11.03/2台目の試写を開始。やはり、ストロボ制御がネックだというのは切実に感じる。しかし、ぽっこりしたボディは意外に扱いやすい。ファインダーもこのクラスとしては上の部類。巻上音は大きいが、メカメカしい音で好感が持てる。使い心地は悪くないなあ、というのが実感。

2001.11.14/試写終了。ホールディングの良さを実感。ファインダーもクリアだし、レリーズの感触もよい。電池のヘタリにも比較的強い感じ。特徴的な長所は見当たらないが、ストロボ以外、使っていてストレスを感じない。これは、そんなに馬鹿にしたもんじゃないかも。

2001.11.27/試写結果上がる。また2週間掛かるもんなあ(;_;) レンズの描写力は悪くない。通常撮影(F8)のときは発色もピントも立体感もなかなか。しっとりとした発色で色気があるんだよなあ。しかし、ストロボ撮影(F4.5開放)は酷い。理由は簡単、被写界深度が浅くなるため。仮にピン位置が3mだとすると、35mm/F4.5の被写界深度は2.2m〜4.5m。これはキツイ。室内ストロボ撮影でバストアップは撮れないことになる。また、なぜか指かぶりなどという初歩的なミスが数枚あった。


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