第1話 あたちマリン




あたちが生まれたおうちはここから歩いて30分くらいのところにあるの。
おかあさんの名前はキャッシーっていうんだって。
けれどもあたちはぜんぜん覚えていないわ。
チコおばちゃんのことを産んでくれたおかあさんだと思っていたくらいよ。

そちてうっすらとした記憶で
カンカン暑い夏の日にだれかに抱っこちてもらって
ゆらゆら揺れながらねんねちていた思い出があるの。
今から思えばそれがおかあさんがあたちをここに連れてきて
くれた時のことなのよね。
ここのおうちに初めて来たころのことは何にも覚えていないから
おかあさんから聞いたお話をちたいと思います。

あたちは1996年7月の終わりにここにもらわれてきたのだそうです。
毎日毎日ねんねばっかりちていたって。
目が覚めたらお庭をトコトコ走っておしっこ&うんち。
それが終わったらごはんを食べてまたねんね。
「よく寝る子だったからよく育ったのね」
そう言っておかあさんは笑うの。
だけどね、すっごい毎日暑かったのよ。
ちかたがないと思うのよね。



少し大きくなってきて、だいだいのことがわかるようになりまちた。
あたちの名前はマリン。
ふさふさの毛をちたリーダーがチコおかあさん。
茶色の毛をちたやさしいわんこがムーおばちゃん。
けどヘンだったの。
チコおかあさんはおっぱいが出ないの。
力いっぱい吸ってもぜんぜんでないので不思議だなぁと
思っていたわ。
一緒にいっぱい遊びたいのにぜんぜん相手をちてくれないし
よく 「ねぇ、どうちて遊んでくれないのよぉ!」 って
チコおかあさんの上に乗っかったりちて。
そしたら時々叱られるの。
「ワンワンワン! 静かにしなさいよぉ!」
ずっとちてからチコおかあさんじゃなくてチコおばさんなんだって
ことに気がついたのよ。

ムーおばちゃんはとてもおとなしいわんこでちた。
時々尻尾をフリフリして
「マリンちゃん、鬼ごっこしようか」 とかって誘ってくれたの。
それがとってもうれちくってちょっと調子に乗りすぎて
ムーおばちゃんにも
「マリンちゃん、ふざけすぎよ。つきあいきれないわぁ。」
とかって叱られたりすることもあったわね。



人間家族はじぃちゃんとばぁちゃんとおかあさん。
おかあさんは今はあたちの体重が増えたらがっかりちてるけど
その頃は毎月お医者さんで体重を測ってもらって
増えてたらすっごくよろこんでいたわ。
「マリン、おっきくなったねぇ」

あたちがここのおうちの子供になれたのは
ばぁちゃんのおかげなんだって。
どうちてだったかちら?
聞いたけど忘れてちまったわぁ。
そのことはおかあさんに聞いてね。

じぃちゃんはお仕事で帰りが遅くって
最初の頃はあんまり遊んだ思い出がないの。
きっと毎日お仕事で忙しかったんだね。

みんな元気いっぱいでとってもにぎやかなおうちだったよ。

(2003年4月20日)